テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー 作:sinne-きょのり
夕飯を食べ終わると、ロストとララとユアが片付けをしている間にユキノ、ソル、チャール、メテオスは寝てしまっていた。
ルンとクロッセが毛布を寝ているメンバーに掛け、礼拝堂の椅子に座っていた。
どうやらクロッセが少しでも眠れそうな場所に移動させたようだ。流石鍛冶屋の息子であるからか、人を運ぶことくらいはできるのだ。
「騒ぎ疲れたか?」
ルンとクロッセは頷いて、ルンは「ふああ」と欠伸をした。
寝ればいいだろ、とロストは言おうとしたが、騎士だから自分は先に寝るわけにはいかないとでもルンは思っているのかもしれない。そう考えるとロストはルンにそう声掛けをするわけにもいかないと口を閉じた。
「そうみたいよ。私が気づいた時にはソルがもう船を漕いでたし」
「まあ、ユキノは恐らく生まれて初めて、こんなにも楽しく食事を出来たからなあ、あんたらのお陰だ」
「…たまたま、俺達はこの村を訪れただけだ」
クロッセの言葉にロストはつんとしたように返し、ララは「まあまあ」と苦笑いする。
しかしロスト達はユアの言葉がなければこの村の存在を知らず、通り過ぎてエレッタへ向かっていた事だろう。
本来事態は深刻でありすぐにでもエレッタに向かわなければならなかったが、ユキノを見たロスト達を放っては置けなかったのだ。どちらにしろ、武器を買う事でこの村に1晩は滞在しなければならなかったが。
「クロッセは家に帰らなくていいのかしら?」
「今日くらいは親父も見逃してくれるだろう。村の連中なんざ知らんさ」
ユアに尋ねられ、クロッセはふん、と鼻を鳴らしながら言った。あくまでユキノに対する彼の行動の優先度は高いらしい。家の事情で、どうしても村を離れることは出来ないが。
「ララも騒いでいただろ、そろそろ寝た方がいいんじゃないか」
「そうだねーおやすみぃ」
ララは頷いて毛布を持ってソルの近くに寝た。すぐにすうすうと寝息が聞こえ始め、ユアは「…疲れてたのかしら、寝るのが早いわね」とララの毛布を整える。
「そろそろ、お前も寝ていいんじゃないか?ルン」
「余計なお世話…とでも言いたいけれど、寝ないと明日に響く、か。あんたも寝なさいよ、前に寝不足でララに迷惑かけたって知ってるんだから」
「そ、それは…」
ルンの言葉にロストは図星だったようでため息をついた。
睡眠不足が原因でルンに頼る事となってしまったのだ、未だにロストはそれを負い目に思っているらしい。
ルンはそんなロストを横目に寝る体勢に入った。もう起きているのはクロッセ、ユア、ロストのみだ。
「そう言えば…よくクロッセはユキノに寄り添う事が出来ていたな。他の村人にばれたらお前も危なかっただろうに」
「ユキノにも言われたなあ…。なんでか、まあ、多分一目惚れだろうなあ」
「急に惚気るわね」
だかしかし、惚気ないとクロッセとユキノの関係は語れないのだろう。クロッセがユキノを愛したからこそ、ユキノは人であれたのだから。
「俺の家が村で一番栄えてる鍛冶屋なんですよ。親父が出て行くって言ったらこの村は終わり。んで、親父が意外とファザコンなもんで、俺が昔ユキノに優しくしてるって暴力振られたときに親父が初めて怒ったんだとか、ってね」
「あら、貴方意外とこの村で上にいる存在の息子だったのね」
「それでも、ユキノへの村人の凶行を止める事は出来ませんでしたが」
流石にクロッセも仕事をせずにユキノを守るなどという事は出来なかった。クロッセの父親に至っては恐らく自分が働いて実績を出し続けていないとクロッセが自由に村の中で動けないと判断したのだろう。
「そろそろ、クロッセもロストも寝たらどうかしら?」
センチメンタルな気分になっているクロッセと、ついでにロストにもユアはそう声をかけた。
「お言葉に甘えさせてもらうかあ」
「…ユアさんは」
「私は大丈夫よ、ほらさっさと寝なさい」
ユアに毛布を強制的にかけられたロストとクロッセは、これ以上起きていても仕方が無いため横になった。
ユアが寝ない事は少し気になったが、明日に差し支えると悪いから、そう考えユアについては気にしないことにした。
周囲が寝静まった頃にユアは1人教会の外へ歩いて行った。教会の周囲は草木に囲まれており、村の中央部からは結構離れている。
彼女は以前この村に来た事はあったがこの教会がその時にも存在していたかどうかを思い出せなかった。
しかし暫く歩いてユアは立ち止まる。
(…この教会、私が来た時にはまだ、村の中にあったんだわ)
村が縮小されてしまっていたのか、それとも流れゆく時の中で自然とこの教会だけが隔離されてしまったのか。
少なくともユアが知る限りでは、この教会は間違いなく村の中にあり、精霊信仰の深い村だった。
「時の流れなんてそんなもの、か…」
そもそも精霊自体があまり住み着いていないスレディアに精霊信仰の教会があった事が不思議だったのだ。
過去にこの村を尋ねた時の情景を思い出しつつ、ユアは夜風に吹かれていた。
日が差してくれば鳥が鳴く。その声につられユキノは目を覚まして伸びをした。
ユキノとしてはそれは朝の恒例行事だった。
しかしいつもと違うのは自分の周囲にも人が寝ている事だった。
寝ている間も被ったままであったシスターキャップはずれていて、彼女の頭から生える羊のような角が見えていた。
ユキノが迫害されていた、もう一つの原因ともいえるその角は、エルフだった母と人間だったはずの父の子というには不気味に思われても仕方ない。
(…せめて、この角さえ無ければ)
まだ誰も起きていない。それを確認したユキノは改めてシスターキャップを頭に被り、角を隠した。
ハーフエルフと言うだけでも忌避される。
ロスト達にそれを受け入れてもらえたとはいえ、角までも受け入れてもらえる事は望まなかった。
(この角の事を知られるのは、怖い…)
毛布を取って起き上がると、それにつられてララも目を覚ます。よく見るとユアとロストの姿が無い。
もしかしたら台所にいるのだろうか。とララと共に起きたチャールもきょろきょと見渡す。
ソルとルン、メテオスはと言うと…まだ寝息を立てていた。
騎士団の生活からするとルンが起きるには遅い時間のはずだが、ユキノがそれを知るはずもないのでユキノはララの分の毛布を預かって元の場所へ戻しに向かった。
ユキノが礼拝堂をよく見渡すとクロッセは礼拝堂の椅子に座っていた。朝食作りに参加しようとしたがどうやらロストとユアで事足りていたようだ。
「…クロッセ様」
「ユキノ、おはよう」
あまり広いとは言えない教会の礼拝堂で、クロッセは1人、なにか思いふけっていた様子だった。
長年、クロッセはユキノの事で思い悩んでいた。それが迷惑ではない、彼の好意だとしてもユキノにとってそれは辛い現実の一つである。
今自分が旅立てば、クロッセにもう重荷を課すこともない。それでも自分はここに戻ってくるとユキノは考えている。
「クロッセ様、
「昨日も、言ってたな」
「
「優しいな、ユキノは…」
「なので、
ユキノはクロッセの手を握り、意志を持った瞳で訴えかけた。その思いが理解できない人間ではないクロッセは首を縦に振り、ユキノの意志を改めて確認した。
丁度朝食が出来たのかユアとロストが食堂に食器を持ってきている音がした。
クロッセも昨日食べてからユアとロストは料理が上手であるとわかり、ユキノに「あんないい飯が食えるんだ。もう少し健康体になってくれ」と痩身であるユキノに言い聞かせた。
「そういえば、ユキノちゃんっていくつなの?」
「
「今年で17になるな」
ルンを起こそうとしていたララに尋ねられてユキノとクロッセが答える。同い年だからか付き合いが長い2人らしい。
ララは「歳が近い!」と目を輝かせた。故郷のフェアロ・エルスに住んでいた頃、ララの周囲には極端な年下か年上ばかり身近にいたので歳が近い、それも女性というのはララにとって珍しいのだろう。
「ララ…ララの声、きんきんする……」
「ああ、ごめんごめんソル。私とソルは双子なんだ。えーと歳は今年で15だったかなあ。ルンちゃんは確か13だよ」
近くで大声を出したせいかソルは寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。ルンも「寝坊っ!」と慌てて身を起こした。
それでも起きないメテオスは相当の大物だろう。ルンは起きて今いるのが教会だという事を思い出し、ユアの手伝いをしに慌てて食堂へと向かった。
「ユキノ…起きてたんだ」
「はい、朝は毎日早めに起きてたので」
「さて私達も朝ごはん食べよっか」
ソルはふらふらと食堂へ足を進めた。食堂では既に朝食が並べられており美味しそうな香りを漂わせていた。
「遅いぞ。…メテオスはまだなのか」
ロストはララ達を見ると、面倒そうにため息をついた。メテオスを起こしに行くのが面倒なようだ。しかしメテオスを起こさないわけにもいかないのでユアが「仕方ないわ」と起こしに向かった。
ララやユキノ達は先に食事をしていろ、とロストが食堂の椅子へ座るよう促す。
ロストとユアの作った料理は朝食らしくあっさりしたもので、みずみずしいサラダとパンに簡単なベーコンエッグが乗っていた。
焼いたばかりで熱々のパンに溶けるバターは香ばしさを増しており、ララはつい垂れそうになる涎を飲み込んだ。
「これ、サラダの上にかかっているドレッシングは…」
「タマネギで作ってみたんだ。ユアさんが喫茶店を営んでた事があるらしくてな、それでこういうコーヒーや紅茶に合うような料理は1通り覚えたんだと」
今なら淹れたてだぞ、とロストはコーヒーを差し出す。淹れたてのコーヒーはほろ苦くも心地のいい香りを漂わせている。砂糖とミルクも用意されており、ユキノは教会には置いていなかったものも使っていたことに気付いた。
「俺達も食材を持ってたからな。足りなかった分は補った。ユキノは苦手な食べ物や、食べれないものはないよな」
「は、はい…」
「昨夜も思ったが、店を開けるほどの腕前だぞこれ」
ユキノとクロッセはあまり料理が上手ではないらしい上に外食もした事がないので、ロストやユアの作る綺麗な料理を食べるのは初めてらしい。
「母親の味というものも
「うん。ソルは…あんまり得意じゃないみたいだけど」
道中興味本位で一度はソルに料理を作らせたロストは、アイスでさえもダークマターにしたソルの料理の腕前を思い出し複雑そうな顔をした。双子とはいえ、姉と弟の腕前は泥濘の差である。
「メテオス叩き起してきたわよー」
「んんん…ああ、ソルおはよ」
「メテオスおはよう。どうしてそんなに疲れてるの」
「ふあーあ、んー何でだろう体が何となくだるくて」
ユアに引き摺られるようにして食堂へやって来たメテオスは椅子に座ってロストから渡されたコーヒーを啜った。が熱すぎたのか、苦かったのかすぐに舌を引っ込めて「水、水ー!!!」と台所に駆け出した。
「ははは、急がなくてもいいだろうに」
「メテオス様は慌てんぼうなのですね」
台所から改めてメテオスが顔を出し、水を慌てて飲む姿にユキノはふっと吹き出した。
「なんであんなあっついの出すんだよ!」
「淹れたてを出しただけだが」
淡々と告げるロストにメテオスは返す言葉もなく「うう」と言葉を詰まらせる。ララが「まあまあ、落ち着いてご飯食べよう?」と促した。
改めてサラダを口に入れれば少し辛めのオニオンドレッシングがレタスや細く切った人参に絡み、ぱらぱらとかけられていたひとつまみほどの塩胡椒が味を引き立たせていた。
クロッセはスレディアでは主食はパンだと話していた。ロストの記憶にはフェアロには米も主食としてあったのを思い出していた。
エレッタに関して多少の調べ事をしていたメテオスはエレッタの主食はトウモロコシがあるらしい、とバターを塗った香ばしいパンを頬張りながら言った。
「米がフェアロの一部で主食だったのは意外だったわ」
「米ってあまり広くは知られてませんけどね。ああでもリースやエルスの辺りには田んぼがあるらしいわね。あの近くに忍びの里があるって噂も聞いたことあるけど」
ルンの言葉にララもロストも顔を見合わせたが忍びの里については思い当たる節はなかった。
ソルも首を傾げており、ルンは「おかしいなあ」とメテオスに話を振った。
「メテオスは知らない?」
「噂には聞いたことがあるような…あ、いや待って。確かにあるぜ、そこ。カザミヤの里って名前だったと思うけどさ…まあ今は関係ないだろ」
「まあ、そうだったわね」
このままでは話題がずれるぞ、とメテオスがその話を切り-そもそも食べ物についての話をしていたのだから最初から話はずれていたのだが-これからの道筋についてユアが口を開いた。
「今から向かうのは闇の神殿よ」
「闇の神殿!?それってシャドウがいるところなんでしょ!?」
『おいおいおいおい、待て待て待て待て大精霊の家にカチコミする気か!?』
あまりの驚きにチャールはユキノやクロッセに存在の説明をされていないことを忘れて声を上げる。ユキノは「えっ!?」と少し驚く程度だったがクロッセは呆気に取られてしまっている。
「だって、あの辺り道が険しくて神殿を通る以外にはまた遠回りが必要だもの…。それに、ララ、あなたは大精霊に会うべきだと考えるわ」
「わ、私……ですか?でもどうして」
食事をとる手もつい止まってしまい、ララはユアの顔をじっくりと見つめた。ユアが何を言わんとしているのか分からず首を捻ることしか出来ない。
「私の勘よ。さて早く食べちゃいましょう」
その場でユアは話を流し、クロッセとユキノはその間にララとソルからチャールについて紹介してもらっていた。
特に追求する間もなかった為にロスト達は食事をとった後、クロッセの父親の元へと昨日頼んだ武器を受け取りにクロッセの家へと来た。
ユキノは勿論教会待機をしており、昨日武器屋に来たメンバーが再び訪れている。
「これでいいのか」
「ええ、ありがとう。料金はこれでいいかしら?」
「ああ。珍しい仕事が出来た。あんたはやはり、すごい人なんだろうなあ」
「あら、そうかしら」
新しく作られた剣や鎌などの武器は、新品ゆえの輝きをたたえていた。
少々重い荷物となってしまうがこれもララ達の元へ運ぶまでの辛抱だとユアは武器を抱えた。
クロッセの父親はクロッセに向かって「見送りまでは、やっていい」と小さく言った。
あまり村の方へユキノを連れて来るべきではないから、教会側から村を出るのを見送っても良いということなのだろうか。
クロッセは嬉しそうな表情を浮かべる。やはりユキノの事はギリギリまで見送りたいのだ。
「親父」
「仕方ない息子だ」
ありがとう、と声にならない声でクロッセは父に伝えた。
武器を抱えて教会に戻れば、そこでは既に他のメンバーが旅支度を整えていた。
動き辛そうだったユキノの衣装をララが新調させており、昨日から実は作業をしていたと語る。
「流石にあのままの衣装だとスカートが長いからうごきにくそうだなーって思って」
どうかな?似合うかな?とユキノの方を見て言うララにクロッセは改めて傷がないユキノの体に感動して泣きそうになっていた。
「ありがとう、すまんな……ここまでやってもらってさあ」
「今更だ。っというか、何度も誤っているんじゃない。お前はお前なりに考えてやっていたんだろう。この村から出れないなりにユキノを支えていたらしいじゃないか」
「ああ」
ユキノと離れ離れになってしまうのは名残惜しいが、とクロッセはユキノと握手を交わした。
「大丈夫です。クロッセ様」
「いつか俺も、あんたらの武器を作れるように…一人前にならなきゃあな」
「その時を楽しみにさせて貰っていいの!?」
「ああそうさ」
ルンはクロッセの父親の作った武器が気に入ったのか軽々と振り回す。
周囲にぶつけないようにとユアが注意を入れていた。あの父親の子が作る武器なら、とルンは今から期待をしているようである。
ユキノが自身の荷をまとめ、立ち上がるとクロッセから直接トンファーを渡された。
「クロッセ様、これは?」
「ユキノは魔法輪の使い手だっただろ。俺はあんまりユキノに刃物を持ってもらいたくなかったからな。考えてトンファーにしてみたんだ」
ぎこちない手でユキノはクロッセからトンファーを受け取った。クロッセの父親が作った武器とは違うものを感じたユキノが顔を上げるとクロッセは照れたように「下手だったら、すまんな」と言った。
これがクロッセの作った武器である事に気づいたユキノは「ありがとう、ございます」と震える声を抑えながらクロッセに礼を言った。
「ユキノ、皆の準備が、終わった」
ソルに声をかけられてユキノが周囲を見ると既に支度を終えたララ達がユキノに手を伸ばしていた。
「…これから、色々と過酷な事がこの先待ってるかもしれない。それでもユキノちゃんは、一緒に来てくれるんだね」
「……はいっ!クロッセ様、行ってきます。、世界を見てきます!そしていつか、またここで会いましょう、それまで待っていてください」
「ああ。待ってる、約束だ」
「はい!」
ララの手を取ってユキノは空いたもう片方の手でクロッセに手を振る。
クロッセはユキノ達が見えなくなるまで見送り続けた。
「帰ってくる、か…」
クロッセとしては、もう二度とこの村に来る事が無いようにしたかったがユキノの意思を尊重させた。
本音としてはこの村など無くなってしまえと思ったこともあった。
「さて、そろそろ帰らねぇと親父にどやされるな。……次武器を作ることがあれば、またユキノの為に…」
クロッセはそのまま教会を離れ、村の中へと戻って行った。
続く