「どんどん行くよー!」
昼間。真上にある太陽の光が、守矢神社の境内を照らす。そこには2つの影があり、力を交えていた。輪っかの様なモノを武器として使い、それを投擲して戦う者。もう1人は迫り来るソレ等を自らの拳で打ち払う者だった。洩矢諏訪子と佐藤練也である。
「(ぐっ...!)」
不規則な動きをする鉄の輪。洩矢の鉄の輪は、あらゆる方向より練也を攻撃せんと迫る。ソレを迎撃する練也であったが、諏訪子にとってはその攻撃は本命ではなかった。
「1つのことに、囚われ過ぎだよ。」
「はっ...!?」
最後に飛来して来た鉄の輪を迎撃した直後、自身の両側から巨大な掌が迫る。このままでは押し潰される。逃げるにしてもタイミングが遅過ぎて間に合わない。
「(コレも迎え撃つ!)」
足を地面に踏ん張らせ、身体全体に意識を集中させる。今まで練也が繰り出した技の全ては、一点集中の技のみであった。スペルカードに関して言えば、その一点集中の近接戦闘特化型スペル、ヒートスマッシュのみである。今回は身体全体から、自身の能力を発動させようと言うのだ。
「はあっ!!」
練也の周囲に広がる空気が一瞬震えたと思えば、諏訪子が発動した巨大な掌を粉砕した。ただの土塊となった掌は弾け、細かい破片に変わり果てパラパラと地面に落ちて行く。空気を震わせる不可視の波は、諏訪子に届くことなくそのまま掻き消えた。
「(さっきのは、何?何か見えない壁みたいなモノが現れた様な...?)」
「(...でっ、出来た...!)はあ...、はあ...。行くぞ!」
すかさず突っ込む練也。しかしながら正面からまともにやりあって、彼が諏訪子に勝つ見込みなどはなかった。突然彼の目の前から諏訪子の姿が消えたと思えば、不意に目の前に現れた。コレには練也は驚いてしまったようで前進を止めたが、諏訪子は構わずに行動に出る。
「熱くなるのは良いけど、ちょっと頭冷やそっか。」
正面より強烈な放水を喰らい、練也の意識はそこで一旦途切れた。
人里で発生したワーム襲撃事件から、数日が経過した。その際にワームを撃破した士は、荒れ果てた人里の中をゆっくりと歩いていた。まさかワームがこの世界にも居るとは思わなかった士は、再び戦いの渦中に身を投じることへの覚悟を決めていた。この世界だけが唯一彼を受け入れてくれた世界なのだから、彼の心に火が付くのは当然と言えるだろう。そして彼は今、少女に擬態したワーム。レプトーフィスワームの下へと向かっていた。
「...。」
人里のいくつかの区画は壊滅的打撃を免れたようで、依然として事件前の状態を保っていた。士はそこを歩いており、その区画の家屋にレプトーフィスワームと1人の少女、皐月は避難を完了していたようだ。士が声をかけ、安否を確認する。
「大丈夫か?」
「...うん。この子も、私も大丈夫...。」
「そうか...。ワームは全て追っ払った。数日経っても出て来ないから、もう大通りに出ても問題ない筈だ。だがいつ来るかもわからん。気を付けろよ。」
「わかった。...ありがとう。」
「気にするな、俺は帰る。じゃあな。」
そう言って家屋から出て行く士。それに続いて、レプトーフィスワームも皐月を起こさないようにゆっくりと立ち上がった。少女1人を残して帰るのは誠に忍びないことだが、彼女自身にも事情というものがある。薬を売りに人里へ出稼ぎに来た矢先に、他のワームから喧嘩を売られるはめになるとは。永遠亭にどんな顔をして帰れば良いんだと彼女は落胆しながら、音もなく家屋から立ち退いたのだった。その後永遠亭で、レプトーフィスが永琳から大目玉を食らったのは言うまでもないことだった。