火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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第64話「水と土の神器」

 

資格者(シード)達は、みるからにチンピラな外見をした者が多いが、ぶっちゃけると、資格者(シード)の多くは生粋のチンピラではなく、異能を得たことで調子に乗ってチンピラデビューをした者達であった。

 

では、チンピラデビュー前の資格者(シード)達はどのような者達だったかというと、インターネットを好む者達。つまりはネットユーザー(ネット依存症)であった。

 

彼らはネットサーフィン中に万魔殿(パンデモニウム)のサイトに辿り着き、そこで異能を得たのだ。

 

そして異能を得て調子に乗った彼らはチンピラデビューをしたわけだが、彼らの本質はやはりチンピラではなく、ネットユーザー(ネット依存症)だ。

 

結局、何が言いたいかと言うと、彼らはネットユーザー(ネット依存症)として当然のように各種オンラインゲームを嗜んでいる。もちろん、協力プレイで強大な力を持つモンスターを倒すやつなど大好物だという事だ。

 

「一体何なんですかコイツらはッ!?」

 

「ぬう! 此奴ら、一人一人は非力じゃが、互いにカバーし合うことで隙を見せよらんわ!!」

 

白銀の髪の美青年ことクリスは、合流したドワーフっぽい生き物のガイアと共に資格者(シード)達の猛攻に耐えていた。

 

光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)光槍(ジャベリン)

 

閃輝(シャイニング)のシンは、移動しながら最速の攻撃のみをし続けていた。

 

それに倣うように、他の遠距離攻撃の手段を持つ資格者(シード)達も一撃の威力よりも発動速度の速い技を選び移動しながらの攻撃を繰り返していた。

 

遠距離攻撃の手段を持たない近接タイプの資格者(シード)達は落ちている石を投擲したり、運動が苦手な遠距離タイプの資格者(シード)を背負い移動をしていた。

 

「ガイア、とにかく時間を稼いで下さい! 10秒あれば全員まとめて仕留められます!」

 

「無茶を言うでないわ! 儂だけならともかくお主まで庇い切るのは無理じゃぞ!」

 

ガイアは地術師であった為、その不死身に近い回復力で資格者(シード)達の猛攻をなんとか凌いでいたが、地術師は回復力は高いが、別に素の肉体の強度まで高いわけではない。

 

もちろん、地術を行使すればどうにでもなるが、今はレーザーやら火玉やら風刀やら雷球やらの様々な攻撃に晒されている。

 

絶え間なく全身を襲う痛みに耐えながら回復に専念するガイアには他の事をする余裕などなかった。

 

クリスの方はもっと状況が悪かった。水術師である彼が、資格者(シード)達の猛攻をまともに受ければ肉体的には常人と変わらないのだから一溜まりもない。

 

今は咄嗟に張った全身を覆う水膜でなんとか耐えている状況だ。水術師として一流といえるクリスだが、水膜という術を維持したままで強力な術を行使できる程の技量はなかった。

 

威力の弱い、単発の水球程度なら放てたが、移動を続ける相手に当てることは出来なかった。

 

「こんな戦い方であなた達は恥ずかしくは無いのですか! 男なら正々堂々と戦いなさい!」

 

クリスは叫ぶが、それを聞いている資格者(シード)達は無反応のまま攻撃を繰り返す。

 

資格者(シード)達のその対応は当然だろう。当初、大物ぶったクリスがみせた一撃は資格者(シード)達の想像以上の威力があったからだ。

 

「(ハァ、まったく、貴方のような化物と正々堂々と戦えるわけないでしょうに)」

 

クリスの自分本位な言葉に閃輝(シャイニング)のシンは内心でため息を吐く。

 

小さな水球一つでクレーターを作ってみせたクリス。それは自信家であった閃輝(シャイニング)のシンですら、一人では勝てないと素直に認めざるを得ない化物ぶりだった。

 

だが、閃輝(シャイニング)のシンには逃げ出すという選択肢はなかった。何故なら彼の後ろには美少女二人組が居たからだ。

 

クリスの一撃を見せられた時、大きく砕けたアスファルトの道路に内心ではビビりまくったが、チラリと後ろに目を向けた閃輝(シャイニング)のシンの目に飛び込んできたのは、怯えて震えながらも、この場から逃げ出さずに自分の事を信じるように祈りながら潤んだ視線を向けている美少女二人組の姿だった。

 

その瞬間、閃輝(シャイニング)のシンの脳裏には、彼が大好きなアニメの熱い挿入歌がヘビーローテーションされる。

 

── 今が人生の絶頂期だ!!

 

閃輝(シャイニング)のシンは迷いなくそう思った。インターネットで偶然辿り着いたサイトで異能を得た。そして、地道に経験を積んでクラスチェンジを果たし、自分は第二位階(セカンドクラス)となった。

 

自分が異能を得て磨いたのは全てが運命だったのだ。今、この瞬間、この美少女二人組を助けるために神が自分に与えてくれた人生における最大の見せ場なのだと悟った。

 

こんな最高のシチュエーションで燃えなければ男ではないだろう。閃輝(シャイニング)のシンの心は己の死をも厭わないほどに熱く燃えあがる。

 

それら一部始終を見ていた周りの資格者(シード)達は妬んだ。それはもう妬みまくった。

 

これでは完全に閃輝(シャイニング)のシンが主人公ではないか。オレ達はただの脇役(モブ)なのかと心の中で血涙を流す。

 

だが、神は彼ら資格者(シード)達も見捨てはしなかった。

 

「――我が同胞達よ。私にとは言いません。私ではなく、力無き乙女達の為に――あなた方の力を貸して下さい」

 

閃輝(シャイニング)のシンが資格者(シード)達に『お前達もこの大舞台に立て』と誘ったのだ。

 

もちろん、それには理由があった。せっかく自分が主人公なのに登場人物を増やすのだから理由があって当然だった。

 

そう、どれほど熱く燃えあがったとしても閃輝(シャイニング)のシンは冷静さを失わなかった。何故なら彼の敗北は、彼だけの死を意味するわけではないからだ。彼の敗北は美少女二人組を気に食わない外国の美青年に渡すことを意味していたからだ。

 

無駄にプライドの高い閃輝(シャイニング)のシンだったが、クリスとの実力差は認めざるを得なかった。自分一人が主人公でないのは確かに悔しいが、だからといって絶対に負けるわけにはいかない。

 

自分への妬みの視線には気づいていた。立場が逆なら自分だって同じ視線を向けていただろう。彼らが邪魔をしてこないのはこの場で邪魔をすれば、主人公の邪魔をする悪役に自ら堕ちる事だと理解しているからだ。

 

ならば話は簡単だ。主人公は一人ではなくなってしまうが、それには目を瞑ろう。自分がイニシアチブを握れることには変わりはないのだ。資格者(シード)達を率いて敵を倒せばいい。

 

大丈夫、卑怯とは言わせない。なにしろ彼我の実力差は明らかなのだから。いやむしろ資格者(シード)達を率いても不利なのは此方の方だ。ならば何も問題はない。これは正義の戦いだ。

 

そんな理論武装を行った閃輝(シャイニング)のシンは、お約束ともいえるセリフを資格者(シード)達に向けて放ったあと、彼らの返事も聞かずにクリスへと攻撃を仕掛けた。

 

自分達の方が不利だと考えたのは本当のことだった。僅かでも有利になれるように閃輝(シャイニング)のシンは奇襲をかけたのだ。

 

そして咄嗟に水膜を張ったクリスへと周囲の資格者(シード)達も続けて攻撃を加え始めた。

 

閃輝(シャイニング)のシンに率いられる形は業腹ものだが、悪役やモブのままよりかは遥かにマシだと判断したのだ。

 

「クッ、いきなり攻撃するとは卑怯ですよ!」

 

文句を言うクリスに誰も返事はしなかった。この場にいる資格者(シード)達は、誰もが実戦を経験してきた強者達だ。彼らもまたクリスの規格外の強さを本能的に察していたため油断は微塵もなかったのだ。

 

「貴様ら、多勢に無勢とは随分と卑怯ではないか。儂の名はガ――アタッ、イタタッ、ちょ、ちょっと待たんか!? まだ口上の途ちゅ、アタタタタタッ!?」

 

途中から現れた余裕ぶった偉そうなドワーフ(ガイア)にも問答無用で攻撃が加えられた。彼からもまたクリス同様の規格外の強さを感じたからだ。

 

「(反撃を許せば負けますね)」

 

直感でそう考えた閃輝(シャイニング)のシンだが、その考えに間違いはなかった。

 

クリス達が実力を発揮できれば一撃で形勢は逆転しただろう。それだけの実力差があったのだ。

 

「(ならば、何もさせなければいいだけです)」

 

資格者(シード)達にとって、圧倒的に強力な敵と戦うのは初めてではなかった。むしろ、日常茶飯事ともいえた。

 

それはオンラインゲームでの経験ではあったが、異能を得て戦うというのもゲームのようなものだ。そこに大した違いなどないだろう。

 

一撃死をしてしまうクソゲーも余裕でクリアしてきた猛者達が資格者(シード)という生き物なのだから。

 

初見での協力プレイもお手の物だった。標的を絞らせないように、また敵の集中力を散漫にさせるために移動しながらの攻撃は基礎中の基礎だろう。

 

ほんの僅かでも消耗させられる、ダメージを与えられるのならこのまま削り殺す。たとえ何十時間かかろうと構わなかった。徹夜で敵を倒す経験など数えきれない程にしてきたのだから。

 

資格者(シード)達はローテーションを組み休憩しながら攻撃を続ける。この場にいない資格者(シード)を電話で呼ぶ者もいた為、攻撃ローテーションには余裕があった。

 

「はい、ジュースをどうぞ」

 

「コーヒーとかもあるよー」

 

美少女二人組も飲み物を配ってくれたりと気を使ってくれている。攻撃ローテーションの采配をしながら閃輝(シャイニング)のシンは充実感に包まれていた。

 

「ふふ、やはり討伐イベントは楽しいですね」

 

閃輝(シャイニング)のシンの言葉に異論をもつ者は誰もいなかった。

 

 

 

 

「もうっ、急いでいるのに何なのよ」

 

大神家へと急ぐ綾乃だったが、新宿で足止めをされていた。それは警察による大規模な厳戒態勢による規制のためだ。

 

「こうなったら強引に突破しようかしら?」

 

たとえ警官をぶん殴って突破をしても大怪我さえ負わさなければ、後でどうにでもできる。そんな危険な思想に囚われる綾乃だが、いまいち踏ん切りがつかない。

 

「うーん、今日はお洒落してるのよね」

 

綾&沙知と遊びに行っていた為、今日はいつもの戦闘服を兼ねた制服姿ではなく、お洒落なワンピース姿の綾乃は、この姿で暴れることに抵抗を感じていた。

 

これが武志と一緒ならいつものノリで暴れていただろうが、今は一人だった為、綾乃の中にある僅かな良識が働いていたのだ。

 

「もう、どうしたらいいのかしら?」

 

そんな困っている様子の綾乃を見つめるおじさん達がいた。そう、親バカとそれに付き合わされている人だ。

 

「うむ、あやタンが困っているな。よし、厳馬よ。ちょいと行って警察を蹴散らしてきてくれ」

 

「アホなのか、貴様は?」

 

「あやタンが困っているんだぞ。ならば助けるのが親というものだろう」

 

「ハァ、仕方がない。さっさと終わらせて帰りたいからな。しかし、警察を蹴散らすのは悪手だろう。ここは騒動の原因を排除するとしよう」

 

重吾の親バカ発動中は何を言っても無駄だと理解している厳馬は、せめて許容できる手段を提案する。

 

「おぉ、それでよい。早くやれ」

 

「まったく、こんなことで只働きをする羽目になるとは今日はついとらんな」

 

新宿でこれほどの厳戒態勢を敷かれるとなると余程の事態が起こっているのだろう。整理室からの依頼なら高額の報酬が発生した筈だ。それが自主的に動いては無報酬となる。神凪一族は全国から依頼がくるため財政状況は良かったが、だからといって厳馬は無料で仕事はしたくなかった。

 

「これがバレると文句を言われるのは私なんだがな」

 

無報酬で仕事をしたことが神凪一族にバレると、厳馬は経理を担当している家人に怒られる事になる。それが厳馬は嫌だった。

 

「おい、お前もついて来い。こうなったら一蓮托生だ。文句を言われる時は一緒だぞ」

 

「おいこら、宗主に向かってお前はやめろ」

 

「ふむ、騒動の元は向こうの様だな」

 

「おいっ、儂を無視していくんじゃない」

 

「いいから早くついて来い」

 

「フン、仕方がない。今日はあやタンに免じて大目に見てやるわい」

 

「いいから早く行くぞ。お前は綾乃にストーカーをしている事を知られたくないのだろう。迅速に行動しろ」

 

「言われんでも分かっとるわ。それと誰がストーカーじゃ。儂の事は、あやタンの守護者を呼んでくれ」

 

警官の動きから騒動の発生元を推測した厳馬は重吾に呼びかけると堂々と歩き出した。その後ろを重吾がこれまた堂々と歩き出す。

 

一応は綾乃に見つからない様に彼女がいる場所を大回りをして避けている二人だったが、戦闘となる事を意識した二人が莫大な火の精霊を集めたため、いかに感知能力の低い綾乃といえどもそれに気付かないわけがなかった。

 

「あれは、お父様と叔父様よね。なるほど、この厳戒態勢は妖魔討伐のためってことね。でも、お父様達が二人掛かりだなんて相当な大物ね……うん、武志の敵も大物っぽいし、ここはあたしも協力して早く仕事を終わらせて、お父様達も大神家に連れて行った方がいいわよね」

 

綾乃は状況をざっくりと推察して判断すると、重吾達の後について堂々と歩き出した。

 

 

 

 

「グッ!? 何が起きている!?」

 

閃輝(シャイニング)のシンは何の前触れもなく身体から力が抜けていき片膝をついてしまう。周りを見渡すと、他の資格者(シード)達も状況は同じらしく全員がその場にしゃがみ込んでいた。

 

「ふふ、どうやら限界の様ですね。貴方達のような三流術者にしては頑張った方だと褒めてあげますよ」

 

「ふぅ、やっと終わったのか。まったく、いくら治るといっても痛いものは痛いんじゃぞ」

 

その声に振り向くと、いけ好かない白銀の髪の美青年(クリス)ドワーフ(ガイア)が無傷の状態で立っていた。

 

「(クソッ、ここまでか……せ、せめて美少女二人組だけでも逃げて……)」

 

急激に抜けていく力に意識が霞む閃輝(シャイニング)のシン。最後の力を振り絞り美少女二人組の無事を願う。それは他の資格者(シード)達にとっても同じ願いだった。これが人生の終わりなら、美少女二人組を救った漢として逝きたいと願ったのだ。

 

その願いが通じたのだろうか。閃輝(シャイニング)のシンを含む資格者(シード)達全員の身体から溢れた力が、一つの法則に従いある術式を起動した。

 

「こ、これはまさか次元を越える門なのですか? おや、“ナニ” かが門から現れて…ッ!?」

 

クリスの驚愕の声が閃輝(シャイニング)のシンを含む資格者(シード)達の耳に届く。

 

薄れゆく意識の中、顔をあげた閃輝(シャイニング)のシン達の目に飛び込んできたのは――

 

 

「うぉぉぉおおおーっ!! 我が三角筋に一片の余力なし!!」

 

 

――雄々しい “漢” の逞しい背中だった。

 

 

 

 

 

 




紅羽「この物語は殆どがギャグなのでシリアスな展開を期待しないで下さいね」

綾乃「紅羽、なに言ってんのよ?」

紅羽「念の為に言っておこうと思ったのよ」

綾乃「もう、そんなの今さらな話じゃない?」

紅羽「それはそうなんだけどね。クライマックスも近づいてきたから格好良い展開を期待している人がいたら悪いじゃない」

綾乃「いないわよ、そんな人」

紅羽「あら、言い切るのね」

綾乃「そんなの当然じゃない。そんな事より作中で使ってるギャグのネタ元の説明をした方が親切じゃないの?」

紅羽「筋肉ネタが多いのよね。まあ、有名なのばっかりだから大丈夫じゃないかしら?」

綾乃「みんなが知ってるとは限らないわよ」

紅羽「それもそうね。それじゃ、綾乃よろしくね」

綾乃「あたしがやるの!?」

紅羽「それはそうでしょう。言い出しっぺの法則よ」

綾乃「やだ、めんどい。知りたい人は自分でググれ」

紅羽「もう、前も似たような事を言ってたわよね」

綾乃「そんなことより、重大な話があるわ」

紅羽「何かしら?」

綾乃「スマホが主流になった頃って、携帯と言えばガラケーの事を意味していたじゃない」

紅羽「そういえば『まだ携帯なの、私はスマホに変えたわよ』なんて会話があったものね」

綾乃「でも携帯電話って、携帯する電話だからスマホも携帯よね」

紅羽「それはそうよね」

綾乃「それなら、ガラケーをあまり知らない今時の子は携帯って言ったらスマホを思い浮かべるのかしら?」

紅羽「……それが重大な話なわけ?」

綾乃「紅羽は気にならないの!?」

紅羽「そんな事を気にした事ないわよ」

綾乃「ガーン!!」

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