オーバーロード ~たっち・みーさんがインしたようです~ 作:龍龍龍
たっち・みーとモモンガは組合への一通りの報告や処理を終え、新しく取った宿の部屋に入った。まだ細かな調査は残っているが、時刻が真夜中になったため、一端解散となったのだ。
時刻はすっかり真夜中となり、部屋の中は暗闇に閉ざされている。暗闇を問題なく見通せるモモンガが先に部屋の中に入り、灯りをつけた。
たっち・みーは部屋の扉を閉め、念のため気配を探って部屋の中を窺っている者がいないかどうかを確かめる。モモンガは魔法的な仕掛けなどがないかどうか、部屋をざっと調べた。
お互いに部屋の安全を確信すると、ようやく一息つく。
「ようやく一息つけましたね。たっちさん。お疲れ様でした」
「モモンガさんこそお疲れ様です。……いや、しかしまさかあれほどの数の人たちに迎えられるとは思ってもみませんでしたよ」
たっち・みーとモモンガが霊廟を後にし、墓地から出ようとした時、他の衛兵や冒険者たちの活躍によって、アンデッドはそのほぼ全てが打ち滅ぼされていた。それでも防壁の上に立って警戒していた衛兵や冒険者たちは、たっち・みーとモモンガが歩いてくるのを見て、大歓声をあげて彼らを出迎えたのだった。
受け入れられるための一歩を踏み出せた気がして満足していたのだが、その観衆が街の中まで続いていたのには、さすがに唖然とした。
どうやらアンデッドが墓地から押し寄せてくるという情報は町中に知れ渡ってしまったらしく、相当な大騒ぎになってしまっていた。幸い、たっち・みーたちがあふれ出ようとするアンデッドを冒険者や衛兵で抑えられる規模に抑えたこともあって、逃げ出す人間たちが押し合いへし合いになってパニックになることこそなかったが、相当不安に感じていたようだ。
最初に助けた衛兵たちから広がったのか、あるいは移動中に彼らを目撃した者の噂が噂を呼んだのか、たっち・みーとモモンガがアンデッドの群れと戦って元凶を打ち取ったということは、すぐに伝わった。
結果がその凱旋に対する大歓声となったのだ。
モモンガは満足そうにうなずいている。
「これで名声を高めることは十分できたと思います。一足飛びにオリハルコンクラスになりたいものですね」
「そうですね。早く色々と調べたいですし」
まだ詳しい調査が必要だということで二人が身に着けているプレートは銅のままだ。街そのものがアンデッドに呑み込まれることを防いだのだから、十分最高ランクの働きはしただろうとモモンガは考えていた。最高ランクになれば得られる情報や特権も桁違いのものになる。そうなれば色々とやりやすくなるだろうというわけだ。
もっとも、この時調査団は、墓地に入って伝説級のアンデッドの残骸をいくつも発見し、大地が死んで砂漠になっている光景を目にして、次々卒倒しているのだが、それを彼らは意識していなかった。
二人の話はバレアレ家のことに移る。
「なんだかんだで、リイジーたちもカルネ村への移住を受け入れてくれて安心しましたよ」
これで十分に守ることができる。そうたっち・みーは考えていた。
モモンガもそれに同意して頷く。
「今回のようなことがありましたからね。あの二人にとっても渡りに舟だったのでは? ……しかし研究材料として使っていいとポーションを見せたときのリイジーの興奮しようには驚きました」
「彼女にしてみれば伝説のポーションですし、興奮もわかりますけどね」
リイジーとンフィーレアには、カルネ村に移住してポーション精製法の研究に着手してもらうことで話がまとまっていた。ンフィーレアを護衛するためという意味もリイジーには大事だったようで、一も二もなくリイジーはカルネ村への移住を受け入れた。たっち・みーとモモンガという規格外の存在の守護が得られるのだから、孫を第一に考えるリイジーが断るはずもなかったが。
ふと、モモンガが複雑な表情を浮かべた。少し迷うような素振りを見せた後、口を開く。
「……ニニャは大丈夫でしょうか?」
仲間全員が殺されてしまい、一人残されたニニャ。今回の事件で一番被害を受けた冒険者かもしれない。
クレマンティーヌから取り戻した漆黒の剣のプレートは、たっち・みーからニニャに返却されていた。その際、三つのプレートを握りしめて泣いていたニニャの姿が、たっち・みーの脳裏にもまだはっきりと残っている。
モモンガもまた、ニニャのことは気になっていたようだ。
基本的にこの世界の人間に対して興味関心が薄かったはずのモモンガが、きちんとニニャのことを気にかけていることを知り、たっち・みーはいい傾向だと感じていた。
とはいえ、それに関しては触れず、ニニャに関してたっち・みーが感じていることそのままを話す。
「……大丈夫ですよ。彼女だって冒険者としてここまで立派にやってきた人なんです。だから、大丈夫。いずれはちゃんと立ち直ることでしょう。さすがにすぐには無理かもしれませんが」
「そうですね…………ん? たっちさんいまなんとおっしゃいました?」
モモンガが不思議そうにたっち・みーに聞き返す。たっち・みーは首を傾げた。
「最終的に立ち直るとしても、しばらくは無理ではないかと……」
「いや、その前です。……えっと、私の聞き間違いでなければ、彼女って言いませんでした?」
そのモモンガの問いに、たっち・みーは納得する。
「ああ。そうですね。すみません。ニニャって女の子ですよ」
「ええ!? ちょ、え? た、確かに言われてみれば女の子っぽいところも……ってなんでたっちさんがそれを知ってるんですか!?」
「最初はなんとなく違和感を覚えただけだったんですけどね。彼らと一緒に旅をしている間、よくよく漆黒の剣の様子を見ていたら、明らかにニニャに対して『それっぽい』配慮がされてたんですよ。暗黙の了解だったのか、それとも漆黒の剣の中では共通した秘密だったのかまではわかりませんが……」
たっち・みーの解説に、モモンガはあっけに取られる。
「……全然気づきませんでした」
「彼らの振る舞いはかなり自然でしたからね。注意してみていないと気づかなくても仕方ないと思いますよ。私も確信できたのは事件が起きてニニャが泣くのを見たときですしね」
さすがの観察力です、とモモンガが褒めるのを、たっち・みーは気恥ずかしそうに「偶然ですよ」と応じる。
「さて……とりあえず明日はまた調査に協力することになるでしょうから、今日は早めにやす……ん?」
たっち・みーは言いかけた言葉を切った。モモンガが手をあげてそれを遮ったからだ。モモンガはこめかみに手を当てる。
「すみません、〈伝言〉が来ました。……どうした?」
モモンガはたっち・みーに断ってから、支配者の威厳に満ちた声を出す。
定時連絡の時間はすでにすぎていたが、そういえば今日はまだ連絡していなかったことを思い出す。ちょうど戦いの最中だったのだから仕方ないが。
たっち・みーは長くなることを予想し、少し気を抜いたのだが、突如モモンガの気配が一変したのを見て、緊張を取り戻す。
モモンガはそれまでたっち・みーが見たことがないほど目を見開き、驚愕という言葉をこれ以上ないほど表している。
(なんだ? 一体何が起きた? モモンガさんがこれほど驚くこと……?)
いくつも予想を立ててみるが、いずれもしっくり来ない。
モモンガはまだ〈伝言〉が繋がっている様子なのに、たっち・みーに向かって呆然と言う。
放たれた言葉は、たっち・みーが――いや、誰もが想像もしていなかった内容だった。
「たっちさん、シャルティアが……シャルティアが、死んだ、と」
その言葉の意味をたっち・みーの頭が理解するまでにかなりの時間を有した。
ようやくその言葉の意味を理解したたっち・みーはその身を驚愕に震わせた。
そんなわけで、とんでもない引きですが、第二部(原作書籍版二巻までの内容)はこれにて終了です。
ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
今後の予定や行動は随時活動報告などでお知らせしていきます。
第三巻のエピソード開始前に何度か番外編および別作品の更新を挟む予定です。
「たっちさん」設定で「こんなエピソードがみたい!」ということがもしあれば、活動報告へのコメントなどでお願いいたします。参考にさせていただきます。
色々ご意見・ご感想などいただけると嬉しいです。
それではまた次の機会に。