火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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第60話「災厄を招くもの」

 

── マリア・アルカード。

 

真祖の吸血鬼にして、不敗の殲滅者。

 

地球上に発生して凡そ三千年。

 

幾千幾億の戦場を闊歩する。

 

砕いた命は数知れず。

 

生命の天敵にして、魂の簒奪者。

 

そして――人類滅亡を担う災厄であった。

 

 

 

 

「ほう、定番の抹茶とまさかの茄子を組み合わせたスイーツとは中々に斬新なアイディアじゃのう」

 

「いやいや、斬新なら良いってもんじゃないと思うぞ」

 

「ククク、武哉は頭が固いのう。何事もチャレンジをすることが大事じゃぞ」

 

「チャレンジするにも限度ってもんがあるだろ。せめてカットぐらいしろと思うぞ。茄子丸ごとそのままって。しかも抹茶と茄子の色が混じって凄い色になってるぞ」

 

「たしかに色は凄まじいが、静は美味そうに食っとるぞ。しかし――茄子を丸ごと咥えとる絵面は武志には見せられんのう。教育に悪そうじゃ」

 

「静ッ!? 無理するなよ!」

 

「もぐもぐごっくん。いえ、結構美味しいですよ」

 

「味の問題じゃなくて食べ方だよ、食べ方ッ!!」

 

「はい、食べ方ですか?」

 

「ああもう、静は見た目は出来る女って感じなのになんでそう普段は微妙にポンコツっぽいんだよ!」

 

「フハハハハッ、善きかな、善きかな。静はそれでよい。武哉には勿体ないほどの女っぷりよ」

 

「いや、意味分かんねえよ」

 

「マリアさん、お褒めいただきありがとうございます。けれど真に勿体ないのは私の方ですわ。武哉さんの男っぷりは天下一なのですから」

 

「うむうむ、これで男の趣味がまともなら引く手あまたであっただろうに惜しいことよ」

 

「どういう意味だよ!」

 

マリアと武哉、そして静の三人は今や恒例となった甘味堪能デートを楽しんでいた。もちろんマリアは甘味目的なだけである。

 

当初は、マリアが武哉に貢がせて二人で行っていた甘味堪能だったが、静の存在が発覚後、二人の関係を応援する為にマリアと大神姉弟(操と武志)の三人が実行した数々の作戦にて発覚した彼女の微妙なポンコツっぷり。それをいたく気に入ったマリアが甘味堪能に誘うようになったのが三人デート(一人はお邪魔虫)が始まった切っ掛けである。

 

「そういえば、今日はお屋敷が賑やかでしたけど何かあったのですか?」

 

甘味堪能デート前に寄った大神邸が、普段よりも賑やかだったのを思い出した静が尋ねた。

 

「ああ、なんか操のやつが料理教室をやってたな。しかし、あいつは顔に似合わず厳しいのによく生徒の方は教えてもらう気になったよな」

 

「うむ、途中から紅羽も参加して超スパルタでビシバシと扱いとったな――あの娘、生きて帰れるかのう」

 

「操さんと紅羽さんはお二人共にお料理上手ですから生徒さんは幸せですね」

 

「あの二人が料理上手なのは否定しないが、俺にとって一番美味いのは静の料理だよ」

 

「うふふ、武哉さん。ありがとうございます」

 

「礼を言いたいのは俺の方だよ、静にはいつも世話になっているからな。ありがとうな、静」

 

「もう、武哉さんの方こそお礼なんて言わないで下さい。だって武哉さんのお世話を出来て幸せなのは私の方ですから」

 

「静……」

 

「武哉さん……」

 

急にイチャつき始めた二人に呆れた目を向けながらマリアは呟いた。

 

「――問題なのは料理上手が教え上手に直結しない、ということじゃな。操は天然で、紅羽の方は養殖じゃがの」

 

 

 

 

大量の甘味を食べ終わり、マリアはバカップルと別れた。バカップルはこれから近くの公園に花見をしに行くらしい。マリアも誘われたが、今日は前々から彼女が待っていた新商品のお菓子の発売日のため断った。

 

ふと、マリアは空を仰ぐ。そこには雲ひとつない蒼天が広がっていた。

 

「今日は気持ちの良い天気じゃのう」

 

吸血鬼として蒼天を気持ち良く思うのは如何なのか? という思いがなくはないが、まあいっかと流すマリア。

 

そのような些事よりも本日新発売のお菓子の方が重要だろう。

 

「手軽にコンビニに寄るか。ちょいと遠出になるが問屋まで足を運んで他の菓子も吟味するか。ううむ、悩ましいのう」

 

マリアがほんの数百年ほど、人類圏から離れて生活を送ってみれば世界は芸術品といえるほどの美味しいお菓子に溢れていた。

 

マリアは懐に入れてある花柄の刺繍がされているがま口を取り出して中身を確認する。全財産が入ってはいるが決して多くはない。

 

「うむむ、少々心許ないのう」

 

マリアの定期収入は月のお小遣いである三万円だけだ。少なくはないが、考えなしに散財すれば月末まで保たないだろう。

 

お店で食べる系のスイーツ類は武哉に貢がせているマリアだが、家に持って帰る系は自分で買うと決めてある。

 

その理由は単純なものだ。武志と出会ったときにマリアの衣食住は大神家持ちと決めたからだ。マリアの基準では、この食には嗜好品のお菓子は含まれなかった。

 

決して、初めて買い物で入ったスーパーで見知らぬガキンチョが『お菓子買ってーっ!!』と地面に転がってジタバタと暴れていたのを目撃したことは関係ない。

 

それを一緒に見ていた武志が優しい眼差しを向けながら『マリちゃんが欲しいお菓子があったら買ってあげるからね』と言ったことは決して関係ないのだ。

 

ちゃんとマリアはその時、『私を子供扱いするでないわ! お菓子ぐらい自分で買うぞ!』と答えたのだ。答えてしまったのだ。

 

「あんなこと言わなければよかったかのう」

 

当時のマリアが想像した以上に、現代は美味しいお菓子が溢れている。しかも毎月のように新商品が発売されると同時に消えていくのだ。

 

「菓子との出会いは一期一会じゃからな。味わわずに別れるのはお菓子文化に対する冒涜になろうというものじゃ」

 

我、文化を愛する風流人じゃからの。と自己肯定をしながら笑みを浮かべるマリア。数百年に及ぶ野生動物じみた暮らしは、吸血鬼である彼女に人類文化を賞賛する心を芽生えさせていたのだ。

 

「やはりここは問屋まで行くとしようかのう。まだ見ぬ菓子が我を待っておるかもしれんのじゃから」

 

マリアはまだ見ぬお菓子を求めて力強く歩みだす。がま口の中身は心許ないが、マリアの心の中にはお菓子への情熱が溢れている。

 

さあ行こう!! 時代はまさに大お菓子時代なのだ!!

 

 

 

 

都庁の近くにある老舗の菓子問屋にマリアの姿はあった。

 

「ほほう、駄菓子というものも一概には侮れんのう。たしかに純粋な味としてはチープである。だがなんじゃ、この古き良き時代を思わせるなんとも言えぬ深い――いや、浅い味わいと懐かしき風情。高級菓子にはない魅力があるのう。それに何と言っても安いのが良い!」

 

大人買いじゃーっ!!と、ウハウハ状態になるマリアだったが、ふと周囲の異変に気付いた。

 

「ん? 次元が震えたのう。誰ぞが転移でもしよったか。ま、別にどうでもよいな」

 

気付いただけだった。たしかに知らん誰かが転移しようとマリアには関係がない。それよりもマリアは会計を済ませることの方が重要だった。代金はきちんと払わなければならない。その払った金が新たな新商品への開発へと繋がることをマリアは熟知しているからだ。

 

そして無事に支払いを済ませ、大量の駄菓子と目当ての新商品を手に入れたマリアだが、彼女のがま口にはまだまだ余力が残されていた。

 

「想像以上に駄菓子のコスパは良いのう。うーむ、これなら軽食ぐらいならいけそうじゃな」

 

甘味マニアでお菓子好きのマリアだが、B級グルメにも通じていた。彼女の文字通りに人間離れした胃袋を舐めてはいけない。

 

「うむ、今日はたこ焼きの気分じゃ!」

 

マリアが有する脳内グルメマップを検索すれば丁度近くにオススメ店舗が在った。意気揚々とたこ焼き屋に向かって歩き出した。

 

 

 

 

ふんふふーん、と機嫌良く鼻歌を歌いながら歩いていたマリア。そんな彼女の耳に怒鳴り声が聞こえた。

 

「んだよッこのたこ焼き!! タコが入ってねえじゃねえかッ!!」

 

「も、申し訳ありません!! すぐに新しい商品とお取り替え致します!!」

 

「ざっけんじゃねえよっ!! 取り替えりゃあすむってもんじゃねえんだよッ!!」

 

それはマリアの目的地であるたこ焼き屋での騒動だった。どうやら購入したたこ焼きにタコが入っていなかったようだ。他の店ならスルーしたマリアだったが、目的地であるたこ焼き屋での騒動なら話は別だった。たこ焼きを買う邪魔なので仲裁してやる事にした。

 

「そこの似合いもせぬ革ジャンを着たチンピラよ。まったく貴様は無駄にデカい図体をしながら大人気ないのう。たこ焼きにタコが入っていないなど偶にある事ではないか。タコ無したこ焼きすら楽しむ。それこそが雅というものじゃぞ。もっとも雅とは程遠い面をしておる貴様には理解できぬ世界じゃろうて。まあ、仕方がないわ。そんな愚かで憐れな貴様にはこの “うまい棒(たこ焼き味)” を慈悲深い我が恵んでやろう。遠慮なく感涙に咽び泣きながら受け取るがよい。ほれ、さっさと受けとってこの場所から去るがよいぞ」

 

「…………ブッ殺すッ!!」

 

突然話しかけてきた海外の美少女(お忘れかもしれませんが、マリアは銀髪の美少女です)に驚いて言葉を失っていたチンピラだったが、自分が馬鹿にされていると感じたのだろう。突然激昂してマリアに殴りかかった。

 

「えらく短気な奴じゃのう、ほれ」

 

「うおッ!?」

 

殴りかかってきたチンピラの拳を指一本で受け流しながら、それと同時に重心を崩してその場にチンピラを転がすマリア。

 

一昔前の彼女ならその指一本でチンピラを粉微塵に砕いていたであろう。それを考えると今の彼女は、彼女自身が口にしたようにとても慈悲深い。そう、たこ焼きにチンピラの血が混じったら嫌だと考えたわけじゃないと思うのだ。(お忘れかもしれませんが、マリアは真祖の吸血鬼のため血を介さずにエネルギーを吸収できます。その為、血は生臭いので普通に嫌いです)

 

「へっ、指一本でこの俺を転がすってか。お前も資格者(シード)だったわけか。だが残念だったな、この俺も資格者(シード)だ!! 天下無敵の《烈牙(ファング)》様とは俺のことよ!!」

 

「ん? なんじゃ、貴様から微小な妖気を感じるのう。どれ、一応調べてみるかのう」

 

立ち上がったチンピラは威勢よく叫ぶが、マリアはそんなチンピラの口上よりも彼から立ち昇った微小な妖気が気になった。

 

マリアから見ればノミかダニといったレベルの妖気でしかないが、この街は大神家の縄張りである。今や大神家の一員だと自他共に認めるマリアにとって妖気を放つ余所者を調べるのは当然のことだった。

 

「ほれ、ちょこっと中を観せてみよ」

 

「っ!? あ、あぁぁぁ……」

 

マリアがチラリと烈牙(ファング)の瞳を覗き込むとたちまち焦点を失い動きが止まった。

 

彫像のように固まった烈牙(ファング)の額にマリアは左の手刀をのばす。ゆっくりとのばされた手刀が額に突きつけられると、そのまま容赦なく押し込まれた。

 

「ヒ、ヒヒッ……」

 

「おや、くすぐったかったかのう。まあ、すぐに済むゆえ我慢せよ」

 

白目を剥いて涎を流す烈牙(ファング)。額に手刀を押し込まれて “中” を弄られているが、痛みは感じていないようだった。ちなみに側から見ればとんでもない状況だが、マリアが仲裁に入った時点で、周囲の人間達はマリア達が最初から居なかったかのように無関心となっていた。

 

「ふむふむ、なるほどのう。悪魔に憑依されとるが、これは複製じゃな。どうりで妖気が弱いはずじゃ。ふむ、インターネットに資格者(シード)万魔殿(パンデモニウム)、ヴェサリウス……ヴェサリウス? どこかで聞いたような気がするのう」

 

どこじゃったかのう、と考え込むマリアだったがどうしても思い出せない。

 

「まっ、思い出せん程度のことなら捨て置いてもよいじゃろう」

 

思い出せないことに拘っても仕方がないとあっさりと諦めた。

 

第一位階(ファーストクラス)第二位階(セカンドクラス)とな。ほう、クラスチェンジができるわけじゃな」

 

烈牙(ファング)の中を弄った結果、マリアは大体のことを大雑把に理解した。

 

「ククク、まさか悪魔の複製を憑依させることで一般人に異能を持たせたリアル体験型RPGを実現させるとはのう。ニッポン人の遊び心には脱帽せざるを得ないのう」

 

複製とはいえ悪魔を憑依させることは一般人にとっては命懸けとなる。そんな危険を犯しているというのに参加者の烈牙(ファング)には全く危機感がなかった。しかも彼以外の参加者も同じよう様に思えた。

 

「遊びの為なら命も惜しまぬ、か。しかも心から楽しんでおる。これがニッポンのオタク文化というやつなのかのう――うむ、興が乗ったぞ。私もリアル体験型RPGとやらに参加してやろう」

 

数百年の野生動物同然のサバイバル生活を送っていたマリアは “食” だけではなく “娯楽” にも非常に興味があった。

 

「まずはゲームマスターのヴェサリウスを探すとしよう」

 

クラスチェンジの際に姿を現すというヴェサリウスがゲームマスターだと推測したマリアは、彼と交渉してリアル体験型RPGへの参加権をもぎ取ることにした。

 

マリアは烈牙(ファング)の額から手刀を抜きとる。不思議なことにその場に倒れこんだ烈牙(ファング)の額には傷一つ残されていなかった。

 

「こやつの記憶を頼りにヴェサリウスとやらを探すのもよいが、少しばかり手間がかかりそうじゃな。うーむ、仕方がない。あまり気が進まぬが手っ取り早い方法を使うとしよう」

 

他の参加者のようにインターネットを通じてヴェサリウスを探すのは敷居が高かった。携帯電話程度なら使いこなせるがパソコンはまだ早い。魔術で探すのも範囲が広いと時間がかかる。人探しの方法で一番早いのは――精霊魔術だった。

 

マリアは瞼を閉じる。そしてゆっくりと瞼を開く。その瞼の下から現れた瞳は虹色の輝きを帯びていた。

 

「地・水・火・風の精霊共よ。ヴェサリウス(ゲームマスター)を探せ」

 

四大精霊の同時使役。人間ならばその莫大な情報量に脳が一瞬で焼き切れる。とはいっても、性質の違いすぎる四大精霊全ての声を聞ける人間などはいないのだが。

 

「ほう、操は厳しい教え方じゃが意外とちゃんと指導しとるな。うーむ、やはり紅羽の方はただの小姑の嫌がらせになっとるのう。ふむ、武志は何やら難しい顔をしとるな。さては操と紅羽のどちらの方のエプロン姿が可愛いか悩んでいるとみた。フフ、どうせ結局はいつも通りに『うん、両方とも可愛いよね!」となるじゃろな。ムム、和麻とやらが警官に追われとるぞ――まあこれはどうでもよいか。ん? ククク、怪しい場所を発見じゃ」

 

東京都内に存在する全精霊からの情報を同時に受け取りながらも余裕のあるマリア。幾多もの並列思考で情報を精査した結果、東京都内にポッカリと精霊が存在しない箇所を発見した。

 

「ほほう、スタート地点は異空間というわけじゃな。ククク、如何にもありがちな展開じゃのう。これがいわゆる “お約束” というものじゃな。面白い、隠された拠点を発見して未知なる世界へと飛び込むプレイヤー。その第一歩を踏み出すとしよう」

 

ニヤリと笑うマリア。その姿が次の瞬間、大気に溶け込むように消えた。

 

後に残されたのは、白目を剥き涎を垂らして気絶している烈牙(ファング)と、その彼に全く気付かない人々の姿だった。

 

 

 

 

内海浩助(うつみこうすけ)が目を覚ましたのは全く見覚えのない場所――広大で何もない空間だった。

 

「こ、ここは?」

 

「おや、お目覚めのようだね。浩助君」

 

聞き覚えのない声に振り向いた先には、豪華な椅子に座る仮面の男がいた。不気味な雰囲気を放つ仮面の男に浩助は警戒する。

 

「あなたは一体……」

 

「すまないね、どうやら警戒させてしまったようだね」

 

当たり前だろうが! と浩助は思った。路地裏でいきなり燃やされた上に拉致された。しかも犯人は仮面を被った変態なのだ。これで警戒しないわけがないだろう。

 

「今日、君を招待したのには理由があってね。聞きたいかい?」

 

「いえ、別にいいです。もう帰りますね」

 

「いやいや、ちょっとは興味があるだろう!?」

 

変態なんぞに興味があるかっ! と内心では激昂したが、己の筋肉が落ち着けと語りかけてくる。その通りだと流石は僕の筋肉は冷静だと浩助は思った。

 

「サイドチェストッ!!」

 

「うおっ!?」

 

浩助は落ち着くためにパンプアップした。突然の筋肉美に感激したのだろう。仮面の男は叫び声をあげた。

 

「(隙ありだッ!!)」

 

筋肉道を歩む仲間達からは “肉王” と呼ばれ尊崇されている浩助がそんなあからさまな隙を見逃すわけがなかった。

 

無言で仮面の男に抱きつく浩助。もしここで浩助が攻撃を加えようとしたのなら仮面の男も咄嗟に反撃が出来たのだろう。だが、浩助が行ったのは親愛の表現である抱擁(ハグ)だった。

 

仮面の男の僅かに露出している肌の色から彼は西洋人だとわかる。シャイな日本人だったなら拒絶したであろう突然の抱擁(ハグ)だが、社交的な西洋人たる彼が拒絶するわけがなかった。

 

ほとんど本能的に抱擁(ハグ)を受け入れる仮面の男。

 

 

──バクン。

 

 

そんな音が聞こえた気がした。

 

仮面の男を抱擁(ハグ)した瞬間、筋肉が彼を覆い尽くす。後に残されたのは大きくて丸い筋肉の塊だ。その時、何もない空間からモクモクとスモークが溢れ出す。そのスモークの奥から眩い光が放たれた。

 

「月の光に導かれて、マリア・アルカード、華麗に参上じゃ!!」

 

マリアが決め台詞と共に現れた。しかし観客は誰もいなかった。

 

「なんじゃつまらんのう。誰もおらんのか。仕方がない、帰って来るまで待つとしよう」

 

ゲームマスターであるヴェサリウスを驚かせることにより交渉のイニシアチブを握ろうと画策したマリアだったが、その目論見は脆くも崩れ去る。

 

マリアは置いてあった豪華な椅子に腰を下ろす。目の前には巨大な肉団子が転がっている。頬杖をつきながらそれを見つめるマリアは僅かに眉をひそめた。

 

「ツッコんだら負けじゃと思ったが、これはやはり無視は出来んのう。一体なんじゃ、この不味そうな巨大肉団子は? どこぞの蟻の化物が作りでもしたか」

 

高級料理からB級グルメまで好むマリアであっても全く食指が動かされない巨大肉団子。ジッと見ていると気持ちが悪くなりそうだとマリアは思った。

 

「──開け、地獄門よ」

 

少し待っていてもヴェサリウスは現れない。巨大肉団子は気持ちが悪い。なのでマリアは時間潰しを兼ねて地獄へと続く門を開いてみた。もちろん、巨大肉団子の真下にだ。

 

 

──ボットン。

 

 

そんな音が聞こえた気がした。

 

「──閉じよ、地獄門よ」

 

開けたら閉めなさい。と自宅では操が口うるさく言っているのでマリアはちゃんと閉めた。

 

巨大肉団子がなくなり、マリアは一人ぼっちで豪華な椅子に腰掛けている。そう、広大で何もない空間でマリアは一人ぼっちだった。一時間過ぎ、二時間過ぎても一人ぼっちだった。

 

「……なんだか、武志の顔が見とうなったのう」

 

マリアは速攻でホームシックになった。考えてもみれば来日してからはマリアの周囲はいつでも賑やかだった。彼女の孤独耐性が超低下していても無理はなかった。

 

「もう、遅いし帰るとしようかのう」

 

うんうんそれが良いな。と頷きながら豪華な椅子から立ち上がった。

 

 

 

 

── マリア・アルカード。

 

真祖の吸血鬼にして、不敗の殲滅者。

 

地球上に発生して凡そ三千年。

 

幾千幾億の戦場を闊歩する。

 

砕いた命は数知れず。

 

生命の天敵にして、魂の簒奪者。

 

そして――

 

 

「うむ、早く帰らねば、武志も心配していよう。ちちんぷいのぷい! マリア・アルカード、我が家(武志の元)にワープじゃ!」

 

 

――武志の大切な家族である。

 

 

 

 

 

 

 

 




綾乃「綾乃と紅羽のおまけコーナーの時間が今週もやってきたわね」

紅羽「おまけコーナー?いつの間にそんなものが出来たのかしら?」

綾乃「うふふ、こう言っておけば、既成事実ってやつで後書きはずっとあたし達のものになるって寸法よ」

紅羽「ああ、なるほどね。本編では出番が少ないぶん後書きは独占したいわけね」

綾乃「そうよ、本当に理不尽だわ!この間も折角の出番だったのにチョイ役で終わったじゃない!」

紅羽「まあそうね、原作のメインヒロイン(?)の割には出番は控えめかもね」

綾乃「今回はマリアがメインになってるわよね。しかもシレッとボスまで倒しちゃってこの後どうなんのよ」

紅羽「未来のことは誰にも分からないわ」

綾乃「つまり、いつもの様に先の展開は何も考えて無いわけね」

紅羽「でも次回ぐらいからは、お料理指導は終わって、お掃除指導にはなっていると思うわよ」

綾乃「小姑の本領発揮かしら?」

紅羽「あら、本編では私が小姑扱いになっているけど、本当の小姑の操と比べれば私なんて可愛いものよ」

綾乃「そうなの?たしか操は厳しいけど、ちゃんと指導してるってなってなかった?」

紅羽「あのね、綾乃。操は由香里の事を『自分を慕っている年下の女の子』だと思っているのよ。対して私は『武志の嫁候補』だと思っているの。だから私は嫁候補として厳しい態度で臨んでいるけど、操は自分を慕う女の子相手なのに、そんな私と同等の厳しさなのよ。もしこれで相手が本当に武志の嫁候補ならどんなに恐ろしい事態になることか、考えるだけでも震えてくるわ」

綾乃「あはは…た、たしかに少し怖いわね」

紅羽「ところで、静さんは2回目の出番だったわね」

綾乃「……」

紅羽「どうしたの、綾乃?」

綾乃「えっと、静って誰?新キャラじゃないの?」

紅羽「ちゃんと以前にも武哉さんの彼女として出ているわよ。それこそチョイ役だったけどね」

綾乃「武哉さんって、セクハラとロリコンの人だったわよね。そんなのと付き合って大丈夫かしら」

紅羽「一応、それは誤解なのよ。本編ではその誤解が解けることはないと思うけどね。唯一、誤解していないのが静さんってわけね」

綾乃「ふーん、それならバカップルを祝福してもいいわけね」

紅羽「あら、綾乃が祝福するの?武哉さんのことあまり好意的に思っていなかった筈じゃない?」

綾乃「だって武志のお兄さんよね。将来のこともあるし、ある程度は仲良くするべきよね」

紅羽「将来?――それはどういう意味なのかしら」

綾乃「紅羽?か、顔が怖いわよ?」

紅羽「ちょっと待ってね、綾乃。今、操も呼ぶから三人でじっくりとお話をしましょうね」

綾乃「急用を思い出したわ!!じゃあ、さよならーっ!!」

紅羽「待ちなさいっ!!綾乃ーーーっ!!」

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