東方 躍動仮面   作:佐藤練也

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第63話 宴会 後編

「はあ...はあ....。」

 

 

所は魔法の森、幻想郷の中でも魔法使いが住んでいるとされるこの場所には、様々な種族が共存している。中でも多いのが妖精達であるが、異変が一旦終息した今は群れを成して行動することもなく穏やかに森の中を漂っている。

 

 

「くそっ.....、どこだ、ここは.....!」

 

 

男が息を荒げながら、バイクを両手で押しながら歩いていた。歩き疲れたか、その場で自らの膝に両手をついて立ち止まる。ひどく疲弊しきっている様子の男は、黒いスーツを着こみシルクハットを頭にかぶっている。そのスーツは泥に汚れ、ところどころに何かで裂かれたかのような切り口が見えていた。

 

 

「もう.....、....はぁ、はぁ......!追っては来てないよな.....?バイクも、無事か.....。」

 

 

何か追手に追われてもいるかの様子を見せる男は、1度後ろを少し振り返りそのあとに安堵した。バイクを地面に寝かせ、近くの大樹にもたれ掛かりそのまま座り込む。ふとそこから頭上に目をやると、無数の星が瞬く夜空が広がっていた。

 

 

「へっ、逃避行の道中で、....こりゃあとても綺麗なもんを見れたもんだぜ.....。」

 

 

ふっ、とほくそ笑みながら目を閉じてまた下を向く。そのまま眠りに落ちそうなぐらい、男は疲労と睡魔に襲われていた。男はそもそも人間であるのかどうか、少々怪しい点が散見される。普通の人間ならば、魔法の森で彷徨い続ければ土地勘のある者でなければ永遠に彷徨う程地形が複雑で路頭に迷い野垂れ死にする。しかし男はえんえんとこの森を彷徨っている。極めつけは、腰に装着されたベルトのようなもの。このベルトは一体どのような力を秘めているのか、それは後ほど明らかになる。

 

 

「しっかし.....。さっきから同じところでもぐるぐる回ってんのか....。まあスマートブレインの奴らに見つからないなら、もう何でもいいや.....。さて......。.........zzzzzz」

 

 

男は考えるうちに、疲労と睡眠欲に抗えずに深い眠りに落ちた。

 

 

博麗神社、宴会の会場。酒宴は終えることを知らぬように、各々楽しんでいる様子である。杯を持ち、乾杯をする練也、慧音、妹紅の3人。

 

 

「....そうか。つまり、練也は幻想郷を囲む博麗の大結界に干渉して、この幻想郷に入り込んだというわけだな。」

 

「それで、この世界に着いてすぐに化け物に襲われ、早速身についた能力を使って化け物をぶっ飛ばした。...自分ごと。」

 

「そんな感じですね.....。俺も自分の身体にこのような能力が備わっているなんて、思いもよらなかったですよ。」

 

 

2人に今までのいきさつを話す練也。能力についても多少話をして、そこからスペルカードについて興味を示していることを口にする。話を聞けば、もう弾幕を出せる域まで来ているが、どれも直線的、単調なパターンのものばかりである。

 

 

「それは、君の考え方がそのまま弾幕や能力に反映されている証拠だ。君はそういう人間なのだから、それを受け入れればいい。良くも悪くも、だ。」

 

「その力を使う人間の考えや感情が、この世界ではいくつもの形となり色々なものに反映される。練也、つまりお前は.....。直情的な人間ということだ。」

 

 

慧音と妹紅の言葉が、練也の心に響いた。自分の形、そのものが弾幕となり現れる。尚更面白く感じ、幻想郷の魅力に彼はどんどん惹かれていく。

 

 

「わかりやすい人間。単純な人間とは、昔からよく言われてきた身ですよ。」

 

「その言葉を決して鵜呑みにしてはいけない。その意味合いをよく考えて、この世界では生活するんだ。外の世界以上に、ここは様々、豊かな事象が発生する世界。練也。君の人柄の場合は、良い場合も悪い場合も全てにおいて極端になる。これからの自分の行いに、注意をするんだ。」

 

「慧音が生徒以外に説教をしたなんて、そんなめったにないことが起こるもんだな。」

 

「そうか?私は、必要に迫られればいつでもどこでも、小一時間講演するぞ?」

 

「.....単純すぎるのも考え物ってわけか。」

 

 

練也の頭の上には、湯気が立ち込めているふうに見えた慧音。その様を想像した慧音は、僅かに微笑む。

 

 

「短絡的。....これも気を付けたいところですね....。」

 

「あまり気が長くないのか?」

 

「はい。ポーカーフェイスでその場はやり過ごしますけど、あとの発散は人の見えないところで.....。」

 

「見えないところで.....?」

 

「とりあえず、大声を張り上げてました。向こうの世界では.....。」

 

 

練也は幻想郷に来る前には、フラストレーションが溜まった際に山などに入ったりして森林浴などを楽しんだ後、山彦などもして遊んでいたようだ。大きな声を張り上げるのであればいちいち山に行かなくても、カラオケボックスがあるではないかと思うだろうが、練也はカラオケが嫌いだった。歌もそこまで上手くない上に、人に気を遣いたくもなかった彼には苦痛な場所なのである。

 

 

「なら、守矢神社だからすぐにでもそれができるじゃないか。良かったな。」

 

 

妹紅も酒を煽り、徳利を片手に持って酒を注ぎながら練也に言った。そこで宴会主催者である霊夢が、全員に向かって聞こえるように大きな声で呼びかけた。

 

 

「皆、注目して。これから、外来人の紹介を始めるわよ。」

 

 

霊夢が士と練也に手招きをして、2人にこちらへ来るように促す。その場からおもむろに立ち上がった時点で、男性陣2人には視線があちこちから注がれている。そんなことを気にせず、士と練也は大挙している者の間を縫って一同の前に堂々たる様子で姿を見せた。

 

 

「それじゃあ、士からでいいかしら。お願い。」

 

「...門矢士。今まで様々な世界を巡っていたが、この世界に縁あって邪魔させてもらっている。趣味は写真撮影、現像。探訪活動などなど。この幻想郷の風景全てを、このカメラに収めようと思っている。その場所場所で会った時は、よろしく頼む。」

 

観衆である妖怪、鬼、妖精、幽霊等から拍手喝采が巻き起こる。続いて練也の番、整然と佇む様子の彼の様子を、皆まじまじと見ている。ゆっくりと口を動かし始めた。

 

 

「俺は、佐藤練也。つい半月頃前までは普通の男子高校生だったけど、この世界に来てから色々変わった、人間です。まだ弾幕とか、スペルとかそんなに達者なもんじゃないけど、この幻想郷で出来ることをやりたいと思ってます。よろしく!」

 

 

続いて拍手喝采が巻き起こり、歓迎ムードが広まっていく。その熱狂の中、多数の質問が起こり霊夢がその挙手した者の名前を言う。

 

 

「それじゃあ、幽々子。」

 

「はぁい。練也に質問してもいいかしら?」

 

「どうぞ。幽々子さん。」

 

「もう1人の方の、練也の紹介はしなくていいのかしら?同一人物とはいえ、人格もだいぶ異なるし折角この場に居るのだからみんなに知ってもらう絶好の機会だと思うのだけれど.....。」

 

「あっ、純粋に忘れてた.....。ちょっと待っててください。」

 

 

ここ数日、すっかり会話していなかった。パラレルワールドから霊体という形でこの幻想郷へやって来たもう1人の練也。今は名を改めて、佐藤練也から大和護へと改名した。人格を交代する為、護と会話する練也の様子は、ただただ目を閉じてじっとしているだけである。その状態を見守る、宴会の参加者。

 

 

「(護、居るか?)」

 

「(ええ。酒宴、ですか。僕はまだ未成年ですので、飲酒は出来ませんが....。)」

 

「(もし良かったら呑んでくれ、この世界に警察はいないからな。ていうか俺もお前も味覚とか共有しているから、今更って感じだが.....。今外来人の自己紹介をしているんだけど、交代してもらいたいんだ。)」

 

「(なるほど。わかりました、確かに同一人物といえ人格は異なる部分があるのでそれはやるべきでしょう。では....。)」

 

「(頼む....。)」

 

 

少ししてから練也に変化が生じた、多少身震いか、痙攣なのかをしてから彼の瞳がゆっくりと開かれ、それから練也は....。いや、大和護は目の前にいる宴会参加者、そこから質問を投げかけた幽々子にゆっくりとお辞儀をしてから正面に向き直り、リラックスした様子で話を始めた。

 

 

「皆さん、こんばんわ。ただいま人格の方を佐藤練也さんと交代致しました。僕の名前は、大和護といいます。」

 

 

拍手が起こり、これも歓迎ムードに包まれる。続けて護は、また改めて自身を見つめる宴会の参加者を一望する。

 

 

「(やはりこの世界は、どの世界よりも美しい。万物の調和が全てにおいてとれている。完璧でなくても、文句のつけようがない.....。ここに来ている人々を見て僕にはそう感じる。互いの調和を尊重する、優しい世界。世界の自然だけではなく、そこに住まう人々にも、それに劣らぬ美しい心が宿っている。)」

 

「......。」

 

 

拍手が終わると、護は続けてしゃべり続けた。

 

 

「.....皆さん。この度は、佐藤練也さん、門矢士さん、そしてこの大和護を、今宵の酒宴に御招待いただきありがとうございます。僕もこの世界の方々に救われた身。その御恩返しとまでいくかわかりませんが、練也さん同様出来ることをやらせていただきます。」

 

 

最後に深々とお辞儀をして彼が頭を上げると同時に、これまた熱狂的なまでの拍手が巻き起こった。会場のボルテージがより一層高潮に次ぐ高潮を迎えると、いよいよ酒宴の中で騒ぎが起き始めるのはどの世界も同じなのだろうか。どこからか弾幕が飛び交う音が聞こえ、それが夜空に散りばめられ綺麗に夜空を飾っている。一体誰が弾幕ごっこをやっているのか。そう考える間に、流れ弾が護の方へ飛来。いや、酒宴の席へ何発か降ってくるではないか。これはいけないと、護は咄嗟に行動を起こした。

 

 

「変身。」

 

HEN-SHIN

 

 

時空からダークカブトゼクターを呼び寄せ、自身の手に収めたのちにベルトへ装着。間髪入れず飛来する弾幕へ突貫する。

 

 

CAST OFF

 

CHANGE BEETLE

 

 

キャストオフをしたのち、クロックアップを発動。カブトの射撃兵装、カブトクナイガンを駆使し流れ弾を手あたり次第撃墜していく。いきなりの事態に、宴会の会場は騒然となった。

 

 

CLOCK UP

 

 

しかしそのクロックアップの際中でも自分と同じ挙動をしている女性の姿が目に映る。紅魔館のメイド長、十六夜咲夜である。彼女もまた時間を操れる能力を持ち、数多の強敵をその能力の下討ち果たしてきた。流れ弾を全て打ち消したことを確認した両者は、互いに目線が合ったことを認識。この時間軸は2人だけのもの。そしてこの時間で戦ったことがあるのは、この2人をおいて他にない。

 

 

「佐藤練也。いえ、大和護.....。」

 

「十六夜、咲夜.....。」

 

 

CLOCK OVER

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