守矢神社の寝室で気持ち良さげに寝息を立てていた練也は、誰かに揺すられたことにより目を覚ました。
「練也さん。起きて下さい。」
聞こえたのは早苗の声だった。いつの間に寝ていたのかと思いながら被さっていた布団を退かし、身体を起こし目を擦る。視界が鮮明になってから辺りを見ると、早苗が正座をして練也の側に座っていた。
「早苗さん...?俺はたしか萃香と戦っていて...。」
「萃香さんとの戦いで、練也さんは気絶したんです。とにかく今日はお疲れ様でした。」
「うん...。なんか身体がやけに重いな...。」
全身に疲労感が溜まっている様な感覚がある。ふと練也は、自分がどのくらいの間眠りに落ちていたのかが気になり、早苗に質問した。
「早苗さん。そういえば、俺はどれくらい眠っていたんだ?」
「お昼の戦いの後からずっとですよ。今は夜の7時を回ったところです。」
「マジか...。結構寝たな。」
流石に1日に3回も戦えば、並の人間でなくともそうなってしまうだろう。練也にとってこの幻想郷での生活は、今のところハードワークの連続である。しかし彼自身はそのことに関して、何ら苦に感じている様子は無かった。寧ろ今の彼は、前よりも生き生きとしていた。早苗はそんな彼の様子を見て、微笑んでいる様に見えた。
「練也さん。そういえば、晩御飯はどうしますか?食欲が無ければ、神奈子様と諏訪子様と私の3人でいただきますけど...。」
「俺もいただいていいかな?お腹空いちゃって...。」
「それじゃあ、一緒に食べましょう♪」
練也が腹を空かせていることを知るや否や、早苗は練也と共に居間へと向かう。その表情もどこか嬉しそうに見えた。居間に入った2人は神奈子と諏訪子と共に晩御飯を食べ始めた。黙々とご飯を食す練也に、早苗が目を輝かせながら言う。
「今日の練也さんの戦いは、見ていて何か痺れるものがありましたね。」
「そうかな?まあ全力で戦ったのは確かだけど、あまり自分が思う様には戦えなかったしなあ...。」
そう言ってから味噌汁をズズーッと一口啜る練也。神奈子や諏訪子が続けて言った。
「この幻想郷に来てから2日目だというのに、逆にアレだけのことが出来ればもう言うことは無いさ。ましてや、あの鬼相手に互角に渡り合えるとはね。」
「中々居ないよねえ。鬼相手に力で挑む子は。私も練也が萃香と競り合った時は、目を疑っちゃったよ。」
「あはは...。ありがとうございます。」
褒められたことに対して素直に嬉しいと感じた練也は、自身の表情に笑顔を作りながら言った。そして自分の力がこの世界で通用することにも、彼は喜びを感じていたのだ。しかしまだまだ、先は長い。彼はこの世界に来てから2日が経過したに過ぎず、スペルカードはまだ1枚しか完成していない。弾幕も撃てない。まだ自分の力を高める必要があると、練也は考えていた。
「.....。」
練也が険しい表情になり、突然黙り込む。それを見た早苗は少し心配そうな顔を浮かべながら言う。
「練也さん?」
「...ああ、ゴメン。起きたばかりでボーッとしちゃって。」
ご馳走さまと言ってから、練也は食器をまとめて流し台へと持って行った。それから食器を洗い、入浴を済ませた後に縁側で夜風に当たりながら、彼はゆっくりと寛ぎ始めた。そこへ、突然の来客が訪れる。
「おお、練也じゃないか。」
「...萃香か?」
今日の昼間に決闘をし合った者同士が出会うが、特に問題が起きる気配は無い。穏やかな雰囲気を崩すことなく、萃香は練也の近くに歩み寄った。酒を呑み過ぎた所為なのか、千鳥足になりながら歩いている。
「ちょっと失礼するよ〜。」
「ああ。」
自分の隣に座り、瓢箪の中に入っている酒を呑む萃香の姿を見ながら、今日の戦いを振り返る。昼間行われた戦いで対峙した人物とは思えない。角や鎖、瓢箪を持っていることを除けば、普通の少女と言えよう。
「あの戦いの後、萃香は大丈夫だったのか?」
「あの後かい?ん〜。衝撃はあったけど、大したことは無いよ。練也も大丈夫だった?思いっきり飛んだみたいだけど。」
「ああ、大丈夫だよ。...それより、どうしたんだ?こんな夜に来るなんて。」
練也の問いに、酒を一口口に含んでから萃香はゆっくりと言った。彼女の顔はどこか嬉しさや、喜びと言った感情が孕んでいた。
「今日はお互いに頑張ったからね。疲れを酒で癒しながら、ゆっくりと親睦を深めようと思ってさ。」
「そうか...。」
萃香がおもむろに杯を2個取り出し、片方の杯を練也に勧めた。それを受け取ると、そこに日本酒が並々の量で注がれる。家で家族と呑んでいた日本酒や、守矢神社で呑んだ日本酒よりも、匂いがキツイ。独特な匂いが、練也の鼻を突いた。勧められたのなら呑まないわけにはいかないし、ここまで来て未成年だと言って逃れるのもどこか申し訳がない。というか、彼は今更そんなことなど言える筈がなかった。
「それじゃあ、いただきます。」
クイッと一口、注がれた酒を呑む。旨味と同時に快感とも言える、なんとも言えない感覚が練也の身体を包んだ。かつてない、言葉に形容し難い感覚を感じながら、練也は萃香に酒を注ぐ。萃香は酒を注がれながら、練也に酒の感想を聞く。
「どうだい?鬼が呑む酒は。」
「うおぉ...。すっごく美味しいよ!」
「そっか。それは良かった。」
練也の感想を聞いた萃香は、まさに御満悦といった感じである。そこへ早苗がほっぺたを膨らませながらやって来た。縁側の上を伝い歩いて来る音に、練也と萃香が彼女の方へ顔を向ける。
「おっ、早苗さん。」
「早苗じゃないか。一杯やっていかないかい?」
「お願いします!というか練也さん?お酒を呑むのであれば私も誘って下さい!なんで誘ってくれなかったんですか!」
「何だい?焼きもちかい?」
「違います!だって連れないじゃないですか!私を除け者にして!」
「ああ、ごめんなさい。これからはちゃんと誘うから、とりあえず落ち着こう、早苗さん。」
「当たり前です!それでは、私もいただきます!」
今宵の守矢神社の夜は、練也にとって何時もに増して長く感じられた。ソレを遠くで見守るかの様に、ある1人の男が静かに佇んでいた。
「...これから、この世界に災いが訪れる....。僕は確かに、君に伝えた...。君を受け入れてくれた世界や人々を、果たして護れるかな....?」
鉛色のオーロラが出現し、佇んでいた男。平行世界からの来訪者、佐藤練也は静かにその場から去って行った...。