第72話 気が付けば....。
凄まじい衝撃と痛みにより、彼が意識を失ってから時は流れた。その時の中を彼、佐藤練也は長い間彷徨う感覚。無限に流れる時の空間を、ただ漂い続けた。
「.....。ここは?」
辺りを見渡しても、何もない。真っ暗なのだ。ゆっくりとこれまでの状況を整理する、その足を進めながら。
「この感覚は、初めてだ。...一体。.....!」
暗闇が晴れ、まるで黒い漆黒のカーテンが両サイドから開けられるような、そんな取り払われ方をして彼の視界はクリアになる。その先には何やら川の様なものが見えた。そのほとりには桟橋がかけられて、その桟橋には小舟が一艘。多分渡し船であろう、その木で造られた人が数人ほど乗れる大きさの船の近く。そこには、ナイスバディな女の子が、退屈気に立っていた。肩には身の丈ほどの大鎌を担いでいる。
「.....。」
自分の懐をまさぐるが、ここであることに気付く。ない!ディケイドライバーが、ないことに焦りを見せる練也。
「(....そうか。多分さっきの戦闘で...。)」
くそっ...。と声を漏らしそうになると、その気持ちを押し殺しその少女のところへと歩いていく。周りの景色は、果てしなく続く荒野か。地面がむき出しになっている部分が長く続き、その向こう側には広大な花畑と思われるものがある。赤々としていて、とても綺麗だ。
「綺麗だろ?あの花畑は。」
「....。ああ。」
「そう構えるなって。あんたが来るのを待っていたんだ。私は、小野塚小町。この三途の川の船頭さ。」
三途の川とは死後、死者の渡る川とされている。信じられない、頭をいたたっ、というように撫でる仕草をした練也。いつの間にか三途の川にまで来るとは....。
「三途の川...?じゃあ、俺は死んだのか?」
「ああ。そりゃあド派手な技を喰らった後に、体がまる焦げに....。」
「....。流石幻想郷、色々と一度に起こり過ぎる世界だ...。」
「まっ、ここ迄ご苦労だったよ。あんたも頑張ったんじゃない?その頑張っていた姿もきっと、ウチの閻魔様も見届けてくれていたに違いないよ。さあ、乗りな。」
何が何だかわからないまま、渡し舟に乗せてもらいゆっくりと動き出す。船上からは、先程の綺麗な花畑がより鮮明に映った。彼岸花畑である。
「彼岸花が、そんなに気になるかい?そりゃ、志半ばで倒されちまったアンタの無念からしてみれば妥当なんだろうけどさ...。」
舟の艪を動かしながら、小町は言う。彼岸花畑はやがて見えなくなり、周囲には濃霧が立ち込めた。
「さあ着いたよ。この先に、閻魔がいる。会って話をしてきな。まあ、あんたはただ黙って話を聞いていれば良いから。」
「....ありがとう、小町。」
「あいよ。気にするなよ、これがあたいの仕事さ。達者でね。」