夜。人間が寝静まる時間に、博麗神社の境内には続々と今宵催される宴会の参加者が、顔を見せていた。宴会会場の準備を終えていた霊夢は、ゆっくりと煎茶をすすりながら来場者を出迎えた。宴会の席はすでに設けられており、先に杯を交わしているものも見られる。宴会参加者の殆どが、妖怪や幽霊、魔法使いに吸血鬼といった面子で、博麗神社へ集い夜の宴で互いの親交を深めている。
「.......。」
鈴虫が涼し気な気持ちいい羽音を鳴らし、それが日が運んできた熱を誤魔化すかのようだ。湯呑を置き夜空の三日月を見て、この景色もこの雰囲気もいつもと変わらない。つい最近まで起きていた異変が一旦は終息し、その異変解決を祝う目的でもある今回の宴会。それに外来人3人の歓迎会の意味も含まれている今回の宴会は、大変意味のある催しと言える。
「準備は万端のようね。」
「紫。準備も何も、もう始めているヤツもいるわ.....。」
霊夢の横にスキマが出現し、その狭間から妖怪の賢者八雲紫が姿を見せる。片手に持っていた扇子をゆっくりと自らに扇いで霊夢の傍らに腰を下ろす。宴会の席をすでに陣取っているメンバーを見ながら、煎茶を一口すする。
「他のヤツは見えないけど、どうしたの?」
「すぐにでも来るわよ。」
そう間もなくして策士の九尾こと八雲蘭、その式である橙がスキマから姿を見せた。現れた矢先、橙は何故か片腕だけをスキマの中に突っ込んだまま。まるで何かを引っ張る挙動を見せてその場から動かないでいる。どうやらスキマの中にまだ1人宴会の参加者がいるらしく、早く来いと促しているようだった。
「ツカサ!早く!」
橙に引っ張られるのを他所に最後に隙間から姿を見せたのは、この世界にやって来た外来人の1人。通りすがりの仮面ライダー、門矢士である。今回もいつもと変わらず、首にトイカメラを提げている。橙に手を引かれながら、スキマから境内へと降り立つ。
「博麗神社の宴会か。話によると、人間はほとんどいないらしいな。」
「ええ、騒ぎが好きな妖怪から馬鹿みたいに呑む鬼まで、キャスト踏み揃いよ。」
「まあ人間以外の相手は慣れたもんだが.....。」
酒豪の相手か、はたまたお祭り好きの相手ともなれば、普通の宴会と変わりはない。あまりこういう場へ足を運ばなかった士にしてみれば、参加するには怠さを感じるものの妖怪や妖精、幽霊等数多の種、幻想郷の住人達が来るという話に興味を惹かれたのか博麗神社へ八雲家と共にやって来たのである。好奇心だけではなく、霊夢との約束も口約束ではあるが、約束してある手前宴会に参加しないという選択肢は彼の中にはなかった。
「アンタたちもいらっしゃい。席は空いてるから好きな場所へ......。」
「霊夢!アタイも来たよ!」
不意に現れた氷の妖精。霧の湖に住む氷精こと、チルノがふわふわと飛んできて仁王立ちのポーズを取りながら霊夢達の近くへゆっくりと降り立つ。宙を浮いていれば決してそんなに感じないことであるが、いかんせん身長が小さく見た目は小学生、いって中学1年の女子中学生といった雰囲気だ。
「仁王立ちをする風貌じゃないな、お前は。」
「ええ、同感....。」
同調する霊夢と士。いつもの元気で活発な氷精の姿を目に居れることが出来てむしろ平和であるという意識をより一層強くした。その後ろからチルノの後を追って来た羽を生やした少女、大妖精は息を切らしながら宴会の会場へやって来た。
「もう、チルノちゃん飛んでいくのがはやいい......。」
「ごめんごめん、まさかアタイが大ちゃんを置いて行っちゃうとは。」
「途中で気付いてよぉ.....。」
この2人はおそらくいつもこの調子で接し合っているのだろう.....。そう考えると大妖精、大ちゃんの日頃の労を労うべきか、それともチルノの過剰な元気に敬意を込めて脱帽すべきか.....。士は2人が会話をする様子をトイカメラに収めた。
カタン.....。
先に呑んでいる者に連れられて、また1人、1人と酒宴の輪に加わる。神社全体がいつの間にか盛況な雰囲気に包まれ、今宵の夜宴は幕を開けた。まだ到着していない者も多少いるが、夜の宴の祭囃子、この賑わいを耳に入れれば急ぎ足で来るだろうと霊夢も煎茶をすするのを止め、その手に杯を持ち酒を注ぐ。近くに魔理沙がやってきて、霊夢の近くに腰を下ろした。
「よう、ようやく宴会らしくなってきたな。」
「魔理沙、あんたも呑むんでしょ?」
「おう、その為に来てるようなもんだぜ。....っとと、サンキュー。」
霊夢が徳利を杯に近付けるのを見て、魔理沙は自身の杯を差し出しお酌を受け取る。今宵の美しい三日月が2人の杯に映り込み、その月は酒宴を優しく照らす。酒を煽る前に、魔理沙は霊夢に問いかけた。
「なあ霊夢。」
「何よ?」
「神社に入った泥棒っていうのは、あれからどうなったんだ?今度絶対になんかしてやるみたいなことは聞いてたけど。」
幻想郷に来た謎の多い外来人、海東大樹。博麗神社の巫女、博麗霊夢からお宝の臭いがするという発言等聴いていた霊夢本人からしてみれば、気持ち悪い印象の男というのが率直な気持ちである。最近は姿を見ないし、執拗に自分を狙ってくるわけでもない。先述のお宝の臭いというものが消えたということなのか、それにしても動向が意味不明な男である。
「お宝だのなんだの言っていたけど、あれ以来何にもないわ。ホントにわけわからないヤツよね。」
「そうだなあ。まあまだ何も盗まれてないなら、それで良いじゃんか。ワームだって返り討ちにできたんだから、とりあえず今は羽を休めようぜ。」
「それが良い。」
霊夢と魔理沙の下へ士が歩み寄り、また彼もその近くへ腰を下ろす。海東大樹と数多く関わりのある、いや海東大樹と何故か疎遠になれない男と言えばいいのか、そう言える程に旅の道中では幾度も顔を合わせている。彼もほとほと困り果てているといった具合なのである。
「あの青だか黒だかわからないの、アンタの仲間なんでしょ?同じ仮面ライダー?同士なんだし、どう対応すればいいかぐらい知っているわよね?」
「ずいぶんな物言いだな?何か盗まれたりでもしたか?」
凄んで食ってかかるような言動に、士は平然と言葉を返す。彼が内心驚いたのは、その態度とは別に自ら進んで士へお酌をしたことだ。注ぎ終わってから、軽く会釈を霊夢にしてお礼を述べる士。2人の関係については一概に良くはないとは言えないようだ。
「違うわよ。なんだか意図が見えないというか、何を目的として行動しているのか。まったく解らないの。気持ち悪いったらありゃしないわ。」
「同感だ。ただ、アイツは自分の興味を惹くものをお宝として追いまわす節がある。俺にわかることはそれだけだ。」
「そのお宝がなんなのかわからないから困ってんのよ.....。」
その頃、妖怪の山から博麗神社に向かっていた5人。早苗、神奈子、諏訪子、萃香、そして練也は、夜風を肌に浴びて昼に帯びた熱を冷ますが如く気持良さに、心は清々しく余裕がある状態となっていた。
「宴会♪宴会♪」
萃香はその道中、気分上々といった感じで道を歩いていく。その隣を行く練也も萃香の様子を見るなり、よほど楽しみなのだなと感じつつ楽しい催しがあると思うと、彼も初参加の酒宴に対して楽しみが込み上げてきたようだ。そして博麗神社の前まで歩みを進め、長く続く石段を1歩1歩上がっていく。