火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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32話「新たな出会い」

僕はキャサリンの誕生日会に出席する為に、マグドナルド家が用意してくれた自家用ジェット機に乗っていた。

 

「それで、おじさん達は何なのかな?」

 

ジェット機の中で、僕を取り囲むコート姿の男達の手には、拳銃が光っていた。

 

「悪いな坊主、恨むんならマクドナルド家なんかと懇意している自分の家を恨みな」

 

「なるほど、マクドナルド家の敵対勢力ってことだね。でも、僕を殺したら神凪一族まで敵に回しちゃうよ」

 

「神凪一族か…確かに敵に回したくはないな」

 

「だったら、その拳銃を仕舞ってくれないかな?今なら見なかった事にしてあげるよ」

 

僕の言葉に男達は可笑しそうに笑う。

 

「ククク、この状況でその余裕か。俺達が引き金を引く前に、俺達を丸焼きにする自信があるのかい、坊主?」

 

「まさか、引き金を引くよりも速く術を構成して放てるのなんて宗家ぐらいだよ。僕だったら、撃たれた弾丸を蒸発させるぐらいが精一杯かな」

 

「やはり化け物だな。いいだろう、銃は仕舞おう」

 

「あれ、本当に仕舞っちゃうの?」

 

「何だ、意外そうな顔をして、坊主が仕舞えと言ったんだろう。それとも俺達が勝てないのが分かっていても、勝負を挑むほどの馬鹿に見えているのか?」

 

男達は言葉通りに銃を本当に仕舞うと、コートを脱ぎ捨てる。

 

「ねえ、おじさん達が背負ってるのってまさか…」

 

「ああ、これはパラシュートという物だ。初めて見たか?」

 

「あのさ、このジェット機は、アメリカに向かっているんだから、今頃は海の上だよね」

 

「悪いな、言ってなかったが行き先は中国に変更になっているよ。今頃は大陸の上を飛行中さ。では、そろそろ予定時刻だ。あばよ、坊主!」

 

男達はジェット機の扉を開けると、そのまま飛び出していった。

僕は小さくつぶやく。

 

「…人生って何があるか分かんないよね」

 

開かれた扉から空気が急激に流出していくが、僕は慌てずに開かれた扉を覆うように炎を現出させて容易く空気の流出を止める。

 

僕は取り敢えず開かれた扉を閉めると、操縦席に向かったが操縦席は無人だった。

 

「やっぱり、自動操縦だよね」

 

僕は携帯電話を取り出すと、キャサリンに国際電話をかける。

 

「やあ、キャサリン。実は誕生日会には出席出来ないかもしれないんだ」

 

『どういう事かしら?マクドナルド家のジェット機には乗ったと聞いているのだけど』

 

僕は掻い摘んで事情を説明する。

 

「あはは、という訳でいつ墜落するか分からない状況でね。流石に誕生日会に出席する事は出来ないよね」

 

『笑っている場合じゃないでしょう!?脱出する手段はないのっ!!』

 

「うーん、火武飛なら僕を支えて飛ぶ事は出来るけど、ジェット機から飛び出したら、強風に吹っ飛ばされて、どうなるか分からないんだよね」

 

『くっ、自動操縦の行き先を変更出来ないかしら?』

 

「あはは、僕にジェット機の事が分かるわけないだろう。今、どこに向かっているのかも分かんないよ」

 

『だから笑い事じゃないわよ!!』

 

「そうだね。だからキャサリンに言っておくよ」

 

『なにっ、何かいい考えがあるの!?』

 

「あまり敵をつくらない様に気をつけてね。それから人と接する時には思いやりを持って接すること。情けは人の為ならずっていうからね」

 

『な、何を言っているのかしら?そんな最後のお別れみたいなこと言わないでよ…』

 

その言葉と同時にジェット機のエンジンが爆発した。どうやら爆弾まで仕掛けていたようだ。

 

『ちょっと!?今の音は何っ!!」

 

「時間が無いみたいだね。取り敢えず足掻いてはみるけど、念のため言っておくよ」

 

『何っ!?』

 

「僕はキャサリンが大好きだよ」

 

再び爆発が起こり機体が大きく揺れる。その弾みで、携帯が手から飛び出して、壁に叩きつけられて壊れてしまった。

 

「あちゃあ、壊れちゃった。キャサリンが反応を返したら、ナンチャッテって返そうと思ってたのに、これだと本当にキャサリンに愛の告白をした様に思われちゃうよね」

 

僕が最後の言葉で残したのがキャサリンへの愛の告白だなんて、操姉さんに知られたら勘違いされちゃうよ。

 

「これは本気で何とかしないといけないよね」

 

急展開すぎてイマイチ危機感が持てなかった僕だけど、急降下するジェット機と、操姉さんが誤解するかもという状況で、やっと焦りだした。

 

「やっぱり、火武飛達に頑張ってもらうしかないよね」

 

地面が迫ってくる中、僕は火武飛に全てを任せてジェット機の扉を開けて飛び出した。

 

「うわぁああああぁあああああ!?」

 

飛び出して途端、僕は吹き飛ばされる。

視界の端で、火武飛達が懸命に僕を支えようと羽ばたいてるのが見えたけど、すぐに僕の意識は闇に閉ざされてしまった。

 

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綾乃side

 

マクドナルド家から連絡があった。

武志が乗っていたジェット機が中国に墜落したという内容だった。

連絡があった時点で、キャサリンは既に中国に向かっていた。

私も即座に父に報告を行い、探知能力に特に秀でた風牙衆の者達と、治癒術師達を伴い中国に向かった。

地術師である紅羽と、武志の姉である操も同行している。

 

「何が何でも見つけてあげるから生きていてよね、武志」

 

中国に向かう飛行機の中で、私達は武志の安否だけを祈っていた。

 

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???side

 

「あはは、マリちゃんのお陰で助かっちゃったよ」

 

私の名前を気安く呼びながら笑っている子供は、私から放たれる妖気を気にもしないで、私が獲ってきた川魚を金色のカブト虫で焼いて食べている。

 

「私も長く生きているが、カブト虫で川魚を焼く奴は初めて見るぞ」

 

「マリちゃんも食べなよ。遠慮はいらないよ」

 

「私が獲ってきた魚だぞ、遠慮なんてするか」

 

私は、子供が差し出すこんがりと焼けた川魚を受けとって食べる。

 

「でも、こんな山奥でマリちゃんは一人で暮らしているの?」

 

「人の近くにいると直ぐにハンター共が群がってくるからな。相手をするのも飽きてしまったよ」

 

私は三千年ほど生きているけど、殆どの時間を人間のハンター共と争ってきた。

脆弱な人間のハンター共に狩られるほど、私は弱くはないけど、戦い続けるのにも飽きてしまった。

 

「でもマリちゃんは、真祖なんだから人の血を吸わなくても生きていけるんだよね」

 

「当たり前だ。人の血なんぞ、生臭くて飲めたもんじゃないぞ」

 

こんがりと焼けた川魚は、香ばしくて美味しい。こんなに美味しいものがあるのに、生臭い血なんか絶対に飲みたくない。

 

「人の血を吸わないなら、ハンターがマリちゃんを狙う必要なんか無いのにね」

 

この子供は、ハンターと似たような力を感じるが、考え方はだいぶ違うようだった。

 

「『人ではない』それだけで、退治する理由には十分らしいぞ」

 

「マリちゃんは、空から落ちてきた僕を助けてくれるほど優しいのにね」

 

「……空から人が落ちてくるのを初めて見たからな、思わず受け止めただけだ。私は優しくなんかないぞ」

 

「ところで、川魚のお代わりってあるのかな?」

 

「お前、私の話をちゃんと聞いているのか?」

 

「うんうん。マリちゃんは誇り高い真祖だから、人間の僕とは馴れ合ったりしないって事だよね」

 

「何だか釈然としないが、分かっているならいい。川魚は獲って来てやろう」

 

私は、腰を上げて川に向かう。

少し甘やかしてる気もするけど、相手は子供だから仕方ないと割り切る。

美味しそうに川魚を食べる子供を見ながら、私は川へと急いだ。

 

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空から落ちてきた奇妙な子供を拾ってから1日が過ぎた。

 

「どうやら体の方は、骨折と打撲だけのようだな」

 

私自身は、持って生まれた高い回復力を持つため、治癒魔術も医療の知識も持ち合わせていない。武志も簡単な治癒魔術しか使えず、医療の知識も応急処置レベルらしい。

 

「目眩もないし、お腹も大丈夫のようだ。取り敢えずは大丈夫だろう」

 

武志の体を触りながら、内出血などないかを調べてみる。

骨折の方は、武志の指示に従い、私が治療して固定している。

 

「これなら、暫くここで療養すればいいだろう」

 

「助かるよ、街に行っても言葉も分からないし、パスポートもお金もない。何とか大使館に行ければいいけど、この足じゃ歩けないしね」

 

武志は両足と左腕を骨折していた。

空からの落下時の衝撃と、私が受け止めた時の衝撃は、武志の小さな体には堪えた事だろう。

 

「暇つぶしに、色々な国の言葉を覚えていたのが役に立ったな」

 

「そうだね。マリちゃんと言葉が通じなかったら、どうなってた事やら」

 

あはは、と笑いながら武志は言っているが、コイツだったら言葉が通じなくても大差ないと思うのだが。

 

「それよりも私の寝床を占領しているんだ。代わりと言っては何だが、今の世界情勢でも教えてくれ」

 

私がここに住居を構えてから、200年程は過ぎている。世界がどうなっているのか多少は興味があった。

 

「うん、いいよ。先ずは流行っているゲームの話からしようかな」

 

…子供の武志に世界情勢を聞くのは、無理があったのかもしれんな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

武志を拾ってから2日が過ぎた。

 

「今日は、負けんからな!」

 

「マリちゃんは単純だから将棋は難しかったかな、今日はオセロにしようよ」

 

昨日は、武志に教えられた将棋というゲームで、30連敗をしてしまった。

 

「3000年を生きた私に単純とは何だ!私は数々の修羅場を乗り越えてきた経験があるんだぞ!」

 

「経験って言っても、殆どが力押しだよね。将棋も力押しだしね」

 

「うぬぬ……ま、まあいい。オセロとやらを教えろ」

 

昨夜、暗くなってからは私の凄い武勇伝を聞かせてやったのに、武志の奴は、私を尊敬するどころか逆に『マリちゃんって脳筋だよね』とか言いやがった。

力押しの何が悪いというのだ。

脆弱な人間は当然ながら、私に対抗できる程の妖魔にも殆ど出会ったことなど無いんだぞ。

僅かな例外とは、お互いに近付かないようにしていたから、戦う機会などなかったしな。

 

「オセロ、今はリバーシっていうのもあるんだけどね」

 

「オセロ、リバーシ…何が違うんだ?」

 

「オセロっていうのはね…」

 

この日は、武志に50連敗をしてしまった。くそっ!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

武志を拾ってから3日が過ぎた。

 

「そろそろ、お風呂に入りたいなあ」

 

「ぬるま湯なら大丈夫かな。準備はしてやるが、熱が出たら大変だから少しだけだぞ」

 

私は、自分用に天然の岩をくり抜いて作った風呂に、魔術で水を溜める。

 

「魔術は、色々と応用できて便利だよね」

 

「ふふ、精霊魔術は威力、速度共に高いが、応用力があるとは言えないからな」

 

「マリちゃんは、精霊魔術も使えるんだよね」

 

「ああ、私は全ての精霊魔術を使えるぞ。もっとも精霊なんぞにお願いをしてまで、力を借りようとは思わんがな」

 

「人間の精霊魔術師が聞いたら怒っちゃうよ」

 

「武志は怒らんのか?」

 

「僕より凄い人達に囲まれて育ってきたからね。今更、凄い人が増えても、凄いなあって思うだけだよ」

 

「ふむ。まだ幼いのに達観しているんだな」

 

「幼いって、もうそこまで幼くないと思うんだけど?」

 

「武志は10歳だろ。私は3000歳を超えているんだぞ。私から見れば生まれたての赤ん坊と変わらん」

 

「赤ん坊って…まあいいや。僕が水をお湯にしようか?」

 

「カブト虫は、怪我が治るまでは出すなって言っただろ。私がする」

 

武志は、目を離すと直ぐに修行をしようとする。まだ幼いのだから無理は禁物だというのに。

 

私は湯を沸かすと、武志と一緒にお風呂に入った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

武志を拾って、4日が過ぎた。

 

「マリちゃんは、ここに住んでいて平気なの?」

 

「生まれた時から1人で生きてきたんだ。今更なんとも思わんよ」

 

「いや、そういう意味じゃなくて。食べる物とかの話だよ」

 

思わぬ武志の言葉に、私は溜め込んでいた不満が爆発する。

 

「平気な訳ないだろっ!?毎日毎日、食べる物といえば、川魚と木の実だけだ!獣の類いは、私の気配を察知して逃げ出すから見つからん!私だって、美味しい物が食べたいんだぞ!甘い物が食べたいんだぞ!」

 

一気に喋り、ハアハアと息をつく私を、武志が生暖かい目で見ている。

なんかムカつくぞ。

 

「それなら人間の振りをして、街に行けばいいのに」

 

武志は、簡単に言ってくれる。

それが出来れば、最初からこんな場所で隠れ住むものか。

 

「私がどれほど人間の振りをしても無駄だった。人間は一目で、私が人でない事を見抜いたよ」

 

「そうなの?マリちゃんは、外見は人間と区別つかないんだから、その妖気さえ隠してしまえば、簡単にはバレないと思うんだけど」

 

妖気…?

 

なるほど、妖気か。

 

私は、妖気を引っ込めてみた。

慣れていないため少し疲れるが、この程度なら直ぐに慣れるだろう。

 

「どうだ。まだ妖気は感じるか?」

 

「感じなくなったけど…もしかして妖気の事、気付いていなかったの?」

 

「だ、誰も教えてくれんかった…」

 

「あはは、やっぱりマリちゃんは脳筋だよね」

 

「やかましいっ!!」

 

武志には散々笑われたが、武志の怪我が治ったら、助けたお礼として、街で美味しい物をご馳走してくれる約束をしたので、許してやろう。

 

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武志を拾って、一ヶ月が過ぎた。

 

「何とか立てるようになったよ」

 

一ヶ月の間、治療に専念したお陰で武志の骨折は、ほぼ治ったようだ。

 

「まだ無理はするなよ。骨がくっ付いたばかりなんだからな」

 

「うん、そうだね。感覚的には、完治まで後一週間って所かな?」

 

「ふふ、そうか。武志が完治したら日本に行ってご馳走を食べような」

 

「あはは、マリちゃんは最近、そればっかりだよね」

 

「うるさい、それよりも約束は守ってもらうぞ」

 

「うん、分かっているよ。幸い、僕の家は大きいからね。マリちゃんの部屋も準備できるよ」

 

武志とは、私が武志に魔術を教える代わりに、武志は私に衣食住を提供する。という約束を交わした。

これで、私も久しぶりに文明的な生活を送れて、美味しい物も食べられるようになる。

それにこの1ヶ月間、一緒に暮らして、多少は武志に情が湧いたからな、武志の寿命が尽きるまでの間は、見守っててやろうと思う。

 

「ところで、日本にはどうやって帰ればいいかな」

 

「私なら武志を担いで、空を飛んで日本までいけるが、着くまでに数日はかかるだろうから、武志にはキツイだろう」

 

「そうだね。やっぱり、大使館に行くしかないかな」

 

「そうだな。私は適当に周囲の人間に暗示でもかけて付いて行くさ」

 

「よし、方針が決まった事だし、今日は五目並べをしようか」

 

「ふんっ、今日は負けんぞ!」

 

「あはは、今日も強気だね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここが大使館か、初めて来たな」

 

「僕も来たのは初めてだよ」

 

私達は、中国の日本大使館に来ていた。

武志も怪我が治り元気に歩いている。

 

「早速、行ってくるよ」

 

「私は姿を消して付いて行くから心配するなよ。なんだったら手を握っててやろうか?」

 

「あはは、そんな子供みたいな……うん、僕は子供だからお願いしようかな」

 

武志は私の手をギュッと握る。こんな所は子供っぽいな。

 

「じゃあ、行くよ」

 

私達は、大使館に入っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

キャサリンside

 

中国に来てから1ヶ月以上が過ぎた。

マクドナルド家のジェット機を落とした連中は既に捕え、全てを白状させたが、肝心のジェット機が落ちた場所が問題だった。

 

《帰らずの森》

 

この深い森に入って、帰ってきた者はいないと言われていた。

調べさせたところ、森の中は強力な妖魔が巣食っており、人間にとっては正に死の森だった。

特に森の中心部に住むと噂されるーー真祖の吸血鬼は、中国の全ての術者達から不可侵とされている程の化け物らしい。

マクドナルド家はおろか、神凪一族ですら出会えば死ぬだけだと忠告された。

 

「綾乃様、わたしは夜明けと共に森に入ろうと思います」

 

出来る準備は全て行った。人員、補給物資等の用意出来た。

勿論、万全には程遠いが、これ以上は待ちきれない。

本当なら到着と同時に森に入りたかったが、周囲の者達が許してくれなかった。

こんな事なら1人で来るべきだったと何度も後悔した。

 

「勿論、私達も同行するわ」

 

神凪一族の火の御子達も、武志の捜索に加わってくれるという。

それはとても心強いが、武志が行方不明になったのは、完全にマクドナルド家に責任がある。

 

わたしは、中国で彼女達に出会うと同時に土下座をして許して請うたが、彼女達は私を責めるどころか逆に慰めてくれた。

 

「そこまで驚かなくてもいいじゃない、もしここであんたを責めたりしたら、武志の奴に叱られちゃうもの」

 

ひどく驚くわたしに、彼女達は笑顔をみせながらそう言ってくれた。

武志を心配する気持ちをおし殺して、わたしの事なんかを気遣ってくれた優しい人達。

武志が大事に思う人達の優しさに、これ以上甘えるわけにはいかなかった。

 

「いいえ、先ずは、わたし達マクドナルド家が先陣を切ります。拠点を確保しながら進みますから、その後に付いてきて下さい」

 

わたしの言葉に綾乃様は大きな溜息をつく。何か気に触ることを言っただろうか?

 

「あのね、最初にも似たような事を言ったけど、ここであんたに危険を押し付けるような真似をしたら、私達が武志に怒られるし、武志の姉だって胸を張れなくなっちゃうわよ」

 

「その通りです。それに地術師の私が先頭をいく方が、森の中では有効ですよ」

 

「キャサリンさん、あまりご自分を責めないで下さいね。きっと武志もそんな事を望んではいませんから」

 

「綾乃様、紅羽様、そして操様…本当にありがとうございます」

 

武志を心配する気持ちは、きっとわたし以上のはずなのに、この人達はまるで武志のように強くて優しかった。

 

「そんな泣かないでよ。私達は無理して格好つけてるだけなのよ。操なんか毎晩泣きじゃくってるし、紅羽なんかは直ぐに1人で森に行こうとするから、止めるのが大変なのよ」

 

「私は泣きじゃくってなんかいませんわ!そんな事を仰る綾乃様こそ、森が危険なら焼き尽くせばいいとか言って、燃やそうとしたじゃないですか!」

 

「そうですね。私の事を言うなら、綾乃だって、私を止める振りをしながら森に入ろうとするのを、風牙衆に止められていますよね」

 

「うっさいわね!今はそんな事を言ってる場合じゃないでしょう!」

 

「言い出したのは綾乃様じゃないですか!」

 

「綾乃、言葉遣いに気をつけないと武志に幻滅されるわよ」

 

「はっ!?そうだわ、私は武志の憧れのお姉さんなのよね」

 

「綾乃様、まだその設定でいくんですか?そろそろ無理があると思いますよ」

 

「そうね、よく武志と一緒になって騒動を起こしているのに、それで憧れのお姉さんは、無理があるわよね」

 

「そんな事ないわよっ!私は、武志にとって、綺麗で優しくて、ちょっぴりお茶目な、憧れのお姉さんなのよっ!」

 

「お茶目が増えましたね」

 

「綾乃、悪あがきだと思うわよ」

 

「プッ…フフ、アハハッ」

 

私は、彼女達の…まるで武志みたいな緊張感のない会話に笑い声を上げてしまった。

 

「皆様、本当にありがとうございます。どうやらわたしは、武志に笑われる醜態を晒していたみたいです。こんな時こそ余裕を持って行動しなきゃいけないですよね」

 

「そ、そうよ。私達の気持ちが伝わって嬉しいわ」

 

「はい。まるで武志のような振る舞いをして下さったお陰で、気付くことが出来ました」

 

「結果オーライという奴ですね、綾乃様」

 

「黙りなさい、操」

 

「都合よく受け取ってくれる娘で良かったな、綾乃」

 

「口を閉じろ、紅羽」

 

「皆様、改めてよろしくお願いします。わたしと共に武志を救い出しましょう」

 

「もちろんよ!武志の事だから絶対に生きて私達を待っているはずだわ!」

 

「武志の実の姉として、弟は必ず救い出してみせますわ!」

 

「私の全ては武志の為に存在するわ。この森の妖魔を根絶やしにしてでも、武志を救ってみせるわ!」

 

「はいっ、では行きましょう!武志を救いに!」

 

綾乃様達の力強い言葉に力をもらい、わたしが出発の号令をかけたその時、日本からの緊急連絡が飛び込んできた。

 

「綾乃様っ!日本から緊急連絡です!武志様が大使館で保護されたとの事です!」

 

「へ…?大使館…?」

 

盛り上がっていたわたし達の耳に…

 

綾乃様の、気の抜けた声が聞こえた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

操side

 

大使館の応接室で、武志がのんびりと寛いでいた。

しかも、可愛い女の子とパフェを美味しそうにパクついている。

私は、武志が生まれてから初めて、武志に対して殺意を感じてしまったが、それは仕方ない事だろう。

一発、殴ってしまおうかと、本気で思ったけど、武志が私に気付いた瞬間、武志の顔が…ほんの一瞬だけ泣きそうに歪んだのを見てしまった時、私の中の何かが弾けてしまった。

次の瞬間、私は力一杯に武志を抱き締めていた。

 

「操姉さん、苦しいよ」

 

「うるさい…」

 

「操姉さん、恥ずかしいよ」

 

「うるさい…」

 

「操姉さん、心配かけてゴメンね」

 

「うるさい…」

 

「操姉さん、ただいま」

 

「…お帰り…なさい……武志」

 

私の可愛い弟は、私の元に帰って来てくれた。

私には、それだけで十分だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ある風牙衆side

 

武志様がいらっしゃる御部屋に入った瞬間、私の心臓は止まりかけた。いや、実際に止まっただろう。再び動き出したのは、奇跡と思えた。

それほどに、その部屋に存在するモノは恐ろしかった。

悲鳴を上げて逃げ出さなかったのは、我が一族の恩人である武志様が、その存在と友好的に見えたからだ。

 

「うむ、一件落着といったところだな」

 

武志様と操様の抱擁を見て、その存在は無邪気そうな笑顔をみせるが、次の瞬間には、この場の全員が消滅させられていても不思議はなかった。

 

風術師として、私の全てがこの存在に対して警鐘を鳴らす。

風牙衆の中でも、最も感知能力に優れている私が、辛うじて察知する事が出来た程の見事な隠形だった。

 

恐らくこの場で、この存在の危険性を分かっているのは私だけだろう。

私が何とかしないと…

そこまで考えたとき、操様に抱擁されたままの武志様が、静かに私を見つめている事に気付いた。

 

そして、優しい目をその存在に…武志様の近くで、パフェを美味しそうに食べている少女に向けた後、穏やかに仰った。

 

「彼女は僕の命の恩人なんだ。そして、僕の新しい家族になる人だよ」

 

私は武志様のその言葉に…力だけに目がいっていた己を恥じた。

 

 

 

 

 

 




和麻「マリちゃんってオリジナルキャラなのか?」
武志「何を言ってるのかな?原作の第1巻に出てるよね」
和麻「1巻にマリちゃんが出ていた!?」
武志「和麻兄さんの思い出話でしか出てないけどね」
和麻「そんなキャラいたか?」
武志「和麻兄さん、ボケるには早いよ?」
和麻「本当にこんなキャラ出ていたのか?」
武志「原作ファンならきっと、すぐに気付いてるはずだよ」
和麻「そうかなぁ?」

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