「ふう、お団子美味しかったわ。ありがとう、練也。」
山盛りの串団子を平らげ、満足したといった感じを見せる幽々子。亡霊となってから長い年月を幻想郷で過ごしているとは思えない、その無邪気な微笑みを練也に向け彼女は礼を述べた。
「いえ、満足いただけたようで良かったです。」
「うん♪でもまだ満たされないなあ〜...。」
「幽々子様、いい加減にして下さい!」
幽々子の食欲は留まるところを知らず、暴走を始める手前まで来ているというか、もう暴走しているようだ。妖夢に関しては何時ものことだといった感じで、慣れた対応を見せる。
「冗談よ、妖夢。宴会が楽しみねえ...。そういえば、練也は宴会に出るのかしら?」
博麗神社で予定されている宴会は、かなりの頻度で行われるという。幽々子や妖夢もどうやらその宴会に出るようだ。というよりこの世界の住人達の中には極端に気紛れな存在がいる為、どうしてもそうなってしまう傾向がある。その頻度は、色々と形を変えて行くのがまた面白い。1週間ほぼ全て宴会である時もあれば、全くやらない時もある。前もって計画されているものもあれば、いきなりやることもあるという。
「はい。僕も参加します。」
「そう。この幻想郷に来てから初めての宴会だと思うけど、頑張りなさい。私も貴方を見つけたらすぐに行くから。」
会計を済ませ、練也、幽々子、妖夢の3人は茶屋の暖簾を潜り、外へと出た。雨は止み、先程まで厚い雲に覆われていた空には、所々に青空が見え始めている。傘を折り畳んだまま片手に持ち、練也は空を見上げていた。
「晴れて良かった。これなら明日の宴会は大丈夫ね。」
「ええ。御2人も、今回の宴会に参加されるんですか?」
「そうよ。ねー、妖夢。」
「はっ、はい...。」
幽々子の仕草にたじたじになりながら、応対する妖夢の姿には毎日の苦労が滲み出ていた。彼女の周りをフワフワと飛んでいるのか、それとも漂っているのか、よくわからない人魂のようなものが時々その形を変化させている。おそらくこの人魂は、彼女の感情の起伏を表しているのだろう。因みに今は、普通に彼女の隣にフワフワと浮いている状態である。
「それじゃあ、私達はもう行くわね。行きましょう、妖夢。」
「はい。練也さん、ありがとうございました。」
「はい。御2人共、お気を付けて。」
去り行く2人とは反対方向に向けて、練也は歩いて行く。もうすぐ宴会。その言葉は、幻想郷を活気付かせた。何もそれは酒が呑める者や、異変解決に関与した者だけに限ったことではない。未成年者や、寺子屋に通うまだ年端もいかない子供達。彼等は今回の異変で初めて知った、外の世界の『変身』という能力に対して関心が高まっていたのだ。その情報源は、勿論文々。新聞だ。
「兄ちゃん新聞の人でしょ!」
「もりやじんじゃの人!」
「外の世界から来たって本当?!」
「変身って何?」
「....。」
いつの間にか里の中で子供達に囲まれる練也。幻想郷では彼の名前が既に知り渡り、守矢神社の外来人、守矢神社の宮司と言えば、わからない者など居なかった。子供達に囲まれるが、そこまで悪い気分にもなるものではない。寧ろ有名人になった気分で、新鮮な気分だ。
「こらお前達、何をやっている!道の真ん中で騒ぐんじゃない!」
「(あっ、慧音さん。ちょっと挨拶しないとな。)」
「(代わります。)」
人格を交代し、早速慧音に挨拶をする練也。それに気付いた彼女も、練也に答礼する。
「こんにちは、慧音さん。」
「練也じゃないか。すまない、私が目を離した隙に子供達が邪魔をしてしまったな。」
「大丈夫です。慧音さんの教え子さんですか?」
「ああ、そうだ。皆、このお兄さんにはちゃんと挨拶はしたか?」
寺子屋の生徒達は、一斉に口を揃えて慧音に言った。
「「「言ってない!」」」
その後、生徒達は容赦無く制裁を受けたのは、言うまでもないことだ...。慧音と別れた練也達は、人里にて信仰集めをした後にゆっくりと守矢神社への帰路に就いた。その道中、練也はもう1人の練也に言った。
「(....よし。)」
「(どうかしましたか、練也さん。)」
「(名前、決まったよ。)」
胸中で一言呟いた練也に、耳を傾ける。どうやら名前が決まったようだ。
「(お待ちしていました。どのような名前か、聞かせて下さい。)」
「(『護』。『大和 護』。...ダメかな?)」
「(いえ、とても素敵な名前です。...由来は?)」
そう聞かれると、練也は辺りの景色を見渡しながら答えた。
「(苗字の『大和』は、昔の日本の名。そして昔の日本は、まさにこのような美しい風景が辺りに広がっていた。)」
「(成る程...。)」
「(そして、名前。『護』は、如何なる悪に対しても動じることなく、それ等を蹴散らし、この美しい世界を護る。っていう意味だよ。)」
「(大和護。僕の新しい名前...。...ありがとうございます、練也さん。)」
ゆっくりと家路を行く2人は、互いに改めて幻想郷に対する想いを固めたのだった...。