オーバーロード ~たっち・みーさんがインしたようです~   作:龍龍龍

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※今回はちょっと短めです。


野営地にて①

 日が完全に暮れる前に、一行は野営の準備を始めていた。

 野営地の周囲に鳴子の罠を張る作業を終え、たっち・みーは少し息を吐く。

「こんなものかな……」

 きちんとロープが張られているのを指先で確認し、十分なことを確信し、満足して一人頷く。

 アウトドア、などという言葉は元の世界では死語になって久しい。たっち・みー自身、外で寝泊まりするという概念が存在していたのは知っていたが、実際にそれをしたことは全くない。元の世界でそんなことをするのは、自殺志願者くらいだろう。

 不意の事故のように異世界にやってきてしまったが、こういう経験ができるのなら、得るものは十分にあったと断言できる。

 空を見上げれば、暗くなりかけている空には、早くも星の灯りが覗いている。よほど空が澄んでいるいるのか、地上がそれほど明るくないからか、あるいはその両方か。いずれにせよ、自然を愛したブルー・プラネットが見れば涙を流して喜びそうな大自然の光景がその空には広がっていた。

 現実世界ではもちろん、架空世界のユグドラシルでさえできなかったアウトドアという経験、果てもなく広がる自然の光景。ありとあらゆることが新鮮な響きを持ってたっち・みーの心を打った。

 ユグドラシルでも、未知を求めて冒険をしたが、その時の期待感や昂揚感を思い出す。

 そんな風に、なんとはなしに感慨に浸っていると、別の作業をしていたモモンガがやってきた。

「タツさん、こちらの作業は終わりましたか?」

「ええ。終わってます」

 座り込んでいたたっち・みーは立ち上がりながら応じる。そのたっち・みーの様子に何かを感じたのか、モモンガは不思議そうな顔をしていた。

「どうかしたんですか? タツさん」

 その問いに、たっち・みーは特に大したことではない、と手を振った。

「いえ……ちょっと、自然に浸っちゃってただけです。元の世界じゃ、もうこんな経験はできませんからね」

 たっち・みーの言葉に、モモンガは同意を示すように頷く。

「ああ、そうですね。わかります。実は私もさっき、ちょっと浸っちゃってました」

 モモンガは遠い目をして、世界に思いを馳せる。

「……もし、ナザリック地下大墳墓ごと転移したわけじゃなくて、タツさんとだけ……あるいは自分一人だけで転移していたら……私はあてもなく旅をしていたかもしれません」

 アンデッドであるモモンガは飲食も睡眠も呼吸すらも必要としない。どんな高い山であろうと装備など何も必要なく昇れるだろうし、深海の底を歩いても平気だろう。そんな風に生きるのも悪くはなかったと感じる。

 とはいえ、ナザリック地下大墳墓を――仲間たちが残した愛しい宝を置いていくような真似はできない。部下として彼らが付き従ってくれる以上は、支配者としてその忠義に応えるべき。そんな風にモモンガは考えていることだろう。それを理解しているからこそ、たっち・みーは何も言わなかった。

「さて、皆のところに戻りましょうか」

 そういってモモンガと一緒にマーキーテントまで戻るたっち・みー。

 そこではルクルットがせっせと竈を作っていた。ニニャは〈警報〉という魔法を唱えて周囲の警戒をしている。

 モモンガは魔法詠唱者だけあって、ニニャの使っている魔法に興味を持ったのか、そちらに歩いて行ってニニャと話し始める。一方、たっち・みーはルクルットの竈制作の方に興味を引かれた。

「なるほど……そうやって穴を掘ることで火力を安定させると同時に、溝を作って空気の流れを生み出しているのか」

「まあなー。野伏としての技術の一環として、野営に関してはお手のもんだぜ。この技術に関してはそんじょそこらの奴には負けないって自信がある」

 ルクルットは自分の仕事に誇りを持つ者特有の自負を覗かせる。たっち・みーはそんなルクルットをやはり好ましいと思うのだった。

「そういうところを嫌味なくアピールしていけば、女性にもモテるだろうに」

 モモンガにやっているように強引なアピールは必要ないのではないかとたっち・みーは思うのだ。もっとも、モモンガに対してやっていることに関してはそもそもの前提としてモモンガが男性である時点で的外れではあるのだが。

 たっち・みーの心の底からの指摘に対し、ルクルットは苦笑して首を横に振る。

「いや、そういうわけにもいかないって! だって俺の技術って野外活動用だぜ?」

「む……それもそうだな」

 同じ冒険者仲間でもない限り、女性と共に野外活動をする機会はないだろう。

「だからそこじゃないところでもアピールしていかないとさ」

「理解はしたが、それでも押し過ぎるのは問題だと思うぞ」

 苦笑気味にもう一度だけ釘を刺しておいて、たっち・みーは会話を切り上げた。

 ちょうどそこにニニャとの会話を続けているモモンガの声が聞こえてきた。

「たとえば、ニニャさんに弟子入りとかできるんですか?」

「私よりもっと腕の立つ人の方がいいと思いますよ。王国だと……」

 そう言ってニニャから魔法関係の事情について聞きだしているようだ。

「私に弟子入りに関しては、申し訳ないですが私にはやりたいことがあって……割ける時間がないんです。ごめんなさい」

 やりたいことがある、そういった時のニニャの顔にはどす黒い意志が覗いていた。

 そこに踏み込むことにメリットを感じなかったのだろう、モモンガは何も言わなかった。

 たっち・みーはモモンガがそう判断したならば何も言わない方がいいのかと思ったが――

(場合によっては彼らと長い付き合いになる可能性もある。その時のためにも、彼がどういう事情を抱えているのか、把握しておいた方がいいかもな)

 恐らくはなにかしら過去にあって、敵視している存在がいるのだろう。例えばそれがアンデッドだったとしたら、モモンガの正体は絶対ばらしてはならない。

 そういった諸々のことを踏まえ、たっち・みーは口を開いた。

「ニニャ。お前のやりたいこと、ということについて聞いてもいいか?」

 その発言に驚いたのはニニャだけではなく、ルクルットやモモンガもだった。たっち・みーは予想された反応だと感じつつ、さらに続ける。

「もしかしたら、私やモモさんが力になれるかもしれないぞ? もし話してもいいと判断できることなのであれば教えてくれ」

「……それは……いえ、しかしひどく個人的なことですし」

 遠慮しようするニニャ。モモンガも何か言いたそうにしていたが、たっち・みーはそれを遮って言葉を放つ。

「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前――だ。あー。私が影響を受けたとある人物の言葉でな」

 普段通りに口にしようとして、いまは純銀の聖騎士たっち・みーではなく、冒険者タツということを思い出した。この世界においてはまだガゼフくらいにしか言っていないが、結び付けて考えることもできるかもしれない。たっち・みーはもしそうなっても別人であることを言い訳できるように予防線を咄嗟に張った。

 そのたっち・みーの言葉にどう思ったのか定かではないが、ニニャは素直に「やりたいこと」について教えてくれた。

「私がやりたいのは……姉を助ける、ということなんです」

 その内容にたっち・みーは不思議に思って首を傾げた。その姉とやらがどうなっているのかはわからないが、少なくとも『助ける』という目的に先ほどニニャが覗かせた暗い敵意がそぐわない。

「……姉を助ける、というには少々不穏なオー……雰囲気だったが」

「…………タツさんには敵いませんね。ええ、そうですね。私は姉を助けるだけが目的じゃないんです。姉を浚った貴族……ひいては、それの暴走を冗長しているこの国のありよう……すべてを壊してやりたいんです」

「……なるほど、な」

「でも、姉を助けることが第一です」

 たっち・みーはそこまで聞いてようやくニニャの纏う気配や覗かせる敵意について理解した。

 理解した上で――なんだ人間らしい普通の事情じゃないかと拍子抜けする。共感もできるし、支持もできる。そうたっち・みーは思った。

「よくわかった。その姉の居場所はわかっているのか?」

「王都にいることは間違いないはずなんです。けど、浚った貴族の家のことを調べても、私の姉の情報は一切でて来なくて……もちろん私程度の身分やクラスじゃ調べられることにも限界はありますが……それにしても一切の情報がないことが不安で」

「ふむ。なるほどわかった。実は私たちには王都にちょっとしたコネクションがあってな。見つけ出すという確約はできないが、軽く探る程度はしておこう」

 そういうたっち・みーの脳裏に浮かんでいたのは、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフと、情報収集に出したセバスとソリュシャンだ。ガゼフの方に聞くのは難しいかもしれないが、セバスやソリュシャンになら、情報収集のついでにでも探っておくように命令を出すことができる。情報を収集するのは元からの目的だったのだから、自分たちの行動が妨げられることもない。

 万が一見つけることができれば、生まれながらの異能持ちのニニャに対する大きな貸しとなる。

 どう転んだところで、損はしないだろう。たっち・みーはそう判断した。

「本当ですか!?」

 ニニャは驚愕の表情でたっち・みーに詰め寄る。その目は急に降って湧いた救いの手を信じられないながらも、そこに期待を覗かせている。

「ああ。ただ、あくまでも情報を集めるだけだ。お前の姉を確実に助けるという保証はできない。それでもいいなら……」

「いいです! ぜひお願いします!」

 ニニャは、最高ランクの冒険者に相当するたっち・みーの協力を得られることによる心強さを感じているようだった。いまはまだ大したことがない繋がりでも、いずれ大英雄になるであろうたっち・みーの協力だ。それに食いつかない手はない。

「では調べるためにもその姉の名前を教えてもらえるか?」

「はい。姉の名前は――」

 ニニャは素直に口にする。

 たっち・みーがここで名前を知ることで、その後の運命が革命的に変わる人物の名前を。

 

「ツアレニーニャ・ベイロンです」

 

 

 

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