守りたいんだ   作:未完

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始まりの日4

 「屋上?なら鍵を閉めて!絶対誰も入れないで!!職員室はもう」

何かが割れる音とともに電話は途切れた。とても切迫した様子の電話。ただ事じゃないことだけはわかった。一体何が起きたというのか。

(職員室はもう…ってどういうこと?)

まさか泥棒でも入ってきたのか。そして職員室が襲われた…いや、でもそんな放送はなかった。だったらもっと別の何かが入ってきたのか。

ドンドンッ

いきなりドアがものすごい勢いで叩かれた。今はもう放課後で、部活も終わり始めるこの時間に一体誰が来るというのか。園芸部員?先生?

「はーい、今開けるよー」

丈槍さんがドアを開けようとする。ドアは勢い良く叩かれ続けている。とても切迫している感じだった。そう、それはまるで、さっきの…

”絶対に誰もいれないで!”

「待って!丈槍さん!」

神山先生の言葉が頭のなかで響いた。いきなり止められた彼女は不思議そうな目でこちらを見る。そこで、勢いで止めてしまい根拠がはっきりとしないことに気づく。なんとなくなんて言えない。悩んだ挙句ひねり出した答え。

「私が、開けるわ。」

出てきた言葉は理由になっていない。教師としてどうなのだろうか。そんなことより今はこっちだ。ドアに寄り耳をつける。一体誰が来たの?

「…けて。誰か開けて!」

ドアの向こうから聞こえてくるその声に聞き覚えがあった。それは、さっき相談をしてくれた彼女の声だった。急いで鍵を解きドアを開く。屋上へと出てきたのは二人の女子生徒、片方は腕に怪我をしてもう一人に背負われている。結構ひどい怪我だった。

「恵比寿沢さん!?」

普段あまり見ることのない血液のどす黒さにぞっとした。彼女は怪我をしたもう一人の女子生徒をフェンスによりかからせた。

「先生!この子怪我してます保健室に…」

「駄目だ!ここから動くな!」

若狭さんの言葉を遮るように恵比寿沢さんが強く言い放った。彼女は立ち上がると私の方を向いた。その目は何か決心していた。

「めぐねぇ、あの子頼んだ。」

そう言って彼女は走りだした、向かう先は屋上から出るあのドア。あのドアの先は下りる他に道はない。ここを動くなといった彼女が真っ先に下へ向かっている。訳がわからなかったが、駄目だきっと今彼女を行かしてはいけない。

「恵比寿沢さん、どこへ、行くの?」

彼女は立ち止まる。だが、質問にたいして返ってきたのは返答では無かった。

「次に、ここへ来るのが私たちじゃなかったら絶対にドアをあけないでくれ。」

「あ!待って!恵比寿沢さ…」

パタンと思い鉄の扉が閉まった。私の制止の声を振りきって彼女はドアの向こうへ行ってしまった。言い残していったあの言葉は一体何を意味しているのか。

「なに、あれ」

グラウンドの方を見ていた丈槍さんがそう呟いた。私はドアの方を一瞥してから、一体何に対してそう言ったのか確認するため彼女のところに向かう。彼女の微動だにしない目線の先はグラウンドの方を向いていた。私もそちらの方を見る。そして、グラウンドの光景を目の当たりにした私は思わず唾を呑んだ。母からのメールについていた動画が目の前の光景と一致する。生徒数人が一人の生徒を囲んで何かしている。それが一つだけでは無く、夕焼けで赤く染まったグラウンドの至る所でその暴動が繰り広げられていた。

「めぐねぇ、あれ、何?」

丈槍さんが言葉を詰まらせながら聞いてきた。その目は何かを受け入れることを拒否しているようだった。

「恵比寿沢さんっ!」

下に降りていった彼女のことが頭をよぎる。今行けばまだ連れ戻せるかもしれない。ドアへと駆け寄ろうとした。

「めぐねぇ!駄目!」

今度は私が止められた。足を止める。珍しく強い声を出した彼女の顔を見る。

「行かないで」

その顔は今にも泣き崩れそうだった。

「丈槍さん…」

今彼女を無視して行ったら彼女は壊れてしまうんじゃないだろうか。そう思えるほど今の彼女はか細かった。

「先生、今、行くべきではないと思います。」

若狭さんにまで言われてしまった。生徒に止めれられていては教師失格ではないか。今私がするべきことをしよう。

「……わかった、わ。」

恵比寿沢さんは絶対に戻ってくる。そう信じる。信じることも今すべきことの一つな気がした。

 

 

 

 

 

 奴らの魔の手がこちらに伸びてくる。俺はそれを鉄パイプでうち飛ばし、その魔手の持ち主を蹴飛ばす。これで距離が離れたと思うのもつかぬ間、別のやつがのそりと立ち上がり俺に襲いかかってきた。また鉄パイプを使ってなぎ倒す。さっきからこの繰り返しだいくらやってもきりがない。倒しても倒しても立ち上がってくる。腕を、足を折っても。おまけに下から上がってきたのか、だんだんと奴らの数が増えている気がする。それに対し、こちらは疲労がだんだんと蓄積してそろそろ限界が見え始めていた。

(これじゃジリ貧だ。)

だが、まだ諦めてたまるものか。あいつと約束したんだ、後で屋上会おうと。約束を破ったら先輩としての威厳がないでわないか。大事な後輩との約束を守るため、そのために何か手は無いか、なにか使えるものはないか周りを見渡した。床、壁、手すり。くそったれ、何もない。ここは階段、しかも屋上へとつながる所なのでただでさえ人通りが少ない。そこに何か都合よく落ちているわけがない。せいぜいあるのは、くだらない落書きくらいなものだった。まわりは駄目なら手元のものはどうだ。携帯、愛車の鍵、財布、腕時計。…まてよ、さっきのあれが、もしそういうことだとしたら。その時、希望が見えた。うまく行けば奴らを出し抜いて後輩たちの元へ迎える。半分は賭けだ。

(やるだけ、やるしか無い!)

もう一度気合を入れなおした俺は、気合一閃、鉄パイプを振り回して周りの奴らをなぎ倒す。これで一瞬だが時間ができた。その間にポケットから携帯を取り出し、一瞬で操作を終わらせる。そして、その携帯を奴らの向こう側に投げた。コトっと落ちたそれは、シリコンケースに包まれているので、そうそうは壊れない。そして、その後携帯から大音量で音楽が流れだした。

(思ったとおりだ。)

奴らは携帯に、いや、携帯からなりだしている音に寄っていった。さっき、後輩の女子を助けるときに出来た隙はきっと別の場所から聞こえた悲鳴、音に反応したのだろう。今なら隙だらけだ。この間に屋上までいってしまえば問題ない。これで約束を守ることができる。奴らに背を向け後輩たちの元へつながる階段を登ろうと走りだした。だが、気が抜けた俺は文字通り足元をすくわれる。

ガシッ

右足が止まった。何が起きたかわからなかった。俺は体勢を崩し、そして、

宙を舞った。

はっ?

迫り来る硬い床。打ち付ける腕、背中。あまりに突然のことで受け身などとりようもない。激痛が走る、はずが、脳はそれを認識する余裕もないほど混乱していた。足、掴まれ、飛ん…

俺は、投げられたのか?

だんだんとわかってくる。俺は奴らに足を捕まれそして投げられた。だが、俺は別段特別体重が軽いわけでもない。人一人を片腕だけで投げる、そんなことは常人には不可能。奴らにそんな規格外の力があるとは想定外だった。視界が奴らのただれた肌に覆われ始める。落ちた場所は彼らの中。駄目だ、目の前が真っ暗になった。もう、何もできない。パイプを握っていた腕はもう動かないし、奴らの気を引く道具はもう無い。俺は、きっと、確実にここで、死ぬ。

諦めるとともに目をとじた。耳からはシュウシュウと汚い音が聞こえる。脳裏に少し生意気だった後輩の笑顔が映った。

(結局、約束守れなかったな…)

奴らに覆われ、だんだんと視界が黒に染まってゆく。まるで地獄に落ちていっているようだった。

 

 

「先輩!目閉じろ!」

 

 

声が階段に響き渡った。ここには俺以外ここには居ないはずなのに。その声には当然聞き覚えがあった。直後に何かを勢い良く噴射する音がした。だんだんと視界が明るくなってゆく。

「先輩!早くこっちへ!」

声の方を見るため体を起こし、目をゆっくりと開いていく、そこには消火器を片手に持って、こちらに手を差し出している、

「これで、貸し借りは無しってことで。」

俺の自慢の後輩が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッドンッ

再びドアが叩かれた。一気に緊張が高まった。さっきと同じようにドアへ近づいて耳を当てる。出て行った彼女であることを願いながら。

「めぐねぇ!私だ!早く開けて!」

私は素早く鍵を解きドアを開いた。彼女はまた誰かを背負っていた。

「早く閉めて!」

言われたとおりすぐに鍵をかけた。

「恵比寿沢さん、無事でよかった…」

思わず涙まで出そうになった。ぎりぎりでこらえる。

「めぐねぇ、悪い。心配かけた。」

すこしバツが悪そうな顔をする恵比寿沢さん。でも、戻ってきてくれただけでありがたい。少しだけ心の重荷がとれた気がした。彼女は背負っていた男性から離れ、気絶している女子生徒の隣に座り、大きく息をはいた。

かなり疲れているようだった

「あなたは…先生ですか?」

と彼女の背負っていた男子から声をかけられた。右腕を抱えている。

「はい、そうですけど。あなたは…」

「私の部活の先輩だ。」

代わりに恵比寿沢さんが応えた。なるほど、そういうことか…これでさっきの彼女の行動に合点がいった。

「神崎です。先生、今すぐ何かドアの前に置いてください。今手が使えないんで。できるだけ大きい奴を。」

「え、どうして…」

「奴らがそのうち来ます。」

奴等とは?と聞く前に、再びドアが叩かれ始めた。今度のはさっきと違う。不規則で、また複数人が叩いている。その音は何か狂気じみたものを感じさせた。そして、まもなくドアの小さい小窓が勢いよく割れ、中から無数の手が出てきた。それは、あまりにも人の手とは遠く、不気味だった。

「きゃああ!」

「くそ、来やがった!」

丈槍さんが恐怖に怯える。何?あの手は一体何?

「先生早く!」

放心して、動かなくなっていた私を神崎さんが叱咤した。はっとした私は周りを見渡した。何か置くもの、そうだ園芸部のロッカーを。なんとか持ち上げドアの前に置いた。そしてドアの方に押していく。

「きゃっ!」

だが、すごい力で押し返され危うく倒れそうになる。だが、途中でその力が弱まった。否、こちらの力が強まった。

「手伝います。」

神崎さんが左肩でロッカーにもたれかかるように押さえた。心強い。でも、それでもまだ押されぎみだった。

「丈槍さん!若狭さん!そっちの洗濯機を、こっちに押して!」

「はい!」

つかれていた恵比寿沢さんを除いた二人に手伝ってもらう。これで抑えきれなかったら、そう考えるとぞっとした。私達は精一杯ドアを抑え続けた。

当然フェンスに寄りかり休んでいた二人の様子など気にする余裕など無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私も手伝わないと。みんなが奴らを抑えこむために頑張っている。先輩なんてあんな怪我をしているのにだ。私も何か、そう思って立ち上がった。そして、それに釣られるように彼女も立ち上がった。

「おまえ、気がついて…」

彼女とは陸上部の仲間であった。先輩が奴らに囲まれていたのを助けたらしい。大事がなくてよかった。そうだ彼女にも手伝ってもらおう。そうすればより確実に奴らの侵入を抑えられるのではないだろうか。いきないり彼女はこちらに手を伸ばしてきた。一体どうしたのだろうか。

「恵比寿沢さん!」

めぐねぇが私を呼んだ。そうだ、行かないと。

「あっ」

突然押し飛ばされた。痛い。

「いきなり、何を…」

「胡桃、逃げろ!」

先輩が切羽詰った声で私に呼びかけた。そいつ、誰から?だって彼女は普通の…私は顔をあげた。そして彼女の顔を見る。

「あ、ぁ…」

私は声にならない声をだした。見上げた彼女は部活でともに汗を流した、楽しく話をした彼女ではなかった。さっきめぐねぇが手当したであろう腕は、ただれた肌で覆われていた。腰が抜け、足が震える。また脳が現実を拒否している。今日で、一体何度目だ。

「早くそいつから離れろ!」

先輩の声が直接入ってこない。どこか遠くの声みたいだ。

グゴァ

彼女が私に襲いかかる。

「あぁーーー!」

私は目を塞いで絶叫して腕を振るった。逃げるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃の顔が赤く染まった。人ではないものは動きを止めた。どさりと倒れる。血がコンクリートの床に染み渡ってゆく。胡桃は無言で立ち上がった。そして、シャベルを持ち直し、持ち上げたそれを横たわる肢体に何度も、何度も、何度も…

沈黙が支配したこの空間を誰かが走りだした。走りだした人物はそのまま脇から胡桃に抱きついた。そして、抱きついた女子はそこで泣きだしてしまった。カランという乾いた音とともにシャベルが胡桃の手から落ちた。そのまま彼女たちは座り込んだ。

「馬鹿だな…なんで、お前が、泣くんだよ。」

胡桃の頬を雫が伝った。俺は彼女に何も声をかけられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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