夜、守矢神社内にて。練也が能力を身に付けたことや、初の弾幕ごっこで勝利したという話題で、食卓の周りは大いに盛り上がっていた。
「凄いじゃないか、練也。来たばかりなのに妖怪を1匹倒すなんて。」
神奈子が杯に入った酒を一杯飲み干してから、機嫌良さげに声を上げた。その横で練也は、勧められた酒を少しずつ飲みながら神奈子が発した言葉に返答する。
「それ程大したことはしていませんよ。俺はただ偶然、勝負に勝っただけだ。勝負は時の運って言葉もありますし。」
「謙遜するねえ...。でもアンタの戦いぶりを早苗から聞いたけど、最後は本当に善戦したらしいじゃないか。なあ、早苗?」
「はい。練也さんは、弾幕ごっこに関しては初心者同然でした。でも最後にはスペルカードを発動して、ルーミアを倒したんです!」
杯を机に置いてからその場に立ち、身体を使いながらその時の状況を説明する早苗。神奈子はどうもそのスペルカードが気になるらしく、戦いで使ったカードを見せてくれと練也に聞いた。練也は懐から1枚のカードを取り出し神奈子に見せる。
「ほう。中々良いカードじゃないか。....炸裂拳『ヒートスマッシュ』か。」
「はい。名前は戦っている時、自分で決めました。」
練也が持っているカードは、今はその1枚だけである。この先弾幕ごっこをやる頻度が増すのであれば、1枚と言わず、もっと多い枚数を準備しなければならないだろう。
「もう少し此処に居るのであれば、スペルカードは何枚か作っておいた方が良いね。何かあった時の保険にもなるし。」
傍からニョキッと生えた様に姿を見せた諏訪子も、練也が持っているスペルカードに興味を示した様だ。彼は此処に来てからというものの、退屈だった普段の生活とおさらば出来るという考えが、心の中に生じ始めた。
「(もしかしたら、コレが紫さんが言っていた凄いモノかもしれないな....。...あともう何枚か作ってみるか。)」
マヨヒガのとある一室では、士がフィルムの現像作業を行っていた。彼の部屋の前には、『フィルム現像中』という掛札がかけられている。
「(通りで来ないと思ったら、現像中だったか...。)」
紫の式である藍が、士に晩御飯の支度が整ったことを伝える為にその部屋の前に立った。部屋の扉を数回ノックして、士に晩御飯を食べる様に催促する。
「士、晩御飯の支度が出来たぞ。紫様がお待ちだ。」
「後もう少しで終わる。」
「海鼠...。」
「.......。」
「出そうと思えば、今すぐにでも出せるのだが...?」
流石、八雲の式なだけはある。彼女が士の嫌いな食べ物が『海鼠』だということを理解したのは、彼が此処に来て間もない時だった。海鮮系の食卓を準備したところ、その時偶然用意していた海鼠にだけは箸で触れるどころか、目も向けなかったという。コレは八雲一家の間で、一般常識の様なものになっていた。
ゆっくりと部屋のドアが開かれ、その奥から士が険しい顔付きで姿を見せた。
「藍。お前、何時からソレを...。」
「お前が此処に来てから、ずっと知っていたが?」
「流石九尾の狐と言ったところか...。」
弱点を突かれ、頭が上がらない士。そこへ橙も駆け付け、最早彼に拒否権を行使する力は無くなっていた。
「士、早く行こう?ごはんが冷めちゃうよ?」
「...わかった、今行く。だからさっさと行け。そこに居られると邪魔だ。」
会場に足を運ぶと、待ちくたびれたかの様な素振りを見せながら、紫は口元を扇子で隠しながら欠伸をした。食卓の内容は、一般家庭とは変わらない極普通のものだ。
「待ちくたびれたわよ?」
「悪い。現像をしていたら時間を忘れた。」
しばしの間、自分の世界に入っていた士。海鼠がないかどうかを確認してから、ゆっくりと腰を下ろした。
「それじゃあ殿方が来たところで、早速食事にしましょうか。」
「いただきます。」
八雲家も一家揃っての晩酌を開始し、仲の良い様子で杯を交わしていた。互いに酒を注ぎ合った紫と士は、クイっと一口日本酒を口に入れ濃厚な味わいを楽しむ。その後、紫が今日行われた弾幕ごっこの話題を士に振った。
「ところで、今日の彼とルーミアの弾幕ごっこのことだけど...。」
「ん?...ああ。外来人で弾幕ごっこ素人にしては、中々やるんじゃないか?」
「(この世界で1回も戦ったことがないお前が一体何を言っているんだ...?)」
その会話を2人の間で聞いていた藍は、士に対し心の中でツッコミを入れた。士は昼間に出会った魔法使いの少女、霧雨魔理沙から弾幕ごっこの何たるかを、かなり簡単ではあるが口頭で教わった。あえてもう一度言わせてもらうと、彼女の教え方は『かなり大雑把な教え方』であったと言えるだろう。
「貴方も今度やってみたら?いい加減に写真を撮ってばかりだと、身体も動かしたくなるでしょ?」
「ああ、気が向いたらな。まずはフィルムに収まっている写真を現像しないと...。...それより...。」
逆に紫に対し質問を投げかけようとする士に、紫自身が手で彼の言動を静止させる様な挙動をとり、一旦そこで会話が途切れた。紫はそうした後、口を開き士に言い放った。
「貴方の言いたいことはわかるわ。だけど今は楽しい夕食の時間よ?話す場所を弁えてくれなくちゃ、私困っちゃう。」
「...わかった。」
夕食を済ませ、片付け作業を藍と共に終わらせた後、士は紫と共にマヨヒガの屋外へと歩みを進めた。
「さて。さっき貴方がしようとしていた話を、今此処でしようと思うわ。今回は、2人の客人も来ているの。」
「客人?」
「多分、1人は見覚えあると思うわよ?もう1人は、私も貴方も知らないけど。」
するとその場に、士の見覚えのある空間が突如として出現した。その奥から1人の人物が姿を見せた瞬間、士は険しい表情を作りながら言葉を発した。
「!?...お前は...!」