テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター31:タール家の6男、フェルマ

 港でロスト達が船を降りてすぐに出会った光景。

 今は冷たい海の中に浮かんでいる、何か乗り物に乗っていた男二人は仕方ないなと言われつつも港町の人々に救い出され水浸しのままその場で片方が話し始めた。

 

「いやあ兄さんあれは上手くいったと思ったのになあ」

「上手くいってたらエンジンが暴走して海に落ちる事も無かったと思う」

 

 オレンジ色の髪の青年の方はびしょ濡れになったコートとストールを気にすることもなく伸びをした。ユアはそんな青年から目を離すことが出来なかったのか遂に青年の方と目が合ってしまう。

 

「ん?何々そこのおねーさん、このフェルマお兄さんに用でもあるのかな?」

「フェルマ!気安く人に話しかけるんじゃ……って…」

 

 オレンジ色の髪の青年…フェルマ・タールがユアに話しかけた。ユアは目を逸らそうとするがフェルマはユアに近付いてくる。朱色の髪の青年の方はそんなフェルマを止めようとしている。

 

「ねえ、あんた誰よ。私はルンって言うのだけれど、人話しかける時は名前を名乗ってくれないかしら」

 

 ルンがユアの前へ出てきて警戒する。初対面の青年に突然絡まれるのはルンにとっても面倒極まりない事であった。しかし、ロストにはそれ以上に気になる点が存在した。

 町の人々が噂した家名だ。

 

「なあ、あんたら、タール家の者なのか」

「んー?そだよ。お兄さんはフェルマ・タール!で、こっちが」

「フェルマの兄のトロニアだ。すまない、弟が騒がせてしまい…だが、この時期にエレッタへ来るなんて飛んだ変人だな。フェルマ程じゃないが」

 

 朱色の髪の方、トロニアと名乗った青年はゴーグルを頭につけていて、気だるげそうな顔をしていた。フェルマは対称的に元気に満ち溢れた子供のように笑っているが。

 

「その上、君らフェアロの人でしょー!うんうん、知ってるよにーさん。兄さん達は、君らを歓迎する」

「…いいの?場合によれば、貴方達のこの国での地位が危なくなるわよ」

 

 エレッタの人間がロスト達がフェアロの人間である事を知りながらも歓迎するとは、ユアには意外な事であった。

 確かに100年前、彼らの祖先であるスモラ・タールはフェアロへ亡命し、戦争を終わらせる事に貢献したが、それは過去の話。

 今の彼らには関係ないであろうことなのだから。その上現在エレッタはフェアロを警戒している。

 フェアロ側には戦争をする理由などないにも関わらず。

 

「詳しい話は、この町にある兄さん達の家に来てから。だよ」

「…」

 

 ふと、船旅で疲れているが流石にもう回復した筈のメテオスが喋らないとロストがメテオスを振り向くと、そこには目を輝かせてフェルマを見るメテオスがいた。

 その熱烈な視線にフェルマも気付いたのか笑顔を絶やさないまま話しかける。

 

「ねえねえ少年どうしたんだい?兄さんの顔に何かついてる?」

「いっいえっフェルマさんに会えるとは、思っていなかったので」

 

 明らかにメテオスの様子がおかしい。ユキノやソルは状況が分からずメテオスの様子を見守る。

 まるで何か見る事が叶わない存在を目にしたような、とてもとろけた視線をフェルマ……の手や持ってる道具に向けていた。

 

「フェルマ君って有名人なの?」

「そりゃそうに決まってるよララ!オレみたいな機械研究者の端くれには夢のまた夢の存在!フェルマ・タールだよ!まさか本物に出会えるとは…」

「…俺の方は有名じゃないよな知ってた」

 

 トロニアはメテオスのフェルマに対する感激っぷりに項垂れる。どうやらフェルマの方が研究者としては優秀で、それが少々気になっているらしい。

 

「まあ、気を取り直してこの町にある俺達の別荘に行くか」

「兄さん達の研究所へれっつらごー!」

 

 彼はまるで嵐のような人間だ。そうして話していてもユアにはフェルマの存在がどうしても引っかかった。

 

(言動も見た目も声も、まるでスモラそっくり。生き写しみたいだわ)

 

 100年前の人物と明らかに姿を重ねながら。

 

 

 

************

 

 場所は変わり、フェアロの王都リイルア。

 この街の人々はエレッタの不穏な動きなど知らず、しかし騎士団には緊張が走っていた。騎士団の緊張の原因は、何もエレッタではない。もっと彼らにとっては身近な存在だ。

 それにエレッタの不穏な動きに関してはユアが担当しているから大丈夫だと騎士は思っている。

 

 では何故彼らに緊張が走っているか?

 彼らが緊張している原因、それは…。

 

「なあ、騎士団長、いつもに増して不機嫌じゃないか?」

 

 とある騎士の一人がそう零す。

 騎士団長の部屋からは遠いとは言え騎士団本部の廊下での出来事。資料を纏めた二人の騎士が騎士団長であるリンブロアの機嫌が良くない事を話していた。

 そう、それが原因なのだ。リンブロアが不機嫌な理由については後述するが、彼の不機嫌が騎士団員の緊張を呼ぶ結果となっている。

 

「バカ、それ誰も言おうとしてなかったんだぞ。ただでさえ変人揃いで有名なパーフェクティオ隊の隊長が団長の娘だってことお前知らないのか!」

「……えっそれってこの前副団長と一緒にエレッタへの視察に向かった…」

「そうだよ!しかも副団長が連れてたあのフェアロ王族特有の緑目の青年がいただろ?あのお方こそ現在行方不明のアンリ様であるという噂もあるんだ」

「えっじゃあ一緒にいた黒髪の少女は…」

 

「貴様ら」

 

「「ひっ」」

 

 突然聞こえた威圧のある声に二人が振り返ると、そこには騎士団長室から出て来ていたリンブロアの姿があった。

 普段なら相見えるだけでも憧れの目を向ける対象である彼が、二人にとっては魔王にも見えた。

 

「アンリ殿下については他言無用だ。国民にその事が触れてはならぬ」

「「は、はいっ!」」

 

 二人の騎士はそう言って慌てて纏めた資料を簡易型資料室へと持っていく。リンブロアはその光景に溜息をつきつつ、手で頭を抑えた。

 

「威圧があるのは大切っすけど、顔、怖いっすよ。騎士団長」

 

 リンブロアの不機嫌の理由。それは、隣にいるこの男が原因だった。

 

 セテオス・ベリセルア。パーフェクティオ隊の副隊長であり、ルンの部下。そもそもリンブロアは彼と話すことが得意ではなかった。その上ルンが無意識に想いを寄せているとリンブロアは確信しているので、要するに親馬鹿なせいである。

 騎士団員も愛娘に対しては彼が鬼になる事は理解している。まさかそれを知って彼女に手を出そうとしている男がいるなどと、他の騎士は思いもしなかった。

 

「…誰のせいだと思っている」

「えっ俺のせいっすか!?そのー、報告まだ途中なんすけど」

「アンリ殿下についてはユアとルンがついている。他には」

「…隊長は、アンリ殿下の事も、お嬢の事も知りません。本当は俺が付いていくべきだったのでは、と思ってるっす」

「それくらい、知っている」

「では!」

 

 迫っていくセテオスに、リンブロアは突然足を止めた。廊下の窓から差し込む光が反射して、一瞬眩しくなる。

 

「出来る事なら、そうしたかった。しかし、クルスと同じ力を持つあの子が…っ」

「…えっ?クルス、さん…?」

 

『クルス』

 

 その名前に反応したセテオスは、リンブロアの様子を伺った。

 リンブロアはその名前に反応されるとは思わなかったのか視線を彷徨わせる。

 

「私は悪くない…あの判断できっと正しかったのだ。クルスは、クルスは…」

 

 リンブロアは唐突に挙動不審になり、首を横に振りながら声を震わせる。セテオスはそんな騎士団長の様子を見て引き止めるように腕を掴んだ。

 

「こっちの目を見てくださいっす!!あんた、あんたクルスさんの事、知って……っ」

「知っているさ!知らないはずがない!クルスは私の息子だった!!!」

 

「騎士団長の、息子、クルス、さん」

 

 セテオスは目を見開いてリンブロアを見つめる。話したくはなかったと言わんばかりにリンブロアから溜め息が漏れた。

 

「何故貴様こそ知っているのだ。騎士団の中では恥とされ、忌避されたその存在を」

「…あんたの息子に、少し世話んなった事があるだけっす。報告は以上っす。では、オレは」

 

 セテオスはそのまま去って行く。この会話を聞いていた騎士がいない訳では無い。しかし、なるべく触れないよう、無視して通り過ぎて行った。

 

 クルス・ドーネ。今となっては騎士団でその話をする事は避けられていた。

 彼は昔、ある作戦に参加した際作戦から途中で逃げ出し、逃げた先で無様に死んだとされている。

 

 騎士団の恥。親の七光り。

 

 彼の死後にリンブロアが下した判断は、彼に汚名を着せる事。だからリンブロアはルンが騎士になる事に好感を示さなかった。

 

(あの子は兄の事を忘れる程にクルスの死と汚名を着せられた事実に悲しんだ。私は親としては最低なのだ。……最低、なのだ)

 

 一人黄昏れるリンブロアを心配そうに見つめる精霊の姿があった事をリンブロアは知らない。

 

(私が悪かった。その事への罰なのだろうか。クルスに助けられたという人間が私の前に現れるとは)

 

*********

 

「兄さんの別荘、とうちゃーく!」

「勝手にあがって。こっちが居間」

 

 フェルマとトロニアに連れられ、ロスト達はタール家の別荘に辿り着いた。

 元々、7年前の事件について調べる筈だったロスト達は、有数の技術者であるフェルマならクローン技術について知っているのではないかと思った。

 

「まあ、昔の研究資料とかは流石にエッティスにある本家に行かないと無いんだけどねー」

 

 しかしその考えは打ち砕かれるようだった。フェルマは跡取り候補には上がっているが六男という立場である。

 寧ろ何故跡取り候補に上がっているのかが不思議である。

 

「フェルマ様は何故、跡取り候補に上がっているのですか?普通ならば長男から優先されていくのでは」

「んーそれはね、今タール家は二派に別れてるからだよ」

 

 二派?とその場の誰もが思ったようで、トロニアが詳しい説明を入れる。

 

「タール家は長男であるウェルア兄、3男のヴェレス兄、4男のヘレス兄の現王派と、次男のデラード兄、俺、フェルマ、そして妹のオルガニアの現妃派に別れてるんだ。姉のエリッサ姉もいるけどエリッサ姉は我関せずでフェアロにいる」

「成程ね。エレッタの中でも分裂状態にあると」

「そういう事だな。現王派の候補者がウェルア兄、現妃派の候補者がフェルマなんだ。両親はどちらも現妃側だな。王と妃の間で意見が分かれてしまってるんだ。王がフェアロに戦争を仕掛ける準備をしているとの噂だ」

 

 ユアが思ったよりも、エレッタの内情は複雑だった。

 王と妃の間で意見が分離し、王につく派閥と妃につく派閥とに国民達も分かれてしまっている。王はフェアロやスレディアを敵視し、攻め入ろうと準備をしている。まるで100年前の繰り返しと言わんばかりだそうだ。

 歴史書にも100年前の戦争はエレッタが発端だったとも書かれている。エレッタはこの100年フェアロからもスレディアからも冷たい目で見られていたのだ。

 妃はフェアロやスレディアとは協力関係を保ち、攻め入るなどと野蛮な事は考えるなと王を止める意見を持っている。フェルマ達はこれに賛同し、王を止める手段を考えていた。

 

「あとねえ、兄さん聞いたんだけどさー。最近王様に近付く変な奴がいるんだって。なんでも、そいつが王様を裏で操ってるとか」

「その話、もっと詳しく知らないの」

 

 ユアの眼光が鋭くなる。フェルマも深くは知らないが、100年前の英雄、ユアともなればこの状況に覚えがあるはずだと睨んだ。

 

「おねーさんこそ知ってるんじゃない?そいつの事」

「今の話で断定は出来ないわ。そもそも彼は私が100年前に殺したのだもの」

「ユアさん、やっぱりエレッタの中心部に行かないとなんじゃ…」

 

 ララが遠慮がちに意見を出した。

 目的地となっているエッティスはエレッタの首都である。そこへ向かえばエレッタの王城もある。タールの本家もここにある事から、ロストの知りたい事もきっとあるだろう。

 

「そうね。早いところエッティスへ向かった方が早いわ、これは」

「じゃあ兄さんもついていこうか?兄さん、こう見えても砂漠越えは得意なんだ」

 

 フェルマからの意外な提案にメテオスは「い、いいんですか!?」と声を震わせた。恐らく感激のあまりなのだろう。

 

「いやー兄さんもちょうどエッティスに向かおうと思っててねー。という事で、トロニア兄さん、妹ちゃんのことよろしくっ」

「お前がいつも突然なのは昔からだよなあ…… 行ってこいよ。オルガニアも俺が見ておく。お前が遠くにどんどん行くようで兄は寂しいよ」

 

 呆れ顔をしながらも、寂しそうに笑うトロニアにフェルマは頬をつねった。

 

「痛っ!?」

「兄さんはタール家の六男で、トロニア兄さんの弟だよ。どんなに遠くに行ってもさ」

「そうか、そうだな」

「砂漠越えは兄さんが一番慣れてる。この港町から北西へ進んでいくと草原から砂漠に変わっていく地帯がある。砂漠の中に一つ村があるからそこを休憩地にして、エッティスに向かう……って事だけどいいかな?ユアお姉さん」

 

 ここは一番の経験者に任せるしかないとユアは静かに頷く。

 メテオスは憧れの人と旅ができるという事実に悶え、嬉しさのあまり震えていた。

 

「ねえ、メテオス本当に大丈夫なの?」

「…そうですね…」

 

(そのような事よりも、(わたくし)はロスト様の方が気になって仕方がありません。ですが、この事をソル様にお話する訳にもいきませんし)

 

「うう〜」

「ユキノも何かあるの!?」

 

 ソルは様子のおかしくなったユキノに慌てるも、メテオスの方が大惨事な為にどちらを心配すればいいの分からなくなってしまっている。

 

「メテオス君もユキノちゃんも落ち着こう!落ち着かないと砂漠越え多分できないよ」

「早いところ出発をするか」

「まあ、ここで一泊して行きな。その方が君らも安心だろう?兄さんがその内に砂漠越えの準備をしておくさ」

「何から何までよく初対面の私達に色々としてくれるわね」

 

 フェルマがあまりにも全面的な協力体制なので、ルンが現在緊張が走っている国同士なのにと疑問を持った。

 しかしその問にフェルマは当然だとでも言うように…。

 

「だって兄さんと君らはもう仲間。兄さんは少なくともそう思ってる。それにフェアロの民もスレディアの民も本来同志。マクスウェルっていう大精霊さんがそう言ったとされる伝承も残ってるからねー。この伝承についても後で本家で見せる」

 

 ルンはきょとんとしてしまった。

 まさか彼が大精霊の伝承を信じるような信心深い者だとは思わなかったのだ。軽薄そうに見える雰囲気とは違い、本心はそのように生真面目なのだろうかとルンは思う。

 

「まあ、結局は兄さんが君らを理由もなく信じれるからだよ。さあさあ船旅で疲れてるだろう?浴室も貸し出すし、今夜は豪華にしとくからさ!ほらほら疲れを癒そうではないか!」

 

 と、フェルマは押し付けるようにロスト達を男女別々の浴室へと向かわせた。ついでのようにトロニアも浴室に向かわせ、居間で一人残ったフェルマは伸びをする。

 

「あっ、兄さんもシャワー浴びないとじゃん。…しっかし兄さん、どうして彼らを信じれたんだろうなあ。ユア姉さんを見た時から、何かが引っかかるような…まいっか」

 

 水浸しになった後、服すら取り替えていないことに気付いたフェルマは、塩臭い服を選択籠に放り込み、ロスト達のいる浴室へと突撃して行った。

 

続く

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