「げ、原作が始まる前に死ぬかも…」
僕の叔父上である『大神雅人』に弟子入りをした翌日から、僕は修行漬けの日々を送っている。
「こ、これって、亀仙人の修行みたいなんだけど…」
叔父上の修行は、先ずは体力向上から始められた。『全ての基本は足腰だ!』という言葉と共に、毎日山の中を走らされた…10キロの重り付きで。
ランニング後、柔軟体操を行ったあとは地獄のような筋力トレーニングだった。僕が成長期に過度な筋力トレーニングは逆効果なのではないかと尋ねたら「そんなものは気合が足らんだけだ!」という頼もしい言葉を賜った。
筋力トレーニングが終わり、ヘトヘトになった僕に待ち受けているのは、叔父上との実戦さながらの組手だった。
「お、叔父上。こんなへばった状態での組手に意味があるのでしょうか?」
「馬鹿者っ!お前は実戦時に万全な状態で臨めるなどと、頭がお花畑な事を考えているのかっ!」
僕の常識は、どうやらこの世界では非常識なようだとフラフラする頭で思った。
そんなある修行が続くある日…
「武志は、よく生きているよな。父上の修行がピクニックのように思えるぜ」
「武志…お前が辛いなら、お姉ちゃんが命に代えても叔父上に直談判して上げるよ」
僕の修行を見学した兄上と姉上が、辛そうな顔だったのは、目の錯覚だったと思いたい。
僕が通っている小学校のクラスメートには、神凪一族の下部組織である風牙衆の子供達も通っていた。
「おはようございます。武志さん」
「おはよう、武志」
「おはよう。綾、それに沙知」
教室に入った僕に、いつも最初に挨拶してくれるのは、そんな風牙衆の女の子である『未風綾(みふう あや)』と『風木沙知(ふうき さち)』の2人だった。
「今朝も修行をされてきたのですか?」
「あんた、頑張りすぎよ。顔色悪いけど、体を壊さないでよ」
風牙衆である彼女達は、将来仕える相手である僕にいつも気を使ってくれる。もちろん、神凪一族に虐げられている風牙衆が裏切ることは、原作知識で知っているが、全員が裏切るわけじゃないし、できれば神凪一族との仲を良くしたいと考えている。
「まあ、僕にできるのは身近なことだけだけどね」
所詮は子供である僕ができるのは、年が近く、庇いやすい相手を守るぐらいしかできなかった。
神凪一族の中でも力のある大神家の僕が、個人的に仲良くすれば、それだけで他の神凪に連なる家の子供達は、彼女達に手を出そうとはしなかった。
「武志さん、本当に顔色が悪いですよ。保険室で少し休まれた方がいいと思いますわ」
「もう、綾ってば、そんな優しく言ってもこいつは言うこと聞かないわよ。あたしが引きずっていってあげるわ!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!僕は大丈夫だから、引っ張らないでっ!」
僕達を見る神凪一族の子供達の視線を感じて、僕はワザと大きな声を上げる。そうすることで彼女達との良好な関係をアピールでき、余計な干渉を遠ざけることができる。
「まあ、実際に彼女達にちょっかいをかける馬鹿がいても、僕が許さないんだけどね」
前世の記憶を持つ僕にとって、幼く友好的な彼女達は、娘のように可愛い存在だった。
モブの中の人は、30代ぐらいのおじさんを想定しています。