「次の方、お入り下さい。」
迷いの竹林にひっそりと佇む、巨大な日本家屋の容姿を成している建物、永遠亭。幻想郷一の名医として名高い八意永琳は、そこに設けられている診療室で人里で負傷した人々の治療を行っていた。禁足地と言われているこの場所は、非常時には心強い味方となる場合がある。今回のように、一般人に負傷者が出た場合の異変がその例である。幸いにも、擬態された者以外に死亡者は出ておらず、負傷者に関しては重傷を負った者は全体の数パーセント。それ以外は、軽傷の患者のみだった。まさに不幸中の幸いである。
「...はい。これでもう大丈夫です。しばらくは安静第一でお願いしますね。」
的確な処置を施し、人々の傷を癒す永琳。そこへ永琳の弟子的存在、優曇華がやってきて彼女に報告する。
「師匠。レプちゃんから報告で、こちらにあと1人の患者さんが向かっているみたいです。それに、どうやら重傷の患者さんみたいです。お1人の方が付き添いで来られます。」
「そう、わかったわ。ありがとう優曇華。」
永遠亭の正門を潜り、そこから屋内に向けて歩いて行く2人の男の姿。大樹は霖之助の身体に負荷が掛からない程度の足取りで、ゆっくりと歩みを進める。それに対し、霖之助は申し訳なさそうに言葉を述べた。
「全く、申し訳ないね...。見ず知らずの君にこんなに世話をしてもらうとは...。感謝するよ。僕は、森近霖之助という。君の名前を聞いておきたい。」
「霖之助君か。僕の名前は海東大樹だ、覚えておきたまえ。」
「海東大樹。僕からは、君を大樹と呼ばせてもらうよ。」
「呼び方なんてどうでも良いさ。好きにしたまえ。それより、まずは診てもらわないと。話はそれからさ。」
「違いない。」
軽く大樹に対し笑ってみせる霖之助。そんな彼等を出迎える、1人の少女の姿があった。先程永琳に患者来院の報告をしていた、優曇華である。
「御足労恐れ入ります。...って、貴方は香霖堂の香霖さん?!」
「ああ...、優曇華か...。」
見たところ、優曇華と霖之助はどうやら面識があるようだ。香霖堂の店主といえば逆に幻想郷の人々の中でも、著名人やそれに親しい者達の間であれば知らない者は居ない。大樹は霖之助に肩を貸しながら彼女に言った。
「君達、知り合いかい?親しい間柄であれば、早くお互いの為にも彼を診た方が良いと思うけど?」
霖之助の脇腹には、アラクネアワームによって付けられた裂傷が痛々しく残されていた。傷口は広く、内蔵にまで達している。出血も生じている為、放っておけば彼は死んでしまうだろう。
「どうやら、大樹の言う通りだ...。僕も若干余裕が無くなって来たよ...。」
「大変!すぐに師匠の所に行かないと!」
急ぎ診療室に2人を通す優曇華。永琳も早速霖之助の容態を確認するが、早急な処置が必要だとのことらしい。アラクネアワームは、霖之助に深い傷跡を残したのだ。
「これ程の傷を受けて、よく香霖堂から来れたわね。普通の人間であれば、道中で失血死よ?」
「...ああ、僕が助かったのは彼の能力のおかげなんだ。」
屋外にて待機する大樹。これ以上は時間の無駄だと言う思考が彼の脳内で渦巻いており、すぐにでもこの場を離れて次なる場所へ行き、お宝というモノを集めたくなり仕方がない様子である。
「(全く、とんだ無駄足だな。香霖堂には奇妙な商品ばかりが揃っていると人里で聞いて来てみたら、早速ワームのお出迎えとはね...。)」
自分でもらしくないことをするものだと、大樹は思いながら髪の毛をくしゃくしゃと掻く。この穏やかな世界にもお宝を求めてやってきたというのに、異変の発生とタイミングが重なってしまいお宝を手に入れるチャンスを逃してしまった。自ら選んだ選択を悔やみつつ、次なるお宝を探そうと大樹は模索し始めた。
「(霖之助...。彼からもお宝の匂いがしたが、まさか士が持つディケイドライバーと似たような匂いが彼から漂ってくるとはね...。非常に残念だが、彼と会うのはまたの機会にするか。)」
その場から立ち上がり、歩き始める。彼を見守るのは、夜空から月光を地上に浴びせる月のみ。永遠亭に背中をむけ、大樹は何処かへと去って行った。
所は博麗神社。辺りはすっかり夜の闇に包まれ、鈴虫の羽音が耳に聞こえる。霊夢、早苗は夕御飯の支度に取り掛かり、台所からはその夕御飯のものと思われる美味しそうな匂いが漂っていた。練也が幻想郷に来て迎える1週間目の夕食は、守矢神社の夕食ではなく博麗神社の夕食である。練也は自身の鼻をクンクンと動かし、食欲を増進させる。
「(美味しそうな匂いがするなあ...。こうしちゃいられない!)」
もうすぐ出来上がるかと思い、今度こそと練也は片膝を付いた姿勢からゆっくりと立ち上がろうとする。しかしまた転倒。思いっきり畳に顔面を直撃し、その場でピクピクと痙攣する。台所で調理をしていた女性陣2人もその音に気付くが、反応は様々である。
「?!」
早苗は若干驚いたようで...。
「はあ...。」
霊夢は溜息を吐く。
早苗が行こうとすると、霊夢がそれを声で制止させた。黙々と包丁を使い、具を切っていく度に鳴るトントンという音に混ぜて霊夢は声を発した。
「放っておけば良いのよ。どうせまた無理して起き上がろうとしてるんでしょ?」
「でもなんか凄い音がしましたけど...。」
渋々先程の位置へと戻り、霊夢の作業を手伝う早苗。焼いていた魚の焼き加減を確認しながら、早苗が霊夢に言った。
「あの人がこの世界に来てから1週間。たった1週間だけですけど、なんとなくわかった気がします。」
「私はアイツとは会って1日と経ってないけど、もうなんとなくわかったわよ。」
「えっ?そうなんですか?」
調理をしながら引き続き会話を進める女子2人。片手に少量の味噌汁が入ったお玉を持ち、味加減を確かめてから霊夢は言った。
「もの凄く、真っ直ぐ。とにかく真正面しか向かない人間。1つの事しか出来ないし、それしか見えない人間だと私は思うの。」
「(私と霊夢さんは、考えていることは同じだったんですね。)...はい。」
心中でそう呟く早苗。味噌汁の味は良いらしく、霊夢は満足気に少しの微笑みを浮かべた。それから早苗と共に配膳を始めながら、彼女はこう言った。
「...アイツの夢は、仮面ライダーっていう者になること。...らしいわ。...いえ。それは夢じゃなくて、もはや現実になったけど...。」
「私も1回見ました、練也さんが変身したところ。...まさか、今回も変身して戦ったんですか!?」
早苗はこういうことになると、テンションがヒートアップする。早苗が幻想郷に来る前は神社の巫女としての面だけではなく、メカ特撮オタクとしての面もあった。ことさら仮面ライダーに関しては毎週の日曜日、朝8時には既にTVの前に居て喰らい付くように見ていた程、彼女はそういう存在が好きだった。早苗の声のボリュームが若干上がったことに対して、霊夢がそれを指摘しながら言った。
「声が大きいわよ。...そしてアイツは、自分に擬態したワームをやっつけたわ。...練也は何者にも脅かされない、そのしっかりした《仮面ライダー》と言う名の芯を持った外来人であることは、確かね。」
「夢に真っ直ぐ突き進むって、なんかかっこいいです。」
「...そうね。」
そう会話する霊夢と早苗。諦めて再度眠りに付いた練也の耳には、彼女達の会話など聞こえる筈もなかった...。