僕の前に立ち塞がり、威嚇してくる妖魔の姿を一言で表せば巨大なカマキリだった。
妖魔は、巨大な鎌のような腕を持ち上げると、常人ではとても反応できない速度で振り下ろしてきた。
僕自身もその速度に目が追いつかず、僅かに影のようなものを目の端に捉えることが精一杯だった。
僕の命を容易に刈り取るだろう威力が込められた一撃を目前にして、僕が出来ることは一つしかなかった。
「ファイヤーアッパーカット!」
そう、僕に出来るのはカウンターパンチを叩き込むことぐらいだった。
「うむ。妖魔の攻撃に対する反応速度、妖魔を一撃で焼き尽くす炎の威力、共に見事だ」
師匠である叔父上に見守られての妖魔退治を、僕は何とかこなせるようになっていた。
「また、つまらぬ物を殴ってしまった」
僕は、軽口をたたきながらも燃える妖魔から目を離さない。妖魔との戦闘は、僅かな油断で命を落とすことに繋がるからだ。
「残心も忘れぬ用心深さも大したものだ。これで小学三年とはな。流石は俺の甥ということか。フッ、俺の血は優秀だな。クソ兄貴の血が混じっているとは思えぬ。いや、きっと俺の血がクソ兄貴の血を駆逐してしまったのだろうなっ!」
ガハハハハッと、意味不明な高笑いを続ける叔父上を見ながら僕は思う。
「神凪一族の男達って、僕以外は変人しかいないよね」
修行を始めて2年が過ぎた、ある春の日のことだった。
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「武志の感知も精度が良くなったよね」
「まあ、目で追えない速度の妖魔が多いから、感知の修行に費やす時間を一番多くとってるからね。これで効果がなかったら泣くしかないよ」
沙知の言葉に、僕は当然とばかりに返す。何しろ原作での僕の死因は、敵の攻撃に全く気付けなかったことなんだから、修行にも気合いが入るというもんだ。
もっとも、原作の僕が攻撃に気付けたとして、あの敵の妖魔から逃れられたかというと、全く自信が持てないけどね。
「えへへ、武志は炎術師としても優秀なのに感知とか探索の術の重要性を分かってくれてるから嬉しいな」
「武志さんは、術に頼るだけでなく五感も鍛え、風の流れ、大地や空気の振動、匂いや音、気の動きまで総合的に捉え識別し判断を下しています。本当に素晴らしいですわ」
「うんうん、そうだよね!武志ってば、術者としてだけじゃなく、武術家としても一流だよね!」
「うふふ、神凪一族の麒麟児と謳われるのも当然と思えますね」
「それで、そんなに褒めてくれるってことは、何か頼みたいことでもあるの?」
僕を褒め称える彼女達を胡散臭そうに見ながら尋ねる。
「もうっ、武志ってば褒めてるんだから素直に受け取ってよ!」
「そうですわ。女の子からの称賛は素直に受け取って笑ってほしいです」
「いや、突然褒め称えられても困るだけだよ。だいたい、神凪一族の麒麟児だなんて初めて聞いたんだけど?」
もしかして、僕は自分では気付いていないだけで天才という奴なのか?隠された力が目覚めようとしているのか?
「私が考えてみたんですけど、気に入って貰えたのでしたら、私達が全力で噂を広めますから遠慮なく言って下さいね」
「全力で遠慮します」
バトルは難しいです…