例えば、こんな、あぽくりふぁ ~なんだかしょっぱい冬木の戦争のようです~ 作:たんぺい
…そろそろ、飯の時間を邪魔する、この何かうざい空気は消えたな。
バーサーカーは内心…と言うと正しいのかはわからないが頭の中でこんな思考をしている。
獲物はひいふうみい…沢山。
だが、少なくとも、まるで食べ放題のオードブルのようにバーサーカーは感じる。
餌があるな…いただきますと、そう思い、バーサーカーは大口を開けた、そんな刹那…バーサーカーを一陣の風が貫く。
「喰らいなさい!龍飛剣!」
するとどうだろう、バーサーカーは真っ二つに両断される。
だが、バーサーカーはそんな事は、まるで気にしない。
…あの、変な格好のメス、痛いじゃないか…喰う気はまるでしないがキサマから殺そうか?
そんな事を考えながら、まるで何事もなかったかのようにバーサーカーは歩を進める。
そんな姿には、セイバーが両断した痕は、どこにもなかった…
「な…龍飛剣が、きかない!?」
セイバーは、と言うかその場にいた全員が焦っていた。
真っ二つにされて蒲焼きのようにされたハズのバーサーカーが、何事もなかったかのように復活したのだから。
特に…セイバーの力の本質を理解している山本は、セイバー以上に焦る。
何故ならば、セイバーの力の本質は新選組組長と言う本人の能力以上の、この国民の祈りと願い。
そう…最後の剣士集団と言う浪漫の象徴、そんな祈りが彼女の宝具の一撃必殺としての力の本領なのだから。
少なくとも、日本で聖杯戦争を行った場合、そうで有った。
だが、そんな呪いのような剣閃を受けても、この鰐は意に介さない。
それどころか、更に怒り出すバーサーカー。
その姿も更に変化が生じ始めていた。
体長も今まで6メートルは有ったような超巨大な体躯だったのが、その倍は有るのではないかと言うぐらいに…どんどんどんどんと、その姿を拡大するように巨大化させている。
牙も、その形相も…恐ろしく厳つくなり、本当に比喩無く『化け物』かのように、その姿は異業へと変えていく。
まるで、漆黒のドラゴンと言うような、バーサーカーはそんな姿へと変えていた。
「な、なんだ…あれは……」
鏡助はたまらずつぶやく。
いや、全員思っただろう、あの異業の化け物は本当に単なる鰐なのか、と。
山本も思考を巡らせる…だが、正確な答えは出ない。
エジプトや東南アジアのような、鰐に親しみ深い社会では、なるほど神話や伝承に鰐はいくらでも出る。
だが…該当しそうな鰐の伝承がまるで無い。
それどころか、この鰐には…『呪い』のようなオーラは感じられても、それ以外は、神秘どころか歴史すら感じられない、ただの鰐でしかなかったのだ。
その鰐…バーサーカーは食べやすそうな餌へと目を向ける。
それはバーサーカーが生きてた頃からの経験から知っていた…小さい人間は、でかい奴程食べ応えはないけど、柔らかくて食べやすい…前菜は、お前だ、と。
そして、その対象に向けて口を開けた。
「ひ……僕を……」
「鏡助ぇぇぇぇ!逃げてぇぇぇぇ!」
小さい人間…鏡助へと、だ。
姉の環も、泣きながら弟へと絶叫する。
誰もがバーサーカーに喰われる、そう思った…その時だった。
「『大いなる我が帝国(ジ・アメリカ)』!縛りの中で殺せんが…これぐらい、貴様には屁でも有るまい!バーサーカー!」
キャスターの宝具、そこから列車を虚空から呼び出してバーサーカーを轢く。
たまらずバーサーカーは汽車に吹き飛ばされるが…キャスターの言葉通りだった。
むくりと、本当に何事もなかったかのように立ち上がり、その視線を餌に向ける。
そのまま、グォォ!とバーサーカーは叫ぶと、その姿はまた、一回り大きくなった。
まるで、『俺は殺しても死なん、殺せば殺しただけ元気に成るぜ!』と、言うようだった。
「…クソっ!バッファローやコヨーテならいくらでも殺ったが…俺の拳銃じゃ…」
アーチャーもダンディーの仮面がとれるぐらいの焦り方だ。
自身の拳銃を乱射するが、まるで効果は無い。
蚊に刺された、本当にそんなレベルのダメージしか与えられない。
「く…何で!私の剣を…きゃあ!?」
セイバーはアーチャーよりだいぶマシだが、それでも宝具すら効果は無い。
空間ごと切り裂く絶対無敵の剣、それが…効かないと言うより暖簾に腕おしだ。
ギルガメッシュの乖離剣エアやアーサー王のエクスカリバーのような概念兵装たるセイバーの龍飛剣でも、人一人を両断出来るのが限界の龍飛剣では、この化け物を『削り』きる事はできない。
「我が輩は…なんと無力だ……」
キャスターはうなだれるばかりだ。
彼自身は熊どころか鹿と戦って勝てるか怪しい一般人でしかない。
戦闘が苦手なクラスで有るが故に尚更である。
頼みの綱の宝具も『殺せない』、これは彼自身が扱う上での絶対の呪いだ。
…さっきは列車をぶつけて怯ませたが、それすらバーサーカーにはもう効かないだろう。
マスター達も黙っている訳ではなかった。
敵味方合わせて、あらゆる魔術で抵抗する。
炎や水や呪い札や地割れ…扱える、あらゆる魔術がバーサーカーを襲う。
だが、バーサーカーは…まるで無傷だった。
…こんなヤツ、どうやって倒したら良いのよ!
竹内が思わず叫ぶ、目の間の化け物をどうやって倒したら良い、と。
魔力切れを待つまでほっといたら…その前に魂喰いだ、文字通りの獣なのだから躊躇わないだろう。
そんな彼女の嘆きに、アーチャーはポツリと呟いた。
…真名、こいつの名前さえ判れば、と。
そんな彼の言葉に反応したのは、バーサーカーのマスター、三神剣八だった。
「アーチャー…あんた、この化け物鰐の名前が判れば倒せるのか?!」
「…俺の宝具の発動条件の一つだ」
「なら、いくらでもこいつの正体教えてやる!こいつは『ギュスターヴ』だ!ナイルワニの人喰い鰐だ!」
てめえ何て馬鹿なサーヴァント呼びやがった!と、山本の拳が剣八の顔面に飛んだ。
ギュスターヴ
それは『巨大な人喰い鰐』の名前で有った。
6メートルはくだらない体躯、凶暴な瞳、そして…人を食べると言う悪習。
そう、このナイルワニは、人間を数多食べていたのだ。
犠牲者は100をくだらない、まさに『災害』だった。
討伐令は幾度も出されたが、ギュスターヴはことごとく退け逃げ続けた。
そして、その鰐は2008年に目撃証言がなくなるまで、一説には300年近く、人を襲っていたと言う。
…あるいは、『ギュスターヴ』とは、一匹の鰐の名前ではなかったのだろう。
歴史の中で生まれたいくつもの巨大鰐、それが人を喰うたびに世間は『ギュスターヴ』が人を喰ったと、そう言ったのかもしれない。
そもそも、本当は人間なんて食べなくなかったのかも知れないが、戦争や開発の中で、人を食べざるを得なかったのだろう。
そう言う、歴史の積み重ねから来た『負』の認識の歪み。
『殺しても死なない化け物鰐』と言う、この鰐への歪んだ認識…無辜の怪物。
バーサーカーはそう言う存在で、宝具はそう言ったものだった。
「…なるほど、『人が産んだ怪物』か…聞きゃ、酒のアテになる話でも無いよな…」
山本の説明に、悲しそうな表情を見せるアーチャー。
そして、意を決したかのようにこう言った。
…すまない、お前が悪い訳ではないが、世界はお前の存在を許さないのだろう…
そして、こう続けて、自身の拳銃をギュスターヴ…バーサーカーへと向けた。
「お前…『倒すべき相手』の名前を知る…『俺が倒さなくてはならない』と信じる…そして、最後に『マスターが俺を信頼してくれる』…条件は揃った」
自戒するかのような口調で、そうつぶやく…
そして、アーチャーは自分の宝具の名を叫んだ。
「さらばだギュスターヴ!『歴史を終わらせる銃弾!(ラスト・パニッシュメント)』!」
そうすると、どうだろう。
一発の銃声が街に響いたかと思えば、バーサーカーはいきなりのたうち回る。
まるで、重い病気か何かに苦しむかのように、バタンと倒れてビクビク震えるばかりだ。
それでも立ち上がろうとした瞬間、バーサーカーは耐えられず倒れてしまう。
そんな様を、アーチャーは憐れむような視線で見下ろし、まるで、バーサーカーに許しを乞うかのように語りかけた。
「俺の一撃はお前と同じ負の呪い…『古き良きアメリカ』を終わらせた、正しいが憎しみが多分に入った呪いの銃弾なんだ…
だからこそ、俺を肯定してくれるマスターがいる限り、その弾丸は正義としての側面の力で機能する。
だから、すまない、人間の呪いのせいでなかなか『死ねず』苦しいだろうが……『正義』、いや、マスターの未来の為に、死んでくれギュスターヴ…」
そんなアーチャーの言葉を受けて、バーサーカーは涙を一筋流した。
生理現象か、痛みからか、それとも…『呪い』を受けて、心が芽生えたのかも知れない。
そんなバーサーカーは、こてんと倒れ動かなくなると、魔力切れからか虚空へと消滅した。
…なんだか、しょっぺえや
アーチャーが一言だけ、バーサーカーがいた場所に向かって呟いた…