火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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第47話「石蕗の矜持」

石蕗一族は大混乱に陥っていた。

 

長年に渡り守り抜いてきた封印が、何の前触れもなく破られたのだから当然だろう。

 

「一体どうなっているのよ!? どうして封印が解かれたのよ!!」

 

真由美は混乱しながらも何とか状況を把握しようとしたが答えは得られようもなかった。

 

何しろ封印を毎日のように確認していた真由美自身が、封印が解かれる兆候など何も感じていなかったのだから他の者に分かるはずがない。

 

「とにかく現場に行くわよ! みんな準備をしなさい!」

 

解放された魔獣を放置すればどれほどの被害が齎されるか分からない。

どうして封印が解かれたのか分からない真由美だったが、封印を担ってきた石蕗一族として魔獣を再封印するつもりだった。

 

「無茶です、真由美様! 既に解放された魔獣を相手にどうするつもりなのですか!」

 

けれど真由美の予想に反して、一族の者は誰も動こうとはしなかった。いや、正確には恐怖によって動けなくなっていたのだ。

 

石蕗に伝えられている魔獣の恐ろしさを知る彼らは、魔獣と相対する前から既に戦意を失っていた。

 

「伝説にある“アレ”は、人間の力では太刀打ちできません! たとえ石蕗一族全ての力を持ってしても時間稼ぎにもなりませんよ!!」

 

真由美が誰よりも信頼している青年――勇志ですら真由美に続こうとはしなかった。

 

「何を言っているの!? たとえどんなに無茶だろうと石蕗一族は富士の鎮魂を担う一族よ! ここで諦めるぐらいなら代々血族を犠牲になんかしていないわ!」

 

今代の儀式の執行者である真由美は死ぬ運命にあった。それが石蕗一族の使命であり誇りであった。

 

もちろん真由美は死にたくなかった。親バカの父親が禁忌を犯してまで真由美を助けようと尽力してくれたときは、涙がでるほど嬉しかった。

 

真由美自身も生きたいが為に、何の罪のない娘を犠牲にしようとした。所詮この子は人形だと、作り物に過ぎないと自分に言い聞かせた。

 

だけど、真由美は見てしまった。

 

神凪の少年と共にいたあの子の瞳を…

 

気付いてしまった。

 

あの子も自分と同じ、恋をする普通の娘だということを…

 

自分は石蕗家に生まれて何不自由のない生活を送ってきた。どんな我儘も許されてきた。

 

それは石蕗家の宿命に従って死ぬ運命だったからだ。その命の代償として、どんな贅沢も許されてきたのだ。

 

でも、あの子は違う。

 

あの子は何も許されなかった。

 

私の代わりに死ぬ為だけに厳しい修行をさせられて、それ以外のことは何も許されなかった。

 

あの子は石蕗家に生まれたわけじゃない。無理矢理に死ぬ為だけに作られたのだ。

 

自分が死にたくないなら逃げればよかった。他人を犠牲にしてでも生きないのなら、魔獣の封印など放って逃げればよかったのだ。

 

たとえ魔獣が解放されようと、富士の地から逃げれば済むだけ話だ。

 

昔とは違い、今の時代なら住民達も逃げるのは簡単だろう。確かに魔獣が解放されれば富士は噴火するだろう。その経済的損失は計り知れないだろう。だけどそれがどうした。他人のお金のために自分が死ぬ必要などないのだから。

 

結局は石蕗一族は自分達の繁栄を選んだのだ。血族を犠牲にして一族の繁栄を選んだのだ。

 

自分達が犠牲になる代わりに、この日本に於いて確固たる地位を築いた。

 

犠牲となる者も、その運命の日までは王侯貴族のように贅沢に暮らせた。

 

それを選んだのは自分達だ。浅ましい欲望を選んだのは自分達だ。それなのに、私はあの子に全てを押し付けようとしてしまった。

 

封印が解けたのは、石蕗一族に下された天罰なのだろう。

 

真由美はそう思った。

 

でも、

 

それでも、

 

「私達は石蕗なのよ。富士を守護する石蕗一族なのよ。私達は富士と共に生きてきた。ならば死ぬときも富士と共に死ぬわ。お前達、私と来れないというのなら構わないわ。咎めはしません、今すぐこの場を去りなさい。ただし、去るのなら石蕗の名を語ることは許さないわ。名を捨て命を選ぶか、命を捨て名を選ぶか、この場で決めなさい」

 

石蕗の者達は、今までただの我儘なお嬢様としか思っていなかった真由美が初めて見せた、石蕗としての矜持に衝撃を受けた。

 

同時に己の石蕗の術者としての誇りを思い出す。

 

その場の全員が真由美と共に戦う決意をする。そして勇志が全員を代表して決意をあらわす。

 

「我々は真由美お嬢様に従います。石蕗一族の底力をあの魔獣にみせてやりましょう」

 

「ありがとう、みんな。あんな魔獣なんか私達が本気を出せば倒せるってことを日本中に見せてやりましょう!」

 

「おう!」

 

真由美の言葉に力のこもった声が上がった。

 

「じゃあ、行くわよ。みんな!」

 

真由美は歩き出す。その後ろ姿は力強く、一族を率いる気概が感じられた。

 

 

***

 

 

封印を前に僕は考える。

 

封印とは本来、外界と内部とを隔離することによって封印した対象を弱体化させていく術式のことだ。

 

例えば、かつて風牙衆が崇めた神を封じた封印のように。

 

あの神は弱体化した結果、たかが人間が作った呪具にその力を全て奪われて消滅した。

 

それに比べて、この富士の封印は違った。この封印は完全に内部と外部を遮断していない。

 

何故なら封印されているはずの魔獣の意思が漏れ出しており、何より魔獣の力が増していくからだ。

 

そのために石蕗一族は定期的に儀式を行って、魔獣の力を削いでいるのだろう。

 

「武志の予想通りだよ。龍脈を伝わって封印内部に大地の気が流入してるわ」

 

「地の精霊達も同じように流れ込んでいますね。まるで何かに呼ばれるように我先にと飛び込んで行っているようです」

 

沙知と綾の言葉に僕は自分の予想が正しかったことを確信する。

 

この封印はわざと不完全な状態を維持しているんだ。恐らくは完全に封印してしまっても富士が巨大な龍穴であることは変わらないから、それを危険視したのだろう。

 

せっかく魔獣を封印しても、龍穴に溜まる莫大なエネルギーを基にして新たな魔獣が生まれるかもしれない。

 

それなら魔獣の封印を不完全な状態にして、定期的にその力を削ぐことで莫大なエネルギーを制御することを選んだのだろう。

 

でもその為には、溜まったエネルギーを消費する必要がある。それには地術師がうってつけだろう。大地の気を取り込む能力を持っているのだから。

 

でも、薬も過ぎれば毒になる。

 

富士という日本最大の龍穴に溜まる莫大な気は、不死身とまで謳われる地術師の身体すら蝕んでしまう猛毒になる。

 

「それでどうするの? 封印を完全なものにしちゃう?」

 

確かに封印を完全なものにすれば今回は儀式を行う必要はなくなるだろう。魔獣も長い時をかけて少しずつ力を失っていくはずだ。

 

「ですがそれだと新たな魔獣が生まれる可能性がありますよね?」

 

その通りだ。これから新たに集まる大地の気から新たな魔獣が生まれる可能性は否定できない。むしろ確実に生まれるだろう。それほどに富士に集まるエネルギーは桁外れなんだ。

 

この状態を僕は予想していた。そして現実も僕の予想通りだった。

 

この現状を誰も犠牲にせず解決出来るだろうか?

 

答えは……“否”だ。

 

封印を完全にすれば新たな魔獣が生まれるだろう。そして、その魔獣を同じように封印することは出来ない。同じ場所で富士の魔獣ほどの巨大な存在を封印できるほどの術式を組めば術式同士が干渉しあって消滅するだろう。

 

そして現状通りの儀式を行うなら、亜由美と真由美のどちらかが犠牲になるしかない。

 

ならば全ての元凶の魔獣を倒すか?

 

それも犠牲を伴う。神凪一族の化け物達を揃えても犠牲無しとはいかないだろう。それに魔獣を倒せたとしても時間が経てば新たな魔獣が生まれるだけだ。

 

「あはは…今回ばかりは打つ手なしかな?」

 

僕は弱気な言葉を口にする。

 

「はいはい。打つ手がないなら、武志は足を出すんでしょ? シリアスぶるのは似合わないよ」

 

「沙知、きっと武志さんが行おうとしている事は、褒められた手段ではないのでしょう。だから心理的アリバイを作ろうとされているのですよ。もう少し付き合ってあげなさい」

 

「もう、あたし達しかいないんだから、そんな面倒な事はしなくてもいいのに」

 

「ダメですよ。武志さんは私達には良い所しか見せていないつもりなのですからね。もっと男心に配慮をしてあげないといけないわ」

 

「はいはい。分かったわよ。えっと、それじゃあ……武志っ!! 諦めないでよ、あたしの武志ならきっと何か出来るはずだよ!!」

 

「そうですわ!! 私達を救って下さった武志さんならきっと亜由美様や真由美様を…いいえ、もっと多くの人達を救えるはずですわ!!」

 

……さ、沙知と綾の叫びが僕に力を与えてくれた。

 

目の前の障害に挫けそうになっていた僕に立ち上がる勇気を与えてくれた。

 

僕は二人を見つめる。

 

二人は信頼のこもった眼差しを返してくれる。

 

「大丈夫だよ、武志ならきっと上手くできるよ。なんたって武志は、あたしのヒーローなんだからね!」

 

「武志さんが逃げ出したいのなら、私は共に逃げましょう。武志さんが諦めるのなら、私が武志さんを慰めましょう。そして、武志さんが命を掛けて挑むのでしたら、私もまた命を懸けて武志さんを支えましょう。どうぞ、武志さんの御心のままに」

 

「ありがとう。二人の言葉で決心がついたよ」

 

僕は自分の分身ともいえる相棒に声をかける。

 

「赤カブト、僕にその命を預けてくれ!」

 

「ガウ!!」

 

「赤カブト様が命を懸けられるのでしたら、私も命を懸けて戦います!!」

 

僕の言葉に赤カブトが力強く応えてくれる。そして、ティアナまで共に戦う決意をしてくれた。

 

僕の力なんて弱いものだ。だけど、僕には支えてくれる幼馴染がいる。そして共に戦ってくれる相棒がいる。

 

魔獣などという絶望なんかに負けてなんかやるものかっ!!

 

「ティアナッ、魔獣の封印を解いてくれ!!」

 

僕の声が封印の地に響いた。

 

 

***

 

 

「アンギャー!! アンギャー!!」

 

途轍もない威力の重力砲を撒き散らしながら巨大な魔獣が富士の頂上で吼えていた。

 

その身に宿る力は神と呼ばれる存在に匹敵した。

 

その威容に自然と頭を垂れそうになる。

 

まさにその姿は大怪獣。

 

亀に似たその姿に年配の人間がポツリとこぼした。

 

「……大怪獣ガ◯ラだ」

 

「アンギャー!! アンギャー!!」

 

その大迫力の姿は、数々の強力な妖魔を滅してきた歴戦の術者ですら腰を抜かしかけるほどだった。

 

だが、真由美はそんな不甲斐ない者達などは目に入らないとばかりに前に進みでる。

 

そして大怪獣を睨みつけると声も高らかに叫ぶ。

 

「あんなのに勝てるかーっ!!!!」

 

石蕗一族は全力で戦略的撤退を行った。

 

 

***

 

 

僕達は魔獣の頭の上にいた。

 

「おお、絶景だね」

 

足の下では魔獣が重力砲を撒き散らしていた。

 

「ひい!? む、向こうの山が吹っ飛んだよ!!」

 

「あ、あのう、周囲がどんどん更地になっていくのですが」

 

沙知と綾は流石に引いているみたいだ。

 

「あはは、仕方ないよ。富士の魔獣は強力だからね。せめて人的被害が出るまでに決着を付けたいけど、こればかりは待つしかないからね」

 

と言ってる間に、何処からか集団が現れたと思ったら、直ぐに逃げ出していく。先頭を走っているのは女の子みたいだけど足が速いなあ。後続連中がどんどん離されていくよ。

 

「うがー! さっさと消えなさいよ! このクソ魔獣!!」

 

ティアナがさっきから必死に魔法を使って魔獣に攻撃を加えてくれている。

もちろん、物理的な攻撃じゃない。そもそも妖精の魔法は肉体には効果を及ぼし難いみたいだしね。魔獣の体が肉体といえるのかは分からないけど。

 

ティアナは魔獣の意識を弱める攻撃を加えている。魔獣にそんな魔法みたいな無茶な攻撃を出来るのは、その魔法が使える妖精のティアナぐらいだろう。

 

その攻撃は残念ながらと言うか、当然ながらと言うべきかは分からないけど、効果はあまり与えていない。

 

だけど、ほんの少しはダメージを与えてくれている。

 

そのほんの少しのダメージが、今は百万の援軍よりも赤カブトの力になってくれているだろう。

 

「グッ!? ……ゴクッ…」

 

僕は喉元までせり上がってきた血を飲み込むと、再び周囲の景色に目を向ける。

 

「あはは、本当に今日は景色がいいね。天気もいいし……こういう日を“死ぬにはいい日だ”っていうのかな? もちろん僕が死ぬのは操姉さんの膝の上って決めているから、こんな所では死なないよ。だから、二人ともそんな顔をしないでよ」

 

僕の言葉にハッとしたように沙知と綾は再び騒ぎ出した。

 

「か、観光業に大ダメージだよね!」

 

「そ、そうですね。でも石蕗一族が総出で復旧作業に当たればどうにかなりますわ」

 

そんな二人に僕は感謝する。何も気付かないフリをしてくれる二人に。僕を止めないでくれている二人に。

 

赤カブトからフィードバックしてくるダメージだけでこれだけの損傷を受けるなら、実際に魔獣の内部で戦っている赤カブトはどれ程の……いや、今はそれを考える時じゃないな。

 

僕は赤カブトに全力で霊力を送り続けるだけだ。

 

今、赤カブトはその存在を懸けて、魔獣の内部で“魔獣の意識を乗っ取る”ために戦ってくれている。

負ければ逆に意識を乗っ取られて、その身は魔獣に吸収されるだろう。そうなれば僕も生きてはいられない可能性が高い。

 

それでも僕はこの戦いを決意した。

 

決して負けられない戦いに挑むことを決意した。

 

そして、僕の脳裏にここには居ない僕の大切な人達の顔が浮かんでくる。

 

伝説にも謳われる吸血鬼の真祖のマリちゃん。

 

炎術師の極みに至った神炎使いの綾乃姉さん。

 

始まりの祖、強大な力を持つ風術師に無事になれた和麻兄さん。

 

強大な地術師にして異能の術師の紅羽姉さん。

 

そして分家でありながら、類稀なる才能と弛まぬ努力によって最高位の“黄金”に至った、真の分家最強の術者である僕の大好きな操姉さん。

 

みんな僕よりも遥かに強くて、優しくて、尊敬できる人達だ。

 

そんな人達の顔が浮かんでは消えていく。

 

「ウッ!?」

 

突然、鼻血が出る。

 

綾が何も言わずにハンカチで血を拭ってくれる。

 

沙知がふらつく体を支えてくれる。

 

だけど、少しずつ視界が暗くなっていく。

 

もうダメなのか?

 

そう思ったとき、

 

僕は魔獣の咆哮が止んでいることに気付いた。

 

「ガウ!」

 

薄れゆく意識の向こうで、赤カブトの声が聞こえた気がした。

 

 

***

 

 

テレビが写す光景を目にした巌は呆然とするのみだった。

 

それも無理はないだろうと、重悟は哀れみの目を巌に向ける。

 

石蕗一族が長年の間、その命を犠牲にして守り続けてきた封印が突然破られたのだ。巌が腑抜けたとしても責められないだろう。

 

「厳馬に綾乃、それに紅羽よ、支度をせい。交渉は中止だ。富士の魔獣が蘇ったとなれば、それを狩れば全ては解決というものよ」

 

伝説にまでなった強大な魔獣をテレビ越しとはいえ、目の当たりにしながらも重悟の目は好戦的な光を宿して輝いていた。

 

「ククク、どうやら久方ぶりに本気を出せそうだな。血が滾るというものよ」

 

「宗主よ、もう歳なのですから無理は止められた方が賢明ですぞ。あの獲物ならこの私にお任せくだされ」

 

「厳馬、お主とそう歳は変わらぬわ!」

 

「へえ、あれが富士の魔獣なのね。待ってなさい、私の紅炎(プロミネンス)で燃やし尽くしてあげるわ」

 

「魔獣が放っている重力砲……なるほどね。私の異能の正体はそういうことだったのね。うふふ、いいわ、あのクソ魔獣はすり潰してあげる」

 

魔獣を恐れぬ神凪家の言葉に、腑抜けていた巌は強制的に正気に戻された。

 

「お主達、あの魔獣を倒すつもりなのか!?」

 

巌の言葉にその場の全員が訝しむような顔になるが、直ぐに巌が言いたいことに気付く。

 

「そうじゃな。確かに依頼もないのに滅ぼしてもタダ働きだな」

 

重悟は意味ありげに橘警視に視線を向ける。

 

くそう、余計な事を言いやがって。と言いたげな顔を一瞬だけ巌に向けたあと、橘警視が和かな笑顔を重悟にみせた。

 

「もちろん、警視庁特殊資料整理室として依頼は出しますわ」

 

予定外の出費に予算が足りるかしらと考えながら、橘警視は重悟と値段交渉を始めた。

 

「そういう意味じゃねえよ!!!!」

 

巌の絶叫に、その場の全員が首を傾げた。

 

 

***

 

 

魔獣の力、ゲットだぜ!!

 

赤カブトと魔獣との戦いの最中に気を失った僕だったけど、直ぐに目を覚ました。

 

そして赤カブトを通じて莫大な魔獣のエネルギーを感じた。

 

赤カブトが魔獣の意識を破り、その全てのエネルギーを制御下に置くことに成功したんだ。

 

人間だったらその巨大なエネルギーに意識を飲み込まれていただろう。だけど、元は人工人格だった赤カブトは問題なく制御できた。そして、今の赤カブトは火の精霊だけじゃなく、土の精霊まで制御下に置いている。

 

つまり僕は赤カブトを介してだけど、土の精霊術師にもなったわけだ。

 

うははははは!

 

最近は周囲との差が広がっていくばかりで気落ちしていたけど、これで追いつけたよね。

それに亜由美ちゃんと真由美も犠牲にならなくていいし、一件落着だね。

 

「うわー、武志が悪い顔をしているよ。ところで魔獣がいなくなっても暫くしたら新たな魔獣が生まれるんだよね?」

 

「そんなのは石蕗が対策を考えるだろ? それに新たな魔獣といっても数百年はかかるから僕には関係ないよね?」

 

「確信犯だあっ!!」

 

「うふふ、武志さんらしいですわ」

 

僕は赤カブトに魔獣を吸収させる。巨大な体といっても実際にはエネルギーの塊だから大きさは関係ない。

 

魔獣のエネルギーをその内部に秘めた赤カブトは外見こそ変わらないけど、その力は桁外れに上がった。

 

今回は無理をしてまで頑張った甲斐があったよ。今の赤カブトを含めた僕の力は、宗家にだって匹敵するかもしれない。

 

もちろん使いこなすためには修行が必要だけど、それはいつもの事だからね。

 

それにしても、操姉さんにも内緒で富士に来たお陰で、大幅なレベルアップに成功だよ。魔獣の力を手に入れるつもりだなんて言ったら、絶対に危険だって反対されると思うから内緒にして正解だったね。

 

声をかけたマリちゃんと流也にも口止めをしたし、沙知と綾が今回のことを誰かに話すわけもないから、今回の秘密は守られるだろう。

 

後は少しずつ地道な修行でパワーアップしているように見せかければ完璧だろう。

 

「さてと、これでもう用事は全て終わったよ。後は誰にもバレないように地元に帰ろうか」

 

「そうだね。さすがに今回のことはバレたらマズイわね」

 

「そうですわね。周辺の被害的な意味でも、大事ですからバレない内に早く退散いたしましょう」

 

「あはは、でもこれで、めでたし、めでたしだ」

 

僕達はこうして無事に帰路へとつ…

 

 

「あらあら、何がバレたら不味いのかしら? 武志、お姉ちゃんに教えてほしいわ」

 

 

聞こえてきた声に振り向くと、そこには微笑んでいる操姉さんが立っていた。

 

 

 

 

 

 




キャサリン「武志の赤カブトは物凄くパワーアップしましたね」
綾乃「でもそれって、武志自身が強くなったわけじゃないのよね」
キャサリン「そうですね。戦い方には工夫が必要ですわ」
綾乃「いけ、赤カブト!って、けしかけた後は安全地帯で高みの見物ね」
キャサリン「それは一対一ならいいのですが、混戦時の場合が困りますね」
綾乃「範囲攻撃を喰らっても不味いわね」
キャサリン「赤カブトは操作する必要がないので、共闘する方が戦術に幅が持てますわ」
綾乃「でも、パワーアップした赤カブトと比べたら武志は弱いから、赤カブトの足手まといになるんじゃないの?」
キャサリン「綾乃様、それは禁句ですわ!」
綾乃「あ、武志が落ち込んでるわ」

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