練也が気を失ってから数分が経ち、それを見守っていたのはこの状況を作り出した張本人である、土着神の諏訪子と現人神の早苗であった。加減を誤ってしまったと諏訪子は言っていたが、どうにもあの放水。諏訪清水の出し方から見て、はなから本気を出すとは言わないまでも、手加減をする風には見えなかったような気もするが...。
「ねぇ〜、練也。いつまで寝てるの?」
「いえ、その...。こうなったのは諏訪子様が原因じゃないんですか?」
「私はただ熱くなり過ぎたかな?と思って、ちょっと水をかけただけだけど...?」
もはやアレはただの放水ではない。嵐で荒れ狂うが如く大河の流れ、そのものである。それが祟り神から放たれたのであれば、常人ではただでは済まない。しかし諏訪子との戦いの中で練也が収穫出来たモノも、少なからずあった。
「...うっ...。」
「アレ?気が付いたかな?」
「ほっ...。(本当に死んでいるのかと思いました...。)...っというより、何かうなされているような気も...。」
早苗も早苗で珍しく、若干常識に囚われたかのような素振りを見せた。意識が戻ったのか、戻らないのかハッキリしない練也を見つめながら、諏訪子は早苗に言った。
「早苗、練也はどうだと思う?」
「どうと言われましても、私には...。」
このまま、まだ目を覚まさないか?そう2人が考えた時だった。練也が物凄い勢いで布団から飛び起きて、息を荒げながら辺りを仕切りに見渡しはじめた。これに対し諏訪子は練也の意識が戻ったと喜んだが、早苗はただ驚愕するのみであった。
「はあ、はあ、はあっ...。なっ、なんだ、夢かよ...。」
すぐに練也は落ち着きを取り戻し、すぐ側にいた早苗と諏訪子にも気が付いた。2人の違う反応に戸惑いつつ、状況を聞き出す。
「早苗さんに、諏訪子さん。そういえば俺は稽古をしていて...。」
「あっ、ゴメンなさい。実は私が原因で〜。」
「ん?...あっ、成る程...。」
自分が気を失っていた原因がなんとなくわかった素振りを見せた練也は、汗を拭いてと諏訪子から渡されたタオルで汗を拭う。
「ところで、練也さん。先程はうなされていたみたいですけど...?」
「ああ。アレは、洪水に巻き込まれる夢を見ちゃって。妙にリアルな夢だったよ。」
「(完璧諏訪子様の所為ですね...。)」
早苗がチラッと諏訪子を見るが、何処吹く風と言った感じで彼女は練也に言葉を放つ。
「それより、練也。やったね!また1つ新しいことを覚えたでしょ?」
「あっ。そういえば...!」
練也が諏訪子の問いに対し反応を見せる。先程の稽古で諏訪子が発動した技に対して迎撃に使った、全身から出した衝撃波の様なもの。初めての感覚に、練也は心から喜んだ。このまま強くなれると考えると、嬉しくてたまらなかったのだ。
「ありがとう諏訪子さん。まだ力及ばずだけど、これから頑張ります!」
「よし、頑張ろう!」
「おめでとうございます、練也さん!」
その頃、博麗神社では...。
「はあ、疲れた...。」
神社に帰って来て縁側に座りながらボヤく、霊夢の姿があった。このままダラダラしながら1日を過ごせば良いのか、それとも境内が多少傷付いているからそれの補修を頼みに行った方が良いのか。そんなことを考えながら、彼女は溜息を吐いた。
「(境内の補修?...そういえば、最近此処に妙なヤツが来てた筈...。それで多少は戦ったわね。)...。」
霊夢はそう考えながらも、境内に何者かが入ったことも認識した。黒のとんがり帽子、空飛ぶ箒。間違い無く境内に入って来たのは、魔理沙であった。先に起きた事件のことを考え、霊夢は巫女棒片手に魔理沙に問いかけた。
「よっ、霊夢。遊びに来たぜ。」
「ええ。確認するけど、貴女本当に魔理沙よね?」
「おいおい、霊夢。私はワームじゃないぜ?」
どうやらこの魔理沙は本物の様だ。普段から一貫して一人称は私であるし、何時も通りの言い回し。雰囲気も変わらないものだった。霊夢は警戒を解き、魔理沙にお茶を勧めた。この場所にも、普段と何ら変わりは見られなかった。
「にしても、物騒なヤツが来たもんだなあ。よりによって、人を殺して人に化ける生き物なんて。」
「妖怪にもそういうヤツはいるわよ。それより魔理沙。私もそれとは別な物騒なヤツを探しているんだけど、心当たり無いかしら?」
「ん?どんなヤツだ?」
「全身黒と青っぽい色のした、妖怪か人間かよくわからないヤツよ。」
その頃。幻想郷の人里にて行き交う人の間を歩いていた海東大樹は、大きなくしゃみを連発していた。
「...誰か、僕の噂話をしているようだな...。」