例えば、こんな、あぽくりふぁ ~なんだかしょっぱい冬木の戦争のようです~   作:たんぺい

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八話:アーチャーの男のブルースはしょっぱい味がする…

さて、アーチャーがバーサーカーを討った後に話を進めよう。

 

 

下手人の三神環と三神剣八はそれは見事なデンプシーロールをその場にいた全員に叩き込まれた後、簀巻きにされた。

顔が変形するぐらい殴られて、奥歯も欠けたとか欠けなかったとか。

奇跡的に人的被害0で終結した聖杯戦争とは言え…被害自体は馬鹿にならなかったのだから。

お家断絶は無かろうが、とりあえず魔術に二度と関わらせないようにセルフギアス…自己誓約の文面を書かせて、街の修復に一生でも捧げさせるとは…竹内の言だった。

 

さて、そんなおり、アーチャーから話があると切り出された。

曰く、ここでお別れだ…と。

そうして、アーチャーは次のように言った。

 

 

「これで…俺達は使命を果たした、俺はこれから、マスターとは別行動を取らせてもらう…令呪で縛ろうと、全力で抵抗させてもらう」

 

何故か…と皆が聞く中で、アーチャーは笑って返した。

コレが、俺の通せる筋だと。

更にこう言った。

 

「俺のマスターはまだガキだ、男の意地(ロマン)の戦いに巻き込んで良い年齢ではない…

だから、単独行動とやらがある俺が一人でこれから聖杯戦争を続けよう。

それが、男のブルースと言う物だ、これから貴様らに刃を向ける者のケジメだ」

 

 

鏡助がアーチャー!と叫び、皆もアーチャーの事をどうしよう…と、思案した。

 

彼の言い分はわからなくはない、今まで仲良く戦っていた人間と戦う、そんな汚い戦いに子供を巻き込むのは…確かに『保安官』としての側面が強く出たアーチャーには嫌だろう。

 

だがしかし、それではアーチャーには勝ち筋は一切無くなるのも、また事実だった。

ただでさえセイバー組やキャスター組に必殺技の宝具を向けたら死ぬ…そう言う風に自分を縛りつけているセルフギアスを出しているのに、マスターから離れ令呪による補助すら無くなれば…

誰にもわかる、遠からず訪れるのは、破滅だ。

 

皆がそれで良いのか…と聞く中で、セイバーが不意に、アーチャーに質問した。

貴方の願いって何ですか?と。

 

アーチャーは、少し困ったような表情でセイバーの顔を見て、それから己の願いを語り出した。

 

「俺は…犯罪に『巻き込まれて』死ぬやつが、見ていて許せなかった…

例えば、復讐で殺すならわかる、決闘なら喜んで受けよう。激情に任せた一時の怒りの殺人すらそれならそれで許せるさ…」

 

そういって、アーチャーはひと息つくと瞳を閉じて思い返す。

親父の仇だと泣きながら火炎瓶を片手に走り出す青年、度胸だめしの様に日夜撃ち合い血を流す『決闘』。

或いはナイフで脅し金目のものを狙う強盗団の暴走。

 

…その裏で泣く者達の顔。

 

「だが、その戦いの流れ弾に当たるヤツは何をした?何の非がある?そこに…どこに『男の世界』が有るという?

…戦いの巻き添えを食って死ぬヤツは何時だって一定数いるだろう…だから、少しでも犯罪が減るように、そう願ったのさ」

 

そうやって、バイタリティーと言えば聞こえが良いが単なる悪意や殺意の嵐。

それに巻き込まれて無念のまま傷付き死んでいく善良な人々。

無関係に夫を失う妻、母を攫われる子供達。

其れ等に何の非があるのか、何の罪があってこんな目に合わされるのか。

 

 

そう、アーチャー…パットの願いは純粋だった。

『少年王』を殺してまで時代を終わらせた男の、叫びだったのだ。

意志の関わらぬ、流れ弾による痛み…それを誰よりも見た男の、祈りだった。

 

そのアーチャーの言葉を聞いたセイバーは、意を決したかのように言った。

…なら、こんなくだらない聖杯戦争は終わりです、と。

そして、彼女はこう言った。

 

「私…こんな人を斬るのは、無理です、できません…

だって、私は自分の事しか考えてなかったのに、アーチャーはこんなに、世界の正義を守る事を祈っている。

キャスターもそうです、異人さんなのに皆の幸せだって考えて、こんなに優しい…そんな人に刃を向けたらそれだけで負けなんです、人として…だから…」

 

 

…自害を命じてください、マスター。

セイバーはマスターに告げた。

 

 

山本は、何を馬鹿な事を…と、言おうとして…それは口に出なかった。

きっとセイバーは本気なのだろうから。

それを説得するのは、きっと野暮なんだろう。

…そして、アーチャーとキャスターは願いがほぼ一致している、確かにセイバーが消えたら聖杯戦争が終わるだろうとも、山本は予想がついた。

 

それから…山本はセイバーに確認するかのように聞いた。

…やり残した事は無いか、楽しかったか、本当に令呪で自害を命じて良いのか、と。

 

セイバーは一つずつ答える。

…映画、あんまり見れなかったのが残念だった。

…まあ、二度目の現世巡りにしたら、一泊二日遊べただけで充分だった。

…実はお腹斬ったことがないから、自分でやるのは怖い…マスターに背負わせてごめんなさい、と。

 

そして…山本が令呪を使って自害を命じようとした、まさにその時、アーチャーが口を挟んだ。

 

 

「おいおい…日本の壬生の狼様は敵前逃亡が趣味だとは、知らなかったぜ」

 

そんな軽口を叩きながら、拳銃を構えてセイバーの目の前に立っていた。

横には…怒ったような表情の、キャスターも居た。

 

「我が輩も、アーチャー…パットと同意見である!見損なったぞセイバー!敵が目の前に居るのに自殺するとは、サムライはそんな意気地なしとはな!

悪いが我が輩は失望したわ!アーチャーに付かせてもらう!」

 

そんな事を言いながら。

 

 

セイバーは一瞬目を丸くした後、仕方ないですね…と、一言呟く。

そして、アーチャーへの無抵抗を示すかのように刀を納め、そのまま微動だにせず…そして言った。

…やりなさい、と。

 

アーチャーとキャスターはそれを聞き…そして、元よりそのつもりだ!と返すと…アーチャーはキャスターへと拳銃を向ける。

何事かと、全員が驚く中で…二人はそれぞれ叫んだ。

 

 

「やれい!パット…臣下(マイ・フレンド)!」

「…すまない、ジョシュア!『歴史を終わらせる銃弾(ラスト・パニッシュメント)』!」

 

え…と、セイバーどころか全員が彼らを見る。

 

キャスターはアーチャーの死の呪いを受けて倒れ、アーチャーは誓約違反のペナルティで…全身の穴と言う穴から血や体液を吹き出して倒れる。

 

慌ててセイバーが彼等に駆け寄り、何をバカな事を…と、叱るように言った。

だが、2人とも苦笑いで返すだけだ。

 

そして…振り絞るかのように、アーチャーは言った。

 

 

「…予定が、早まっただけだよ、セイバー…」

「よ、予定って、どういう事ですか!?」

「…俺達は、元々…お前みたいな、若いやつに俺達の祈りを託せれば…それで良かった…

だから、こっそりと…ジョシュアをヤツの宝具…プルトーだったか、ヤツを介して示し合わせたのさ…俺たちがアサシンとバーサーカーに勝ったら、優勝はセイバーに譲ってやる…と…」

 

そ、そんな…と、セイバーが絶句する中で、アーチャーはこう、最後にしめた。

 

「…それに、男は若い女の涙には…金の誘惑以上に勝てねえ……」

 

 

セイバーは、泣きながらアーチャーへ謝る。

ごめんなさい、私なんかの為にそこまでさせて…それに、自分は本当は貴方より年上かも知れないのに…私のわがままばっかり…と。

 

アーチャーは、苦笑いで返すだけだった。

…年上は嫌いじゃないが、おばあちゃんとは知らなんだ、化粧とアンチエイジングにだまされたぜ、と。

 

そこに、キャスターがいきなり割り込んできた。

曰く、こう言った話だった。

 

「マスター…済まんが、最後の令呪で我が輩の宝具を出すよう命じてくれんか…アーチャーの宝具が思った以上に強すぎてな…意識をこれ以上保てんかも知れん……最後に、我が友に、我が輩が愛した世界を見せてあげたい…」

 

竹内は…ここまでの流れに呆然とするしか無かったが、キャスターの言葉を受けて気合いを入れ直す。

そして、最後に残った令呪で命令をする。 

 

「…令呪を持って命ずる!『宝具を開帳せよ、キャスター』!」

 

 

それから、辺りは…例の街へと姿を変える。

 

せわしなく、そして楽しそうに生きる人たち。

美しく、しかし雑多な街。

開かれているが、しかしまだ残してある自然の名残。

古き良き、アメリカの街だった。

 

そこには、2人の男の声だけが、木霊した。

 

 

…なかなか、面白かったであるな、パット

…そうだな、まあ悪くは無かったぜ、ジョシュア

 

…我が輩の街、気に入ったかの?

…もとより貴様のものでも有るまいが、俺の故郷より平和で良いさ

 

…お互い生まれ変わったら、我が臣下になってくれぬか?

…臣下は嫌だが、酒飲み仲間ぐらいなら悪くはない

 

…彼らは、マスター達は幸せになってくれるかのう?

…それはヤツら自身に任せようぜ、俺達の願いも託してな

 

 

そして、2人の会話は途切れ、アメリカの街…キャスターの宝具ごと全てが虚空へと消える。

そして…後には、セイバーだけが残された。

 

「マスター…しょっぱいです、私の口の中が…しょっぱいですよぅ!…う、うわぁぁん!」

 

『最終勝者』…セイバーは、まるで敗者のように泣いていた。

…これが、男の哀歌(ブルース)か、と山本が呟く。

 

 

そして、虚空から、カップのような魔力の塊…聖杯が現れた。

そうして…この戦いは、わずか二日で幕を閉じたのであった…。

 

 

 

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