人里の一角。大通りとは対照的に、人の往来は皆無であった。ひっそりとそこで暮らす人々の中に、レプトーフィスワームが擬態した件の少女、皐月の姿があった。家の近くの井戸から新鮮な水を汲み、大きな木製の盥に流し込む。その盥の中に衣類を入れ、石鹸を使い泡立ている。どうやら洗濯をしているようだ。
「.....。」
終始無言のまま洗濯作業に没頭する皐月。相変わらず目に輝きは見られず、生気を失ったままの状態だ。レプトーフィスワームが言っていた、まさに『生きながら死んでいる』状態である。
「.....。(確か、この辺りだった筈だ...。)」
住宅街の中に入り込み、辺りを見ながら皐月の姿を探すレプトーフィスワーム。しかし、自らを尾ける様にして追う多数の影があることを、彼女は知らなかった。
「....。」
小規模と言えど、此処は住宅街。厳戒令が発令されるのは明日からだという風に紫から聞いた士は、少々早く訪れたこの静寂を疑問に感じていた。いくら大通りから外れている場所であっても、もう少し人で賑わっていても良い筈だ。レプトーフィスワームの後を追いながら彼は、周囲に目を光らせていた。無論、未だ襲って来ることがない、擬態した者にもだ。
一方守矢神社の境内。また新たに変貌を遂げた、自身に強烈な殺気を放つ存在。ダークカブトに対し、練也は対峙していた。装甲板をパージしたことにより、より軽快な動きが可能になる。防御力に重きを置いたフォーム、先程のマスクドフォームとは異なり、攻撃的な面を含むライダーフォームと呼ばれる姿である。
「貴様は...、俺が殺す....!」
そう練也に言い放ち、ダークカブトは全速力で練也に突貫した。先程までの鈍重な足取りではなく、俊敏な動きで詰め寄られる。先制を取ったのはダークカブトだった。素早く、かつ正確に繰り出される正拳は、マスクドフォームに比べれば若干威力は劣っているようにも思えた。だが、ライダーフォームはそのパワーの不足を補うことの出来る俊敏性を備えている。数発打ち込まれ攻撃を捌き反撃しようとする練也だが、ダークカブトはそれを許さなかった。
「ふんっ!」
練也が正拳を捌きカウンターの正拳を入れ、それを逆に捌かれてしまう。腕を出したところでダークカブトの両腕に捕縛され、そこから一本背負いを喰らい数m先に投げ飛ばされた。
「ぐっ?!」
急ぎ態勢を立て直す練也。今度はこっちの番だと言わんばかりに攻撃を開始する。全速力で接近する練也に対して、ダークカブトは対照的な動きを見せた。落ち着いた様子で練也に向かい歩みを進め、速度は違えど確実に間合いを狭めていく。練也の正拳がダークカブトの腹部を捉えようと繰り出されるが、これは難無く回避。第二撃目はフックが脇腹目掛けて襲いかかるが、片手で捌く。その後同じように拳や蹴りが繰り出される。お互いに一歩も退かない、肉弾戦が始まった。
「はあっ!」
「おおっ!」
拳や蹴りの応酬を出し合う両者。しかし、ダークカブトにはまだ使っていない能力があった。練也は戦いに夢中になり、ダークカブトが持つ能力に対し警戒が疎かになっていたのだ。段々と風が吹き荒れ、周囲に存在する数多の樹木が強風に靡いている。
「.....。(その視野の狭さが、...命取りだ...。)」
間合いを詰めた状態で攻撃を続ける練也は、ダークカブトの右手が右腰骨付近までに伸びていることに気付いていない。そのまま次撃を待つ様なダークカブトの仕草に一瞬戸惑う練也だったが、気付いた時にはもう手遅れだった。
「クロックアップ....。」
「しまっ....!?」
CLOCK UP
ダークカブトがベルトの右側。右腰骨付近の位置にあるクロックアップボタンを押すことにより、クロックアップが発動する。先程まで吹いていた強風は嘘の様に止まり、風に靡いていた樹木も一切の動揺を起こさなくなった。そして練也。先程ダークカブトへ繰り出し、当たる筈であった正拳を振りかざしている格好で静止している。まさにコレがクロックアップの成せる技。自分だけの時間軸を形成し、相手を一方的に攻撃出来る能力なのだ。
「お前は、地獄でこの世界が蹂躙される様を見ていろ...。」
練也に死へのカウントダウンとも呼べる動作をしながら、ダークカブトは勝ち誇る様に言い放った。装着されているダークカブトゼクターの上部。ダークカブトはそこにある3つのボタンを左から順番にゆっくりと押していく。
ONE
TWO
THREE
「苦しみながらな...!」
スイッチを全て押した後、ダークカブトゼクターをマスクドフォーム時と同じ形に復旧。それをした後、再度力強くホーンを先程の位置に倒す。それに伴い装着されているゼクターから電子音声が流れ、効果を発動。
「....ライダー、キック...!」
RIDER KICK
ダークカブトゼクターから流れる電流状のエネルギー体が頭頂部のホーンに到達。その後右足にエネルギーを一気に収束させ、必殺技であるライダーキックを叩き込む。....筈であった。
「.....!!?」
CLOCK OVER
クロックアップが解除されると同時にライダーキックを決めるつもりだったダークカブトだか、突然自身の下から多数の御柱が出現した。それに続き、土で出来た巨大な掌が2つ。そして上空には巫女の様な服装に身を包んだ少女が1人。これから自分が攻撃を受けることは、火を見るよりも明らかだった。すぐさまその場から離れようと迅速にその場を離脱。襲い来る掌、御柱を回避し、飛来する弾幕をカブトクナイで迎撃する。
「...!?早苗さん?!神奈子さんや諏訪子さんも?!」
「話は後だよ、練也。」
「今は、戦うことが先です。」
「しかし、アイツの身体。アンタに近いものを感じるねえ。色合いは不気味だけどさ。」
4人を見据えながら、ダークカブトは尚もその場に留まる。神奈子はダークカブトに向けて言い放った。
「これ以上私達の家族を傷付けるんだったら、ただじゃ帰さないよ...?」
数多の御柱を自分の周りに浮かせ、ダークカブトに対する威圧を緩めることなく言動を起こす神奈子。諏訪子や早苗も同様、臨戦態勢を維持したままダークカブトを睨んでいた。練也も仮面越しに闘気を露わにし、ダークカブトに鋭い眼光を向けた。
「...フン。...次は、必ず殺す...。」
CLOCK UP
クロックアップを発動し、ダークカブトは何処かへ消え去った。ダークカブトが居た場所を、練也はただ黙って見つめていた。
「.....。」
「...?練也さん?」
「...いや、なんでもない。」
変身を解き、元の袴姿に戻る練也。早苗は、練也の背中を見て何か感じている様だった。
同刻。不穏な空気が漂う人里では...。
「....。見つけた。」
レプトーフィスワームは擬態した少女、皐月を見付けだし、思わず口から言葉を漏らした。少女も彼女の存在に気付いたらしく、手を止めてゆっくりとレプトーフィスワームの方へ振り向く。
「...久しぶりだね。...元気だった?」
「...うん。....もしかして、この前の妖怪...?」
「妖怪ではないが...。似た様なものだね...。」
「....今日こそ、殺しに来たんだよね...?」
「何だ....、その質問は...?」
レプトーフィスワームは、彼女の言葉に内心驚愕した。それ以上に、レプトーフィスワームは皐月に対し複雑な感情を抱いていた。
「...どうしたの...?」
「...私は、正確にはワームという種族に分類される生物...。人間に化けて、その人間の記憶を得ることが出来る。」
「...じゃあ....、私が何故こんなこと言うのか、わかるよね....?」
「....私も、貴女の記憶を見ているから、それは理解出来る....。」
「じゃあ、殺して...。もう嫌...。こんな寂しい生活...。」
人間のことなど知ったことではない。しかし、この少女を見ているとそうも思っていられなくなる。またあの感覚だ。胸を締め付けられる感覚。何故こんなにも苦しい?何故こんなにも悲しい。そう思う度に、皐月に対し『殺す』という選択肢が薄れて消えていく。レプトーフィスワームは、皐月に言った。
「私は、貴女に擬態した唯一のワームだ...。...だから、貴女と私は唯一互いに記憶を共有出来ている者同士ということになる。同じ傷を持った者同士...。これから支え合っていけたら、良いと思う....。」
「....えっ...?」
「そのっ...。...私が言うのもアレだが...。貴女に擬態したせいで、心に傷を負ってしまったのだ...。.....死なれてしまっては、私が1人ぼっちになってしまう...。....こうなった責任は取ってもらうからな?」
「.....。」
「(ああ...、私は何を言っているんだ...。)」
心なしか赤面するレプトーフィスワーム。それを影から見守る士も、多少緊張が解れたのか先程より表情が穏やかになっていた。
「......。」
その和める時もほんの束の間だった。大通りの方から突然響き始める人々の絶叫と、家屋の倒壊に伴う破壊音。それだけではない。士の後を追って来た複数人の村人がワームに変貌し、彼に襲いかかった。
「...まったく。お前等もアイツを見習ったらどうなんだ?」
緑色に染められたグロテスクな容姿を持った怪物。数体のワーム蛹体に向けて、士は呆れ口調で言葉を放つ。ディケイドライバーを腹部に押し当て、出現したライドブッカーからライダーカードを抜き取る。士はカードを翳し、声高らかに宣言する。
「変身っ!」
KAMEN RIDE
DECADE
突然の状況の変化に驚くレプトーフィスワームと皐月。いきなり現れたワームに身構えるが、それをことごとく蹴散らす士の姿を見たレプトーフィスワームは驚愕の表情を浮かべた。
「大丈夫か?」
「...ライダー...?!」
「話は後で聞いてやる。今は戦うぞ。」
混乱に陥る人里での共闘は、幕を開けた...。