香霖堂で暇を持て余していた1人の少女、霧雨魔理沙は自前の箒に乗ってわけもなくノンビリと飛んでいた。特に理由も無く空を飛び回る程、彼女は今暇なのだ。
「しかし暇だな...。さっきは何か物騒な気配がして暇を潰せると思ったんだけどなあ。」
香霖堂で霖之助から借りパク...。もとい商品を貰い受けようと、店内で漁っていたところに霊夢が現れた。霊夢が来てから、やたら”例のモノ”という単語を彼女はそこで耳にした。何か聞いたらマズイ単語だったのだろうか?その”例のモノ”と呼ばれる存在が、魔理沙はどうも気になって仕方がない様だ。
「(霊夢のヤツが札を貼ってから、その気配は無くなった。だけど、箱越しでも伝わるぐらいの力を持ったモノが、あの中に入っている。)まあ、アレには手をつけない方が良いってことか。」
魔理沙は箒の頭を人里の方に向け、その方向へとゆったりとした速度で飛んで行く。理由は簡単だ。ただ単に暇だからだ。他に理由は無い。彼女はゆっくりと箒を地面に近付け、軽やかに地面へ着地した。
「暇潰しに歩いてみるか。...ん?」
魔理沙が人里の散策に繰り出そうとした時、人々の視線がある一点を向いていることに気が付いた。彼女も気になりその方向へと顔を見やる。1人の見たことも無い長身の男が人々の視線の先に居た。まずそこまでは直ぐに認識出来たが、その男は何か少しだけ動作している様だった。周りの視線に目もくれずに、黙々と何かに打ち込んでいる男に興味を持ったのか、魔理沙はその男の側に近寄った。
カタン。
男に近付いた時に、魔理沙はそこで彼が何をやっているのかがわかった。小さなトイカメラを持って、ひたすら風景を写していたのだ。魔理沙の気配に気付いたのか、男はゆっくりと彼女の方へと振り向いた。
「ん?何か用か?」
「おっ、おう。いや。1人で何してるんだって思ってな。」
意外と反応が早く素っ気ないことに魔理沙は驚いたが、直ぐに平静を取り戻し普段通りの対応をする。
「しかし、お前見たところ見ない格好しているな。何処から来たんだ?」
「俺か?門矢士。通りすがりの旅人で、外来人だ。」
「へえ。外来人か。だいぶ前は紫のヤツが面白半分で連れて来たこととかあったらしいけど、最近は見なくなったな。結界が緩んだって話も無いし。」
門矢士は、別に結界に干渉したわけでもなく、スキマに取り込まれて幻想郷に来たわけでは無い。自身の能力を駆使して、この世界に入り込んだと言って良いだろう。別の空間に転移出来る、鉛色のオーロラを出現させることにより、彼は自由に現在地と行きたい場所を行き来出来る。そんな彼にとってみれば、スキマ送りにされる人間や、結界に干渉して幻想郷に入り込む人間の気持ちなど知る由も無いことだった。
「それはまた難儀な話だな。まあ無理矢理連れて来られるヤツの気持ちはわからないが。」
「全くだぜ。そう言えば挨拶が遅れたな。私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ。」
「魔法使いか...。折角だ。1枚撮ってやる。」
「ああ、よろしく頼むぜ。...って、いきなりかよ!?」
突然士から写真撮影の申し出に、魔理沙はツッコミを入れた。初対面で会ったばかりの人間に写真を撮られるといった経験が無い彼女は、若干の戸惑いを見せた。というか、ここで戸惑うのが常識の筈だが...。魔理沙がしのごの言い終わる前に、士は撮影を終えていた。
「とりあえず、撮らせてもらった。そのうち現像してお前の所に送ってやる。」
「いや、いらねーよ!?ていうか私の家が何処にあるかお前知らないだろ。」
「気が向いたら送るってだけの話だ。あまり気にするな。」
その直後。人里からそう遠くはない場所で、炸裂音が響き渡った。火薬やそういった類の物の爆発ではない、別の何かが炸裂した音だと士は感じた。
「何だ、今の音...!?」
「...あっちか。」
トイカメラを持ったまま、その場から軽く駆け出す士を追いかける様にして、魔理沙は箒に跨り音がした場所まで移動する。そこでは、戦いが繰り広げられていた。人里から外れた場所。人家もなければ人っ子1人居ない広大な大地の上に、1人の男が1人の妖怪を相手に力を振るっていた。その側には2人の少女の姿も見える。
「(早速、力を手に入れたか...。高みの見物でもさせてもらおう。)」
士はトイカメラに手をかけ、ゆっくりとその場に腰を下ろした。