あれを悪魔と言わなくてなんていうのかしら?
彼女は妹の話を聞いてからずっとそのことについて考えていた。
「まさか、この日本にいたなんて……」
あれは父の補助と言う事で暗部の仕事を手伝っていた時のことだった。
ターゲットが潜伏しているアジトを襲撃し、
しかし、その時私は初めて目にしてしまった。
鋭利な刃物で切断された複数の男達。父とその部下たちは警戒心をMAXにして先へと足を進める。
そして、奥から男の悲鳴が聞こえ、父たちはその部屋へと突入する。
「っ!」
そこにいたのは首の無くなった男と
男の服は返り血を浴びて所々汚れている。しかし、
来る途中に足元には
「更識か……」
「何者だぁ……」
男はニタと笑い首にかかっていたタグも見せる。そこに刻まれていたのは……
「A/0?」
男は近くの窓を突き破って逃げる。
父たちは男を追うよう指示はしたものの、男は行方をくらます。
後に男の二つ名を知ることができた。
「タグ付き……」
奴のトレードマークとして首に二つのタグをつけていることからそう呼ばれていた。
しかし、それだけしか分からず、身元を特定すらできていない。
そして、あの日からそのタグ付きに出会うことはなかった。
だが、そのタグ付きがこの日本に姿をあらわした……しかも私の妹の前に。
「私の可愛い簪ちゃんには、指の一本も触れさせないわ!!」
簪の姉……更識 楯無は決意する。
◇
その日も平和な日常が訪れる。部活動をしていない一夏は、荷物をまとめ早々と家に帰る。
そして、その帰り道に……
「あ、あの……」
先日助けた水色髪の少女がいた。
「あの時の子か……」
どうやら、彼女は俺を待っていたようだ。
彼女の服装は制服で学校帰りを利用して来たのだろう。
「あ、あの時、ちゃんと……名前を聞けなかったから」
「そうかい」
彼女はもじもじしながら、どうきりだしたらいいか迷っていた。
俺はため息を交えながら先にきりだす。
「織斑一夏だ」
「え。あわわ。更識……簪です」
自己紹介を終え、俺は彼女の頭を軽く撫で立ち去った。
「気を付けて帰れよ」
「あ。う、うん」
簪は頬を染める。
初めて同年代の男子に頭を撫でられた。
(織斑……一夏……くん)
簪は彼の名前を何度も心の中で唱える。
しかし、その直後だった。
「!?」
後ろから何者かにハンカチで口を押えられる。
気が遠くなるのを感じ簪は気を失ってしまった。
「さっさと行くぞ」
黒のワゴンが隣に止められ、男達は彼女を乗せる。
◇
「なんですって!!」
妹の帰りが遅いからと気になっていた直後、とんでもない真実が彼女の元に届く。
妹が誘拐されたのだ。
「今現在、犯人の調査を全力で行なっています」
楯無も流石に落ち着いていられなかった。
もし、あの『タグ付き』がこの件に関わっているとしたら、と思うと居てはいられない。
「早く見つけなさい!」
「は、はい!」
男達が立ち去ると楯無は頭を抱える。
「お願い……無事でいて……簪ちゃん」
楯無はただ祈る事しかできない。
◇
ぴちゃ……。
その音で簪は目を覚ます。
「う……」
僅かに意識がもうろうとしている。
だけど、身体を動かそうとした瞬間、完全に目覚めた。
「な、なにこれ……」
両手を拘束され、釣らされていた。
何処かの倉庫だろうか、古い資材がそこら中にあり、自分が誘拐されたことをすぐに察した。
「おやおや? 姫さんが目覚めたみたいだぜ?」
その近くで待機していた二人の男性の内の一人が簪が目覚めたことに気付くと重い腰を上げ、立ち上げる。
「あなたたちは……」
「大人しくしていた方が身のためだぞ」
男は上着をずらして中にある銃を見せる。
簪は力を緩める。
「目的は何なの……」
「さあな。上の連中が考えることなんて、俺たちには分からんでな」
そう言って、男はやれやれと手を振り、元の場所に戻る。
「(誰か……助けて……)」
簪はふと助けをこう。
だけど、そんな奇跡など起こるはずはなかった。
「(助けて! 一夏くん!!)」
ヒーロー。
簪の中で、織斑一夏はヒーローだった。
まだ一度しか会ったことない彼が、自分が憧れるヒーローに重なって見えたのだ。
ギィィィ……
「ん? 交代の時間か?」
扉が開く音がし、男が近寄り、ドアノブに触れようとした瞬間。
「邪魔するぞ」
男ごと吹き飛ばしながら開けられた。
「な!?」
もう一人いた男はその光景を見て、腰に入れていた銃を取り出そうと伸ばすが、目の前に何かが落ちる。
男がそれを目にした瞬間、それは物凄い光を発した。
「ガァァァ!? 目がぁ!!」
そして、そのまま男の首に目掛けて蹴りを入れ、男は撃沈する。
「あ……」
簪は閉じていた目を開き、涙を溢す。
「あ、あ……」
「助けに来たぞ。簪」
簪と真逆と言っても良い位、平凡な学校の制服を着た少年。
まだ、二度しか出会っていない少年。
そして、ヒーローと呼ぶにふさわしいその少年。
「一夏くん……」
平凡中学生、織斑一夏が助けに来たのだ。