-4月9日-
足立が稲羽市に来て数日が経った。
堂島「なぁ、足立。」
堂島に声をかけられた。
足立「どうしたんですか?堂島さん。」
堂島「今日は甥が引っ越してくるんでな。そいつを迎えに行かなきゃならん。そういうわけで俺はもう上がるんだ。また何かあったら電話してくれ、それじゃ。」
足立「えっ、ちょっ…」
足立は戸惑った。“彼”が引っ越してくるのはあと数日後だったはずだ。何故、日数がずれているのか理解できなかった。
堂島「どうした?」
足立「あ、えっと… 甥っ子さんの名前は?」
足立は動揺していたが、何とか1番確かめなければならない事を質問した。
堂島「お前、変な事聞くんだな…。"鳴上 悠”って言うんだがお前、悠の事何か知っているのか?」
“鳴上 悠”…間違いない。
足立「あ、いえ…何でもないんです。ただ、ちょっと気になったというか…ハハ。」
堂島「おう、それじゃな。」
確かに彼だ。堂島の甥は鳴上だ。
だか、何故こんなに早く稲羽市に来たのだろうか。
確か前回は…4月11日頃に来たはずなのに…
…何かが動き始めている。そんな気持ちをうっすらとだが感じていた。
その日の仕事ははかどらず(もともとやる気はないのだが)、心なしか気分もすぐれなかった。
自宅であれこれ考えている内に、睡魔がやってきた…かと思ったのも束の間、どこか別の場所に飛ばされた。
…ここは、どこだろうか……。
リムジンバスの中の、真っ青な部屋。窓から見える景色も霧で覆われていて、普通では無い事が分かった。
この奇妙な光景に驚いたが、しかし何故か嫌な感じはせず、むしろ心地よい場所だと思った。
「ようこそ、ベルベットルームへ…」
足立のいろいろな思考や感情を、後ろから聞こえた老人の一声が振り払った。
「ほう、これはまた、変わった定めをお持ちの方がいらしたようだ…フフ。」
気がつくとそこには、鼻の長い奇妙な老人と綺麗な秘書らしき人物がいた。
「私の名は、イゴール。…お初にお目にかかります。」
イゴール「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所…」
そうか、ここは夢なのか、それでこの不思議な場所にいるのか…。
それにしては、意識が完全にある感じがする…。
イゴール「本来は、何かの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋…貴方には、近くそうした未来が待ち受けているのやもしれませんな。
どれ、まずはお名前を伺っておくと致しましょうか…」
何が何だか分からないが、自分の名前を聞かれた。
−“足立 透”−
イゴール「ふむ、なるほど…では貴方の未来について、少し覗いてみると致しましょう…」
イゴール「ほう…近い未来を示すのは、“死神”の逆位置。どうやら貴方にとっての何かが終わりを迎え、それから新しい状況に立ち向かっていかれるようだ。」
自分にとっての何か?新しい状況…稲羽市で生活する事か?
足立にはそれが自分の何を示しているのか分からなかった。
実はこの時の占いは、後の足立の運命を示していたのだ…。
足立の記憶力が妙に良い(悠の転校してきた日をキッチリ覚えている)のは気のせいです。