テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター37:作戦準備

スモラ・タール。彼は自分自身を対象に、クローン実験をテストしていた。

その結果は成功。クローンとして生まれた存在を「フィール・タール」と名付け、双子の弟として可愛がった。

スモラ・タールは、孤独な人間だった。

このページだけ子供のような文字で書かれていた。否、事実子供が書いた文字なのだろう。ユア曰く彼は幼い頃から天才だったという。彼女が聞いた話でしかないが。

 

「フィール・タール…彼がどうなったか記録は残ってないの?」

「最初のクローンにもなるから、重要資料にもなると思って探したけど見つからなかったよ。お兄さん、すっごい気になったんだけどね」

 

頭が痛むのかフェルマは頭を抑えながら冷や汗を浮かべていた。しかし表情はおちゃらけた風である。余裕を崩さない姿勢なのだろう。

ページをいくら捲ってもフィール・タールに関する記述は見つからない。ユアの頭の中には1つの仮説が浮かんだもののそれを確実なものとする証拠がなかった。

 

「フェルマ様、あまり顔色がよくありません。少し休憩してはいかがですか?」

「そうだぞ、いっっつもおれにはよふかしすんな!って言ってるのにフェルマ、またよふかししてたろ!」

 

ユキノはどんどん顔が青白くなるフェルマの顔を覗き、エイミールが濡れたタオルを持って来た。

フェルマは「いらないよー…」とは言うが誤魔化しがきかないほどに彼の状態はどう見ても『大丈夫』なものではない。

 

「もしかして、研究書の内容が、フェルマさんにとってあまり気持ちの良くない物、だからですか」

 

メテオスの言葉に、フェルマは「そうかもね」と元気無く答える。彼は戦争が好きではない。しかしこの研究書はどれもスモラが戦争の為に利用されて組み上げた研究ばかりが記されている。最初のフィールの件が恐らくエレッタの軍に伝わってしまったのかもしれない。

 

(しかし…彼がフィールであるとするならば、元々エレッタの王は狂っていたという事になってしまう…私の知るあの戦争、最初から認識が誤っていた?)

 

ユアはまた考え込んでしまった。すぐに考え込んでしまう癖はすぐそこにいるロストと同じだ、と気付いてしまいついロストの方を見てしまう。

 

(え、なんだ、ユアさん急になんで俺を見るんだ)

 

急に視線を寄越されたロストは内心慌ててしまいちらりとララやルンを見やる。一瞬でも見ているのは自分ではないと思いたかったのだろう。

実はロスト自身あまりユアと話す機会がなかったと感じている。彼女の実の弟にそっくりであるかもしれないと聞いたがロストも自分にそっくりな顔があると流石に驚く。ましてや身内ではないとなると余計。

 

(しかし確かに似ていはいるが、目の色は違うんだよなあ…もしか遠い親戚とかか?)

 

そもそも彼女の存在自体が謎だ。自分の出自が分からぬロスト自身が言えたものでは無いが、ユアは余計分からない。人間でもエルフでも精霊でもないとなると、一体彼女は何者なのか。一切が分からない。

何故騎士団長はその様な人物を傍に置くのか、英雄だからと言われればそれまでだがロストにとって理解できない部分が多くを占めていた。

 

「おーい、ロストくーん」

「ひぁっ!?な、なんだララか」

「そんなにユアさん見つめてどうしたの?やっぱり、レイナちゃんって子に似てるの?」

 

心ここに在らずといった風なロストに声を掛けたララは、気になっていた事を投げ掛けた。

 

「え?あ、まあ…そうなんじゃ、ないか?」

 

ユアはロストに似ている、という事はレイナにも似ているという事。その事はすっかり頭から抜け落ちていたロストなので、返事はとても曖昧になってしまった。

ユアとロストを見比べるララだが、よく分からないのか首を傾げてそのまま「分からないや」とこの件については触れない事にした。

 

「話をもどすけどさ…この辺に、クローン実験施設があるって聞いた気がする」

「それは本当なのですか、エイミール殿下」

 

エイミールの呟きにルンが反応する。他国とはいえ王族にため口はきけないのか改まった口調であった。

 

「この街の外れに工場群がある。そこはもう廃工場と化していてクローン実験に利用されてるってうわさ。人さらいも起こってる…みたいな事も聞いた」

「どうしてそれを早く言ってくれなかったんだい?おーじさま」

「…今日、聞いた話。フェルマがいまいち人からの情報を聞く事が出来ないって言ってたから」

 

エイミールが外出していたのは、何も買い物をする為だけではなかった。実は店主と言い合いになったのは被っていたフードが偶然取れてしまったからで、そこに至る以前はフードを被り、正体を隠して市井の状況を観察していたのである。

完全に妃側についていると知られているフェルマの前ではクローン施設についての話が無かったのだろう。

これを聞いたフェルマは「おーじさまが、お兄さんの為に…」と感激した様子であった。

エイミールの情報はフェルマにとって嬉しいものであったようだ。エイミールの頭をワシワシと撫で、こう言った。

 

「じゃあ、その施設爆破させに行こっか」

 

なんとも単純で、実行には難がある言葉である。ここにトロニアがいれば「また始まった…」とでも言っただろう。フェルマの突発的な発言は彼の性格を表しているのだから。

だがそれと同時に、このフェルマ・タールという男には何かしらの得策があるのだろうとメテオスは思った。

 

(だって、フェルマさんが言うんだから、何かしらある筈だ!)

 

 

 

話題に上がっているクローン実験の施設は確かに廃工場にあった。

デイヌらの本拠地…とは言えないが現在もクローンを生み出し続けている施設には変わりない。

現在デイヌがここに居るのも事実であり、レイナもこの場に同席していた。

 

「トーレカノンの再起動法は見つからないのかい?」

「はい、見つかりません。恐らくタール本家にあるかと」

「はあ、そうだとしたらとっくにウェルア使って取ってきてるんだけど」

 

レイナは今すぐにでも目の前にいる一応上司に舌打ちをしたくなる。《世界を救う為》にやむを得ないとは言え、ロストに対して裏切りの行動を取った手前易々とロストの前へ現れる訳にはいかない。目の前にいるフードの男、デイヌの素顔だけでも見る事が出来れば、と彼女は思っていたが素顔を魅せるようなタイミングが一切無い。

 

「…トーレカノンとは、大砲塔の事ですよね」

「そうだよ。スモラ・タールの遺した負の遺産。あれには機械技術は用いられてないからマナさえ込めれば再起動できる…筈だけど間違ったマナを流し込んだらあれは爆発するだろうね」

「爆発?」

「スモラ・タールという男は爆破が好きだったんだよ。いや、戦争の為の道具には彼は必ずしも自爆装置を付けている」

 

それは爆破が好きなのではなく戦争が嫌いなのでは?とレイナは言いかけたがスモラのその思考がデイヌにとっては忌まわしいものだったのだろう。現にそれによって決行出来ずにいる計画もあるのだから。

 

「ま、ピーウ・ムッソは設計図が残っていて安心したけどね。まさかここの研究施設にまだ残ってる設計図があったなんて、これは幸運だ」

(エレッタの民にとっては不幸でしょうね)

 

そしてそのピーウ・ムッソと呼ばれた物の設計図にも自爆装置が組み込まれていた。デイヌは取り除いて製造する方法が思いつかなかった為にその設計図のまま作ってしまったが、それを操作するクローンを見捨てるつもりでいるのはレイナにも分かった。

 

「そうそう、《世界樹の守護者》のクローン、ちゃんと出来上がったかい?」

「はい。一体だけイレギュラーが生じたので現在同じイレギュラー体であるRのゼロナンバーが面倒を見てます。なんでもあれが元々面倒を見ていた少女が懐いた相手だとか」

 

現在この施設では更にクローンを増やしている。オリジナルは大多数が死に至り、生き残ったとしてロストやララの様に『空っぽ』になってしまう。

Rのゼロナンバー、とはリアンの事である。彼をリアンと呼ぶのはララやロスト達くらいなので、ここでの名称ということになる。

 

「ふうん。そう。分かった、じゃあ俺は寝るねー」

「…失礼します」

 

(何とも身勝手なリーダーだな。報告させるだけさせといて適当な相槌のみとは…我の前であれば、いつ寝首をかかれるか…)

 

レイナは本当に寝入ってしまったデイヌを横目に部屋を出た。向かう先は先程報告した「彼ら」のいる場所。

少しだけ様子が気になったのだろう。

 

「入るわよ」

「あははっ!ゼロナンバー、遅いよー!」

「てめっ止まりやがれ!この、くそっ!」

 

レイナが部屋に入ると、ドタバタという音が部屋中に響いていた。

リアンと、もう1人少女が走り回っている。レイナの視線の先には部屋の真ん中に座っている少年がいた。

 

「入りながら言ってたら、断りの意味ないんじゃないの?それ」

 

げんなりした様子の少年がレイナを見て言う。黄緑の髪の毛に片方の隠れた緑の瞳。少年はやれやれ、と狭い部屋で走り回る2人を見た。

 

「『リアン』、それだからカナと同レベルだって言われるんじゃない」

 

『リアン』。レイナにララ達以外が呼ばない名前で呼ばれ、リアンは不機嫌そうにレイナを睨む。追いかけられていた少女は「お兄ちゃんにだーいぶっ!」と少年の方へ飛び込んだ。

 

「ったく、この糞ガキがうるせえから灸を据えようと思ったんだよ」

「あらそう。ええっとそっちの彼は」

「…catis-05。仮に付けられた名前はそうなっている」

 

少年は鬱陶しそうに抱き着いてくる少女をあしらいながら答える。

《世界樹の守護者》のクローン。オリジナルには大して魔輝がなかったせいかクローンは5人しか作れなかったらしい。彼は打ち止め個体であるせいか一番見た目が幼くなってしまっている。見た目年齢で言えば14歳くらいが妥当であろう。

 

「ナンバーで呼ぶと俺らと被るからな、カナが読み間違えたサティスで呼ぶことにした」

「そう。カナは元気そうね」

「うん、レイナお姉ちゃんも元気みたいでよかったー!」

 

カナ、と呼ばれた少女は水色のお下げ髪に水色の瞳を持っている。明るく天真爛漫で、先程走り回っていたように元気も有り余っているようだ。

 

「で、何しに来たわけ。あんた」

「…そうね、貴方達、ここから逃げ出したくない?」

「逃げる?誰が?」

 

レイナの提案にサティスは首を傾げる。何故その話に繋がるかが分からない。

 

「サティスとカナ。2人でね。ああゼロナンバー、あんたはちょっとした囮役になって欲しいの。このままあのいけ好かない男に命令され続けるのも嫌でしょう?」

 

リアンがデイヌの事を快く思っていないのは丸分かりだった。レイナはそんなリアンの考えを利用しようという魂胆なのだ。

何の為に、とまでは読み取れないが。

 

「ふうん、まあ乗ってやるよ。このまま、というのは確かに嫌だからな。だがてめえがあの気持ちわりぃ03と同じとは本当、思えねぇな」

「あれが本来の『彼』よ。まあいいわ、乗ってくれるなら話が早い」

 

デイヌの知らぬ所でまた1つ、何かが動き始めようとしていた。

レイナとリアンの計画は成功するのか、とサティスは呆れたようにため息をついた。

 

(本当、馬鹿らしい)

 

 

続く


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