テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター21:ララの弟

 メテオスを保護してから暫く洞窟の中を一行は進んでいた。

 湿った洞窟の中というものは、ルンにとっては敵のようなものだった。ララやロストは気にもせず歩いているが、ルンはあまり湿った場所が好きではない。チャールもまた湿った場所は苦手だがララの肩にしがみついて縮こまっている。顔は不機嫌そうである。

 メテオスを背負ったユアはルンがあまり湿った場所が好きではない事を知ってはいるが、あまり急ごうとはしなかった。

 

「ユアさん〜」

 

 ルンは涙目でユアに訴えるが、ユアにはルンを甘やかすつもりなど毛頭なかった。甘やかしてしまってはわざわざリンブロアの元から連れ出した意味が無いとユアは考えているのだ。

 

「これくらい我慢なさい。…と、そろそろ目が覚めそうね」

 

 ユアは背負っているメテオスがもぞもぞと動いている事に気づいた。

 ララが運ぶとも言ったがララに運ばれたと知るとララと同い年のメテオスはショックを受けるのではないかとユアがメテオスを運んでいたのだ(ロストが運ぶという案もあっただろうが彼は戦闘において前衛という仕事がある上にそもそもロストに人を運ぶなどという力仕事は期待出来ないのであった)。

 ユアの身長よりも少し高いメテオスは、少しだけ足を引きずってしまい足元は濡れてしまっていた。ララとロストもユアが立ち止まった事に気づいてそちらを覗く。

 

「ん……んん…」

「お目覚めかしら?」

 

 ユアに声をかけられて瞼を開いたメテオスは、どこかそわそわして慌てた様子だった。

 どうしたのかとロストが声をかけようとした時メテオスは声を上げた。

 

「お、オレ、は…はっ!ソル、ソルは!!」

「ソル?ここに、ソルがいるの!?」

 

 メテオスの言葉にララが強く反応した。

 ソル…恐らくララが最初に追っていた双子の弟だと考えられる。ロストはメテオスがララの幼馴染であるならばソルについて知っていても合点がいく。

 

「ララ…なのか?」

 

 ララの姿を視界に捉えたメテオスはまだ息は荒いが少し落ち着いてきたのか声を絞り出した。

 何故メテオスが慌てた様子なのか分からないが、ララはソルが関係するとすぐに理解したのだろう、もしかすると、ここに入ってきた時少しだけララの様子がおかしかった事から薄々感づいていたのかもしれない。

 

「うん。心配したんだよ、ソルもメテオス君もいなくなっちゃうんだもん」

「それについては…悪いと思ってる。だけど、ソルが、レティ兄がソルに!!」

「また、レティウスか」

 

 ロストは腕組みをして言った。先程の事を覚えていない様子からして、やはり操られていたのだと思われる。そして操られたメテオスの言葉、そして今の正気のメテオスの言葉を照らし合わせると、この先にレティウスがいることは明らかだ。

 

「またって、違う所でも…レティ兄が…?そんな、レティ兄は、そんな奴じゃない!あんなの、レティ兄じゃない!セテ兄だってそれをわかって…!じゃないと、あんな、あんな風になったり!!」

 

 メテオスの口ぶりからして、本来のレティウスは優しい兄だったのだろうか。少なくともララやロストの知る偽物のレティウスとは大分違うのだろう。

 更に荒ぶるメテオスに対して、ユアは諭すように静かに声をかける。

 

「落ち着きなさい。あなたの証言が今必要なの。あなたの言うレティウスは、この先にいるの?」

「…はい…って、きき、騎士団の方ですか!?す、すみませんオレ…」

 

 メテオスは自分の状況を理解したようで、ユアの背の中でしょんぼりとする。助けられたのか…と小さく呟かれたことから操られていた自覚はあったのかもしれない。

 

「あなたについてはセテオスやララから掻い摘んで聞いてるわ。もう立てるかしら」

 

 メテオスは「はい」と答え、その場にそっと降りた。先程の無表情から一転、結構表情が豊かなようで、これが本来の彼なのだろう。

 

「ありがとうございます…あの、間違いでなければフェアロ・ドーネ騎士団副団長の…」

「自己紹介が遅れたわね。私はユア・メウルシーよ」

 

 ユア、と聞いた途端にメテオスは固まる。兄の上司を目の前にして緊張してしまったのかもしれない。

 ララは声をかけようとしたが、メテオスにその声は届かない。そもそもメテオスは騎士団に憧れを持っていた可能性もある。

 

「ゆゆ、ユア、さん……!?100年前の三国戦争を終戦に導いた英雄の1人が、何故ここに!?」

「あら、気恥しいわね…。私達は今から任務でエレッタに向かう途中なの。こちらは部下のルンよ。あなたのお兄さんの直接の上司、と言えば早いかしら」

「フェアロ・ドーネ騎士団パーフェクティオ隊隊長のルン・ドーネよ。あなたの兄、セテオス・ベリセルアは私の隊の副隊長をしているの」

 

 ルンは手を差し出して、メテオスはその手を取った。

 メテオスはこんな小さな子が、と思ったがドーネというファミリーネームを聞いて納得した様子だった。

 

「騎士団長の娘さん…!?ら、ララいつの間にそんな人達と!?っつーかそっちのおにーさんは誰だよ」

「あはは…まあ、これは成り行きというかなんというか。こっちは途中で出会ったロスト君」

 

 メテオスは目眩がするような気がした。ララの言う通り本当に成り行きの様な形でこのメンバーでの旅になっているのだが、どうやらメテオスの頭では処理しきれなかったのだろう。

 本来辺境の村人が事件があったとはいえ騎士団の副団長や騎士団長の娘と行動している事は信じ難かった。

 

「…ロスト・テイリアだ。俺はフェアロ・リースの出身だ。俺も正直どうしてこうなったのかは…」

「あんた、ララに巻き込まれたのか?」

「…成り行きだ。俺自身も色々とあってな」

 

 メテオスはロストを見つめて「ふーん」と呟いた。特にロストに興味は無かったが、メテオスはロストが隣村出身の人間と聞いて無関係ではないと思った。隣村でも襲撃があったと道中でメテオスも聞いたのであった。

 

『まあとりあえず、ソルについてお前が知ってるだけ教えてくれ』

「チャールも居たのか」

『居たのかとはなんだ!ずっと居たぞ!』

 

 存在を認知されていなかったチャールは毛を逆立てながら言った。これまで一言も喋っていなかったので存在を認知されていなくても仕方はなかっただろうがチャールも一応昔馴染みなので無視される事は面白くなかったのだ。

 

「ソルは、今レティ兄に捕まっているんだ…オレはソルを人質に色々と要求された気がするけど…あーダメだ!なんかされた気がするけどそれ以上は思い出せねえ!」

「ララの弟はレティウスと一緒にいると見て問題ないな。メテオス」

「へっ?」

 

 突然ロストに話しかけられてメテオスはビクッとしたようであったが、すぐに何か言おうとしてるとわかってロストの方を向いた。

 

「…俺達がこれまで出会ってきたレティウスは、偽物だった。恐らく今回も偽物の可能性が高い。だから安心しろ」

 

 ロストは優しい声音でそう言った。メテオスがレティウスに対して信頼を持っている事から考えたのだろう。

 しかしそうとなればここで油を売っている暇はない。メテオスに歩けるかどうかを確認したロストは装備を確認してまた洞窟の中を歩き始めた。

 

「行くぞ」

 

 歩き始めた所でメテオスはララにそっと耳打ちした。

 

「…なあ、ララ」

「何?メテオス君」

「あのロストって人、結構優しいんだな」

「ちょっと素直じゃないけどね」

 

 ララがはにかんでそう言うと、メテオスは安心したように「良かった」と言った。

チャールはメテオスを見つめつつ、何か言いたげではあったがそんなチャールの様子に気付いている存在は一つしかなかった。ユアは、敢えて詮索はしなかったが。

 

********

 

 テス洞窟の奥。そこには1人の男が1人の少年を踏み潰すように足を少年の背に押し付けていた。

 男はそれなりに良い体格をしているが、少年の方は華奢な体躯をしており男に踏まれ苦痛に顔を歪める。

 

「…帰ってぇ、こねえなあ、アイツ」

「…っ逃げ、たんじゃ、ないの…」

 

 男、レティウスは不機嫌そうに少年を見下ろし少年の腹を蹴る。「ぐあっ!」と少年の枯れた声がその場に響く。水色の瞳は虚ろに開かれ、蹴られたり踏まれたりした痛みを抑えるのに一生懸命である。

 一つに括られた黒く長い髪は地面に広がって濡れてしまっている。露出している肩のあたりには少々血が滲んでいるようだった。

 レティウスが少年に危害を加えていることは明らかだった。

 少年は言葉を絞り出すことがやっとだったらしく、飛びそうな意識の中レティウスを見つめた。

 

「あの野郎が失敗しなきゃぁ、こうはならなかったぁんだけどなぁ?」

「……っ!!」

 

 八つ当たりのようにレティウスは少年の背を再度踏む。殺す事が目的ではないので殺さない程度に、しかし確実に少年に痛みを与え続ける。

 少年はもう声の出ない叫びをあげて苦しそうに悶える。

 

 いたい痛い痛い痛い。

 

 声を出す事さえ難しくなっている少年にはその言葉を零すことは叶わない。

 痛みを耐えていけれど手を縛られ地面に転がされている今の状態では、少年は結局何も出来ないのだった。

 

「本当にぃこいつがぁ…裏切り者なのかねぇ」

 

 レティウスは訝しげにそう言う。

 裏切り者、というのが何を示すのか…恐らくここに他の誰がいても分からないであろう。それを知るのは今のところ彼自身とレティウスのみ。

 少年はレティウスを睨みつけるが、レティウスはそれを無視し、誰かが来ると言うのを理解しつつ待っていた。

 

(ロスト・テイリア…捕まえなけりゃあなあぁ…俺がぁ…消される、かぁ)

 

 レティウスは今自分の上に立つ「誰か」を思い浮かべ、天井を仰いだ。命令をしている「誰か」は失敗を許さないのだろう。だからこそクローンでありながらも自らという存在を残そうと彼は足掻いているのだ。

 

(ララ…ごめん、ごめん)

 

 少年は心の中で、呟いた。

 

 何故少年がそのように懺悔したかは、少年の心の中の懺悔である事から、誰も知ることは無い。

 

続く

 

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