テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー 作:sinne-きょのり
男性陣の脱衣所で、ソルは両腕に着けている長手袋を外そうとして固まっていた。
別荘とは言えエレッタの名門の家だからか浴室はしっかりしており脱衣所も広い。シャワー以外にも浴槽が付いているようで勝手に入っていいとフェルマとトロニアに言われていた。現に今ロスト達は既にシャワーを浴びており、ソルがまだ脱衣所に居ることには気付いていない。
長手袋の上から触れても、ソルには分かってしまう手の甲にある皮膚とは明らかに違う感触。ソルは覚えてる最初の記憶からずっとそれを感じてはいたが、これに関してはララにも隠し通していた。
震える手を抑えながら恐る恐る長手袋を外すと、その下から覗いたのは真っ黒な魔輝石。
「あれー?少年、まだ着替えてたのかい?」
「っ!?」
ソルは慌てて魔輝石の付いている右の手の甲を隠した。フェルマがシャワーを浴びに来たのだ。フェルマはソルに対し、何故か興味津々と言ったふうにじっとソルを見つめている。
「何か、用でもあるの」
沈黙に耐え切れずついソルの方からフェルマに話しかけてしまう。正直ソルにとってはフェルマのようなお調子者に見せかけた賢い人間は苦手だ。隠したい事に限って核心を突かれてしまう。
「いんや?別に。でも君、明らかに魔輝が不安定だなーって」
「何、言ってるの」
「君、クローン実験の被害者、なんじゃないかい?」
ソルはフェルマの言うことが分からなかった。
魔輝がマナを生み出すための大切な力であって、ソル自身とララ、ロストはそれが不安定な事は理解している。
しかし、フェルマには過去の誘拐事件の事や記憶喪失については話していない。何故それを、と取れてしまう反応をしてしまった事をソルは少々悔いた。
まだ出会って間もない人間にあまり事情を悟られるのはどのような反応を返されるのか怖くてソルはそれを避けようとしていたのだ。
「クローン技術自体は、スモラ・タールの生み出した禁忌の技術。兄さんは無関係とは言えないよ。だから君らに協力する」
「…そう」
「早くシャワー浴びな。そんな格好だと、この辺りは熱い地域だとしても風邪を引いてしまう」
ソルはひとまずは彼を信じてみようと思い、頷いてシャワーを浴びに行った。
右の手の甲を見られないよう、隠しながら。
その日は皆疲れていたからか、ぐっすりと眠ってしまっていた。
フェルマは遅くまで起きようと思っていたがトロニアに「明日、行くんなら早めに寝なよ」とベッドに放り込まれてしまう。少し拗ねた振りしてみたがトロニアには全く通じない。
どうせ砂漠越えの準備だろう、とトロニアに言われてフェルマは「なんだ、トロニア兄さんにはバレてたかあ」と笑う。
それから少し時間が過ぎてトロニアがふとフェルマを見ると、彼は既に眠っていた。
更に時間が過ぎた夜中、ふと目が覚めてしまったソルはこっそりと別荘の外へと出た。真っ暗で昼の暖かさは見られないほどに寒い。
何故外に出ようと思ったのか、恐らくソルとしては多少の好奇心だったのだろう。何せ生まれてから彼は村の外に出た事がないのだから。
周囲を見渡そうにも月の灯りだけでは充分な光源は得られない。特に何を探そうという目的もソルには無かったが。
「おっ、丁度いいところにいるじゃねえか」
「誰……!」
声のした先を振り返る。暗いながらにもソルにははっきりと見えた。そう、そこにはララと同じ漆黒の髪を持つ、ララと同じ顔をした人物がいた。
「R・B00だ。お前はファーストナンバーだろ?」
それは、ララよりも凶悪な表情を映し、ララよりも深い青の瞳を持つ。以前ララが『リアン』と呼んだ存在だ。とは言っても、ソルは彼に会った事はない。しかしソルには彼が何者なのか、すぐに分かってしまう。
「ふぁーすとなんばー?何それ、僕にはルシオン・オンリンって言う名前があるんだけど」
「ふうん?何だ、知らねえとでも言うつもりか?ああ?」
リアンはソルの胸ぐらを掴んで顔を引き寄せる。ララのクローン、リアン。その実態はララから切り離された魔輝そのもの。
そしてソルは察していた。
「てめえも俺達と『同じ』だろ、ファーストナンバー」
「…」
「知ってるんだろ。というか、気付いてんだろ。お前も、俺と同じで普通の人間ではない事くらい」
ソルは明確に気付きたくはなかった。
ずっと、ララの双子の弟である事を信じて疑わなかった。
村の人々だって、ララと同じように自分を『ルシオン・オンリン』だと認めてくれた。人として扱ってくれた。ただそれだけで充分だった。
「お前はお前である限り、オリジナルを傷つけ続けるしあのお方の命令には逆らえない」
「そうだよ。だから僕は1度ララの元から逃げた。でも、逃げ切れるわけないんだよ。僕は僕、ルシオン・オンリンなんだ」
ソルが1度ララから逃げた理由。
それは紛れもなく自分がララのクローン体である事を知ってしまったからだった。
自分もララから削り出した魔輝の破片の1つ。だからこのままではララの存在を脅かすだけの異物となってしまう。
ララの力の一部を奪ってしまっているのは他でもないソル自身なのだから。
「ならいっそのこと、俺達の所へ来いよ。ファーストナンバー」
「嫌だ」
「なんだ。お前オリジナルの側に居るつもりか?」
リアンの誘いにソルは頷く事は無い。それが面白くなかったのかリアンは舌打ちをする
ソルにとっては自分がクローンであるという事よりもララの弟であることが大切なのだとそう確信したかった。
(前に、ルンに言われた通りだ。僕は正真正銘ララの重荷になっている。僕は、ララの側に居るべきではないのかもしれない)
だが実際は、少し揺れ動きかけていた。
このままララ達の敵に回ってしまってからララ達にわざと殺されてしまうのもありかもしれないと。ララの重荷になってしまうのであればいつそのこと嫌われた方がマシだ。
『やめてよね。ソルお兄ちゃんを誑かそうとするの』
「誰だっ」
闇の中からリアンとソルを引き剥がすように少女、リズナが現れる。
突然現れたリズナにリアンは睨みをきかせるとすぐにリズナが精霊であることに気付いたらしく、舌打ちをする。
「ちっ、大精霊サマがついてるってか」
『…貴方も、こっちに来ればいい話なんだよ』
「やめたやめた。俺は大精霊サマとは事を起こしたくねぇ」
そうしてリアンは悪態をついたまま夜の街の中、どこかへ去って行った。それを見ていたリズナは深追いする目的はなく、俯いているソルの様子を心配して覗き込む。
『大丈夫?ソルお兄ちゃん』
「…リズナ、来なくても…よかった、のに」
リズナには、ソルの顔はとても青ざめたように見えた。ソル自身自覚はしていないだろう。
幼い精神を持つ彼に、先程の出来事をしっかり受け止める程の強さは無いだろうとリズナは思っていた。
『あの子、ララお姉ちゃんの一部なんだよね?』
「うん。そして、僕も僕個人としては、本来、存在できない」
『…じゃあ、リズが実質の契約者であるララお姉ちゃんから少し離れているここに来れたのも、分かる?』
「うん。僕がララの一部で、僕はララの闇属性のマナの塊だから」
ソルという存在があるから、ララは本来闇属性の素養も持っていたと確信できる。リズナは二種類のマナ属性を持つ人間は珍しいと当然知っていたし、ララ程の魔輝の量を保有する人間もそうそういない。
『そっか…ここに、いたんだ。シルクお兄ちゃん』
「誰?」
『秘密だよ。さあ、早く皆の所に戻らなきゃ。ソルお兄ちゃん……おやすみ』
リズナに言われて現在時刻が深夜である事を思い出し、別荘へと戻ろうとして、ふとリズナはどうするのかと聞こうとしたがその時には闇の中へその姿は消えていた。闇の精霊であるからか、ソルの母体であるララと契約しているからか。
リズナだから気にしなくてもいいか、とソルは気付かれないようにこっそり別荘へ戻って来た。
それから1人、リアンの言葉が頭から離れないままに自分に割り当てられた部屋へ戻りベッドに潜り込む。
ソルから離れたリアンは転移術式の中から現れたフードを被った人物とレティウス、ロストに似た青年を見つける。
フードを被った人物の顔は見えないが、それが誰かはリアンは既に知っている。と言うより、彼こそがリアンが支持している人物だ。
「てめぇらまでここに来なくても良かったんじゃないか?デイヌさんに、アンリ王子のクローンの03さんよぉ」
レティウスが来る事は予想していたが、03と呼ばれたロストのクローンとデイヌと呼ばれたフードを被った人物が来るのは予想外だったようだ。
不機嫌そうにリアンが口を尖らせて言うと、デイヌは「心外だなー」と拗ねたように言った。
「何も俺までもが動いてはいけないということは無いだろう?」
デイヌはクローン達を動かしている諸悪の根源。
その首領が直々にただの一兵であるリアンを迎えに来たのだ。充分に文句はあるとリアンは言いたげだ。だがリアンはデイヌに従っている、と言うにはフランクすぎる。
「てめぇはこっち側の大将だ。俺達を駒使いしときゃいいんだよ」
「それは我からも忠告しておくぞ、仮同胞デイヌよ」
ロストのクローン、03は高慢な態度でデイヌを睨みつける。どうやら彼は明らかにデイヌに従っているという体ではないようだ。
ロストと同じ茶髪に緑の瞳だがその瞳はロストよりも鋭く、髪は腰辺りまで伸ばしてある。今のロストよりも少し大人にしたような風貌にも見える。
「俺の事、心配してくれてんの?わあ俺うれしー」
「…我がクローンと言う存在でなければ貴様をとっくに消していた」
「しっかしいつ見ても違和感しかねえな。てめぇ本当にあのロストの一部なのか?」
リアンが見た事あるロストとはあまり似つかない言動をする03をまじまじと見つめる。
03の存在があったからリアンはロストがフェアロの王子である事は知っていた。それにしても記憶が無いとはいえこんなにも違うのかと首を傾げる。
「我は如何にもロステリディア・アンリ・フェアロの一部だ。一刻も早く我は元に戻りたい。その為にも早く我を母体の元へと行かせてくれないものか……」
「そんな事したら面白くないし、何のために魔輝ごと記憶を抜いたのか分からなくなっちゃうじゃないか。にーさんそう言うのはやだなあ。あと、ナンバーゼロ、君が言える?キャラが違いすぎるって」
軽薄な口調のデイヌにリアンは舌打ちをする。
03はあまりデイヌと共に居るのは気分が良くないらしく「我は早急に拠点へ戻りたい。母体の元へ還れぬのであればな」とデイヌから目を背けた。
レティウスは何も喋らず、デイヌの横に控えたままでいる。
「レティウスー君、つまんないね。何番目?」
「3番目でぇす」
「何で喋んないのさ」
「必要ないからぁ、でぇす」
「ま、いいけど。ていうか、俺達は君の単独行動を叱りに来たんだよ」
「てめぇはそこのレティウスでもいじっときゃいいだろ!?」
本題に入るデイヌにリアンは声を上げる。
デイヌが何故わざわざ出向いて来たのか。それはリアンの勝手な単独行動が原因だったようだ。
「俺はファーストナンバーを連れ戻そうとしただけだ。だがあいつ既に大精霊との契約を結んでやがる」
「あやつを連れ戻す必要が何処にある。クローンはいずれ母体へ還るもの。我は気にせぬぞ」
「てめぇには聞いてねえんだよっつかほんっと気持ち悪いな!」
「我に言われても知らぬがの」
彼と話しているだけではこちらが疲れるだけだ。そう察したリアンはデイヌに「じゃあ早く帰らせてくれ」と急かす。
デイヌはまだここに居たかったのか少々渋るが早く帰りたいと03がぼやき、レティウスに「帰った方がァいいんじゃぁないかぃ?」と囁かれ仕方がない、と小声で呟き転移術式で4人の姿は消えた。
(さて、我はどうして母体の元へ還ろう。我がこの記憶を有しているという事は母体にはこの記憶は残っていない。空っぽなのか。本当の我は)
「…今、誰かが、俺を呼んだのか?」
まだ早い朝日が昇る直前、ふと目の覚めたロストは寝惚け眼で窓を覗いていた。
特に何を感じ取った訳でもない。彼にとってはただの何となくだ。
自身に体力が少ないせいでこれから砂漠越えをしなければならないとなると気が滅入ってしまうロストは、未だ自分のクローンに出会わないなと砂漠越えには関係の無い事を考えていた。
(レイナはそうなんだろうが、それにしたってここまでに一度も出会わないのは少しおかしくないか?)
この国に敵の本拠地があるのだろう、だがクローンを作った人物は何がしたいのだろうか。
世界を壊すつもりなのだろうか。
考えれば考える程自分の中にある記憶の穴が目立ってしまう。ララも同じ気分なのかと思えば少し軽くなる気もするが、如何せんララはロストよりも楽観的だ。
あまり、参考にはならないとロストはため息をついた。
続く