東方 躍動仮面   作:佐藤練也

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第9話 覚醒 後編

 

 

 

幻想郷に騒音が木霊する。その原因は、とある場所で行われている弾幕ごっこであった。1人の男が、黒い洋服と赤いリボンを身に付けた少女に対して攻撃を行っている。片方の手に握り拳を作り、それを少女目掛けて振り翳す。しかし拳を振り翳したところで、男の攻撃は少女には届く筈もなかった。

 

 

 

「そんなの、当たんないよ。」

 

 

 

少女は男の拳を空に飛び上がることで難無く回避し、男が振るった拳は虚空を掠め地面に思いっきり減り込む。しかし、それだけでは終わらなかった。男の拳が地面に減り込んだ瞬間、その部分、その付近の地表が地割れを起こし、複雑に隆起を起こしたのだ。かなりの広い範囲でそれが起き、まるで超局地的な地震が起きたかの様な風景を完成させた。どの様な力が働いているのか、男には今だに理解出来なかった。しかしこの様なことが出来る力だということは、即理解した様だ。

 

 

 

「凄い...。でもコレは、弾幕ごっこというより...。」

 

 

「普通の、戦いですね...。」

 

 

 

近くで戦いの経過を見守る2人の少女。東風谷早苗と射命丸文は、戦いに身を投じている男。佐藤練也の持つ能力に驚愕の表情を浮かばせた。

 

 

 

「手を出すだけじゃ、勝負にならないわ...。お兄さん、弾幕っていうのを知ってる?」

 

 

「!?」

 

 

 

少女が無数の光弾を練也に向かい放つ。そこまで濃密というわけではなく、通り抜けが出来る程の隙間がある弾幕だ。練也はとりあえず弾幕を潜り抜け、少女に接近戦を仕掛けようと突っ込んで行く。

 

 

 

「(ちっ、コレがさっき文が言っていた弾幕ってヤツか。どうやってこんなモン出すんだ?!)」

 

 

「お兄さんも弾幕を撃たないの?」

 

 

「撃てるんだったら、もう撃ってるぜ!」

 

 

「撃てないんだあ?それじゃあ、この勝負は私の勝ちだねえ?」

 

 

 

更に濃密な弾幕が練也に降り注ぐ。それを回避することは容易ではなく、ましてや幻想郷に来たばかりの外来人がやすやすと出来る芸当ではない。それなりに技術を熟練させなければ、弾幕ごっこの世界では無力に等しいのだ。

 

 

 

「フンッ!!」

 

 

 

地面に向かい拳を振り下ろす。拳が地面に減り込むことにより地表が隆起し、練也の前に身の丈程の天然の遮蔽物が形成された。避けれないならば、防げば良い。彼はそう考えたが、その考えは通用するものではなかった。

 

 

 

「!!、練也さんっ!!」

 

 

「そこから離れて下さいっ!」

 

 

「えっ?」

 

 

 

文と早苗が叫んだ。その後の刹那、隆起した地表ごと吹き飛ばされる練也。土煙が立ち籠めるなか、瓦礫を押し退けて再び彼は立ち上がる。黒い洋服の少女。ルーミアは地表に降り立ち、練也に言った。

 

 

 

「私、もうお腹ぺこぺこで我慢出来ないの。食べても良い?」

 

 

「黙って食われてやると思うなよ?」

 

 

 

練也は今、此処に来る前に守矢神社の境内でやったことを思い出した。身体の部位を意識することにより、その部位にエネルギーを収束させることが出来る。そして何よりも大事なこと。

 

...倒す相手を、ちゃんと意識し続けること。

 

最低限コレを怠らなければ、戦闘に支障はきたさない筈だ。

 

 

 

「始まったか。」

 

 

 

遠くから練也とルーミアの弾幕ごっこを観戦する男、門矢士。その隣では霧雨魔理沙が、片手に箒を持ちながら同じ様に弾幕ごっこの経過を見守っていた。

 

 

 

「アイツは見たことないな。」

 

 

 

そう言う魔理沙の隣でトイカメラのシャッターを切りながら、士はこの世界の戦いを興味深そうに見ていた。

 

 

 

「あの綺麗な弾は何だ?アレが攻撃なのか?」

 

 

「そうだぜ。この幻想郷では、弾幕ごっこっていう決闘方法があってな。その時に使うモノだとでも考えれば間違いないな。」

 

 

「成る程。大体わかった。」

 

 

 

先程まで騒音で満たされていたのが嘘の様に、辺りはシーンと静まり返った。静寂の中、練也はルーミアを睨み続けた。それでも余裕を崩さないルーミアは、その場で若干微笑みを浮かばせながら言った。

 

 

 

「それじゃあ、殺してから食べちゃえば良いよね?」

 

 

「....。」

 

 

 

ルーミアがある1枚のカードを翳すと、彼女を中心に闇が形成される。それを見た練也は、唾を1回飲み込んだ。

 

 

 

「もう終わりかしら?」

 

 

 

不意に聞こえた、聞き覚えのある声。その声が聞こえた方に顔を向けると、やはりそこにはある人物が居た。妖怪の賢者、八雲紫。前回会った通りの、大人びた雰囲気を漂わせていた彼女の手には、数枚のカードが握られていた。紫は、そのカードを何も言わずに練也に手渡した。

 

 

 

「それはスペルカード。この幻想郷で弾幕ごっこをするには、欠かせない物よ。」

 

 

「コレを、俺に...?」

 

 

「貴方の思う様に使いなさい。貴方らしく、っね。」

 

 

 

そう言い残し、紫はスキマの中へと消えて行った。練也はスペルカードを見やるが、それには絵どころか1文字もテキストが記載されていなかった。その後、直ぐにルーミアによる攻撃が始まった。

 

 

 

「闇符『ディマーケイション』」

 

 

 

ルーミアから突如発せられた闇。その闇の中から数多の弾幕が姿を見せた。彼女が放つ無慈悲な攻撃は、確実に彼の命を奪おうと迫る。

 

 

 

貴方の思う様に、使いなさい...。

 

 

 

紫が発した言葉の通り、練也はルーミアがやった通りカードを空に翳し、咆哮するかの様に声高らかに宣言した。

 

 

 

「炸裂拳!『ヒートスマッシュ』!!』

 

 

 

自身の身体が凄まじく脈打つ感覚を覚え、練也はルーミアを見据えながらスタンスをとる。半身の姿勢になり、片手は脱力。足の間に垂れ下がらせる様な配置に対して、片方の手は腰骨付近に逆手の状態で軽く握り、足はドッシリと構えている。

 

 

 

「はあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

蹴り足を使い地面を蹴って、練也は全力でルーミアに対し突貫する。迫り来る弾幕に対して回避しようとするわけでもなく、ただ真っ直ぐに数mmのブレもなくルーミアに対し突っ込んで行っているのだ。見守る早苗と文は、気でも狂ったかと言うかの様に驚愕した。

 

 

 

「弾幕の中を突き進む気!?」

 

 

「練也さんっ!無茶は止めて下さい!!」

 

 

 

練也の驚くべき行動に対し、ルーミアはただ攻撃を浴びせることのみを集中して行っていた。確かに自分のスペルカードを前にして、弾幕を撃てない普通の人間が突っ込んで来るとは予想していなかった。しかし、今彼女はそれどころではないのだ。

 

 

 

「早く...、食べられなさい...!!」

 

 

 

更に弾幕を増強するルーミアだったが、最早練也の突撃を阻むことは彼女には出来ない。凄まじい勢いとエネルギーを持った彼のスペルを前に、ルーミアの弾幕はことごとく弾き返されている。まるで闇の中を光り輝く何かが、闇を振り払いながら駆けている...。文と早苗からは、そういう風に見てとれた。

 

 

 

「そんなに食いたきゃ、食わせてやるぜ...!渾身の一撃をなっ!!」

 

 

「くっ!?」

 

 

 

利き腕である右腕に、意識を集中。右腕を包み込む様に、赤色のオーラが発生。エネルギーを収束させて、ルーミアの腹部を目掛けて練也は雄叫びをあげながら渾身の一撃を放った。

 

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

「!!!?!?」

 

 

 

声を発する暇も無く、ルーミアは遥か彼方へと飛ばされた。それを見送るかの様に、その場に佇む練也と、早苗、文の3人。

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ...。」

 

 

 

 

練也は息を荒げながら、ゆっくりと自分の右手を見やる。確かにこの手で人々に恐れられている妖怪、ルーミアを倒したのだ。彼は幻想郷に来てから、初めての弾幕ごっこで勝利したのだった。幻想郷では、練也が発した騒音の残響が、響いていた。

 

 

 

「そうか...。彼が、例の人物か...。」

 

 

 

遠く離れた場所から、その状況を傍観する1人の男の姿があった。もう間も無く、この幻想郷に異変が起ころうとしていた...。

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