俺たちは仮想の世界で本物を見つける   作:暁英琉

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仮想世界

プレイヤーネームやアバターを決めると視界が暗転する。それも一瞬で、すぐに色鮮やかな色彩が眼前に広がった。

「うわ…...」

思わず声が漏れる。これが......ゲームの世界?緑鮮やかな草原は本物にしか見えず、青い匂いが漂ってきそうだ。肌を撫ぜる風は心地いいし、太陽光が照らす空気はどこか暖かい。実は異世界に顕現されたんだと言われたら思わず信じてしまうレベル。

しかし、この風景や感覚はプログラムにすぎない。ナーヴギアが電磁波に乗せて流してくる電気信号を直接脳が受け取ることで、あたかも現実のように見て、聞いて、感じることができるのだ。逆に、例えば俺がジャンプをしたいと考えて脳が命令すると、その命令は延髄部でナーヴギアに回収されて仮想世界のアバターがアクションを行うのだ。

まさに『仮想現実』。ヴァーチャルリアリティたる所以を理解した。

「せんぱいですか〜?」

「お兄ちゃん......で合ってるかな?」

感動のあまり惚けていると、声をかけられた。振り向くと自分より頭一つ分低い女性アバターが二人。一人は活発そうなライトピンクのショートヘアにアホ毛がピンと自己主張しており、もう一人は腰までの栗色のサラサラストレートヘアだ。

「小町と......一色か?」

どうやらアホ毛のある方が小町、サラサラロングが一色のようだ。アホ毛を採用するとはさすが小町。比企谷の人間としてアホ毛は必須事項だからな。しかし、一色はアバターは大人しめなのにいつものあざといノリだから......似合ってねえな。

「なんか今失礼なこと考えてませんか?」

「......そんなことはない」

「むぅ......それにしても、せんぱい男にしたんですね。先輩のことだから女の子にすると思ってました」

「いや、するわけないじゃん」

確かにモンハンとかでは女性にしたりするが、別にネカマではない。しかも、チャットで女性っぽく振る舞う従来のネカマと違って、SAOでネカマをやるなら自分で喋らなくてはいけない。なにそれもはやただのオカマじゃん。SAOでネカマなんておらんやろ。

というわけで、俺は男アバターにした。見た目はどこにでもいそうな黒髪凡人男子。ちなみにアホ毛は生えている。別に下手にかっこよくしたら逆に二人にキモがられそうとか思ったわけじゃないんだからね!

「とりあえず、まずは武器とか情報収集だな。あっちにある『はじまりの街』に行こうぜ、こま......すまん、二人のプレイヤーネーム教えてくれ。危うく本名呼んじまうわ」

ちなみに俺はHachi(ハチ)である。

「小町はMachi(マチ)だよ!」

「私はIroha(イロハ)です」

「............」

............うん。

小町は......まあいい。一人称はすぐ変えるだろう。一色よ......なんで本名にしてるんだよ。ネットリテラシー大丈夫?

それとなく一色、いやイロハに注意をしながら俺たちは『はじまりの街』に向かった。

 

 

思いのほか広い街中を地図を頼りに進む。時々NPCに話しかけて情報を得たところによると、武器を扱うにはそれに対応した武器スキルが必要らしい。例えば、短剣を扱うなら短剣スキルを、曲刀を使うなら曲刀スキルを見たいな感じだ。一応武器スキルを持っていなくても、装備や攻撃はできるようだが、威力が低くなる上にソードスキルと呼ばれる必殺技も使えないとのこと。熟練度が上がればダメージや剣速も上がるので、基本的には同じ系統の武器を使うのが効率が良さそうである。

というわけで、俺たちはNPCの経営する武器屋に来ていた。片手用直剣に曲刀、斧に槍など、各系統の基本武器が置いてある。さて、どの武器を使おうかな。無難な片手用直剣もいいし、手数の短剣も一撃必殺の両手用直剣や両手斧も面白そうだ。槍はモンハンみたいにゴツくないし、趙雲みたいな無双の動きとかできるのかな?

多種多様な武器に目移りしていると、一際異彩を放つ武器に目が止まった。

シンプルな柄の先に結晶塊のついた武器。

詳細を見てみると、『スモールメイス』、片手棍カテゴリーのようだった。

もうなんかパッと見で面白い。もう潔いくらい鈍器なんだもん。他の武器のような刃が一切付いていない芯の通ったデザインに好感が持てるね。

「俺これにするわ」

amazonでポチるくらいの気軽さで『スモールメイス』を購入し、装備するとずっしりとした重量感につい顔がほころぶ。そんな俺を見た二人はしらーっとした目で俺を見てきた。......なんだよ。

「"ソード"アート・オンラインなのに槍ですらないなんて......」

「せんぱいらしいといえばらしいですけど......」

別にいいじゃん! メイン武器の扱いなんだから! ハチとメイスは......ズッ友だょ! 泣きそう。

一人打ちひしがれていると二人も武器選びを終えたようだ。マチは短剣、イロハは片手用直剣を装備していた。

「さて、武器も選んだことだしそろそろ戦ってみたいけど......」

一応取説は読んだが、頭が理解していても身体が動くかわからん。いや、この場合身体も頭の中で動かしているようなもんなんだけどさ。ややこしいなこの世界。

文章で理解するよりも目で見て覚えたほうがよさそうなんだが......ん?

思考を展開していると横を駆けていく男性プレイヤーが一人。その動きにはまるで迷いがない。まるでこの街を熟知しているような......。

「あ......今のがβテスターって奴か」

テスト段階で2ヶ月プレイしている彼らβテスターは文字通り格が違う。SAOに対する知識も、慣れもだ。彼らに教われば上達も早いかもしれない。

しかし、こっちはニュービー三人、三人同時に教えてくれというのは気が引ける。それにぼっちだからお願いとか難しい。

やっぱり自分たちで実践経験積むしかないかと考えていると、もう一人俺の横を横切るプレイヤーがいた。赤髪のプレイヤーはさっき駆けていった黒髪の(おそらく)βテスターに声をかけたようだ。視線を二人に集中すると、視界が少しズームされる。

あの赤髪もβテスターかと思ったが、何やら黒髪にお願いをしているようだ。ひょっとしたら、俺と同じようにβテスターからご享受願おうというニュービーだろうか。黒髪は了承したようで、連れ立ってフィールドに歩いていく。

ふむ......。

ネットゲーマーは自己顕示欲が強くて自分主義なところがあるという偏見を持っているが、少なくともあのβテスターはそういうところが薄そうだ。きっと懇切丁寧に教えるのだろう。しかし、追加で三人教えてくれ、はやっぱり気が引けるなー。

それなら......。

「二人とも、フィールド行ってみようぜ」

俺たちは現実では一生持たないであろう武器を手に、さっきの二人の後を追った。

 

 

***

 

 

「ぬおっ......とりゃっ......うひええっ!」

フィールドに向かうとさっきの赤髪が青い猪と戯れていた。ブンブンと曲刀を振り回しているが、全然当たっていない。戦闘って結構難しいのか?

とりあえず俺は、少し遠めで二人を観察することにした。見て技術を盗むのは学習の基本だ。見てるだけで実践しなかったらなんの役にも立たないがな。

そういえば、この世界は意識を集中すると、意識を向けている物の情報がより強調されるらしい。さっき話している二人に意識を集中させた時に視界がズームしたようにだ。

つまりこれを応用すれば......。

二人に意識を集中させたまま耳に軽く手を添えて角度をつける。土曜の夕方にどっかの教授がバーで盗み聞きをするラジオでこんな風にやるとよく聞こえると言っていた。

「......だぞ。でも、ちゃんとモーションを起こしてソードスキルを発動させれば、あとは

システムが技を命中させてくれるよ」

さっきまでかすかにしか聞こえなかった二人の声が少し聞き取りやすくなる。ぼっち生活で培った盗み聞き技術がこんな形で役立つとは思っていなかったよ。

しかし、あの黒髪説明雑すぎるだろ。なんだよズパーンって、ミスター・ジャイアンツか何か?

黒髪の説明に多少不満を持ちつつ赤髪が右肩に曲刀を持ち上がる。少し間を空けて刀身がオレンジ色の光を帯びた。

「りゃあっ!」

かけ声と共にスムーズな動きで曲刀は猪を貫いた。猪の動きが止まり、ポリゴン片となって四散した。今のがソードスキルという奴か。片手用曲刀基本技『リーバー』を放った赤髪は、一瞬立ち止まると、高らかに歓喜を上げた。

どうやら初動のポーズを取るとソードスキルが発動できるようだ。

試しに俺もやってみるか。

周囲を見回すと先ほどの青猪、『フレイジーボア』がノソノソと歩いている。ドラクエでいうスライムとかオオガラスみたいな立ち位置なのだろう。

青猪に焦点を当てながら、スッとメイスを構える。初動モーションに反応して未知の感覚が体を駆け巡るのを感じるのと同時に自分の獲物が朱の光を放った。

「フッ......!」

自分の身体なのに勝手に動く。ソードスキルのシステムアシストによって補正された俺の動きは寸分のブレもなく滑らかで、一気に間合いを詰めると青猪の眉間にいかにも硬そうな結晶塊を叩きつけた。超エグい。

片手棍基本技『サイレント・ブロウ』を叩き込まれたフレイジーボアは、ぷぎーっというなんとも情けない断末魔を残しポリゴン片に変わって砕け散る。

「よしっ! ......っ?」

倒したことを確認するために動こうとすると一瞬違和感が身体を襲った。ソードスキルは強力な分、発動後に硬直があるようだ。青猪なら気にしなくていいかもしれないが、相手の攻撃を避けたり防御して、隙ができたタイミングで後出しするのがいいのかもしれない。

「せんぱい! 今のどうやったんですか!?」

「お兄ちゃんばっかりずるいよ! こま......マチにもやらせて!」

まあ、そこらへんの技術は追い追い身につけるとして、まずは二人にもやり方を教えるか。

「こう......チャッと構えてソードスキルが発動したらアシストに身を任せてズガーンって感じだな」

「「......は?」」

どうやら俺にも長嶋さんの生霊が乗り移ったらしい。

 

 

***

 

 

「ふう......こんなもんか」

あれから二人にソードスキルの使い方を教えて何度も猪を倒した。動物保護団体から苦情がくるくらい倒した。いや来ないけど。

ちなみに、ソードスキルを使わなくてもダメージを与えたり倒したりすることは可能なようだ。しかし、これは慣れというか、リアルな技術が必要になりそうだ。俺はそこそこ戦えるが、小町たちはソードスキル無しでは苦戦を強いられていた。

視界の右上に表示されている時計を見ると十七時前を示している。そろそろ夕飯の用意を始めた方がいいだろう。時間も忘れて四時間ぶっ通しで遊んでいたとは、用意してくれた二人に感謝だな。

「そろそろ一旦止めてご飯にしようか」

「そうですね〜」

小町達もちょうどいい時間と判断したのか右手を操作してログアウトしようとして......止まった。

「「ログアウトってどうするんだっけ......?」」

「......だからちゃんと取説を読んどけとあれほど......」

二人に呆れながら事前に覚えておいたログアウトまでの操作をして......俺の動きも止まった。

「......ない」

「「え?」」

「ログアウトボタンが......ない」

確かに記憶した操作ではここにログアウトボタンがあるはずなのだが......。周辺のアイコンを見てもログアウトボタンが見つからない。

これはバグか? やめられないバグなんて聞いたことがないのだが......。SAOはログアウトボタン以外に自発的ログアウト手段がない。他の人間にナーヴギアを外してもらえばログアウトできるだろうが、今家にはナーヴギアを被った俺たちしかいないし、両親はいつものごとく帰りが遅いはず。

「どうしたんでしょうね?」

「これじゃあ夕ご飯食べれないよ......」

二人も少し不安そうだ。自由にできるはずのことができないことは人を不安にさせるから当然だろう。

近くで練習を続けていた黒髪と赤髪もログアウトボタンがない事態に気づいたようだ。運営のアーガスがこんなバグに対してなんの対応も示さないのはおかしいと言っている。

では、この状況はなんだ? なぜ運営は何もアクションを示さない? まるで.....。

 

まるで想定された事態であるかのように......。

 

十七時半を過ぎる頃、どこからか聞こえてくる鐘の音に思考を遮られる。仮想世界とは思えない夕焼けに思わず心奪われた瞬間。

「っ!?」

「せんぱいっ!?」

「お兄ちゃんっ!?」

世界がーーブレた。




旅行中にスマホで書く奴ーwww


スマホで書いたからいつもと書式違うかも


ようやくSAO要素が出てきました
片手棍のソードスキルはホロウフラグメントのwikiで確認したけど、モーションがわからないぞ?
どうしよう...

とりあえず誤魔化しつつ書いていこうかな(滝汗

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