例えば、こんな、あぽくりふぁ ~なんだかしょっぱい冬木の戦争のようです~ 作:たんぺい
「オラオラァ!てめーらのこのこ集まりやがって、まとめてぶっ潰してやるぜぇ!」
「最強の俺たちで、最強の勝利を手に入れてやらぁ!」
前回までのあらすじ。
なんか上みたいな事をほざきだした、ランサーとそのマスターが空気読まず土地管理人の敷地内に乱入して来たでござるの巻。
…柄悪いのが来たな!
まず、彼らの初見の印象はそれである。
マスターらしき男の方は、見事なまでの金髪にモヒカン。
大きな肩パッドを素肌に付けて、上半身はレザーのタンクトップ。
鋲を大量に打っており、妙にメタリックな印象を与える。
更に黒いレイバンのグラサンに黒いズボン。
…某北斗の雑魚まんまである。
彼の名は神楽坂次郎(かぐらざか・じろう)、こんななりだが、れっきとした魔術師である。
正確には魔術使い、か。
火を操る魔術を使い、非合法組織の雇われ用心棒をしている男だった。
そして、山本と同じく、偶発的に家伝の礼装を触媒としてランサーを召喚したのだ。
そして、肝心のランサーはと言えば…
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!俺は、最強だぁぁぁぁぁぁ!!」
こればかりである。
会話が全く成立してない、バーサーカーかお前は…と、山本は内心突っ込んでいた。
衣装は中国服で獲物は戟…薙刀のような中華風の長物ということで、とりあえず古代中国のサーヴァントなのはなんとなく予想が付くが、それ以上には特別変わった特徴は無い。
そして、その戟を、型を無視するかのようにぶんぶん振り回していた。
まるで、チンピラ崩れなマッチョが「俺は強いだろ?」と筋肉やナイフを見せつけるような、威嚇のような雰囲気で自慢げにその技を披露している。
別に弱そうにも見えないが…三國志か春秋戦国か、逆にもっと後時代のサーヴァントかはわからないが、中国サーヴァントで最強を名乗るには、少々ならず力不足に見えた。
「弱い犬ほどよくほえるって奴ですかね…」
セイバーも、ランサーの威嚇に呆れていた。
というか、一目でこうもげんなりするコンビに…それも1日二度も絡まれるとは、厄日だな。
山本も内心呟いていた。
竹内に至っては口をあんぐり開けて放心しており、キャスターもオロオロするばかりだ。
…ライダーが酷すぎて、主人公達には妙な耐性が付いていたのかもしれない。
そんなおり、モヒカンがいきなり口を開いた。
「奴らコンビを組んだのかも知れねえ!宝具行くぞごるぁ!」
「おう……あの、関雲長すらぶっ倒す、最強の俺様の実力を見やがれ!」
え…と、一瞬放心する主人公組&キャスター組。
こんな格がしょっぱい聖杯戦争で関雲長…関羽以上ってどういう事だよ!と一斉に突っ込んだ。
関羽以上って、もう光武帝とか始皇帝クラス、最低限でも曹操でも連れてこないとダメだろ…と。
しかし…ランサーの宝具を聞き、とりあえず仕事柄偉人にやたら詳しくなった山本は納得した。
…お前そういう事かよ、と。
「俺の宝具…喰らいやがれ!『我関雲長捕縛セリ(オレがかんうをつかまえた)!』」
「お前地味な方の馬忠かよ!」
地味な方の馬忠、三國志では孫家に仕えた方として区別されている馬忠である。
彼の逸話はただ一つ、「かの軍神関羽を捕まえた」。
それだけである、それ以上の記録は一切無い。
昇進したとか討ち取られたとか、詳しいことは一切書いてない。
本当に「関羽を捕まえた人」としか記録されてないのだ。
演義ではもうちょい見せ場があるのだが、まあ…モブの1人でしか無い。
さて、そんな彼の宝具と言えば…
「お、檻を召喚した…だと!」
「マスター!閉じ込められたみたいです!」
「な、何よコレ!?」
「ふむ、我が輩を捕らえるとは…」
漆黒の鉄檻に対象を捕縛する、シンプルながら厄介な宝具である。
すぐに山本は脱出を試みるが、魔力が強く流れており、破壊には骨が折れるだろうと予想がついた。
曲がりなりにも『宝具』、英霊が使用する武装は、並大抵の物ではないのだ。
そこに、皆が捕らわれている檻にモヒカンはこつこつと近づいた後、こう言った。
…俺たちの勝ちだ、と。
そしてこう続ける。
「てめーらはこの檻から脱出不可能よ!俺は外から火を放つ、魔力を込めてな!仮にサーヴァントは無事でもマスターは蒸し焼きだ!」
そして、横からランサーも口を挟んだ。
「そして、仮に貴様等がこの檻を壊して万一逃げ出そうとした瞬間、俺の戟が届くという俺の完璧な間合い!これぞ二段構えの最強の俺発案の最強戦術!」
はははは、と高笑いするモヒカンとランサーの二人。
ぎりぎりとセイバーが歯ぎしりし、竹内もオロオロしだし、山本も焦る中…キャスターだけは平然としている。
そして、冷淡な口調でキャスターは語った。
「ふむ、小細工にしては良くできた策だな…だが、我が輩とは格が違うな!」
何だと!とランサー組が威嚇する中で、キャスターはこう語った。
「では、見せてやろう我が輩の宝具の本来の使い方…『大いなる我が帝国(ジ・アメリカ)』!」
そうするとどうだろう。
彼らの目の前にあった鉄檻は綺麗さっぱりと消滅する。
否、既にあたりはさっきのアメリカの市街地だ。
公園も列車も交番も市街地も…あたりは先ほどみた光景と何一つ変わらない。
ただ一つ違う事はと言えば…そこに住んでいた住民達が、一様に怒っているという事だ。
握り拳を固めているのは当たり前、どっから拾ったのか、石ころやナイフや角材を握りしめている者もいる。
アメリカらしく、ウィンチェスターを整備するハンターらしき男も居た。
何事か、と焦るランサー組に、キャスターは毅然として言い放った。
「これが我が愛しい祖国、これが我が愛しい臣民…いや、同じ帝国を愛した友人だ!それこそが我が力、我が宝具!我が輩は何一つできない弱いサーヴァント…いや、人間だったが、絆という魔法が、我が輩そのものの力なのだ!故に…汚らしい貴様の檻ごとき、アメリカの自由を愛する心で吹き飛ばしてやった!」
んな無茶な…と、全員思ったが、同時に彼の力の本質を理解した。
彼は、『アメリカそのもの』の化身に近い。
使用する力は限定的かつ本人は一般人レベルの力しか無いが、その宝具はある種の『アメリカ』という名前の固有結界そのものなのだ。
言ってしまえば「対国宝具」と言うべき宝具なのだろう。
あくまでも対人クラスのランサーの宝具では、太刀打ちできない、規模が違いすぎるのだ。
戦慄する全員に向かって、キャスターは更につづけた。
「我が友人達はあくまでも一般人…それも、我が輩の信念に縛られて『殺す』事はできないし、何よりサーヴァント相手には叶わない…だがな」
そう言うや否や、いずこからかモヒカンに向かって石が飛んでくる。
土やら野球のボールやら、酷いものになれば馬糞が詰まったバケツまでモヒカンとランサーに向かって飛んできた。
「別に、殺さずとも無力化する方法なぞ、いくらでもある」
すげえ…山本は素直に思っていた。
圧倒的な宝具の能力によって、仮にも3騎士の一角たるランサーをああも手玉に取っている。
セイバーも、喧嘩売らなくて良かった…という表情をしていた。
あの絶対のフィールドを維持されたら、どんなサーヴァントも勝ち目は無いだろうから。
だが、そんな無敵のフィールドも…長くは続かなかった。
「おや、我が輩の宝具もそろそろ時間切れみたいだの」
そういうと、全員が居たアメリカから、さっきの屋敷の敷地内へと戻っていた。
もう時間切れなの?とキャスターは竹内に問い詰められて、キャスターはなだめる中…
宝具から解放されたモヒカンとランサーはぜえぜえ言いながらキャスターを睨みつけていた。
そして、野郎殺してやるぜ…と、呻き、さっきの檻の宝具を使おうとした、その刹那だった。
「貴様等…俺たちをこけにしやがって…ほう…」
「…遅い」
ランサーが、股から頭にかけて、真っ二つに両断されたのだ。
いきなり何事かと、目を丸くしたモヒカンに向かって、山本とセイバーはこう告げた。
「さっき宝具の開帳の許可は出している…これぞ、セイバー最強の必殺剣…」
「『龍飛剣』です、あなたも真っ二つになりたいですか?」
龍飛剣、沖田の三段突きや斉藤の左片手平突きに並ぶ永倉の必殺技である。
股から頭に向かって下からズバッと切り裂く、最強無敵の剣。
この技で、セイバーは新撰組3指の実力を得た、と言われている。
ましてや、宝具として昇華されたなら、防御不能の『必殺』技になるだろう。
本質的には…規模があまりにも違うのだが、ギルガメッシュの乖離剣エアに近い概念へと、昇華されている。
さて、相棒たるランサーが…それはあっさりと、呆気なくセイバーの剣のサビになった事をモヒカンは理解するにつれて、それは面白いぐらい顔が真っ青になったという。
小便はおろか軽く脱糞しながら、さっきまでの威勢はどこへやらとばかりに、陸上選手も裸足で逃げ出すような足の速さで、ごめんなさーい!とモヒカンはいずこへと消えて行った。
「…しょっぱい人たちだったわね…」
竹内の言葉に頷く一同。
何かどっと疲れた、そんな表情に一同なる。
そんな姿を…
「ふむ…彼等なら、俺のマスターと男のブルースを奏でられそうだ…」
アーチャーが、遠くの物影から覗いていたのであった…