火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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40話「新たなる冒険へ」

長い戦いの日々だった。

 

幼い頃に前世の記憶が蘇り、僕は死へと向かう自分の運命に気付いた。

それからは運命に抗い続ける日々が続いた。

過酷で辛い日々だったけど、周囲の人達の助けもあり乗り越えてこれた。

 

そして遂に僕は死の運命を撃ち砕いた。

僕を殺すはずの流也を倒したんだ。

 

友情の力(マリちゃんの強力な罠)で流也の体力を奪い、努力の力(流也の仲間を捕まえてフルボッコ)で流也の気力を奪い、愛の力(やはり姉は偉大だ。流也が再び馬鹿な真似をしないように、今も折檻して教育してくれている)で流也を正しい道に導いた。

 

これで僕の戦いは終わったんだ。

 

「あとは余生を楽しむだけだね」

 

「貴様は何を寝ぼけたことを言っとるんだ?」

 

「ふふ、少し気が抜けちゃったみたいね」

 

「あはは、僕の人生最大の危機を乗り越えたんだから、後はノンビリと暮らしていこうと思っているだけだよ」

 

後は操姉さんを惑わすことになる魔術師が現れたら速攻で地獄送りにすれば、もう大神家の危機はなくなる。

その後の事件の敵は、分家如きの力が通じる相手じゃないと思うから、僕の出番なんかないだろう。(原作は2巻までしか覚えてないけどね)

 

「当代の神凪宗家には三人もの神炎使いがいる。もしかしたら煉も神炎に手が届くかもしれない。まさに今が神凪最強の時代だよ」

 

しがない分家の小倅としては、せいぜい物語の裏舞台で雑魚妖魔を倒しながら悠々自適な暮らしを送ろうと思う。

 

「もっとも、僕と違って紅羽姉さんとマリちゃんは、主役級の力を持っているからこれからも活躍するだろうけどね」

 

残念ながら僕の力では主役にはなれない。

今回の勝利だって、二人がいてくれたお陰だ。

 

「これからは風牙衆の独立支援に、綾や沙知のような風牙衆の若手達の取り纏めに専念するよ」

 

和麻兄さんの失踪で、風牙衆の立場は再び悪くなっている。

今は大神家が後ろ盾になることで、何とか独立への道を保っている状態だ。

これからの強敵との戦いでは役立たずでも、風牙衆の独立に向けての戦いなら大神家の僕は役に立てるだろう。

 

「あはは、適材適所ってヤツだね」

 

「そんな、武志は分家最強の術者なのよ。これからだって、まだまだ強くなれるわ」

 

「そうだね。まだ伸び代はあるとは思うよ。でもそれでも“分家最強の術者”の枠内でしかないんだよ」

 

操姉さんを除けば、僕に匹敵する術者は既に分家には存在しない。

師匠である叔父上との模擬戦でも負けることはなくなった。

 

それでも綾乃姉さんの足元にも及ばない。

実際に戦えば瞬殺されるだろう。

そんな綾乃姉さんと互角に戦える紅羽姉さん。

その二人を同時に相手にしてなお圧倒できるマリちゃん。

 

「姉さん達と僕とでは、悔しいけど立つ世界が違いすぎる」

 

「そんなこ『そんなこと、あるよね』っ!?」

 

僕は敢えて紅羽姉さんの言葉を遮る。

 

「別に僕は自分を卑下しているわけじゃないよ。ただ冷静に、客観的な事実を口にしているだけだよ」

 

これから先の戦いの世界に無理について行こうとしても僕は無駄死にするだけだ。

たとえ姉さん達が守ってくれるとしても、足を引っ張るぐらいなら最初からいない方がいいだろう。

 

「僕は後方で、姉さん達の支援に努めるよ。姉さん達の弟としては凄いやり甲斐のある仕事だと思うんだ。何といっても姉さん達の助けになれるんだからね」

 

にっこりと笑う僕に、紅羽姉さんもやっと笑顔で応えてくれた。

 

「そうね。私も可愛い弟が応援してくれるなら安心して戦えるわ」

 

 

 

こうして僕は血生臭い戦いの表舞台から姿を消して、操姉さん、綾そして沙知達と共に、青春を謳歌する道を歩みだそうとした。

 

 

 

「戦う力が足らないなら試しにこれ(呪具)を使うてみるか?」

 

そんな僕の楽隠居への道は、マリちゃんの何気ない言葉で閉ざされることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「流也から没収した呪具はパワーアップ系のアイテムだったの? でもそういうのって、無理なパワーアップ後の反動が怖いんだけど」

 

お約束だと効果が切れると同時に、生気を使い果たしてヨボヨボになるとかかなぁ?

 

「バカ者!この私がそんな危険物を武志に使わせるはずないじゃろう」

 

マリちゃんに怒られた。

 

「この呪具は、莫大な贄さえあればどの様な奇跡さえ起こしかねん願望器のようなものじゃ」

 

マリちゃんいわく、神代の神器にすら匹敵する程のものらしい。

それ程のものが噂にもならずに存在していることに疑問を感じたけど、奇跡の対価として必要な贄が莫大すぎて、普通なら使い物にならないような代物らしい。

 

「何しろ最低限の発動ですら、人間でなら10万人以上の命が必要じゃな」

 

「10万人って、とんでもない数字だけど、流也はどうやって発動させるつもりだったんだろう?」

 

「とびっきりの贄が目の前にあるではないか」

 

マリちゃんが指差す方向には炎が揺らめいていた。

 

揺らめく炎ーー三昧真火(さんまいしんか)には封印されし存在が眠っている。

 

そう、この三昧真火(さんまいしんか)こそが神の封印そのものだ。

 

「流也は神を贄にするつもりだったの!?」

 

流石にそれは大胆すぎる!!僕でもビックリだよ!!

 

「いや、それは分からぬ。この呪具には神を自動的に贄とする設定と、その後の奇跡の内容が既に刻まれておったからな」

 

恐らくは犯人は、流也に協力したという魔術師ヴェサリウスだろう。

そういえば、ここ数年は姿を確認していなかった筈だ。後で流也に行方を聞いてみよう。

 

「それで奇跡の内容は何だったの?」

 

「冥府の門を開くつもりじゃったようだ」

 

「本物の馬鹿がいたぁあああっ!!」

 

「うむ、我もそう思うぞ」

 

冥府の門ーーつまりは地獄への扉の事だ。現世と地獄が繋がれば地獄の亡者達が溢れ出すことだろう。

そして、そんな事になれば地獄の門番達が許すわけがない。大挙して亡者達を追いかけて現世にやってくる。

この世は正に地獄と化すだろう。

 

「ちなみに刻まれておった術式は消しておいたから安心せい」

 

「心の底から安心したよ。流也が発動しなくて本当に良かったよ」

 

「そうじゃな、いくら我でも神を贄にして開こうとする冥府の門を再び閉じるのは…相当に骨が折れる仕事になると思うからのう」

 

それでも無理とは言わないのがマリちゃんらしいね。

 

「それでどうするのじゃ?」

 

「やっぱりその呪具で僕のパワーアップを願うわけ?」

 

「単純に“強くしてくれ”などと願えば、強い化け物にされる危険があるからよく考えるんじゃぞ」

 

「危険すぎるよ!?マリちゃんは危険物を僕に使わせないんじゃなかったの!?」

 

「いやいや、これは使い方さえ誤らなければ人の手に余るような奇跡にさえ手が届く逸品じゃぞ」

 

話の途中からまさかと思っていたけど、神を贄にしてのパワーアップをさせようと本気で考えているなんて・・・面白いかも。

 

「もしかして、精霊王と契約したいと願えば?」

 

「契約はできると思うぞ。ただ、強引に契約させられた精霊王は怒るじゃろうから、すぐに契約破棄になるだろうな」

 

「それは意味がないね」

 

「いや、意味がないどころか精霊王の怒りを買えば、精霊術師の力すら失いかねんぞ」

 

「最悪だっ!? うーん、でもそれだとどうしようかな」

 

「別に慌てて決める必要はなかろう。時間をかけてじっくりと考えればいい」

 

何なら皆と相談して決めてもいいしな、と続けるマリちゃんだけど、僕は願いを即決した。

 

「うん、決めたよ」

 

「早いな!? 別に無理をして早く決める必要はないぞ。何なら“願わない”という選択肢もあるんだからな」

 

「神に願いを叶えてもらえるチャンスなんて、普通はないんだから願わないのは勿体無いよ」

 

「神に願いを叶えてもらうのではなく、神を犠牲にして願いを叶えるのだがな。もっとも、神とはいっても本物の神ではなく、神を自称するだけの上位存在だ」

 

神を自称できるだけの力を持つ上位存在。そんな存在を贄にするなんて本当に出来るのかと疑問を感じるけど、封印中で抵抗できない状態なら可能なのかな。

 

とにかく僕は願いを決めた。念の為にマリちゃんと紅羽姉さんに願いの中身を話して問題がないかを相談してから呪具を起動させる。

 

僕の手の中で起動した呪具は三昧真火(さんまいしんか)から神の力を際限なく吸い取っていく。あれ、向こうで姉に折檻されている流也からも力を吸い取っているような? まあ、関係ないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどのう。中々に面白い願いではあるな」

 

「そうね。それに願いの結果がどうあれ、本人には直接影響が出なさそうな願いだしね」

 

「クク、武志は大胆なのか慎重なのか、よく分からん奴だからな」

 

 

紅羽姉さん達がお喋りをしている間に、起動した呪具は神の力を根こそぎ吸いとってしまった。こうして名も知らぬ神は三昧真火(さんまいしんか)の中で静かに消滅した。

 

「何というか、地味な最期だったね」

 

「消え去ったモノ(自称神)などどうでもいい。武志よ、願いを強く思いながら呪具の力を解放するのだ」

 

「無理はしないようにね。少しでも変だと思ったら止めるのよ」

 

「うん、それじゃいくよ」

 

僕は願いを想う。

 

僕の力は宗家と比べると格段に落ちるけど、それでも術師の世界では一流と認められている。

それは、今では親友といえるキャサリンが、マクドナルド家が誇る守護精霊の秘術を惜しげもなく教えてくれたお陰だった。

 

キャサリンと出会った頃は、普通の修行による成長に陰りが見え始めていた。

それを打破したのが守護精霊だった。

 

当時は修行のための負荷でしかなかった守護精霊だったけど、今では僕の戦闘スタイルに無くてはならない。

 

そんな物言わぬ相棒を想いながら、僕は願いを込める。

 

「我が剣である“火武飛”に熱き魂を望む。我が盾である“火武飛”に自由なる意志を望む。我が相棒である“火武飛”に幸せを望む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か古えの時代、稀代の大魔術師がその持てる技術の粋を用いて創り出した奇跡の願望器。

 

奇跡に見合う対価さえ準備できるのであれば、たとえ本物の神でさえ実現不可能な事象ですら、可能とする真に奇跡の願望器。

 

その膨大すぎる対価に周囲の者が『それだけの対価を準備できるなら最初から奇跡になど頼らんわ!!』と声を揃えて突っ込んだという奇跡の願望器。

 

創った本人いわく『ジョークアイテムなんだから怒るなよ』と言わしめた奇跡の願望器。

 

その奇跡の願望器が初めてその力を解放する。

 

 

 

自然を歪めるモノ(仮想人格)を自然とする。その矛盾を世界に力尽くで肯定させる。

莫大な神の力を持ってしても不可能と思われたその奇跡は、何故か自然の象徴である精霊達の応援によって辛うじて成された。

 

確固たる自我を与えられた熱き魂は、八つに分けられていた不自然な体を一つに集結させた。

熱き魂に呼応して、その体はより強きものに変質した。

 

自由なる意志は、己の意志で相棒を受け入れた。

そしてその体を相棒の気の色である真紅に染め上げる。

 

その幸せな存在は、己の誕生を己が選んだ相棒に祝福される。

 

 

「赤カブト、ゲットだぜ!!」

 

 

武志の前には、赤毛のクマさんが欠伸をしながら座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、規格外の使い魔というのが一番近いと思うぞ」

 

「そうね、もう守護精霊とは言えないわ。武志の霊力の供給は受けているけど、仮想人格とは違う、自我を確立した魂の波動を感じるもの」

 

僕の火武飛は、一個の存在として再誕することに成功した。

新しい名前は赤カブトだ。

 

仮想人格の弱点だった“破邪の炎”も、今の赤カブトは克服している。

赤カブトは自然の一部として存在しているから、自然を歪める現象を正す“破邪の炎”を受けても何の影響もない。

それどころか、赤カブト自身が破邪の力を有しているぐらいだ。

 

まあ、赤カブトの実力はまだまだ未知数だけど、これだけは言える。

 

「あはは、赤カブトは格好いいね!!」

 

「がおー!!」

 

僕と赤カブトの冒険はこれからだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで何故ゆえにカブト虫から(クマさん)になるのだ?」

 

「がお?」

 

「あら、可愛いからいいじゃない。ねっ、クマさん」

 

「がお!」

 

 

 

 




綾「いつの間にか新キャラが登場しているわね」
沙知「まさかライバルが増えたの!?」
綾「女の子じゃないわ、可愛いクマさんよ」
沙知「クマさん?」
綾「武志さんの火武飛が進化してクマさんにジョブチェンジしたみたいね」
沙知「進化系統がおかしくない!?」
綾「名前は赤カブトらしいわ」
沙知「赤カブト・・・赤いクマさん?」
綾「ええ、赤毛のクマさんよ」
沙知「そういえば昔、赤カブトって名前の巨大熊が出てくる…」
綾「ダメよ。それ以上言ったら原作が増えてしまうわ」
沙知「そうだね。そんな事になったら、あたし達の出番がまた減っちゃうわ」
綾「ところで、この赤カブトは1mぐらいで可愛いわね」
沙知「背中に乗れるかな?」
綾「・・・」
沙知「無言にならないでよ!あたしはそんなに重くないからね!」







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