「そう...。何か記憶が抜け落ちていると思えば、そんなことが起こっていたのね...。」
練也と紫に向かい合う形でソファーに座るレミリアからは、先程の戦いで見せていた雰囲気は消え失せていた。普段の威厳を含んだ余裕のある喋り方。そして真紅の眼。今の彼女は、正真正銘のレミリア・スカーレットだ。
「はい。レミリアお嬢様は、少しの間その身体をワームに操られていたのです。そして、咲夜さんにもそれとは似ている現象が起こりました。」
「そういえば...、私にも途中から記憶が...。」
練也の発言に反応した咲夜は、ふと自分の疑問を打ち明けた。それに対し、彼は言葉を述べた。
「それは、何時頃からですか?」
「お嬢様と、貴方について話している時のことです。今日の夕方頃かしら。」
「そうですか。長い期間に及ぶ潜伏であったならば、排除は難しかったでしょう。本当に良かったです。」
続いて紫が口を開く。
「でも貴女程の実力を持つ者が、ワームに憑依されてしまうなんて意外ね。」
「不覚にもね...。咲夜も気付いていなかったということは、やはり相当な手練れ。私は今回の敵を甘く見ていたわ。」
そこで練也は落ち着いた様子のまま、机の上に用意されたコーヒーを1口飲んでからまた話を進める。
「今回の刺客も、おそらく黒いディケイドが送り込んだ者と見て間違い無いでしょう。レミリアお嬢様と咲夜さんの情報から察するに、今回我々は彼の力の一端を垣間見たということになります。」
練也は紅魔館とは少なからず関わりを持っていたようだ。生きている方の練也が幻想郷に入る以前から、彼はこの世界に流れ着いていた。その時から既に、黒いディケイドの攻撃を予想していたのだ。レミリアと小悪魔はそれぞれ見解を述べた。
「それについては私達は貴方から既に聞いているわ。様々な世界を回って、それ等を破壊するだけ能力を手に入れる。つまり今回のようなことが起こっても何ら不思議なことではない。」
「先程の戦いに私達が気付けなかったのも、その能力が原因ということになりますね。」
「セキュリティーに問題があると思ったけど、今回はそうでもないみたいね。」
紅魔館の大図書館に住む、魔法使いのパチュリー・ノーレッジは落ち着いた様子で言った。紅魔館のセキュリティーは数多の妖精メイドに任せてあるものの、抜け目があると言えばそれは事実だ。紅魔館の門番である紅美鈴に関しては、万人を素通りさせるが如くの様子である。それを指摘されたと思ったのか、美鈴は一瞬だけ小刻みに動揺した。
「(ギクッ...?!)」
「ていうか、破壊する能力ってフランと同じ能力を持っているってことだよね?」
レミリアの横に座っていたフランが、自分との共通点があることに関して言葉を述べた。確かに破壊を主眼に置いた能力ではあるが、扱う存在が全く異なる。フランの場合は制御が出来るので、安全なのだ。
「確かに妹様と黒いディケイドが持つ能力には共通点があります。ですが、黒いディケイドは完全に自分の欲望のまま力を振るい、力を行使しています。そこが1番の違いでしょう。」
「へぇ〜。それじゃあ、その子は悪い子なんだね。」
「はい。もはや手が付けられない程に。徹底した更生が必要です。」
その練也の発言を微妙な調子で聞き取る紅魔館勢と、心の中の練也。多分彼のキャラからは、今の言動があるとは思わなかったのだろう。
「(更生って...。そこまで素直な相手でもないだろ。)」
「(それじゃあ『粛清』にしますか?)」
「(お前は言うことが怖い。)」
「...コホン。とりあえず、今日はありがとう。佐藤練也。紅魔館の主として、礼を言わせてもらうわ。」
「恐れ入ります。」
そんなこんなで紅魔館を後にした2人と紫。ひとまずは、脅威を退けることが出来た。束の間の平和わ、少なからず彼等に心の余裕を与えていた...。
紅魔館での騒動後、紫が発生させたスキマを通って守矢神社へと帰宅した練也は、屋内へと入る前に紫に呼び止められた。振り返る練也の顔には、2つの傷跡。そして胴体からは血が滲んだ傷だらけの袴と肌が擦れる音が鳴る。
「練也。貴方達の今の状態について、私から説明しておきたいことがあるわ。」
「?」
「私の能力で、2人の練也は先程の一件以降、1人に集約させた。それは貴方達が1番よくわかっているとは思うけど。」
魂だけとなっていた自らを平行世界からの使者と名乗ったもう1人の練也は、八雲紫が張った結界の中でその存在を保護されていた。本来ならばどのような魂だろうが冥界に行かなければならないが、彼はこうして練也の中で死して尚生きていることになる。
「貴方の中にもう1人の貴方を入れたのは、わけがあるの。」
「....。」
「私は、誰よりもこの幻想郷を愛している。その愛する故郷を護る為にも、彼の力が必要なの。」
「破壊を抑制する力...。『破壊を抑制する程度の能力』か。」
「話が早くて助かるわ。まさに彼が持った能力こそが、異変を解決へと導くのに必要なの。そしてそれに貴方の能力が加われば...。」
破壊は抑制され、その抑制は新たな破壊への備えにもなる。そして抑制したところで、それをまとめて吹き飛ばし排除する。この2つの能力に対する紫の認識に、狂いは無い。その認識の通りに行けば、今回迫っている脅威に対抗することが出来る。
「この世界の平和は、護らなくてはならない。此処はありとあらゆる存在を受け入れる、最後のオアシスなのだから。」
「こんなに綺麗な世界を蹂躙されて、抵抗しないのは馬鹿げてる。」
「貴方は相変わらずね。さっきまで出ていた練也とは、似ているけど何処か違うものを感じるわ...。」
「違う世界の俺だから、そう感じるのは無理無いんじゃないですか?」
紫は練也の断固たる決意を改めて感じ、微笑みを見せた。彼女は頭の中にあるビジョンを描きつつも、自身の後ろにスキマを発生させた。
「期待しているわよ。貴方達、仮面ライダーの力を持つ者達にね。」
スキマの中へ消えて行く紫を見送った練也は、おもむろに屋内へと入って行った。