例えば、こんな、あぽくりふぁ ~なんだかしょっぱい冬木の戦争のようです~ 作:たんぺい
山本猛(やまもと・たける)。
日本に住む土着魔術師の1人であり、この話の主人公である。
彼は、それこそ間桐などと言った大それたレベルの魔術師ではない。
陰陽師…安倍晴明の血を引くとか引かないとかの家の、その傍流の傍流と言って良い。
つまり、彼自身は一山いくらと言うレベルではない三流魔術師である。
つまり、魔術師で、それだけでおまんまを食べる事は出来ない。
そのため、国と契約し、アポクリファ時空における、ある後始末をメインに活躍していた。
聖杯戦争、聖杯にたまる魔力自体は死んだ英霊から『落ちて』貯まるのだが、英霊を座から呼び英霊を聖杯でフォローする魔力は地脈に存在する魔力から引っ張ってくる。
つまり、その魔力は土地から無理やり吸い上げて来てるため、聖杯戦争が終われば、その地の魔力はめちゃくちゃになってしまう。
それを鎮める…陰陽師らしい、彼の家伝の魔術で後始末を行って、報酬を得ていたのだ。
しかし、今回…山本に誤算が2つあった。
1つは「聖杯戦争が始まる直前」に来てしまった事…まあ、これ自体は別におかしな話ではない。
が、もう一つがひどかった。
今回の聖杯戦争、術式がめちゃくちゃだったのだ。
これに関しては…後から説明しなくてはいけないので、置いといておく。
そのせいで、英霊の召喚の呪文無しで、勝手に触媒足りうるモノを持っている魔術師や魔力持ちの人間から英霊が勝手に呼び出され、令呪も勝手に付与されてしまう…ある種の災害だった。
そして、山本はそれに巻き込まれてしまった。
何せ、お札に術式が書かれた祈祷具、あるいは…家伝の宝刀。
いくらでも、触媒足りうるモノを持ち歩いていたのだから。
「…で、キミが呼び出されました、と」
「はい…あの、あんまりジロジロ見られても困ります…」
山本は、呼び出された『英霊』に向かって質問する。
呼び出された側は、少しならず恥ずかしがっていた。
それはそうだろう、呼び出されたその英霊は…十代後半から二十代前半ぐらいの、女の子だったのだから。
山本…26歳の男に舐める様に見られたら、それは嫌になるだろう。
だが、山本に非が有るかと言ったら、多分それは違う。
呼び出された女の子、確かにポニーテールの美人で色白で、と美しさは目を引くが、それ以上に格好がアレだった…。
白と浅黄色のだんだらの衣装。
鉢巻に日本刀と言う武士らしい格好…二降り目の刀が脇差しではなく長脇差しをしている辺り、彼女が生きた時代が幕末と容易に判断が付く。
そして、触媒になってしまったのが『刀』…まあ、だいたいそれで予想がつかない日本人はいないだろう。
「『新撰組』…女の子が居るとは、知らなかった…」
山本はぽつりと漏らす。
それはそうだろう、日本の剣客集団の中で、もっとも有名なチームなのだから。
その中で女の子が居る…それは、誰でもいやらしい意味が一切無く、ジロジロ見るだろう。
…なお…
「はう…すみません、うちは本当は男は近藤さんと土方さんだけです」
「ええええええええ!?」
「土方さんカッコ良くて私たち剣に自信ある女の子がいっぱい来たら、いつの間にかこうなって…男みたいな名前もだいたいみんな偽名でした…」
「嘘だろぉぉぉぉぉぉ!?」
凄い爆弾発言が飛び出したのは、まあ余談として書いておこう。
さて、山本は一通り白目を向いて絶叫した後は、彼女の事について聞いてみる事にした。
…キミは何者なのか、と。
「はい!私は『セイバー』で呼ばれました…真名は…まだちょっと…」
クラス以上の事は教えない、それが彼女の答えだった。
とは言え、彼女がケチとかではない。
英霊の真名、それは正体がばれると言う事に直結する。
例えば…ギリシャ神話のオリオンなら蠍、北欧神話(戯曲だとニーベンゲルグの指輪)ならシグルドことジークフリートなら菩提樹の葉の跡など、即死に繋がってしまう弱点のある英霊も少なく無い。
レベルの低い英霊なら、それを警戒するのは、まあやむなしと言える。
最優、『セイバー』で呼ばれた英霊だとしても、それは仕方ない。
「剣」と言う名のごとく、剣士の英霊以上の情報は初手で出せません、彼女はそう言っている。
まあ、山本もアサシンかセイバーだろうとは思ってたので、そこはまあ良いぐらいには思っていた。
とは言え…
「キミ、名前隠す必要ある?格好が7割ぐらい答えじゃ…」
「はう…ですよね……」
まあ、格好がもう答えとしか言えない、そんなお話である。
そこで彼女は聞いた、何なら私の名前を当ててみて、と。
「……うーん、沖田総司って言うには元気そうだし…原田左之介や島田魁って言うにはちっちゃいし…キミ、左手の突きとか得意?」
「いえ、それは友達の特技です」
「斎藤一はハズレ…ってか、キミはそもそも幹部クラスかい?平隊士とかだったら流石に…」
「ちゃんと組長だって勤めましたよ!」
「…ふむ、武田観柳齋…は、セイバーじゃ出ないだろうし、谷…いやあの人はランサーのが適正高かったような…あれ?本当に誰だい!」
山本の言葉に、どんどん彼女…セイバーの元気はなくなっていく。
怒ってるような、それでいて泣きそうな…そんな顔だ。
ついにセイバーは怒気を孕んだ口調でこう言った
「わ、私…これでも新撰組最強なんです!最強なんですよ…なのに酷いです……」
「最強……あー!そうだ、忘れてた!」
セイバーの言葉に、ようやく『答え』が見えた山本…
そう、彼女こそ、新撰組最強の一角と謡われ、幕末の動乱も生き延び明治の世を天寿を全うした凄腕の幹部格…新撰組二番隊組長……
「キミは、『永倉新八』か!」
「…あたりです、酷いですよマスターさん…」
そう、新撰組で沖田と斎藤に並ぶ最強の剣豪、それが彼女だったのだ。
「…でも、なんか地味だわ」
「ちょ、酷いです!やっぱりマスターさん最低です!」
地味扱いされてるが。
…なお、永倉新八は強い強いと言われて結構性格もまともな方なのだが、『なんか地味』と言うか、半端にスポットが当たりにくい人としても知られている。
まあ、わりと近藤とキャラが被りやすい上に近藤と反発してしまったせいで、あまり日の光を浴びにくいのかも知れない。
某漫画では、新撰組モチーフの組織のキャラではなく主人公側のキャラの元ネタにされてしまったが故に、
元ネタが新撰組と知られてない可能性があるのも追記しておく…メガネ呼ばわりされるアイツである。
さて、セイバーの正体は把握した山本は彼女に願いを聞いた。
何せ山本はあくまでも戦後の報酬が目当て、次点で戦争の早期鎮圧が目標。
…願いらしい願いは、現状無いし、まあ容量が余れば金品でなんかもらえたら良いかな程度にしか考えていなかったのだから。
そこで、セイバー…永倉新八は思案するような表情をした後、顔を真っ赤にしながらこう切り出した。
「『受肉』…いえ、現世に留まれれば維持で構いません…」
受肉…ある種の奇跡の1つである。
英霊の死者蘇生、そういった話になるのだから。
まあ、魂は聖杯に引っ張られて来てるので、肉体の構成自体は比較的楽ではあるのだが。
そんな奇跡を願うセイバーに、山本は受肉後の展望…少なくとも維持を願うならどうするかと言う事を、彼女に聞いてみた。
「受肉…魔力での肉体付与、2度目の生を得て何がしたいのさ?」
「え…え……映画に出たいんです!出来れば私が主役の!」
…そういえば、永倉新八って映画キチでも有名だったっけ?
山本は呆れたような表情でその願いを把握した。
…やっぱり今回の聖杯戦争はしょっぱいわ、と。
だが、世界を不幸にもできる聖杯戦争の聖杯の願望で、こんな平和な願いを祈る彼女を…山本は少し、信頼していた。
そんなおり、いきなり爆音が周囲に響く。
何事かと山本とセイバーは音のする方向を見る。
…そこには、なんと…
「な、何ですか!?あのでっかい船!」
「海賊船……街中を走ってる?!」
巨大な海賊船が、大砲を向けながら突進してきたのだった…