オーバーロード ~たっち・みーさんがインしたようです~   作:龍龍龍

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※今回、原作設定の改変要素があります。
 


陽光聖典隊長ニグン

「確かにいるな……」

 家の影から村の外を見据えて、ガゼフがいう。たっち・みーは無言で頷いた

 モモンガとガゼフがその存在に関する予想について話している間に、たっち・ みーは密かに特殊技術を使用する。

(〈殺意感知〉)

 自分や味方に向けられている殺意を広範囲に渡って感知することのできる特殊技術だ。

 ユグドラシルにおいては一度交戦状態にならなければ使えず、姿を消して暗殺を仕掛けてくる相手か、超遠距離から何度も仕掛けてくる魔法使い相手にしか意味のない特殊技術であったが、この世界においては殺す気で近づいてくる者のことが交戦前からわかる。

 常時発動型ではないのでそこは不便だったが、いまのような状況下では大きな効力を発揮した。

(近づいて来ているのは三十二人か。二重三重に包囲を固めているみたいだな)

 もちろんこちらに対する敵意を持たない相手、 後詰や補助専門の者がいればその限りではないが、少なくとも最初に仕掛けてこようという敵兵はその数ということだ。

(さっきの騎士か、それに少し勝る程度の強さなら、私たちにとっては敵じゃないが……)

 話し合っているモモンガとガゼフに意識を戻す。

「モモンガ殿、たっち殿。良ければ雇われないか? 報酬は望まれる額を約束しよう」

「……少し相談させてください」

 モモンガはそういってたっち・みーを連れてガゼフから離れる。

 その上で〈伝言〉を用いて話しかけてきた。

『相手の力量が不明ですし、こちらの情報が漏れるのも具合が悪いです。ここは共闘は断って、彼が戦うのを観察して情報を収集しようと思うのですが……』

『……』

 たっち・みーはなんと言うべきか迷った。

 モモンガの提案はいつも合理的で、ナザリック地下大墳墓の主として相応しい判断をしていると思える。この村を襲っていた騎士たちは自分たちが一蹴できる程度の存在だったが、それは必ずしもいま襲いに来ている敵が自分たちより弱いことを意味しない。

 本人たちの力はともかく、自分たちを脅かしかねない切り札を有しているかもしれないと考えれば、不用意に戦いを挑むのは愚策であると言わざるを得ない。

 そしてたっち・みーにもモモンガにも、そういうアイテムに心当たりはあるのだ。

 モモンガの言う通り、戦士長を囮に――はっきり言えば捨て駒にして――敵がどのような力を有しているか、切り札を持っているのかを測るのは慎重で正しい行いであるといえるだろう。

 だが。

 だがしかし、である。

 たっち・みーはガゼフの様子を伺う。その強い意志を感じさせる表情からは、仮に自分たちに提案を断られても、自分たちだけで村人を守ろうという気持ちが伝わってくる。

 その気概を感じた瞬間、たっち・みーの中で答えは出ていた。

『モモンガさん。私は、彼に、彼らに死なないで欲しい』

 ガゼフの推測からすると、いま周りを取り囲んでいるのはスレイン法国の特殊工作部隊群の六色聖典であるという。その数も腕もガゼフが連れている騎士たちより上らしい。

 そのことをガゼフは特に隠すことなく、告げていた。周りには彼の連れてきた騎士たちがいて、 その話は聞こえていたはずだ。普通ならば怖気づいて逃げ出す者がいてもおかしくはない。

 もちろん、この状況で逃げたところで包囲されている以上殺されるだけだが……彼らの中にはそもそもそういうことを考えるような意思はないようだった。

 誰もがガゼフ・ストロノーフという自分たちのリーダーを信頼し、例え死ぬことが確実な戦場であっても、最後まで彼についていくという覚悟が見え た。

 こういう存在は貴重なものだ。ガゼフの人柄は少し話しただけでも十分に感じられた。

 何やらよくある派閥抗争に巻き込まれて苦労している様子もうかがえるが、それでもなお、国のため、国民のため、彼らの立場からすれば優先度は低いであろう村人を助けるために、罠にかかることを半ば覚悟してここまで来た彼らの意思を、少なくともたっ ち・みーは無下にできなかった。

 それは信念ある人間としての共感というよりは、命を削ってでも主人に仕える忠犬に対する同情の念と言えたが、『できれば死なないで欲しい』という想いに変わりはない。

 モモンガはたっち・みーがそう答えると想定していたようだった。

『わかりました。ならば彼の提案を受け、この世界の硬貨を手に入れましょう。ユグドラシルの硬貨はなるべく使いたくありませんし、この世界での活動資金を十分に得られると考えればそれなりに益のあることですしね。戦士長とのコネクションもまあ……役に立たないこともないでしょうし』

 あまりにあっさりと受け入れていた。

『……いいんですか? モモンガさん。私のわがままであることは理解しています。あまり気を使ってくださらなくても、大丈夫ですよ? 間違っていると感じたときは遠慮なく却下していただいても……』

 ギルド長はモモンガであり、そしてその冷静な判断力はたっち・みーも認めるところだ。そんな彼が自分の考えを優先せず、たっち・みーの言うことを尊重してくれるのは嬉しいが、しかしそれは危険ではないかという想いもある。

 そんな気持ちがあったが、当のモモンガはたっち・みーの言葉に対し、苦笑で応じた。

『むしろ、ああいう人間を助けようと言わなかったら、そっちの方が心配でしたよ。たっちさんらしくもない』

 あまりに、さらりと言われた言葉に、たっちはモモンガが自分のことを深く理解し、尊重してくれているのを感じた。長年不義理を働いたにも関わらず、そういってくれる彼に、たっち・みーはつくづく頭が下がる思いだ。

『わかりました。ありがとうございます、モモンガさん』

 迷いを断ち切り、たっち・みーは戦うことを決断する。

 戦う意思を明確にしたからだろうか。思考が急速に冷静になり、どうすることが最も利益につながるか、それがはっきりとわかった。

『私たちの情報が漏れるのが、世界のことをほとんどわかっていない現状でまずいのは理解しています。なので……モモンガさん。こうしましょう』

 たっち・みーがした提案に対し、モモンガはひどく動揺して叫んだ。

「なにをいってるんですか!」

 思わず〈伝言〉の魔法を使わずに口に出てしまう。それがガゼフたちには言い争いになったように見えたのだろう。慌てた様子で声をかけてくる。これまで何も言わず控えていたアルベドも同様だ。

「お二方、どうなされた――」

「モモンガ様? いったい――」

「やかましい! 黙っていろ!」

 一喝。

 それだけでアルベドは何も言えなくなり、ガゼフも口を閉じざるを得ない。

 それだけ、モモンガは必死だった。アンデッドゆえに、一定以上の感情は抑制されるはずだったが、それがまるで意味をなしていない。

「たっちさん、バカなことを言わないでください。さすがにそんなこと、許可できません」

 なんとか思い直すようにモモンガが説得するが、たっち・みーの決意は固かった。

「大丈夫です。それに、万が一のことを考えるのなら、それこそモモンガさんは後詰に回っていただいた方がいいでしょう?」

「それなら私が!」

「前衛の騎士と、後衛の魔法使い。どちらが敵の攻撃を耐え凌ぐのに向いているかは、明らかです。それに、不測の事態に陥った時、私では力任せに突破することしかできませんが、モモンガさんなら離れた場所からでも様々な手を打てるはずです」

「う……っ。それはそうかもしれませんが……しかし、向こうに切り札があるかもしれない現状で……もしかするとあれが……あっ」

 そこでモモンガは目の前にいるのが誰かを思い出した。

 たっち・みーは軽く頷いて見せる。

「私たちが想定しうる最悪が仮に向こうの手にあったとしても……私なら問題ありません」

「でも……」

 それでも渋るモモンガだったが、それを安心させるようにたっち・みーは笑った。

「大丈夫です。モモンガさん。あなたはアインズ・ウール・ゴウンをここまで守ってくれた。その恩に報いるためにも、ここは私に戦わせてください。私がアインズ・ウール・ゴウンの騎士として、申し分のない働きを見せましょう」

 そして、たっち・みーは黙って推移を見守っていたガゼフに向かって発言する。

「ガゼフ殿。私があなたに雇われよう。ただし――条件がひとつだけある」

「……なんだろうか?」

 たっち・みーは堂々とした立ち振る舞いで、その条件を口にした。

 

「私一人で戦わせてもらう」

 

 

 

 

 ニグンはいまだ村の中から動きがないことを不審に思っていた。

 王国最強の戦士長ガゼフ・ストロノーフの抹殺。そのために用意した罠にガゼフはまんまとかかり、あとはただ刈り取るだけの作業だったはずだった。

 ガゼフという男の性格を考えると、そろそろ自分たちが囮となってニグンたちの包囲網を崩しにかかってくるはずだった。包囲が綻びたところから村人を逃がそうと目論むはずだと睨んでいた。

 しかし、まだ動きはない。

(逃げてはいないようだが……? 計算が狂ってしまったな)

 ニグンはそう考える。

 信仰に生きる彼にとって、ガゼフの行動自体は理解できないものだったが、それはそれだ。相手が何を信じ、何を重要視しているかは、作戦を練る上で知っておかなければならない。理解できないことに命をかける愚者とはいえ、戦闘能力は極めて高いのだから。

 たとえ心から理解はできなくても、相手がどういう信念に基づいて行動しているかは、ニグンの頭に入っていて、それに照らし合わせて行動を誘導してきた。

(ふむ。籠城戦を選んだか? 村人に被害が出るような手を打つような男ではないはずだが……では、ただの村に隠された逃げ道があったと? バカな。ありえない。村人の囮となることを選ぶはずだ)

 もしそうやって村人を逃がそうとしても、その逃亡を防ぐ手立ては用意していて、無駄なあがきをする愚かな男を嘲笑ってやるつもりだった。

 自分の想定した状況になっていないことを受け、ニグンは心の中で警戒度を一段階引き上げる。

「私が読み切れない、イレギュラーな事態が発生している可能性があるな」

 彼は下種な人間だったが、指揮官としては非常に有能な男だった。

 自分が絶対的に有利な状況だとしても、一部の隙さえ許さない。相手の生き残る可能性を、万に一つの可能性でも潰す。

「やれやれ、仕方ない。もう一つ、ダメ押しの手を打っておくか」

 ニグンは自分の得意とする魔法を行使する。

 翳した手が光り輝き、目の前の地面に魔方陣が広がる。

「天使召喚・監視の権天使」

 魔方陣から溢れた光が徐々に人の形を作っていく。それは全身鎧に身を包んだ天使だった。

 片手にはメイスを持ち、もう片方の手には円形の盾を装備している。その堅牢なる外見にふさわしい、この天使が持つ特殊能力は、味方の防御能力を若干引き上げるものだ。それは召喚しているだけで味方を援護する能力であり、ニグンの部下が召喚した上位天使たちの能力も引き上げることに繋がる。

 その天使を召喚することは、元々の予定にあったことだ。ゆえに、この天使を召喚したこと自体は、ダメ押しの手ではない。

 ダメ押しの手は、ニグンの背後に現れていた。

 

 二体目の監視の権天使。

 

 まるで鏡に映したかのように、最初に召喚された天使とはメイスと盾を持つ手だけが逆転した状態で、二体の監視の権天使が現れていた。その天使は一体目の監視の権天使と並び、ニグンの左右を固める。上位天使よりもさらに上の監視の権天使を二体召喚したニグンに、部下が尊敬の眼差しを送っていた。

 ニグンは単に監視の権天使を二体召喚したわけではない。彼が唱えた召喚魔法は一体分だった。しかし、現れたのは二体。

 これは、彼の持つ生まれながらの異能がそれを可能にしていた。

 

 『召喚モンスターの二倍加』。

 

 ニグンが召喚魔法を唱えると、そのモンスターはどのような存在でも二倍の数が召喚される。上位天使を召喚しても同じだ。しかも、この生まれながらの異能による魔力消費は極小。つまりニグンは通常の倍近い戦力を一人で生み出せるということになる。

 一体だけならともかく、監視の権天使を二体同時に相手にして勝てる相手は早々いない。ましてやいまは集団で行動しているのだ。二体の監視の権天使が生み出されたことで、その分だけ味方の防御能力も上昇している。

「少し過剰だったか? まあいい。村から出てこないというのであれば、火をつけてあぶりだすのみ。では……作戦を開始する」

 ニグンは絶対勝利を確信していた。勝利を疑うような要素など微塵もない。

 もしも本当に不足の事態が起きたとして、億が一ガゼフ・ストロノーフが天使たちの包囲を突破したとしても――本当の切り札は、ニグンの胸元にある。

 その確かな存在感を放つ『本当の切り札』に手を当てて、ニグンは笑みを浮かべる。その切り札は彼の生まれながらの異能と合わせれば、もはや向かうところ敵なしであることが明らかなものだった。

 任務の完遂と勝利を確信したニグンは、部下を率いて、村へと侵攻を開始した。

 

 

 




※改変要素について※

 ニグンの持つ生まれながらの異能を改変しています。
 「召喚モンスターの強力化」⇒「召喚モンスターの二倍加」

 どんな魔物を召喚しても、問答無用で召喚数が1体増えるという、場合によっては「なにそれチート」と呼ばれる異能です。
(なお、魔封じの水晶で召喚されるモンスターに、使用者の生まれながらの異能が効果があるかについては不明ですが、今作中では効くということにしています)

 この能力を持っているため、ニグンちゃんの重要性や地位は原作より高い設定ですが、特に意味もないので触れません。
 ちなみに彼が常にこの異能を使わない理由は、信仰的な理由です。本来踏むべき手続き(召喚魔法)を経て召喚していないため、考えようによっては神に対して不敬を行っている可能性がありえます。
 『神に愛されし生まれながらの異能』と自分を納得させているところもありますが、慎重な彼は極力この能力の仕様は控えているのです。

 やったねニグンちゃん!
 この力があれば原作みたいなことにはならないよ!(棒)
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