例えば、こんな、あぽくりふぁ ~なんだかしょっぱい冬木の戦争のようです~ 作:たんぺい
…聖杯戦争は、終わった。
セイバーがただ1人残ると言う、寂寥感の残る『勝利』を以て。
だが、最終勝者たるセイバーは、何も願わなかった。
否、願えなかった。
彼女の胸には、2人の…『愛』の化身のような男と、『正義』の化身のような男の2人の魂がそのまま胸に渦巻くばかりだった。
…そして、自分1人だけ幸せになって良いのか、それとも、別な誰かを幸せにするべきなのか。
その答えを出すことは、彼女にはできなかったのだ。
…アーチャーとキャスター、パットとジョシュアの願いをそのまま言うのも、それはそれで違う気がした。
きっと…それはそれで、とても失礼な気がしたからだ。
そのセイバーの姿を見て、不意に山本が声をかける。
…まだ、令呪は2角残ってあるな、と。
何事かと慌てるセイバーに向かって、山本はこう言った。
「令呪1角…いや、残してある令呪全てを以て祈りとする!『セイバー、お前が一番笑顔で2人へ…そしてお前が大事に思う全ての者へと返せる祈りを聖杯に捧げよ』!」
え…と、言ったセイバーを笑いながら山本は宥めるように言った。
…困った家臣(サーヴァント)の背中を押すのは、主人(マスター)の勤めだからな!…と。
セイバーは泣きながら、ありがとうございますマスター!と山本に返した。
そして、セイバー…永倉新八は聖杯に祈る。
その祈りには…誰も異存は無かった。
山本も竹内も三神家の全てすら、も。
そして…
半年後、景都市
「キリキリ働けえ!まだまだ街は穴だらけ、俺たちのロードはこれからだぁ!」
「…待てえ!そもそもお前のせいだろ!」
「海野君も兄ちゃんも喧嘩するなぁ!殺されないだけありがたいんだからぁ!」
街を破壊してめちゃくちゃにした海野、そして黒幕の2人の剣八と環は…命を取らない事を条件に、街の修復の為に延々ボランティアに駆り出されていた。
ボランティア強要とは別に、『魔術に一生関わらない』、ペナルティは魔術師として致命傷なこんな自己誓約を書かされたが…まあ仕方ないと全員割り切った。
そして…
「街の美化清掃に交通整理!まだまだボランティアが俺たちを待ってるぞぉぉ!」
「だ…誰かぁ!」
「助けてぇぇ!」
ボランティアに目覚めた海野に2人の大人が引きずられていく…。
これも、街の新たな名物の一つになっていった。
「…馬鹿がまた、馬鹿やってるわね」
竹内がそんな様子を、自分の敷地で、屋敷の窓から眺めていた。
実に冷めた目で…そして…
「お兄ちゃんとお姉ちゃんも…まあ、頑張ってるから、そんな酷いこと言わないであげてください」
「あらあら、鏡助君がそう言うなら、撤回するわ…ごめんなさいね」
「そうですね、ありがとうございます美香さん…ところで、僕をそろそろ膝から下ろしてください」
鏡助は何故か竹内の膝に乗せられながら。
あれから、文字通り、修復費を完全負担と魔術師として永久追放と言う形で素寒貧になった三神家。
そんな彼等を受け入れたのは、竹内であった。
彼女曰わく…あんたら馬鹿2人は助ける義理は無いけど鏡助君は別だから、鏡助君の保護を兼ねてかくまってあげる…あんたら2人は一生下僕だけどね!と。
そして、右に左にとボランティアに走る剣八と環を顎で使う中…鏡助は、それはそれは弟のように可愛がっていたと言う。
「ふへへ……生意気盛り素直ショタええわぁ……!」
「助けてぇぇ!お兄ちゃん!お姉ちゃん!アーチャァァァァ!」
…そして、竹内はそんな日々を過ごす内にこじらせたとかそうじゃない、とか。
そして、我らの主人公の山本は、と言えば…とある街の映画館に来ていた。
タイトルには、『ドラゴン・スレイヤーズ』と書かれていた。
その内容は、『新撰組の一人の生き残りが異国に渡り、現地の「保安官」と「皇帝」をお供に、悪の「海賊」や「中国武人」や「ライバル暗殺者のサムライ」を幹部に据えた「邪龍」と闘う』と言う、なんともカオスの匂いしかしなかったものだ。
案の定、B級どころかZ級のキワモノ扱いしかされてない映画だったが、山本はそれはそれは楽しく鑑賞したと言う。
そして、一言呟く…良かったな、セイバー…と。
…そう、あの時のセイバーは受肉を望んだ。
そして、こう言ったのだ。
「私…わがままで悪いですけど、受肉して!映画を作って…映画って形で、みんなに伝えたいのです!キャスターやアーチャー…ううん、私が今まで出会ったみんなの事を、ちょっとずつでも!伝えて、そして…皆を笑顔にしたいんです!!」
良い願いだなと、あの時にいた者達は…そう思った。
そして、件の映画を見終わった山本は、一言だけ呟いた。
「俺は…これからも魔術師として日陰の宵闇をわたり続けるさ、だから…お前はまだまだこれから、日が当たり続ける世界に向かって走りつづけろ!銀幕デビューしたてのまだまだ演技力のしょっぱい俺のセイバー!!」
…了解です、マスター!と言う屈託のない声が、どこかで響いた気がした…
「ヒャッハー!『例えば、こんな、あぽくりふぁ』…完だぜぇぇぇぇ!汚物は消毒だァァ!」
「…って、私じゃなくてあんたがしめるんですかぁぁぁ?!」