東方 躍動仮面   作:佐藤練也

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第6話 平和な幻想郷

 

 

 

カタン。

 

 

小さな音を鳴らし作動するマゼンタカラーのトイカメラ。そのレンズの奥には、楽しそうに遊ぶ猫耳と二対の尻尾を持つ少女の姿が見える。それを見守るかの様にトイカメラを持った1人の男は、写真撮影に勤しんでいた。

 

 

 

「あっ、おはよう!士!」

 

 

 

少女は男の存在に気付くと、小走りでそこまで近寄って行く。男はその場に屈み、少女と同じ背丈になり頭を優しく撫でた。

 

 

 

「よっ、橙。」

 

 

「今日も写真撮影?」

 

 

「そんなところだな。」

 

 

 

橙と呼ばれる少女の頭を数回優しく撫でた男。名前は門矢士といった。いつの間にかこの幻想郷に現れた後、そのまま此処に居座り続けている。本人曰く、様々な世界を旅していた途中で、この幻想郷に入り込んだらしい。彼は自身のトレードマークであるトイカメラを構え、橙の笑顔をフィルムに収めた。カタンという作動音が鳴った後、士はゆっくりとその場から歩き始める。そこへ9つの尾と狐の耳を持つ、八雲藍が姿を見せた。

 

 

 

「よっ、藍。」

 

 

「おはよう、士。橙の可愛い写真は撮れたか?」

 

 

「当たり前だ。俺にかかれば、どんなものでも最高な被写体になるからな。」

 

 

 

士は藍にトイカメラを向け、写真を1枚撮る。小さな音を立てて、レンズの奥にあるフィルムに藍の姿を刻んだ。再び歩みを進める士に、藍が呼びかけた。

 

 

 

「今日も写真を撮りに行くのか?」

 

 

「そうしているのが1番落ち着くからな、俺は。」

 

 

 

彼はこれから日課の写真撮影に行く様だ。幻想郷の全ての風景をカメラに収めるというのが、この日課の中で彼が決めた目標である。そんな士を身近で見ている八雲一家の面々は、何時も不思議そうに彼を見ていた。

 

 

 

「士。お前が此処に来てから少し経ったが...。私としては、同じ屋根の下に暮らす者の素性ぐらいは、いい加減知っておきたいのだ。」

 

 

「前にも言わなかったか?世界を旅していたって。それが駄目なら、俺は何て言えば良い?」

 

 

「私はただ、同じ屋根の下に住む者が何者かを知りたい。それを知れば日常でどの様に接すれば良いのかを判断出来るからな。お前は居候とは言え、紫様はかなり気に入られている様だ。いつでもお前を家族に迎え入れる用意は出来ていると仰られていた。」

 

 

「そうか...。...そろそろ行く。」

 

 

「ああ。気を付けるんだぞ。」

 

 

 

突然出現した鉛色の壁の向こうに消えて行く士の背中に、藍は優しく言葉をかけて見送った。

 

 

 

 

 

 

 

守矢神社の境内。そのほぼ中央の位置では、地面に頭を強打して悶絶する練也を、早苗は心配そうに近くで見ていた。男、佐藤練也は幻想郷から元居た世界へと帰る為、博麗神社へ向かおうとしていた。しかし今の彼には飛行能力は備わっておらず、迅速な移動手段が皆無であった。

 

 

 

「イタタ...。」

 

 

 

練也は額に手を触れ、傷の度合いを確かめた。手に少量の血が付着する。若干血が出る程度に怪我をしたらしいが、大して問題は無いだろう。それを見た早苗は自分の懐からハンカチを取り出し、練也に血を拭き取る様に言った。

 

 

 

「良かった、そんなに血は出ていませんね。コレで拭いて下さい。」

 

 

「...うん、サンキュー。」

 

 

 

額の傷口から流れている血を拭き取り、早苗に礼を述べる。

 

 

 

「しかし...。いざ出すってなると、結構難しいなあ。」

 

 

「昨日の夜のことですよね?いきなり地面が爆発したとか、吹き飛ばされたりとか...。」

 

 

「ああ。でも、どうやって出せば...。身体から何か出るっていうイメージがあまりよくわからん。」

 

 

「安心して下さい。この幻想郷に居るだけでも、能力が使える可能性はかなり高いんですから。」

 

 

「えっ?」

 

 

 

早苗が練也の額に生じた傷口に、そっと両手を添えた。どこか暖かい感じが彼女から伝わってくる。練也はその時、段々と傷が癒えていく感じを覚えた。

 

 

 

「...。コレで大丈夫です。試しに触ってみて下さい。」

 

 

 

練也は自身の額に手を軽く添えた。不思議なことに、額に触れても痛みを感じなくなったのだ。

 

 

 

「コレは...?」

 

 

「私が持つ能力。『奇跡を起こす程度の能力』です。」

 

 

 

練也に能力についての解説をし始める早苗。その瞬間を、境内に舞い降りた1人の烏天狗が絶好のシャッターチャンスと言わんばかりに、激写を開始する。

 

 

 

「...さっきから写真を撮ってるけど、誰だ...?」

 

 

「あの人は、烏天狗の射命丸文さんです。この幻想郷で新聞記者を務めています。」

 

 

「それで記事を書く為に写真を撮ってるのか。」

 

 

 

数枚写真を撮った後、文は2人に歩み寄りながら挨拶をする。

 

 

 

「こんにちは、早苗さん。そちらの方は初めまして。私は射命丸文といいます。早苗さんが言った通り、この幻想郷でのみ読める新聞。文々。新聞を発行しています。これからよろしくお願いします。」

 

 

「初めまして。俺は外来人で、佐藤練也っていいます。此処に来てからなんか能力に目覚めたらしくて、今ソレを発揮しようとしているところです。」

 

 

 

挨拶を終えて、改めて文の格好を見やる。首にかけてある一眼レフのカメラと、常に持ち歩いていると思われるメモ帳という組み合わせは、如何にも新聞記者らしいと練也は思った。しかし先程より距離が縮まってるのは気のせいだろうか?自分が発した単語の中に、何か彼女を燃え上がらせるものでも含まれていたのだろうか?その通りである。

 

 

 

「『外来人』!?『能力』!?是非詳しく聞かせて下さい!」

 

 

 

幻想郷の新聞記者として、外来人という存在は特ダネ以外の何者でもない。外界とは結界で隔てられている為、外の人間が幻想郷に入ることは困難である。それ故外の人間というのは、希少価値が高いのだ。その人間を記事に載せれば、購読する者も増えるだろうと文は考えていた。

 

 

 

「うーむ.....。まあ。俺がわかっている範囲であれば、答えるぜ。」

 

 

「是非お願いします!」

 

 

「あはは...。(霊夢さんの所にはいつ行けるんでしょうか...。)」

 

 

 

取材に応じる練也の傍で、早苗は苦笑いを浮かべた。そんなに急く必要は無いが、天狗の取材はいつ終わるのやら...。

 

 

 

 

 

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