例えば、こんな、あぽくりふぁ ~なんだかしょっぱい冬木の戦争のようです~ 作:たんぺい
ひゃ~はっは!そんな下品かつ小物臭い笑い声をあげている少年がいる。
彼は海野山彦(うみの・やまひこ)。
中学生3年生…只今絶賛中二病。
自分は他の人より優れた男であり、他の奴らとは格が違うと周囲を見下している…
まあ、若いヤツが中学生から高校生1年ぐらいまでかかる、はしかのようなアレだ。
とは言え、彼の場合…妄想ではなく、彼なりの根拠があった。
微弱ではあるが、魔力があったのだ。
いわゆる予知夢と言うと正解なのだろうか。
彼は、夢の中でみたものを元に、未来を当てる…そんな異能を持っていた。
例えば、誰それが何をした…それだけの情報を得るだけで、対人関係はスムーズにいくだろう。
あるいは、何事がいつ起きるか…それだけの情報で利益はいくらでも得ることができる。
つまり、彼は…学校どころか、街の一般人の中では最強だった。
そういった才能は、彼を増長させていたのだ。
そして、今回の事件の際に彼がたまたま持っていた御守りを触媒に…英霊が現れた。
とは言え、御守り自体はきっかけと言うか、ただの楔でしかない。
いわゆる「縁召喚」…血縁や気性の近い、そんな英霊を、彼自身を触媒としてよびだしたのだ。
呼び出された英霊…ライダーと名乗る女は言った。
貴様は何故私を呼んだのか…と。
彼は答えられない、自分は特別な能力が有るが、別に彼女を狙って呼び出した訳ではない。
ならば、と次にライダーは聞く。
お前の望みは、何だ?と。
彼は思案するように頭を捻らせると…一言、こういった。
「俺は…俺がすげえ!っていう事を世界に知らしめたい!手始めにこの戦いを勝ち抜いてやる!」
「面白いわ!惚れそうじゃない!このライダー、力を貸してやろう!」
…馬鹿2人が結託した瞬間だった。
そして、現在…
「オラオラオラオラ!俺の最強のライダーの宝具で挽き潰して、粗挽きコショウみたくしてやるぜ!」
「ハッハッハ!良いねぇそれ!生前は色々縛られてたから、こんな自由な暴れ方はひっさしぶりよ!」
ライダーの宝具による、海賊船の召喚。
更に砲撃と質量による物理的な圧殺…それを市街地でやらかしていたのだ。
街の道路はめちゃくちゃ、陸上なのに疾走する船は…正に悪夢でしかない。
当然…
「ちょ、ま、え…馬鹿野郎ぉぉぉぉ!」
「こ…こっち来ないでぇぇぇ!?」
巻き込まれる側は、ひとたまりもなかった。
セイバーと山本は、そりゃもう全力で走る走る。
あんなんに巻き込まれたら…彼等の言うように、粗挽きコショウのようにすりつぶされてミンチになる。
しかし動力源はなんやねんと言いたくなるぐらいのスピードでその海賊船は突進してくる。
道路をかき分け進み、通った跡には引き裂かれたように大きな穴が空いている。
触れた塀はまるでクッキーのように粉々。
家すら吹っ飛ばされている所すらあるぐらいだ。
そして、そのライダー組のターゲットは…当然ライバルチームになる。
彼等は偶然、セイバーの召喚を目撃して、主人公チームに狙いを付けたのだ。
そうして…その質量兵器での突撃で、その浮き足だったライバルの一組に狙いを定めたのだ。
「そ、そうだセイバー…お前ならあの船を止められる!多分、きっと!メイビー!」
「無理ですよ!一介の剣士に何求めてるんですか!?」
「な、なら令呪をもって…」
「無駄遣いしないでぇぇぇ!?いや、私視点だと案外悪く…いや、ちょっと!令呪で無茶ぶりは勘弁ですぅぅぅ!落ち着いてぇぇ!」
一方で主人公チーム、おかげでこのザマである。
そんな情けない彼らを見て、更にゲラゲラ笑うライダー組。
逃げろ逃げろーなどと煽り、主人公チームを、まるで玩具のように追い回すライダーの海賊船。
何時しか行き止まりまで追い込まれた彼等…目の前には疾走する海賊船…
ヤバい、死ぬかも…と、山本とセイバーだった、その瞬間だった。
「ありゃ?すまん、マスター…魔力切れよ」
「えぇぇ!?」
ライダーの船が、魔力切れで消滅したのだ。
…なんともしょっぱい、形成逆転である。
ライダーの有利は、もう海賊船の大きさが全てと言って良い。
少なくとも、セイバー相手ではそうだ。
そして、その有利がなくなった後には…中二病の中学生と、それよりマシだが中二病の海賊コスプレ女。
対するは、海千山千の陰陽師と新撰組最強の一角のセイバー…。
特にライダーと言う英霊は『宝具』…英霊の逸話や必殺技に特化したクラスでもある。
それが使えないと言う事は…つまり、
「…お仕置きの時間、かな?」
「よくもまあ、壬生の狼をここまで玩具にしてくれましたね…堪忍袋の緒が切れました!」
こういった事である。
日本刀を冷たく抜き放ち、ライダーのマスターたる海野を狙おうとするセイバー。
慌てて腰を抜かし、海野が止めろだの死にたくないだのわめく中…ライダーは、しかし余裕そうだった。
そして、へたれるそんなマスターに向かって、ライダーはこう言った。
…ここは、仕切り直しだよ!と
どう言う事かと、セイバーも海野も山本も頭をひねる中…ライダーはいきなり叫んだのだ。
「コレが私のもう一つの宝具…『爆弾発言謎移動(うまれてくるあかちゃんがいるのよ!)!』」
「ルビがひでぇぇぇ!」
そう言ったライダーは、さらばだ名探偵諸君!と言い残して虚空へと去っていく。
そんな様を、セイバーも山本も唖然として見るしかない。
「お、俺を置いていくなぁぁ!」
ついでに、マスターの海野も置いて行かれてた。
「あー、アイツは…『アン・ボニー』かな…ひっでえ宝具持ってんな…」
山本は呆れながら呟く。
そう、このライダー…アン・ボニー、西洋の女海賊である。
女海賊と言う事で、実に有名な海賊の彼女。
しかし、その実態は…実にしょっぱい。
名家の生まれのお嬢様として育ったが、彼女は…アウトローが好きなビッチでだいたい説明が付く。
特に海賊として、あるいは私諒船の乗組員として、大した成果はあんまり上げてない。
それどころか、ダメな方の男に流れては更にダメな方に流れていく…わりとそんな海賊だったりした。
しかし、彼女…海軍に捕まった際に「生まれてくる赤ちゃんが居るから処刑は止めて」と言い放ち、処刑を延期させ…そして行方を眩ませたのだ。
海軍は処刑、または病死した海賊はたいていきちんと記録をとる。
つまり、そんな記録が無く行方不明になった……つまりは、そういった事だ。
脱獄したか、家の金と地位を利用して、生き延びたのだろう…。
それが、彼女の、海賊としての最後にして最強の宝具、そのものなのだ。
「…聞いてみたら、酷い話ですね…」
「しかも、同じ手を使った相方の友人は病死したからな…それでライダーだけに作用して、マスターは置き去りになったんだろうよ」
「さ、最低じゃないですか!武士道にもとります!」
「…海賊だけどな、確かに人として最悪だわ…」
そんな事をセイバーに山本が説明しつつ。
泡を吹いているのは、海野だろう。
頼れる相棒は…見捨てていったのだから。
しかも、本当に『詰んだ』この状況、逆転する手段は、無い。
セイバーはそんな彼を、実につまらない…それどころか、道端の犬の糞でも見るかのような瞳で見下ろす。
そして、彼女は海野の首筋に刀を突き立てると…こう言った。
「貴方も貴方です、力に溺れてあんなに街をめちゃくちゃにして…士道、不覚悟!」
そうして、刀を突き立てようとした…刹那だった。
「…ちょっと待てセイバー、このガキに少しだけ話がある」
山本が、処刑を制止したのだ。
当然、セイバーはマスターにキレる。
「マスター!?止めるなら令呪でも…」
「俺もお前と同じ気持ちだ…別に、殺すのは止めないけどな、2つばかりあのガキに確認させてくれ」
マスターに言われ、しぶしぶと言ったばかりに刀を納めるセイバー。
目を白黒させる海野。
そんな彼らを尻目に、山本は話を続いた。
「1つ…お前は、あのライダーは狙って呼んだのか?」
「ち…ちげえ!俺は偶然……」
「なるほど、俺と同じ…じゃあ、本題だ…」
ライダーの召喚そのもののルートの確認、それは自分と同じ『偶然』か。
そして、山本はもう一つの疑問に質問したのだ。
「お前は、本当に『ライダーの目的、あるいは願いを知っているか』?」
あっと言った表情になる一同。
そうだ、主人を置き去りにしてライダーだけが吹っ飛んでも…単独行動のスキルをもたないライダーは遠からず消滅する。
魂喰い…人間の命・精力を『喰って』魔力を繋ぐ方法もあるには有るが、討伐対象にされるだけだ。
その時、海賊船を出すだけが能のライダーが生き延びれるとは…誰も思えない。
つまり…あの自殺行為に近い逃避には何か目的が有るのか、ライダーのマスターならヒントになる、
何らかの目標か、あるいは夢を叶える手段が有るのではないか、と聞いていたのだ。
しかし、海野から出た答えは…山本とセイバーを呆れさせるものだったのだ。
「し、しらねぇよ!…あの女、ライダーは『ノリと勢いが全部だ、楽しいのが正義だ』ってしか言ってねぇ!!」
海野の回答…つまり、答えはこういう事だった。
「…考え無しで、1人で逃げ出したって事か…」
「本当に最低…なんか切る気も失せました……」
山本もセイバーも、それはそれはげんなりした顔になったと言う。
そして、令呪の放棄と街の破壊の修復の手伝いを条件に見逃すことにした。
…なんだか、流石にライダーが最低過ぎて、目の前のマスターたる少年が哀れに思えたからだ。
殺す気力が、なかった…そういった話だった。
それから、海野は少しだけ、ボランティアで街を直しに何ヶ月も働くウチに謙虚な性格になったとは…彼を知る者達全てからの評価、だったとか。
「や………やらかしたぁぁぁぁぁぁ!」
どこかの海辺で、ライダーは絶叫する。
魔力切れで、宝具で飛んだ先で、到着した瞬間消滅したそうな。
聖杯戦争に参加した英霊…残り、6人