「弟子にして下さい!」
「武志よ、よくぞ言った!俺がお前を一人前の戦士にしてやるぞ!」
会うなり頭を下げて弟子入り志願をした相手。つまり、僕の叔父上である『大神雅人』は、戦闘狂らしい猛々しい笑みを浮かべながら快諾してくれた。
前世の記憶を思い出した僕は少しばかり現実逃避をしていたが、正気に戻ると同時に今後の事を考えた。
「とりあえず、生き残る為には戦闘能力をあげるべきだよね」
思い出した風の聖痕の世界は、死亡フラグに溢れていた。何しろ、いきなり1巻で日本でも最強と目される神凪一族が全滅に近い状態になってしまうぐらいだ。
「僕の死亡フラグを躱しても、お先真っ暗な状態なんだよね」
原作では、神凪一族が本当に日本でも最強と目される一族なのかと、疑問に思えるほどに手強い敵が次から次へと現れる世界なのだ。
「このまま原作通りなら父上である『大神雅行』の修行を受けるんだろうけど」
はっきり言って『大神雅行』の修行は役に立たないだろう。原作では、厳しい修行を息子達に課したようだが、その結果はただの雑魚が育ったに過ぎなかった。
「まあ、『大神雅人』も原作では、あっさりとやられたんだけどね」
でも、僕が思うに『大神雅人』は、間違いなく日本でも有数の強者のはずだ。何といっても親バカの『神凪重悟』が愛娘を任せるぐらいなんだからね。
『大神雅人』があっさりとやられた原因は、おそらく感知能力の問題だろう。何しろ炎術師というのは、攻撃力一辺倒でそれ以外は重視しない一族だからね。
風術師である風牙衆を支配下に置いているのも原因の一つだろう。自分達で敵を探さなくても代わりを果たす道具があれば、わざわざ感知能力を磨いたりしないだろうしね。
結論として、僕が師事できる相手として最も適しているのは、分家最強と謳われる叔父上だった。
本音を言えば、宗家である神凪家に師事したいところだけど、宗家と分家では力の差があまりにも隔絶していて師事には無理がある。
「神凪家に受け継がれる力か…」
原作では神凪宗家の娘が分家に嫁いだ場合、数代で強大な力は薄まってしまうと言われていた。現実となったこの世界でも宗家から数代前に嫁いできた分家の術者の力は宗家に遠く及ばない。つまりは、精霊王の契約は血ではなく『名』で行ったのだろう。
「僕も精霊王と契約したいなぁ」
大神家は分家だ。ということは宗家ほどの力を手に入れるのは不可能に近い。それを覆すには神凪一族の始祖のように精霊王と契約を交わすことが一番だろう。
原作の主人公が『風の精霊王』と契約できたように、僕が『火の精霊王』と契約できる可能性はゼロではないだろうけど…
「とりあえず、今は地力を上げるのが優先だよね」
原作ではモブである僕が、精霊王と契約など夢物語に近いだろうから、現実的なところから手をつけるしかない。
「目標は『風巻流也』の攻撃を凌げるだけの戦闘能力だな!」
原作での死亡フラグを実力で回避できる戦闘能力があれば、その後の強敵達も躱すぐらいはできるだろう。
「その後は、主人公に任せる!」
他力本願を基本方針として、僕の目標は決まった。