春、また季節は巡る。
それはきっと、意味もなければ価値もないのか。
「うーん、桜が咲き誇る窓の中に、赤髪が混ざるのは好ましくないな。
もっと寄ってくれたまえ、是光」
「おまえ、俺一応入院患者なんだけど、なんか差し入れとかないのか」
憮然とした表情で体を倒す赤毛の少年は、不満を口にする。
「何を莫迦な、差し入れならここで書いているじゃあないか?」
といって、現在進行形で描かれている絵画を手に持った筆で指し示す黒髪の少年。
「あのなあ、俺的にはなんかこう、食糧的な何かというか、そんな感じのものが欲しいんだが」
まあ、目の前で描かれた絵を貰っても嬉しくないだろう。普通。
「何を莫迦なことを、君は今入院しているはずだが?病院食で我慢したまえ」
そう、ここは病室である。ついでに言えば、近辺で最も大規模な。
「それはそうだが、いまいち病院食は好きじゃないんだよなあ、物足りないし」
この病院の食事はかなり高いレベルなのだが、やはり量の問題がある。
「ああ、そうだな、今度来る時ノートパソコンを用意しておこう。あんまりやりすぎるなよ」
もちろん、いやらしい笑みと優しい笑みを混ぜ、意識しての行動である。
「なにをだ!この変態が!」
その燃えるような髪色のごとく真っ赤に染まった顔を見れば、
思春期の少年が考えたことも察しが付くのではあるまいか。
まあ、少年の名誉のため、明確な表現は控える。
「いや、あまりやりすぎると目を悪くしてしまうからな、で、一体何を想像したのかな?」
今度はエロ親父が如きいやらしい笑みを全開で意地悪な質問をしてみる少年。
「っく、おまえ狙ってやってるだろう」
もはや蒸気が吹き出そうなほど真っ赤な顔に、少し怒りの表情が混ざった。
「ふふ、一体何のことやら、さっぱり見当もつかないなぁ」
わざとらしく笑いながらはぐらかす。
「ちくしょう、絶対悪趣味だぜ、お前」
「おーこわいこわい、っと、できたぞ是光、お前さんは割と顔はいいのに目つきは悪いからなあ」
平安学園の制服を着た黒髪の少年は筆をバケツに入れ、完成した絵を是光に渡す。
「うるせえ、お前だってメガネのセンスが悪いじゃないか」
目つきは生まれつきだが、図星であるがゆえに、少し反論してしまう。
「何を言うか、このメガネは恐山のイタコにまじないをかけてもらった対霊視メガネなのだぞ」
誇らしげにデザイン性に難があるメガネを掲げて見せる少年。
「どうせパチモンだろ、全く、宗教とかにはまるタイプだよな、お前」
「安心したまえ、私は日本神道、八百万以外の信仰はない」
「安心できないぞ、おい、アマテラス何ちゃらって女じゃねーか」
赤城是光、この少年は、生粋の女嫌いである。
「違う、近代日本式の神道ではなく、古代日本式の神道の方だ」
「ええい、違いが分かんねーよ」
「別天津神、そう呼ばれる神達の中で最初に生まれた神を、最高神に位置付けた神道の方だ」
「あ、よくわかんねーからもういいや」
「諦めがいいね、男らしくて何よりだ、是光」
是光は理解しようがないと悟ると、早々に説明を打ち切らせた。
「というか、橘、おまえ、学校はどうした」
「友人が車と正面衝突する事故にあったんだ、
合法的にサボるには絶好の機会だと思わないかい?」
そう少年、橘輝弥は笑って見せる。
それはもう悪人顔で。
「お前本当に橘の宮かよ、絶対詐欺だぜ」
「名門なんてこんなものさ、所詮は人だよ」
外用の仮面を被る輝弥、この笑顔は好意的に見える。
「やっぱり詐欺だ。絶対詐欺だ」
この少年は気付いているのだろうか、輝弥が素で表情を見せるのは是光だけだということに。
「というかサボりを否定しないのか、見た目だけでなく中身も不良とは」
「ふん、何とでも言え」
「やーいやーいこの頑固で悪人面でおまけに不良な女嫌い」
せっかくなので輝弥は遠慮なく言ってやった。
「この、ほんとに好き勝手言いやがって」
「何か反論があるかな?」
「お前と違ってチビじゃない」
ちなみに身長差は十センチ以上ある。
クラスメイト達の中で輝弥は最も身長が小さい。女子を含めて。
「いってくれるじゃあないか。」
とまあ、楽しく談笑していたが、かなりの時間がたったため。
「時間か、ではこれにて帰宅するとしよう、是光、あんまり、無茶するんじゃないぞ」
「わかってるって、ちょっと受け身に失敗しただけだよ」
____帰り道
まったく、何もわかっていないな。
ダンプに衝突して右足と左腕の骨折と内臓系を少し痛めるだけで済んだのは結構な奇跡だ。
それも腕に抱えた子供にかすり傷一つ付けず。
左腕は着地に失敗した時折れたくせしてその左腕で頭撫でるとか。馬鹿だよ。是光。
「だが、是光らしいといえばらしい、かな。」
そう言いながら、私はメガネを弄りながら手ぶらで歩いて帰路についた。
そのころ。
「アイツ、画材片づけたのはいいけど持って帰らなかったぞ。どうすんだコレ」
病室で頭に手を当てる是光は、ちょっぴり頭痛を感じていたのだった。
病室のカーテンが揺れ、棚においてある桜の絵に、窓から入った花びらが落ちた。