「守矢の居候は、連れて来れなかったみたいね。」
「はい。申し訳ありませんでした。全ては私の不足が致すところ。」
練也を連れて来れなかったという咲夜からの報告を受けたレミリアは、至って取り乱すわけでもなく、彼女に対して怒る様子も無かった。肝心なのは、彼女が咲夜に出したこの命令。組織同士のやりとりをすれば、穏やかな雰囲気も崩すことなく面会ぐらいは出来た筈だ。咲夜もそれが気になっていた。
「しかしお嬢様。何故このようなご命令を?」
「言ったでしょう?私はその彼が出したという、力の波動が気になると。私は改めてソレを感じたくなったのよ。」
「それでは、当初からお嬢様が予定されていた面会とは、明らかに差異が生じていることになりますが。」
「そうね。でも、その内容、本質に変わりは無いわ。私は佐藤練也という人間がどのような存在か、どのような運命を持っている者なのか。自分の耳で、目で、この身体を使って確かめたいのよ。」
椅子から立ち上がり、窓辺に立ちながら夜空を仰ぎ見るレミリア。彼女の紅い瞳には、夜空に浮かぶ美しい月が映っていた。ふと笑みを浮かべ、レミリアは咲夜に言った。
「どのような手段を講じようと、その者の運命を見たいと思ってしまうのよ。それが楽しみなの。あの湖から響いた衝撃を味わって以来ね。」
「...運命を見たいが為に、このようなことをされたのですね。どのような形であっても。」
「ええ。流石に今回は無茶苦茶だと思ったわ。貴女にも無茶をさせてしまったようだし。」
「滅相もございません、お嬢様。」
静かに振り向いたレミリアは、今度は咲夜の方へ近付く。彼女の近くで、レミリアは言葉を述べた。
「しかしその言動からすると...。まだ”彼の言葉”どころか、存在を信用してはいないようね...?咲夜。」
「もう1人の佐藤練也...、平行世界から来た者...。そしてこの幻想郷に流れ着いた時には既に肉体は絶え、魂だけとなっていた...。胡散臭いとしか、私には思えません。しかも何故彼は死してなお冥界に行かないのですか?」
「何か、あるんじゃないかしら?惹かれることでも...。」
「惹かれること...?」
2人は既に練也と会っているようだった。平行世界から来たもう1人の佐藤練也により伝えられた、この世界に訪れる災い。既にそれが始まっているという状況であり、現にこの世界は打撃を受けていた。会話するレミリアと咲夜。2人が居る部屋には他に誰の姿も無い。しかしそれはまた例の如く、突然彼女達の前に現れた。鉛色の壁である。その存在に気付いたレミリアと咲夜は、その方向を向く。
「また会えるとは光栄ね...。」
「僕の方こそ、レミリアお嬢様。」
決して嬉しそうな顔を見せないレミリアと咲夜。鉛色の壁から現れた男、佐藤練也はそれにお構いなしと言うかのように話を進めた。
「この前の僕のお話は、信じていただけましたか?」
「ええ...。異変が起こる前では半信半疑だったけど、それが事実となった今では貴方を信用しているわ。一応ね。」
「ええ、それで結構です...。それより、今日はもう1人の僕と戦っていましたね。」
「ええ。咲夜がね。」
そのまま話を続ける練也。ゆっくりと2人に対して背中を向けて歩きながら、言葉を述べる。
「彼は、この世界を護る力を持っています。しかし今日の戦いでは、それを御二方が実感することは出来なかった。そこでまた別の機会に、彼と一戦交えていただきたいのです。」
「...彼の力を、私達が理解しなきゃいけない理由でもあるのかしら?」
「...それは、後程貴女方が彼の力になるからです...。彼も貴女方の力を理解しなければなりません。」
「...互いを理解する為に戦う必要がある...っと?そう言いたいのね、貴方は。それを私達に求めて、どうするつもり?」
「全てはこの美しい世界を、破壊の化身から護る為。確実に彼は、この世界を滅ぼしに現れます。...皆さんが団結をすれば、破壊の化身。黒いディケイドを倒すことが出来るでしょう。」
一旦立ち止まり、練也はまたゆっくりと2人の方へと向いた。視線は2人の間、真正面を向いていたがゆっくりと1回瞬きをしてから視線をレミリアに移す。
「そしてその破壊の根源の一部が、今ここにある...。」
「...貴方...。本気で言っているのかしら?」
「馬鹿なことをおっしゃらないで下さい...!お嬢様がこの幻想郷の破壊に加担しているなどと...!」
咲夜は鋭い視線を練也に向けながら、両手に数多のナイフを持つ。敵意を煽るような発言にして、自身が仕える主君への無礼な言動。彼女の瞳は、大量の殺気を孕んでいた。
「咲夜...。...この不届き者を殺しなさい。」
「はい...!お嬢様の、仰せのままに...!」
咲夜は自身の能力、『時間を操る程度の能力』を使用した。彼女以外の者が一切の動作を止め、その場で静止する。目標である佐藤練也に向けて、咲夜は無慈悲なまでにナイフを投擲する。空中には既に、彼女が放った数多のナイフが浮かんでいる。後は能力を解除すれば串刺しの目標が、目の前に出来上がるのだ。
「お嬢様に対しての無礼な発言...!許しません!....死ねえ!!」
途端、咲夜の中に居る何者がその一端を見せたのだろうか?一気に雰囲気や言動が変わる咲夜。能力が解除され、数多のナイフがその刃を煌めかせ練也に迫る。広域に展開したナイフの群れは、一点に集中するようにして練也に飛来する。しかしその結果は御覧の通りだ。彼は幽体であり、ナイフは彼の腹部、頭部、四肢を虚しく空気を斬るが如くすり抜けていく。
「...本物の皮を被った偽物は、所詮後から化けの皮を剥がされるということですね...。」
「...!」
「咲夜、何をしているの!早くやっつけちゃいなさい!」
「.....!」
ナイフを持ち、練也に斬りかかる咲夜。しかし練也に刃が触れようとも、手応えを感じることはなくそのまま空気を斬ったように刃は通り抜けた。蹴ろうが、突こうが、斬ろうが、刺そうが彼女の攻撃は彼には届かない。
「僕の身体は、とうの昔に滅んでいます。今更斬撃を加えられたところで怯みはしません。殺すことなど...。」
「うるさいっ!....黙れえ!」
「(擬態の次は、憑依か洗脳...。えげつないやり口ですね...。)紫さん。お願いします。」
突然現れた数多のスキマから、大量の弾幕が放たれる。それにより攻撃を止め、一旦下がる咲夜。一際大きなスキマがその後に程生じ、そこから八雲紫がゆっくりと舞い降りるようにその姿を見せた。
「ずっと見ているのも退屈だと思っていたところよ。貴方、生きている方とは違ってだいぶ気が利くじゃない。」
「純粋に喜んで良いのか、わかりませんね。」
「それよりも...。その会話の続きなら、目の前に居る偽物を片付けてからにしましょう...。」
2人はレミリアと咲夜の方を見やり、構えた。紫は更に新たなスキマを発生させ、そこからおもむろに何かを引っ張り出す。それは驚くべきことに、生きている方の練也であった。守矢神社の前に着いたと思えば、腕を急に掴まれスキマの中に引っ張られ、そして気付けば見知らぬ洋館の中に居る。練也がビックリするのは、無理もなかった。
「うぉっ?!!此処は!?」
「ちょっとだけ、身体を借りるわよ?」
「失礼します。」
「かっ、身体を借りる!?...うおぉっ!?」
練也の中にもう1人の練也が空気のように入り込み、その直後にビックンと1回大きく痙攣を起こし気を失う。それに合わせるようにして咲夜は再度大量のナイフを投擲し、練也にトドメを刺さんと攻撃を開始する。
「わざわざ実体に宿り殺されに来たか....!」
「本気でそう思っているのかしら?紅魔館のメイド長、いえ...。そもそも今のあなたは、そのメイド長ではないのでしょうけど....。」
「うるさい...っ!貴様も死ねえ!!」
迫り来るナイフの群れ。その層はかなり厚く、避けるのは不可能である。しかし、八雲紫が使うスキマなら回避することは容易い。...否。もっと他の方法で回避しようと言うのだ。
「.....!」
「今回は思ってもない落し物があったから...、使わせてもらうわよ、あなた達の力をね....。」
「!」
彼女が発生させたスキマの1つからは、黒い甲虫のデバイスとベルトが出現。それらが練也の腹部に装着され、それと同時に先程まで閉じていた眼が薄っすらと開いた。
「変身。」
HEN-SHIN
ベルトの装着と同時に、デバイスであるダークカブトゼクターが更に装着されることにより練也はダークカブトへ変身を遂げる。ゼクターホーンを力強く倒し、練也は力強く宣言する。
「キャストオフ。」
CAST OFF
ヒヒイロノカネが飛来する数多のナイフに放たれることにより、ナイフの勢いは一気に減殺。辺りに散らばり咲夜の攻撃は無効化された。
CHANGE BEETLE
黒き甲冑に身を包んだ練也は、その音声と共に複眼を黄色く煌めかせた。
「アレは、...ダークカブト...?!なぜ奴等の手に...!...はっ...?!(しまった、つい...!)」
見え透いた嘘を確信したかのように、紫と練也はレミリアと咲夜に言い放った。
「僕達が、呪縛から解き放ちます...!」
「待っていなさい、レミリア!咲夜!」
その時、レミリアと咲夜の眼光は不気味に青く光を放っていた...。