輝弥が地球にいた頃   作:虚ろな星屑

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平安学園と皇子の夜。

今日も、あの席に人がいない。

新学期早々どころかその直前に事故ったらしい人は、完全にスタートダッシュに出遅れた。

 

この学校は、お嬢様学校、お坊ちゃま学校だ。

それこそ、この国の経済の行く末を左右するともいわれるほどに。

正直、この国の未来が不安になってくる。

「ねえしってる?あの席の男ってヤンキーらしいよ」

 

「ああ、他校の不良軍団と決闘して入院だって、やべーよな」

 

「俺知ってるぜ、そいつ、伝説のキングオブザヤンキーって話だ」

 

「えー怖ーい、10人半殺しとかしちゃってたりして」

 

「うわ、ありそう」

 

と、まあ、さっきからこんな具合で、どんどん噂に尾ひれがついている。

 

自分のスマホでこの教室の内容と変わらないどころかさらに酷いことになっている、

学園の掲示板を眺めながら、半ば本気で呆れていた。

全く根拠のない、想像だけで描かれる人物像。

この教室と掲示板は、恐ろしいほどにウソや虚飾に塗れている。

言っていることが定期的に変わったり、私でもわかるような矛盾に気付かず進んでいく世間話。

 

入学式の次の日でさえこれなのだから、その不良、アカギとやらが学校に来る頃には一体どうなっていることか。

この国の未来を一通り憂いてから、生産性のまるでない思考を打ち切る。

 

そう言えば、入学式に挨拶をしていた人が休んでいる。

ダサいという言葉がこれ以上なく似合うメガネをかけた。男の人。

こう、いかにもなガリ勉って感じじゃなくて、女装しても違和感がない背恰好。

腰まで伸びた、特徴的な髪の色彩。

でも、不思議な言葉の力を持っていた。

なんだかとても、心に響いて耳に残っている。

 

――学園に入学できたことは、最大の幸運であると思います。

――本当なら今日、違う人が挨拶をする予定だったのですけれど。

――残念ながら事情があり、私が代理を務めます。

 

名前は、何と言ったのだっけか。

級長をしている私の友達、みちるによく似た空気を纏っていた。

どこか懐かしい、どこか、寂しげな雰囲気。

 

そう、橘だ、橘、輝弥といっていた。

 

 

今日も、女の子たちに愛を注ぎながら、彼のことを考える。

昔、未だに昨日のことのように思い出せる。

朝ちゃんの言っていた。しりょぶかい友達。

でも、深く考える賢い人は、もう見つけたから。

だから、勇敢な人でもいいと。

あの夜、ベットの上で神様にお願いした。

皆を助けてくれる、ヒーローのような人。

入学式の前日、交差点で見たあの赤髪の男の子。

 

ぼくは、確信した。

――彼となら、きっと素敵な友達になれる。

入院した彼が、学校に来れるようになったら、絶対言うんだ。

――ねえ、教科書を忘れちゃったんだ、貸してくれないかな。

彼に会いに行く口実を。

 

そして、もう一人のしりょぶかい友達候補について考える。

朝ちゃんはやめておけっていっていたけど、彼はとても興味深い。

社交界では滅多に現れない彼。

あの顔をもっと前面にだせばいいのにとおもうことがあるけど、彼には何か考えがあるのだろう。

ぼくの家に匹敵、或いはそれ以上でさえあるかもしれない高貴な血筋。

この国を陰から支える本物の立役者、影黒柱と称されるその家紋。

もしかすると、日本は彼らがいなければ大変なことになっていたのかもしれない。

気ままに振る舞っているのに、踏み込まれたことさえ気付かせない。

何度も話したけれど、壁を突破することができないから、未だに候補のままだ。

 

彼らはもしやろうと思ったなら、この国の王様にだってなれたはずだ。

今保有しているだろう財産だって、大分低めに見積もったって世界の10指に堂々と入る。

いや、今直ぐにでも、この国を乗っ取ることができるだろう。

彼が動くと、それすなわち世界が動くと同義。

全く末恐ろしくなるけれど、味方であればこれほど心強いものはない。

日本国内のスケールなら確かにそこまでじゃない。

そんじょそこらの資産家には負けないけど。

彼らの本領は国外だ。

 

関連企業は万を超え、そのどれもが良好な経営状況、その上で汚点が目立たない。

ある程度の法なら、豊富な外交チャンネルですぐにでも法律として成立させられる。

その莫大な影響力を傍目からは全くうかがわせない情報操作能力が最も恐ろしい。

 

そして、そんなものよりよっぽど価値あるあの頭脳。

もし、名家の基盤がなかったとして、彼はきっと名を馳せている。

 

ああ、彼のことを考えるだけでこんなに楽しい。

今夜はいい夢が見れそうだ。

きっといつか……

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