「うおおえぇぇ・・・。」
神社での居候生活を3日目に迎えた1人の男、佐藤練也はその守矢神社の厠に篭っていた。昨夜彼を含めた守矢神社ファミリーと伊吹萃香の間で宴会が行われたのだが、その宴会が原因で彼はこうして厠に篭っているわけである。宴会と言えば酒が当然絡んで来るし、酒が絡むことによって起こりうる問題は、1つしかない。
「大丈夫、練也?」
「大丈夫でおろろろろろ・・・。」
長い間厠に篭っている練也が心配ならない様子で、諏訪子が彼の背中を優しく摩る。それに彼が「大丈夫です!」と元気良く答えようとするが、それが祟ったのか勢い良く口から昨日の酒の摘みと思われる吐瀉物を吐き出した。この状況を見てわかる通り、彼は今二日酔いに悩まされていた。今思えば神様や鬼が居る場所で、人間がそこに混ざって共に酒を呑むなど愚かな行為だ。ましてや練也は成人ではなく、未成年である。飲酒量が人間の倍以上ある存在と呑み比べをした結果、今日の状況を作り出すに至ったわけである。
「あまり無理しない方が良いよ。」
「もう大丈夫です...。お〜、吐いてスッキリした!ありがとう諏訪子さん。」
彼は体調が優れない様である。とりあえず外の空気を身体に取り入れてから、寝室に戻ることにしようと彼は心の中で呟きながら玄関の戸を開けた。
「(神社の中も良いけど、やっぱ境内も居るだけで落ち着くし、居心地が良いよな〜。)」
そう練也が思っていた時だった。不意に自分の近くで何かが静かに着地した音を聞き、彼はその方向に顔を向けた。
「どうも、おはようございます!清く正しい射命丸です!っと言っても、貴方と私はもう面識もありますし、自己紹介は不要ですね。」
「おはよう...、文。ああ...。そうだね...。」
前回会った時と同様のテンションで話し始める文。練也が二日酔いであることなど御構い無しと言わんばかりに、文の口は止まることを知らぬといった具合だ。練也の顔面蒼白な様子に気付いた文は、それについて質問する。
「今日は、どんな用で...?おぇっ...。」
「むっ。何ですかさっきの、今にも吐き出しちゃいそうな人みたいにして。」
「あぁ...。実は昨日...。」
練也は文に今現在の状況に至るまでの経緯を話した。鬼と神様に愚かにも程があるが、呑み比べを挑んだこと。今朝は厠に篭って出ることが出来ぬまま、しばらくの間便器と対面していたこと等...。とりあえず自業自得とはいえ、散々な目に合ったことは文に伝えた。心無しか、文の顔色が悪い気がする。練也はふと、彼女が持っていた残り数部の新聞に目が行った。
「...それより...、この新聞は...?確か、前に文々。新聞っていうのを書いてるって聞いたけど...?」
「はい。実は今回親善訪問も兼ねての文々。新聞の配達をやろうと思っていたんですよ。」
「それで、また此処に来たのか...。」
「そうです。どうでしょうか?」
「どうでしょうか?って...。」
文から新聞を受け取り、ある一面を見た。昨日萃香と戦っている時に撮影されたと思われる場面や、ルーミアや妖精、レプトーフィスワームに対するトドメの一撃を行っている場面等が、記事として取り上げられていた。更には士の姿までもが、記事に掲載されているではないか。
「記事の題名は...。『謎の外来人、佐藤練也!幻想郷に現る!』...それから...?『外来人、門矢士!幻想郷の風景を今日も激写か!?プライベートに急接近!』...。」
「久しぶりに良い記事を書けたと思うんですが、どうでしょうか?」
「...まあ、良いんじゃないか?」
「なんですか、その微妙な反応?!」
「此処に来て初めて読む新聞だからなあ。いきなり評価しろって言われても。」
「む〜...。まあ、これで幻想郷中に私の記事が有力であると証明出来ますし、あのはたてにもこれで差を付けたことでしょう。それでは、私はこれで!」
疾風の如く速さでその場から飛び去る文を、新聞を片手に持った練也は黙って見送る。萃香は山に帰って居ないし、早苗、神奈子、はおそらく寝ているし、諏訪子も多分それであろう。はてどうしたものかと、練也はその場で考えた。
「暇だな...。」
暇なのは良いことだと思いながら、練也は新聞をポストに入れ屋内に戻ろうと玄関の戸に手をかけた。そこで急に守矢神社の周辺に存在する森林地帯から、妙な騒めきが聞こえ始めた。辺りに植生する大木の枝が、バサバサと音を鳴らし激しく動揺する様は、練也には多少不気味に見えた。
「.....。」
それは敵対する存在の能力によって生じた現象だった。突然横から何者かの攻撃を受け、練也は吹き飛ばされた。地面をずり、動きが止まったところで上半身だけを起こし、自分が攻撃を受けた方向を見やる。そこには、怪物が1匹佇んでいた。
「...ワーム...!?」
「.....。」
怪物の身体は逞しく、頭部と身体の要所にある棘を除く場所は、全て白に染められていた。頭部は橙色の透き通った硬質化した皮膚に護られており、肩、腰、膝等には黒く煌めく棘が生えている。両手には同じく黒く煌めく、長大な爪を持つ。おそらくこれで、獲物を仕留めるのだろう。
「....。...フゥ...。」
「!?」
その怪物。フォルミカアルビュスワームが、突然自分に擬態した。練也はこの瞬間、即座に悟った。コイツは、俺を殺す気だと...。しかし、起きた現象はそれだけではなかった。突然、擬態したフォルミカアルビュスワームの上空に裂け目が生じ、そこから1匹の甲虫の形をした何かがフォルミカアルビュスワームの手の中に収まる。それは黒いカブトムシのようであった。
「何...!?」
手に収まった黒いカブトムシを象ったデバイスを腰のベルトに装着し、それに呼応するかの様にしてデバイスから音声が流れると同時に効果を発動する。
「...変身。」
HEN-SHIN
ベルトに装着されたデバイスを基点とし、そこから鱗状の装甲システム。ヒヒイロノカネが全身に装着されていき、フォルミカアルビュスワームは姿を変貌させた。
「...カブト...。いや、ダークカブトか。」
練也の目の先には、先程のフォルミカアルビュスワームが変身した仮面ライダーがその容姿を露わにする。装甲板に覆われた身体に、怪しく煌めく黄色い複眼。全体的に黒を基調としたその身体からは、計り知れない気を感じる。
「(俺のディケイドにしろ、このダークカブトにしろ。この世界にはあらゆるものが流れて来るってわけか...。)」
「....。」
無言でその場から駆け出し、練也に攻撃を仕掛けるダークカブト。初期状態のマスクドフォームから繰り出される高威力の打撃は、普通の人間であれば1発喰らえば命は無い。しかし練也は幻想郷で身に付けた能力を駆使し、ダークカブトの攻撃を防いでいく。しかしダークカブトの正拳や蹴りを浴び続ける練也は、確実に体力を削られていった。
「(ちっ...。流石に、強力だな...!)」
「はあっ!」
もろに蹴りを腹部に浴びてしまい、そのまま吹き飛ばされる練也。しかし、これで適切な間合いで変身出来る。すぐさまディケイドライバーを取り出し腹部に押し当て、その位置で固定する。両腰骨から出現したライドブッカーからライダーカードを引き抜き、それをダークカブトに翳し練也は宣言する。
「はあっ...、はあっ...。変身っ!」
KAMEN RIDE
DECADE
9つの鉛色の影が収束し、カード状のエネルギー体が頭部に投げ込まれるようにして融合。身体を青、黒、シルバーの3色に染め、仮面ライダーディケイドへと姿を変貌させる。
「行くぞ!」
「....来い...!」
ダークカブトに正拳を浴びせにかかる練也。1発正拳を放つがそう簡単には当たらないと言わんばかりに、ダークカブトは横に小移動し攻撃を捌く。それからカウンターの裏拳を浴びせ、態勢を整える。そこからとにかく正拳のラッシュを繰り出す練也。最初の数発は捌きカウンターの肘打ちを試みるダークカブトだが、正拳を防いだ一瞬の隙を突き膝蹴りを胸部に直撃。怯んだところを突き放し練也はハイキックで追撃するが、これは捌かれてしまう。今度は互いに真正面から正拳を浴びせにかかる。捌き捌かれ、当てて当てられの一進一退の攻防が繰り広げられる。
「何が目的だ!」
「この世界は、我々が支配する...。その為に、貴様は死ね...!」
ダークカブトが練也に打撃を入れて間合いをとりつつ、装着したデバイス。ダークカブトゼクターのホーン部分を指で軽く圧し、ホーンを動作させる。それにより身に纏っている装甲板が身体から若干浮き上がるようにして動作。その上にダークカブトゼクターを基点とし、電流が流れ始める。
「キャスト...オフ...!」
CAST OFF
ダークカブトがゼクターのホーン部分を力強く倒すことにより、身体に纏っていた装甲板をパージ。パージした装甲板は練也へ飛来し、その殆どが直撃する。
「ぐおっ!!?」
吹き飛ばされずとも、その場で怯む練也。態勢を立て直す為に、再び構えをとる。眼前には装甲板を剥いだ、ダークカブトの容姿がハッキリと見えた。上半身の装甲に施されている、特徴的な赤と黒の禍々しい配色。収納されていたホーンが顎下部から持ち上がる様にして顔面部に装着され、それに伴い複眼が一瞬黄色く煌めいた。
CHANGE BEETLE
「貴様は...、俺が殺す....!」
猛烈な殺気を練也に放つダークカブト。今、幻想郷で新たな異変が始動する...!