インフィニット・ストラトス ~未定~   作:ぬっく~

19 / 44
第19話

「…………」

 

全身の痛みに呼び起こされ、一夏は目を覚ました。

 

「気が付いたか」

 

そこにいたのは、織斑先生だった。

一夏は周囲を見回す。どうやら保険室らしい。

 

「簪 は … … 無 事 な の か ?」

 

「観客への被害は無かった。だが、今回のは流石の私でもひやっとしたぞ」

 

そう告げる千冬の表情は、いつもよりずっと柔らかった。

そして、千冬は一夏のIS『リンドヴルム』を投げ渡す。

 

「では、私は後片付けがあるから戻るが、お前はもう少し休んでから戻れ」

 

それを言い残すと、千冬はすたすたと保健室を出て行った。

 

「(戦利品もいただいたし……次は何を作ろうかな)」

 

一夏は『リンドヴルム』の特殊なデータ領域からある物を取り出す。それは、菱形立体のクリスタルだった。

 

 

 

 

千冬が保健室から出ると、携帯端末からコールが鳴る。

 

「織斑先生」

 

「山田先生か……どうだった」

 

相手は山田先生だった。

山田先生の近くには機能停止したISがあり、一夏が討伐したISの解析がおこなわれていたのだ。

 

「はい……それが」

 

山田先生はISの方に向き直ると、

 

「やはりあのISは無人機でした。ただ……」

 

世界中で開発が進むISのなか、その完成していない技術。遠隔操作と独立稼働。そのどちらか、あるいは両方の技術が使われた謎のIS。しかし、そのISに、

 

「ただ?」

 

「コアだけがないのです」

 

「コアがない?」

 

コアだけが無くなっていたのだ。

 

「何か心当たりは?」

 

「いや……ない。(コアがない? だが……あれは完全に稼働していたはずだ)」

 

そう言って千冬は端末を切る。

 

「何処に行ったんだ?」

 

コアの喪失は結局表に出ることはなく、この事件は闇に葬られた。

 

 

 

 

翌日。いよいよ簪との約束していた、外出の日がやって来た。

 

『行こっか』

 

そう言って、一夏は簪の手を取って歩き出す。

 

「あっ……」

 

温かい感触に、簪は頬を赤らめる。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

駅前へと向かって歩き出す一夏と簪。その姿を物陰から見つめる二つの影があった。

二人が青になった横断歩道を渡って人混みに消えると、頃合いとばかりに姿を現す二つの影。

 

「……ねぇ」

 

「……なんですの?」

 

「……あれって」

 

「……握っていますわね」

 

何処から見ても同じ答えが返ってくるだろう言葉に、セシリアは引きつった笑顔を見せる。

 

「そっか、やっぱりそっか。―――よし、殺そう」

 

握りしめた鈴の拳は、既にISが部分展開されており、衝撃砲発射まで二秒とかからなくなっていた。何とも恐ろしい十代乙女の純情であった。

一夏たちを尾行していたのは、鈴とセシリアであった。

 

『ほう、楽しそうな話をしているな』

 

いきなりプライベート・チャンネルからかけられた声に、驚いて振り返る二人。

そこに立っていたのは、尾行していたはずの―――一夏だった。

 

「なっ!? いつの間に!」

 

『そう警戒するな。今のところ、危害を加える気はないぞ』

 

気配すら感知することが出来なかった鈴とセシリアは警戒心を強くしていた。それに対して一夏はしれっと言葉を返す。

 

『あっ、だが一つだけ忠告してやる』

 

一夏は肩の力を抜くと同時にその場から消え、鈴とセシリアの間に立っていた。

 

「っ!?」

 

一夏から鈴とセシリアの距離は、目算で七メートルほどあり、とても一瞬で詰められる距離ではない。

鈴とセシリアですらそう判断していたが、完全に上を行かれた。

 

『簪に危害を加えると言うなら、話は別だ』

 

一夏は威圧を込めた冷笑を見せ、事実を告げる。

 

 

 

 

「終わったの?」

 

『ああ』

 

一夏は鈴とセシリアに忠告して、簪の元に戻った。

簪は尾行されていたことは気付いておらず、一夏はちょっとした理由をつけてそこに待たせ、何も無かったように戻って来たのだ。

 

『何処に行くか……』

 

特に目的も決まっていなかっため、駅前のショッピングモールを中心に、売り物を見に行くことにする。

 

『どこか行きたいところはあるか? 簪』

 

「え、ええと―――」

 

正直、簪は言いにくかった。簪が困った顔を見せると、

 

『すまん。やはり俺では、うまくエスコートできなかったか……』

 

ずん、と肩を落とした表情で一夏が呟いた。

 

「ち、ちがうの! そ、その……ちょっと行きにくい場所でね」

 

『……本当……か?』

 

少し間を開けた後、一夏はふと真顔に戻り、問いかけてくる。

 

「う、うん! あそこなの……」

 

簪が指した場所は……ビデオ店だった。

 

 

 

 

簪の行きたかったビデオ店に入り、趣味であるヒーロー物の作品を数点買う。それから、少し経ってからもう一度問いかける。

 

『他に行きたいところとかあるか?』

 

「じゃ、じゃあその―――人気のない、ゆっくりとした所……」

 

『静かな場所か?』

 

「う、うん」

 

『なら、こっちだ』

 

そして、一夏が知るその場所へと案内することにした。

 

 

 

 

駅前から離れて五分弱。

街の外れの細道を歩き続け、小さな公園へと一夏たちはやって来ていた。

周囲を背の低い広葉樹に囲まれ、青々とした芝生の絨毯(じゅうたん)が敷かれたそこは、まるで草木で作られた小部屋だった。

中には小さな花壇もあり、差し込む穏やかな陽光が咲いている花を照らしている。

傍には作りかけの緑石や彫刻などもあり、幼少の頃の遊び場のような懐かしい雰囲気の庭だった。

 

「こんな場所が……」

 

『休むならここがいいと思ってな』

 

そう伝えて一夏は、そっと簪を座るように促した。

芝生の絨毯の上に並んで座ると、お互いにふっと小さな息が漏れた。

 

「……一昨日の怪我、なんでもないフリをしているの?」

 

『…………』

 

簪の一言に、一夏の表情が、一瞬驚きに変わる。

だがすぐに、いつもの顔に戻った。

しばしの沈黙。

鈴との攻防で、自分に最大出力の《雷光穿槍(ライトニングランス)》を打ち込んだ件だ。

一夏は試合後も、顔色ひとつ変えていなかったが、あれでかなりのダメージを負っていたはずなのだ。

 

『バレていたか……』

 

そして、ふっと息をつき、徴笑を浮かべた。

 

『簪に見抜かれるようでは、俺も未熟だな』

 

「そんなこと、ないよ」

 

自嘲気味な一夏の言葉を否定し、簪は強く伝える。

 

「無理だけはしないで。一夏くんの身体はもう……」

 

『…………』

 

一夏はしばし、目を丸くして簪を見つめたが、

 

『それは出来ない。俺はまだ、気を緩めるわけにはいかない』

 

あくまで毅然とした態度で、そう伝えた。

 

「お願い……」

 

『それは聞けない』

 

一夏はきっぱりと伝えた後、自信に満ちた笑みを見せる。

 

『いいか、簪。強者とは、絶対の孤独に耐えうる者のことを言うのです。ですから俺は平気ですよ』

 

「一夏、くん……」

 

更識家の従者の一人として。主人を守る剣としての覚悟に、簪が心を打たれかけたとき―――、

 

『緊急招集が発令されました。『雷帝』、楯無様の元に集合されし』

 

プライベート・チャンネルから緊急招集が一夏の元に送られて来た。

 

『どうやら、今日はここまでのようですね』

 

「…………」

 

そっと一夏が、簪の頭を撫でてくる。

 

「無事に帰ってきて……」

 

簪は笑みを消し、目の前で拳を握る。

学園の校門の前たどり着き、簪と別れた。

生徒開室前に着くと一夏はノックし、入室する。

 

「来たわね。じゃあ、仕事を始めましょうか」

 

生徒会長の席に座っていた楯無が立ち上がり、一夏はその後ろをついて行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。