テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー 作:sinne-きょのり
「マナ変換…火属性、下級火属性魔術発動、ファイアボール!!」
ユキノの描く魔法輪はユキノの詠唱によって透明から赤に変化し、火球を発射する下級術、ファイアボールが完成した。
エルダ=ディアを出た一行を待ち受けていたのは野良モンスターだった。ユキノが戦う場面を見たことのないユアはユキノの戦い方を観察するようにしていたが、心配は必要なかったようだと近寄ってきた敵を大剣で殴る。
「それにしても、ユキノちゃんの術って私達のと少し違う?」
自分の術やユアの術と見比べていたララが、ユキノをまじまじと見つめながら問いかけていた。
ユキノは「あの、えっと」と困惑するが、ユアが「あまりがっつかないの」とララを止める。
「エルフのマナの質が人間とは違うのララは知らないのね」
「そうなの?」
「…は、はい。
ユキノに言われてララがユキノを改めて見回すと、確かにユキノは一見ただのエルフだ。とは言ってもララは実際のエルフを見た事がないので分からない。
ロストから意見をもらおうとララはロストに視線をやった。
「…俺から見ても、一見はただのエルフだ。しかし」
「
ロストも気付いたようで、ユキノは耳を見せようと被さっている部分の髪の毛を軽くよけた。
純血エルフであれば耳はもっと尖っていて長いはずが、ユキノの耳は少し丸みを帯びていて少し短かった。これが、外見的に見て唯一わかるユキノがハーフエルフだという証だった。
「大体、この特徴のせいですね。
「同じエルフの血族でも、色々と違うのね、ロスト」
「は?…どうして俺に話が振られるんだ」
ニコニコするユアに、ロストは自分に話が振られた理由が分からないようで首を傾げる。彼女は「ふふ」と笑って言う。
「貴方もエルフの血族なのでしょう?レイシの親戚ならね」
「そう言えば、ロスト様のファミリーネーム…あの英雄レイシ様と同じ…」
100年前の英雄の一人ともなると流石に有名なのか、とロストは改めて村長の存在の大きさに驚く。村の外をあまり知らない彼にとってレイシ・テイリアは祖父のような存在であるとしか思っていなかったのだ。
「確かにそうだが、俺はかなり薄いと思うぞ。あのじいさんと俺がどんな関係かは知らないが」
『…おーい、そろそろ目的地に行こうぜ』
話し込んでしまったロスト達にチャールからの呆れの声が上がった。「それもそうね」とユアが次の目的地、闇の神殿への道を先導し始める。
神殿への道は、人が通る事を想定していないのか舗装されてもいない草の生えた道だった。ルンは大鎌で刈りつくしたい気持ちを抑え、ユアはその光景を見て笑っていた。
「闇の神殿、仰々しい名前の割には、ただの黒い建物だな」
ロストは一目見てそれが闇の神殿だと分かったらしく、ユアが「着いた」と言う前に口を開いた。闇の神殿に着いたと確信すると同時に、ロストは言い知れぬ倦怠感に襲われた。
『あー、ここにシャドウやっぱりいるな』
「チャール、分かるの?っていうかそれだと神殿にいない時があるみたいな言い方だね」
ロストの状態に気付かないチャールとララは呑気に話をしていた。ソルがふっとロストを見ると、ロストは倒れていた。
「……ロストっ!?」
ソルの声に気付いてララも顔を向けるとロストは意識を失っていた。ユキノが慌てて駆け寄ってロストの状態を確かめると「まさか」と声を漏らす。
「何か分かった?ユキノちゃん」
ララは心配そうにロストを見ながら、取り敢えずファーストエイドを唱えようとしていた。ユキノは「怪我ではありません、唱えなくても大丈夫ですよ」とスピアロッドを構えていたララを抑える。
「ロスト様は、魔輝人(マルシャヒムス)ですね。恐らく自分の属性と違う大精霊のマナに当てられて体調を崩してしまっていると思われます」
「まるしゃひむす?また知らない単語が出てきた…」
「チャール、貴方やっぱりララの教育サボってたわよね。魔輝石の話が出た時点で教えていてもよかったわよ。この事は」
ユアは冷たい視線をチャールに送る。ララの教育は殆どされていないと見ていいようだ、とルンは悟った。まあ王都から外れた村の方に住んでいたともなると本来知らない事なのだが。
『ボクのせいかよっ!?あー魔輝人ってのはな、魔輝石ってのがあるだろ?あれは人間が死んだらその人間が持っていたマナが凝固して出来上がるもの。だが一部の人間は魔輝石を生み出さずに精霊になる…そんな人間の事を、魔輝人って呼ぶ事もあるんだ。ユキノはよく知ってたな』
「へえ、オレも初耳」
メテオスはある程度の学はあったようだが魔輝人については知らなかったようで、チャール達の話に無言で耳を傾けていた。
「でも火属性の塊のようなチャールが一緒にいるのに、それは大丈夫だったわね。自分の中にあるマナがかなり削られている分、不安定で影響を受けやすいというのに」
『何でお前それに気づいてんだよ…。ボクはただの精霊とほぼ同等のマナ量しか発してないし、ロストがもしかしたら火属性の素養持ってたりとかしかじゃないのか?』
「チャール…そろそろララの頭がパンクする」
ソルがララの肩の上で話しているチャールの首根っこを掴んだ。ユアがララを見ると案の定理解が追いついていないようだった。
「考えるのは苦手なんだよ。ルンちゃんは分かるの?」
「分かるわよ。でも意外ね。ララは魔輝人ではないの?」
『こいつは確かにマナの保有量は多いが魔輝人ではないな。まあ、ララもマナの大部分を奪われてる。全部取り戻した時は分からんな』
「クローンは恐らく、マナを切り離して生まれた存在だわ。だからクローンはオリジナルと同じマナを持つの」
ロストを冷たい地面に倒れさせたままに会話が流れている。誰もロストの事を気にかけないが、その時少女の声が聞こえた。
『ユアお姉ちゃんがいるのは分かるけど…貴方達、誰?』
「…シャドウ」
ユアはその声にぽつりと呟いた。
そこには誰もいなかったが、ユアは声の主が誰か知っていたようだ。
『その人を連れてここに来て。リズ、その人に会わないと…マクスウェルの愛し子の末裔、その子をここに連れて来て』
シャドウの声が誰を指し示していたか、ララは一瞬分からなかったがチャールはそれが誰の事か分かったようだ。そう、マクスウェルの愛し子の末裔とは恐らくロストの事だろう。何故ロストをそう呼ぶのかは分からないが、彼が魔輝人だからだろうか。
『メテオス、お前くらいしかロストを運べそうなのがいない。頼めるか?』
「分かった。ロストさあ、縦にだけは無駄にでかいよなあ。オレが背負っても足引きずりそうなんだけど」
チャールに言われてメテオスはロストを背負うが、多少身長が足りないせいか確かに足を引きずってしまっている。
ユアは「構わないわよ」と闇の神殿の中へと入っていった。
闇の神殿の中は暗く、チャールが火のマナを駆使して明かりを作っていた。それでも照らせるのは自分達の周囲のみで、先を見渡すことは叶わないようだ。
「また暗いところなの…明るいところで冒険したいわ。どうせなら」
「文句言わねえで、さっさと行こうぜ。流石にロストをこのままってのも悪いし」
メテオスに背負われてるロストは依然目を覚まさないが「母さん…」と何か魘されているようだった。
「マザコンかよ」
「まあまあ、それはそっとしておこうよ…」
メテオスにこんな事を言われ、ララにフォローを入れられているなど気付かないだろうなとソルはロストについ同情の視線を向けていた。
マザコン疑惑は実はチャールも薄々思っていたのか微妙に頷いていた。
「しかし、不思議な程に父親の話題を出さないわね、ロスト」
『何でもこいつ、父親には会った事が無いんだとさ。記憶を失ってからは双子の妹と母親、そしてレイシしか身内がいなかったんだと』
「…ロスト様とララ様は、記憶をなくされているのでしたね」
「まあ、でもこれまでは記憶が無くて困る事なんて無かったからねえ。私は、だけど。ロスト君の方は、旅に出てから自分が何者なのか見失っちゃってるかも」
旅に出た時からの付き合いであるララでさえも、ロストが自称する普通の村の青年とは何か違うと察していた。
自分に学が無さすぎる自信もあるが、チャールやルンの反応からして、ロストが王都辺りに住んでいた貴族の人間なのではないかと少し思っているらしい。
『こいつの母親、なあ…』
「チャール、あんた聞いた事あるの?ロストの母親の事」
『まあ聞いた事はある。が、父親が想像つかないんだよ』
(嘘ついてるわね。この子の父親が誰かなんて察しが付いてるくせに)
チャールの言葉にルンは「そうなの」と納得していたがユアは釈然としない様子でチャールを見つめていた。まるで、彼女もチャールの何かを知っているかのように。
「っ気をつけてください、上から来ます!」
ユキノがモンスターの気配を察知したのか、天井から蝙蝠型のモンスターが飛んでくる。
メテオスは慌ててロストを引き摺りながら物陰に隠れた。数は少ない、2.3匹と言ったところだ。しかしここは闇の神殿である事からソルの扱う闇属性の術は有効ではない。ララはこここそが光属性を扱う自分の出番だとスピアロッドを振るった。
「ルンちゃんっ接近は任せたからね!」
「ええ、さっさと唱えなさい、よっ!!」
ララがスピアロッドを地面に突き刺すと同時にルンは大鎌を構えて飛び上がり、空中で旋舞した。
ユキノは光属性の術を覚えていないらしく、火属性の術で対抗する。ユアはユキノの詠唱を守るべく前に立った。
「僕も…」
『お前は下がってろ!』
ソルがレイピアを構えてモンスターに突撃しようとしたがチャール引き止める。チャールはメテオス達の方を向くので、ソルは戦闘に参加するな。そういう事なのだろう。
戦闘に参加したかったソルであったが渋々メテオス達のいるところへ向かった。
「まあ、これくらいすぐ倒せるわ」
「行っくよー!」
ユアが大剣を振るった直後ララのスピアロッドがユアの顔の真横を飛んで行った。スピアロッドの槍の部分がモンスターに刺さり、ララは続けて詠唱し始める。
「光よ…フォトン!」
モンスターにスピアロッドから直接魔法陣が刻まれ、光属性の術であるフォトンが発動すると同時にモンスターは内側から爆発四散した。
その光景を見ていたメテオスは思わず「気持ち悪っ」と口元を抑える。スピアロッドは爆風によってララの手元に戻り、ユキノのファイアボールによって最後のモンスターが倒された。
「ララ、急に武器を飛ばすもんじゃないわよ」
『つーか何処であんなエグい戦い方を学んだ!?』
あのような方法で倒したとしてもモンスターの肉片等は残らない。しかし見ていて気持ちの良い倒し方ではなかったようで、落ち着いているユアとは反対にチャールは必死に抗議していた。
「ちょっと試してみたかっただけだよー」
「あんたがそんなに逞しいと、ロストの苦労も想像に容易いわね…」
ルンに同情されている事など露知らず、ロストは今の騒ぎがあった後も目覚めないのであった。
「まあ時期にシャドウのいる神殿の核に辿り着くわ」
「大精霊かあ……初めて見るんじゃないかなー」
日常的に大精霊を見る事などまずは無い。しかしチャールは『それ、本気で言ってるのか』と真顔だった。ララが大精霊に会ったことがあることを知っているようだ。
「もしかしたら失くした記憶の中にはあるのかもねー」
ララはそれでもチャールに深く尋ねるつもりはなく、ソルもそれを詮索はしない。ロストの目が覚めていたら噛み付いてはいたかもしれないが。
「本当にララは楽観的なんだから…ねえユアさん。あそこが核?」
「ええそうね。勘がいいわね、ソル」
ユアの言葉を受けて「褒められた!」とソルは目を輝かせる。ユアはいい子ね、とソルの頭を撫でて目の前に見えた暗い神殿の中でさえ目立つステンドグラスのような扉に注目した。
ララが触れると扉は光を放ち、開いた。
「こんにちは、皆さん。リズはね、リズナ・ホーンって言うの。またの名を、シャドウ!マクスウェルの愛し子の末裔を連れてきてくれてありがとう!」
そこに居たのは、赤髪で、赤の瞳ととハイライトの入っていない黄色の瞳を持つ年端も行かない少女だった。
それでも、確かにその少女は闇を司る大精霊、シャドウであることをララは不思議と確信したのだった。
続く