東方 躍動仮面   作:佐藤練也

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第58話 大食いの亭主

 

 

紅魔館のワーム潜伏騒動から数日が経過した。この日はあまり良い天候とは言えず、そこまで強いという程でもないが雨が降っていた。つい最近まで見ていた太陽の姿は頭上には無く、暗雲が空を覆っている。

 

 

 

「...。」

 

 

 

音で表すとシトシトと降っているくらいの雨の中、練也は傘を差して人里を歩いていた。八百屋の仕事は休みであるので、今日はこうしてのんびりと歩いているわけである。ただ歩いているわけではなくて、彼は今日も信仰を集めに来ていたのだ。

 

 

 

 

「(和傘も中々良いもんだな...。)」

 

 

「(乙ですね。)」

 

 

 

 

使っている和傘から滴る水滴を見ながら、練也は何気なしに声なく呟いた。2人の練也が意識、身体を共有するようになってからというものの、彼等は何時もと違う感覚に戸惑いつつ徐々に順応しているように見えた。

 

 

 

 

「(練也さん。今更ですが、僕から1つお願いがあります。)」

 

 

「(お願い?)」

 

 

 

もう1人の練也からのお願いというものが気になり、練也は彼の話に耳を傾けた。その内容は別に深刻ではないし、急を要するという感じのものでもないようだ。

 

 

 

 

「(僕に対する呼称についてなんですが、コミュニケーションをとる際に同じ名前では何かと誤解が生じる場合も考えられるので、宜しければ僕の名前を変えていただきたいのです。)」

 

 

「(俺が?勝手に決めて良いのか?)」

 

 

「(僕の宿主にもなっていただいていますし、何より自分で決めていることに変わりはありません。僕と貴方は住んでいる世界こそ違いますが、同じ佐藤練也という存在ですからね。)」

 

 

「(...それもそうだな。というと苗字も含めてかな。)」

 

 

「(それでも構いません。)」

 

 

 

 

名前を考えるにしても、そうパッとは中々浮かばない。そもそもどのような意味を持つ名前にするか、意味など持たせなくても良いのか、練也は考えた。いや、考えるよりもまずは腹拵えだ。時間は昼時。まだ暗くはないし、信仰についてはそこまで急いて集めることもない。それに腹が減っていれば、良い名前も思いつかないというものだ。

 

 

 

 

「(とりあえず腹減ったから、何かメシが食えるところでも...。)」

 

 

「(あそこは如何ですか?)」

 

 

「(あそこって、何処?)」

 

 

 

練也が示す場所は、どうやら茶屋のようだった。昼飯に団子を食うというのも悪くはない話だし、そういった和菓子の類は腹に溜まる。それに彼は和菓子やお茶は好んで飲み食いするので、これ幸いとゆっくりとその茶屋の中に入って行った。

 

 

 

「はい、お待ち!」

 

 

「.....。」

 

 

 

注文をしてから少し経ち、山盛りの3色の色合いが施された串団子と煎茶が練也の前に置かれた。1つ1つがしっかりとした質感で、非常に食べ応えがありそうな一品である。早速口に含み、それをゆっくりと味わい噛み砕いていく。やはり美味い。練也が選んだ店に狂いはなかったようだ。

 

 

 

 

「(美味いっ...。)」

 

 

「(味覚も共有出来るとは、ありがたいですね...。これは美味い。)」

 

 

 

2人が団子と煎茶の味に感服しているところへ、新たな客人が姿を見せる。彼等以外にもこの茶屋には多数の客が来ているようだが、今来た客人は一際異彩を放っていた。

 

 

 

「ふう、お腹空いちゃった。早く何か食べましょう、妖夢♪」

 

 

「ちょっと待って下さいよ、幽々子様。他に人も居るんですから。」

 

 

 

 

今入って来た2人の客人に目を向ける練也。印象としては、ふくよかな感じの人物が先程少女が言っていた名で間違い無ければ幽々子という者だろう。ふくよか、というよりはフンワリの方が表現的にも合っている気はするが。

 

 

 

「(人間...。なのか?)」

 

 

「(ああ...、あの方は...。)」

 

 

 

 

幽々子の後を追うようにして、お付きの役職的なポジションにいると思われる妖夢という少女は、溜息を吐く。凄い疲れている様子だ。

 

 

 

 

「(?)」

 

 

「(少しの間、代わっていただいてよろしいですか?)」

 

 

「(わかった。)」

 

 

 

 

人格を交代し、幽々子の方を向く練也。ゆっくりと座席から立ち上がり、彼女の下へ歩いて行く。それに気付いたのか、幽々子と妖夢も彼に顔を向けた。

 

 

 

 

「あら、練也じゃない。」

 

 

「こんにちは、練也さん。」

 

 

「はい。こんにちは、幽々子さんに妖夢さん。その節はお世話になりました。僕の席に団子はいっぱいありますので、どうぞよろしければ。」

 

 

「やった♪行きましょう、妖夢。」

 

 

 

上機嫌な幽々子に引っ張られるようにして、妖夢は練也に示された座席に向かう。席に着く3人の前には山盛りの串団子が据えられ、幽々子は早速それにかじり付いた。

 

 

 

「では、早速。いただきます♪」

 

 

「ちょっと、幽々子様!早いですって。しかもそれは練也さんが注文した品じゃないですか?!」

 

 

「良いんですよ。どのみち誰か来るだろうと思って、あえて山盛りにして頼みましたから。」

 

 

 

 

妖夢や練也も続いて串団子を手に取り、ゆっくりと食べ始める。串だけとなったモノを串受けに入れた後、練也は幽々子に改まって向かい言葉を述べた。

 

 

 

 

「幽々子さん。紫さんとの冥界についての話、誠にありがとうございました。」

 

 

「そういえば、白玉楼に来た時とは違って霊体ではないのね。紫のおかげで依り代を手に入れたのかしら?」

 

 

「はい。幽々子さんにも許しをいただいたので、それについてもありがたく思っています。」

 

 

「良いのよ。それに、紫が言っていたことだけど...。私も気になるしね。その今貴方が依り代にしている、もう1人の彼の能力と、貴方の能力...。力を合わせれば、何か見れると私も思って、今回は特別に紫に承諾しただけだし。」

 

 

 

はむはむっ、と尚も美味しそうに串団子をほうばる幽々子。続いて彼女は休み休み、口を開きながら言った。

 

 

 

「紫も面白いことをするわね。貴方達の間にある境界を一体化させて、1つにしちゃうなんて。その存在自体を確立する為に結界まで張っちゃうんだから。」

 

 

「ええ。だから僕は、こうして実体を持つことが出来ました。」

 

 

 

 

団子を瞬く間に平らげていく幽々子を、練也は心の中で愕然とした様子で眺めていた。

 

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