俺たちは仮想の世界で本物を見つける   作:暁英琉

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デスゲーム3

「おやすみ、お兄ちゃん」

 

「おう、おやすみ」

 

 ヴァーチャルゲーム、SAOの中に閉じ込められて一週間。マチ達は活動の拠点を『ホルンカ』から二つ先の村に移していた。階層ボスのいる“迷宮区”のある街はまだ先らしい。卵のような形をした浮遊城アインクラッドは、第一階層が一番広い。『はじまりの街』から迷宮区のある『トールバーナ』の間には十の小さな村があるらしいし、そこで受注できるクエストの多くが序盤の攻略に役立つから必然的に攻略速度は遅くなる……とアルゴさんは言っていた。

 実際の命が関わるのだから、攻略速度はさらに下がる。β時代はもう第一層の迷宮区を攻略しているころのようだ。皆が早く帰りたいと思う反面、安全マージンをきっちりととっている。そうせずに焦った元βテスターの人達が何人も死んでしまったらしい。「死んだ」と聞いた時は少し怖くなるけれど、マチ達は比較的安全に攻略しているからか、あまり実感が湧かない。対岸の火事というものだろうか。

 宿は大体お兄ちゃんと一緒に泊っている。二人部屋の方が一人あたりの宿代は安いし、相対的に部屋も広くなるから明日の予定を立てるときに全員が集まっても狭くないからだ。そうなると、唯一の男子であるお兄ちゃんと一緒に泊るのはマチの役割になるわけだ。ベッドは別だし、兄妹だから何の問題もない。

 マチがベッドに入るのを確認すると、お兄ちゃんも自分のベッドにもぐりこんだ。布団に包まるお兄ちゃんを見ると、ようやく今日も一日生き延びたのだと実感できて、マチの瞼もゆっくりと落ちていった。

 

 

     ***

 

 

 マチ達の攻略方法は他の前線メンバーのそれとは少し異なる。情報屋のアルゴさんに協力するために本来なら無視しても構わないフィールドやクエストもくまなく調べるのだ。多少手間ではあるけれど、経験値やスキル熟練度は手に入るので全くの無駄ではない。スキルは熟練度を上げていくにつれて技術が上がる。武器スキルなら新しいソードスキルの習得や攻撃力、攻撃速度の上昇などだ。

 というわけで、今日は村を外れた先にある林に来ている。マップ上を見ると綺麗な真円を描いているその林には狼型のモンスターと猪型のモンスターが出現する。猪は『はじまりの街』周辺にもいる『フレイジー・ボア』だし、狼型モンスターも『ホルンカ』とひとつ前の村の間で出てくるモンスターだ。そんなに強くないし、ここまで来ているなら別の狩り場の方が効率がいいので、ここに来ている前線組はいないのだけど。

 

「どうやら村で引きこもっているNPCが、ここでしか出てこないモンスターがいるという情報を持っていたらしいんダ」

 

 探索中にアルゴさんが説明してくれた。普段はβの時もずっと閉まっている扉があったのだが、そこに入る影があったのだそうだ。慌てて滑り込んでみると、奥の部屋にずっと本を読み続ける青年がいたらしい。二時間もの間、何を話しかけてもひたすら黙って本を読み続けるNPCにキレそうになりつつ出ていこうとすると、ぼそりと一度だけその情報を話したらしい。

 

「よくもまあ二時間も粘ったな……」

 

 お兄ちゃんの言うとおりだ。二時間もあればお金を稼いだりクエストをこなしたりいろいろ出来るのに、最前線の人がそこまで時間を浪費するなんてちょっと信じられない。

 

「まあ、真偽はちょっと微妙だけどナ。格安で買った情報だし、本当なら万々歳だろウ」

 

 へらっと笑いながら何でないようにアルゴさんは言ってのける。情報屋は信用が命。情報の真偽をしっかりさせるのもその信用のためだそうだ。一人でやろうとすれば途方もない作業だけど、こういうレアモンスター系なら四人でポップモンスターをどんどん倒していれば相対的に出現率も上がる。確認のためにマチ達が得る情報はタダだし、いいアイテムが手に入れば当然このパーティのもの。だから、マチ達にとってもメリットは大きい。

 

「しかし、こんな序盤でβ時代からの変更点があるとはな」

 

「確かにナ。プレイしている側としては心臓に悪いヨ。いい意味でも、悪い意味でもナ」

 

 この一週間確認しただけでも、エリアによる出現モンスターの違いや、討伐クエストや採集クエストの目標数の違いなど細かい違いだけどβテストの時とは違う点がいくつか見つかっているらしい。しかし、情報が確かなら新種のモンスターが出てくるという事になる。そんな違いは初めてで、もし何も知らずにここに来て、そのモンスターと遭遇してしまったらと思うとゾッとする。

 林を歩いている間にチラホラとモンスターが姿を現したけれど、出てくるのはやっぱり既存のモンスター達。経験値は美味しくないけれど、レアモンスターのポップ率を上げるためには倒してしまった方がいいのでサクッと倒していく。そこそこ熟練度の上がった今なら威力の低い短剣のソードスキルでも一撃、二撃程度で倒せる程度の敵だ。小さく表示されるリザルト画面をちらりと見ると……やっぱり経験値は低い。

 SAOの経験値は自分と相手とのレベル差によって変わるらしい。今の小町のレベルが5で『フレイジー・ボア』のレベルが1。だからほとんど経験値はもらえない。せめて狼の方だったらレベル3だからまだマシなんだけどな。

 

 

 

「ふう……」

 

 モンスターを狩りだして三時間近く経った。けれど、全然目当てのレアモンスターは出てくれない。初日の時のあの強運は本当にたまたまだったみたい。いや、やっぱり情報が嘘だったのかな。

 

「マチちゃん! そっちに二体いったよ!」

 

「! 了解です!」

 

 いけないいけない。いくら格下モンスターが相手とは言っても、油断してたらどんなミスが起こるか分からない。マチの方に飛びかかってきた二体の狼を正面に捉えて、短剣を構える。光を帯びた短剣に呼応して、システムアシストが鋭い軌跡を描いた。短剣範囲技『ラウンド・アクセル』が狼たちの身体に命中すると同時にポリゴンになって砕ける。短剣はこれしか範囲攻撃のソードスキルはないみたいなので、これからもずっと重宝するだろう。

 

 

 ――~~~~♪

 

 

 リザルト画面の出現と同時に軽快なサウンドが響く。塵も積もれば本当に山になるようで、三時間の狩りの結果、経験値がレベルアップラインに届いたらしい。

 

「おお、レベルアップしたカ。おめでとう、マチ」

 

 近くにいたアルゴさんからねぎらいの言葉をかけられて、ちょっと恥ずかしい。照れを隠しながら感謝の言葉を返していると、近くでもう一度軽快なサウンドが鳴った。

 

「やりましたよ、せんぱい! 私もレベルアップです!」

 

 どうやらイロハさんもレベルアップしたみたい。まあ、ほとんど一緒に行動しているから当然かな。メニューウインドウを操作してステータスにポイントを割り振る。

 レベルアップするとHPの上限が上がって、自由に割り振れるステータスポイントがもらえる。この割り振れるステータスというのは筋力(STR)、敏捷(AGI)、耐久(VIT)の三種類だ。もらったステータスポイント3を、全て敏捷に振る。別に毎回そうしているわけではないけれど、基本的に敏捷に多めに振るようにしている。次に耐久に振っていて、筋力にはいままでで1しか振っていない。

 こういう振り方にしているのは格闘ゲームとかでスピード系のキャラが好みだったという理由もあるけれど、初日にマチ達よりも先にレベルアップしたお兄ちゃんのステータス振りを聞いたからだ。

 

「とりあえず筋力を優先して敏捷、耐久はバランス振りにする。アタッカーになるなら筋力は必須だからな」

 

 筋力値は単純な攻撃力に繋がる以外にも、相手の攻撃の受け流し時に余波で受けるダメージを減らす効果もあり、武器防具の装備上限にも関わる。だから、前衛のアタッカーを担うなら自然と筋力を優先して振るものらしい。

 マチは、お兄ちゃんを支えるために『はじまりの街』に残らずに前に進むことにした。最初に選んだ短剣だと同じ階層の他武器に比べて攻撃力は期待できないし、ならばいっそのことサポートに特化することにしたのだ。敏捷値を上げれば単純な移動速度、剣速が上がるだけでなく、クリティカル率と回避率にも補正がかかる。そのスピードを生かして相手を撹乱すれば戦闘の難易度はかなり変わるはずだとアルゴさんから言われた。ちなみに彼女は敏捷に文字通り極振り。情報屋として速さが何よりも重要だかららしい。

 イロハさんもマチと同じような事を考えたようで、彼女は耐久に優先的に振っている。耐久値はHPに補正がかかり、ガード時のダメージを減らしたり、少しだけど状態異常への耐性もあるみたい。今の村で行った防具の新調でも一番耐久値の高い鎧――と言っても、まだ胸当て程度のものだけど――を購入していて、前衛の壁役、タンク職になろうとしているようだ。

 お兄ちゃんを支えようとするマチとお兄ちゃんを守ろうとするイロハさん。いつでもお兄ちゃんの隣にいようとする彼女が羨ましくて――少し悔しい。

 けれど、これはマチの選んだ道だから。マチがお兄ちゃんを支えようと考えた結果だから、今はこの選択を信じて進もうと思う。

 

「あ、せんぱい! レベル6になったからスキルスロット増えましたよ!」

 

「え?」

 

 思考の海からイロハさんの声で引き戻されて、反射的にスキル欄を開く。短剣スキルと事前に取っていた軽業スキルの下に空欄のスロットができていた。そういえば、アルゴさんがレベル6になるとスキルスロットが一つ増えるって言ってたっけ。

 ということは、ということはですよ? ついにあのスキルが取れるわけですね?

 

「「さっそく料理スキルを取らないと!」」

 

「待て待て待て待テ」

 

 なんですかアルゴさん! ついに念願の料理スキルですよ? 一週間パンをそのまま齧ったり、さして美味しくもないNPCの料理を我慢して食べていたんです。もう我慢の限界なんですよ。戦闘スキルも大事ですけれど、日常生活系スキルも大事だと思います! モチベーション的に!

 しかし、どうやらアルゴさんが言いたいことはそういう事ではないらしい。

 

「別に料理スキルは取ってもかまわないんだが、二人もスキルスロットを料理で埋めてもあまりメリットないゾ? 交互に料理をすれば、その分熟練度の伸びも半分だし、SAOのシステム上二人で仲良く料理とかはできないからナ」

 

「「ぐぬ……」」

 

 確かにそれは一理ある。一緒に行動するのだからどちらか片方が料理をすれば美味しいご飯にありつけるだろう。そうなると、問題はどちらが料理スキルを取るかだ。そうなると……。

 

「イロハさん!」

 

「マチちゃん!」

 

「「勝負!!」」

 

 

 

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

 負けました。完膚なきまでに負けました。三本先取のじゃんけんでストレート負けとか、イロハさん強すぎる。マチも結構じゃんけん強い方なのに!

 

「ふふ~ん。料理料理~」

 

 そしてイロハさんはにっこにっこにーしながら意気揚々とスキルをセットしている。何この人、超大人気ない。けど正々堂々やって負けたから仕方ない。

 

「まあマチ、生産系スキルは他にもあるかラ……」

 

 アルゴさんが優しい。これが大人の女性と言うやつか。どこかの平塚先生を彷彿とさせるね。いや、あの人よりも絶対年下だと思うけど。

 アルゴさんに言われて生産系スキルのリストを見てみたけど、今すぐ欲しいと思えるものはなかった。裁縫とか皮細工は少し興味があるけれど、今はまだいいかな? 仕方がないのでアバターの速度を上げる疾走を取っておくことにした。これでもっとお兄ちゃんをサポートしちゃうんだから!

 

 

 ――~~~~♪

 

 

 成長を感じて意気込んでいたマチ達の耳にまたしても軽快なサウンドが届く。音の方に顔を向けるとお兄ちゃんもレベルが上がったらしい。

 

「おめでと、お兄ちゃん!」

 

「……さんきゅ」

 

 短く返してきたお兄ちゃんはステータスウインドウを操作して、さっと振り終えて、メニューウインドウを速攻で閉じた。

 お兄ちゃんは後でスキルを選ぶのかなと思ったけど。

 

「あれ……?」

 

 そこでふと疑問が浮かんだ。ずっと一緒に戦っているはずなのに、マチはお兄ちゃんのレベルアップサウンドを今回を含めて四回しか聞いていない。ということは、お兄ちゃんのレベルは5? いや、取得経験値も同じくらいのはずだからそんなはずはないと思うんだけど……。

 

「おい、あれって……」

 

 お兄ちゃんの声にはっと意識を戻すとマチ達から少し離れた位置に一頭の猪がポップしていた。見た目も色も『フレイジー・ボア』と変わらない。しかし、その額には……アニメの怒りマークがでかでかとくっついていた。

 

「どう見ても『フレイジー・ボア』……ですよね」

 

「けど、あのマーク……」

 

「なにかの状態異常エフェクトなんじゃ」

 

「いや、あんなエフェクトはオイラも知らないゾ」

 

 いやなんか、手抜きというかコミカルすぎて現実逃避しそうになったけど、もっと怒りマーク猪を注視する。オートフォーカスによってより鮮明に猪が表示されて、ターゲッティングによってパーソナル情報が猪の頭上に表示される。

 『アングリー・ボア』。やっぱり今まで見てきた猪君とは違うみたい。そしてレベルは……6!?

 

「先に情報確認に来て正解だったナ」

 

「ええ、ソロプレイでレベル6は事故が起こりそうですね」

 

 ここ周辺のメインプレイヤーレベルは5、6。スイッチとかでフォローし合えるパーティプレイならともかく、ソロプレイだったらこの不測の事態に思わぬ事故が起こっていたかもしれない。

 

「ま、とりあえず倒してレアドロップをおがむとするか」

 

 動揺している私達をよそにお兄ちゃんは猪に突っ込んでいく。マチ達も慌てて後を追う事にした。

 

 

 

 結果から言うと、『アングリー・ボア』はそこまで強いモンスターではなかった。レベルの割に、だけど。

 攻撃力は高いけど、攻撃モーションは『フレイジー・ボア』と変わらない。けど、HPが高く、攻撃モーションの間隔が短いからソロプレイではむやみなソードスキルの使用は控えた方がいいと思う。

 

「マチ、これやるよ」

 

 お兄ちゃんがトレードをマチに持ちかけてきた。トレード画面を見ると、見たことのない短剣『ラピッドナイフ』が表示されていた。今使っている短剣よりも攻撃力が少し高い上に敏捷に3ポイントの補正がつく。

 

「お兄ちゃん、これって……?」

 

「どうやらこれがあいつのドロップアイテムみたいだな」

 

 そういえば、『アングリー・ボア』にとどめを刺したのはお兄ちゃんだったっけ。攻撃力もさることながら、この敏捷補正はスピード重視が多いであろう短剣使いにはだいぶ嬉しいと思う。

 

「ほウ。これは短剣使いには必須武器になるかもしれないナ」

 

 手早く情報をメモしているアルゴさんも同意見のようだ。さっそく装備してみると相変わらずの無骨で地味な見た目。女の子らしくはないけれど、やっぱり新しい武器は少し嬉しかった。

 

「よかったね、マチちゃん!」

 

「はい! えへへ」

 

 これで少しは強くなれたかな。お兄ちゃんの手助けができるようになれているかな。マチは、現実では感じたことのないような高揚感を感じていた。

 

「ほら、アルゴの分の武器も確保したいから狩り続けようぜ」

 

「「えっ」」

 

 お兄ちゃんが……アルゴさんにデレてる……だと!?

 

 

 

「おまたせしました~!」

 

 イロハさんの声がしたので宿の部屋から出ると、いい香りが鼻をついた。民家の台所を勝手に使っても怒られないみたいで、宿にしている民家の台所でアインクラッド初料理に挑戦していた。

 SAOの料理はスキル熟練度と食材のレアリティ――SからEまであるらしい――によって料理の完成度が決まるらしくて、現実の料理スキルはあまり関係がないみたい。ある程度、自己流でアレンジも出来るらしいけれど、今回はアルゴさんから料理のレシピを教えてもらっていた。ちなみに情報料は“本来なら”レシピ一つで100コル。今回は序盤の食材でも作れるレシピを十種類タダで教えてもらっていた。攻略に直接関係するものではないから、アルゴさんはお金を取るつもりだったみたいだけど、お兄ちゃんに『ラピッドナイフ』の事を引き合いに出されて泣く泣く無償手供してくれた。アルゴさんの短剣を確保したのはこのためだったのね。デレたわけではなかったよ……。

 

「わあ……!」

 

 テーブルにはこの村での主食であるパンと、『フレイジー・ボア』の落とす『青猪の肉』を使った猪肉のスープが並べられていた。ボリュームのありそうな香りに思わず喉が鳴る。

 

「さ、早速食べてみましょう!」

 

 皆、席に着くのもそこそこにスープに口をつける。動物性のうまみが染み込んだスープが口の中に広がった。

 

「うまいな」

 

 お兄ちゃんが素直にそう言うのも分かる。一週間もアインクラッドの味に触れていると、だいぶ慣れてくるもので、あまり謎味とは感じなくなってきていた。それでもパンだけとか、NPCレストランの味気ない野菜スープとかはもうこりごりだったから、この味は本当に美味しく感じた。

 

「これからもっと料理も練習しますからね!」

 

「楽しみにしてますよ、イロハさん!」

 

 自然と、その食事の席ではいつもよりも会話が弾んだ。

 

 

     ***

 

 

 明日は次の村に進もうということになり、部屋に戻ってベッドにもぐりこむ。お兄ちゃんにおやすみ、と言うとお兄ちゃんも返してきて、ベッドに横になる。その姿を確認して瞼を閉じた。けれど、新しい武器を手に入れて少し興奮してしまっているのか、いつもみたいに寝付けない。それでも、明日も攻略があるのだからと瞼を閉じて寝るように努めていると、なにやら物音が聞こえてきた。出来る限り音を抑えるように動いているようだったけれど、そろりそろりと室内を動く音の後に、バタンと扉が閉じた。

 

「……お兄ちゃん?」

 

 目を開けると、ベッドに横になったはずのお兄ちゃんの姿はなかった。やっぱり、今部屋を出ていったみたいだ。どうしたんだろうと思って部屋の扉を開けて……。

 

「おっと……!」

 

「マチ、ちょうどよかっタ」

 

「マチちゃん……」

 

 ちょうど部屋の前にいたイロハさんたちにぶつかりそうになってしまった。二人ともマチを呼びに来たらしい。いや、イロハさんも少し困惑しているところを見ると、正確にはアルゴさんが、だろうね。

 

「……ちょっとついて来てくレ」

 

 少し逡巡した後、ついてくるように促された。一体なんなのかな。お兄ちゃんのことも気になるんだけど。

 村を出て、次の村へと続く道を進む。まさかお兄ちゃんを置いて次の村に行こうなんて事ではないと思うから、この先にある丘が目当てだろうか。村近くの小さな丘は村周辺で一番効率のいい狩り場だ。メインモンスターである『アーマーハウンド』はレベル4で、スピードもある犬型モンスターだけど、鎧や胸当てなんかの金属防具の部分を狙ってくるので攻撃の軌道は読みやすいのだ。

 

「……お前達に何かあったかは聞かなイ。リアルの事を聞くのはマナー違反だからナ」

 

 アルゴさんの声はいつもよりも少し低い。そのせいか、いつもよりもその背中は大人びて見える。思わず居住いを正すマチ達の方は見ずに「それなラ。いやそうだからこソ」と続ける。

 

「あいつの事は、お前たちが目を離さないでいてやれヨ」

 

 

 ――――ッ!!

 

 

 どういうこと。とは聞けなかった。一瞬漏れた声は鋭い音にかき消されてしまったのだ。

 音のする方、丘の頂に目を向ける。マチ達が行う斬撃の音とは違う重い音。それが何の音なのかマチ達は知っていた。目線の先には、予想通りお兄ちゃんが戦っていた。予想通りだったけれど、マチは声をかけることができなかった。

 普段のお兄ちゃんはかなりスイッチとかの連携を多用するプレイをする。複数体を相手する時も自分が引きつけ役になって必ずマチ達に二体一、三体一の状況を作って安全性を高めている。けれど今のお兄ちゃんの戦い方は、安全性なんて気にしていない。ただ目の前の敵を倒しているだけで、まるで戦術なんて必要ないみたいで……。

 

 

 ……まさか。

 

 

 ひょっとして、お兄ちゃんはマチが寝てから、毎日一人で戦っていたんじゃないだろうか。マチがお兄ちゃんのレベルアップサウンドを四回しか聞いたことがなかったのも、毎日こうして一人で経験値を積んでいてからなんじゃ……。

 

「お兄ちゃん……」

 

 知らず知らずに拳に力がこもる。

 強くなったと思っていた。力になれると喜んでいた。

 けれど、まだ……まだ全然足りない。もっと、もっと強くならないと、お兄ちゃんは守れない。あの背中に追いつけない。

 




久しぶりの更新になりました


ちょっと色々考えて当初の予定を組み換え中
クロスオーバーは二作品読みこまないとなので結構難しいですw


礫先生のSAOの設定集が身近にあるといいんですが、虎とかに置いてあったりするかな?
ソードスキルはともかく、その他の戦闘スキルとかの情報が少なくてどうしようどうしようとなってしまっています


オリジナル設定とかぶっこんでも許してもらえるかな?



最近短編で書いていたSSを俺ガイル短編集としてこっちでものっけ始めました
よかったらそっちも見てもらえると嬉しいです
シリーズでは書けない組み合わせとかも挑戦していますw

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