竹林でしばしの休息をとっていた、レプトーフィスワームの少女。名前はまだ無く、自分のことをなんと名乗れば良いのかわからない彼女は、そのことについて酷く感傷的になっていた。地球外生物である彼女が、影響を受ける程の精神的苦痛。尋常じゃない程の痛みだったとはいえ、今は多少は治った様だ。
「...。(とりあえず、此処から出よう。落ち着いた今こそ、行動をする絶好の機会だ。)」
レプトーフィスワームはゆっくりとその場から立ち上がり、速くもなく、遅くもなくのペースで歩き始めた。あえて人間形態を解かない理由は、自分の正体を誰にも知られないようにする為。この深い竹林とて、人が居ないとは限らないと彼女は思ったのだ。
「(ようやく動き出したね。さて、どうなるかな...。)」
少女を遠くから観察していた、うさ耳を頭から生やした可愛らしい少女。名前をてゐと言った。何やら良からぬことを企んでいるかの様な表情を顔に浮かばせている。自分の存在を探知されない様に、経過を見守るてゐ。彼女はこの竹林の中での悪戯を得意としており、此処で迷う者の殆どは、彼女が仕掛けた罠による被害を受けていた。無論、レプトーフィスワームとて例外ではない。
「........。」
罠があることなど知らないレプトーフィスワームの少女は、1歩、また1歩と罠に近付いて行く。
その先には『たくさんの落とし穴』が待ち構えている。そのまま穴に落ちる場面を見届けようと、てゐは茂みから顔を出す。しかしそんな簡単に罠に掛かるレプトーフィスワームではなかった。
「(...。此処の土、色が違う...?)」
一瞬で罠の存在に気付いたレプトーフィスワーム。地面を一通り見てから、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。てゐは急ぎ顔を引っ込め、想定外の事態に焦りを露わにする。
「(嘘っ...?!一瞬で罠を見破った?どうしよう...、私が丹精込めて作った落とし穴が通用しないなんて...!)」
そして、更なる悲劇が起きた。レプトーフィスワームとは逆の方から歩いて来た、1人の少女。こちらの少女も頭部にうさ耳を生やしており、神は白髪のロングヘア。紅い眼を持ち、学生服の様な衣装を身に付けていた。
「(鈴仙!?ヤバイ、想定外だよ!)」
もう1人のうさ耳を付けた少女の名前は鈴仙・優曇華院・因幡と言った。鈴仙があと1歩で落とし穴に落ちるところで、反対方向に居たレプトーフィスワームが注意喚起を試みる。
「あっ、そこからは落とし穴が...。」
「えっ...!?ひゃっ!!?」
見事に片足から落とし穴に落下した鈴仙。打ち所が悪かった様で、眼を回しながら気絶している。レプトーフィスワームは手際よく落とし穴の位置を回避し、鈴仙の下へ向かう。
「(擬態して人を殺すのではなく、まさか助けることになるとはな...。)」
鈴仙を落とし穴から出し、そのまま背負う形で運ぼうとレプトーフィスワームはその場から歩き出した。ソレを見たてゐは、悔しげな表情を浮かばせた。自分の罠が見抜かれたことなんて、特定の人物以外あり得なかったのに...!
「...其処に隠れている子も、付いて来て欲しい。」
「......。はい...。」
どうやら、初めから居場所がばれていたらしい。てゐは茂みの中から少女の下へと向かって行った。
てゐに道案内をしてもらい、そのおかげでものの数分で目的地と思われる場所に到着した。大きなお屋敷という印象を受けるその建物の中にてゐが入って行くのを見たレプトーフィスワームは、鈴仙を背負ったままその建物の中へと入って行った。門を潜って敷地内に入ると、この屋敷がどれ程広いのかがわかる。擬態した少女の記憶に、この場所は無い。此処は何処なのか、レプトーフィスワームはてゐに訊ねた。
「此処は、どういう場所なんだ?」
するとてゐは、こう答えた。
「此処は永遠亭。私達が住んでいる、お家だよ。」