金属音がホテルの最上階付近から鳴り響く。完全にISを展開できない楯無と戦斧を振るう少女がお互いにぶつかり合う。
「(この子……なんて力しているのよ!)」
楯無は少女の異常性に冷や汗を掻く。
ISを相手に生身で戦う少女は楯無にとっては化け物でしかなかった。
しかし、ここで足止めを受けてはいられなかった。楯無は視線を僅かに後ろに向け、隊員に合図を送る。
それを受け取った隊員が頷くのを確認すると、楯無は指を鳴らす。
「《清き熱情》」
戦いの中で散布した霧状のナノマシンを発熱させ、水蒸気爆発を起こす。
いきなりの爆発に少女も怯み、楯無はその隙をついて、少女の横を抜ける。
「行かせるかよ……!?」
しかし、少女の戦斧は楯無に届くことはなかった。
楯無が抜けると同時に隊員が発砲したのだ。
「ノーマルは相手するつもりはなかったのだがな……」
隊員の眼を見て、どうやら行かせて貰えないと判断すると、少女は戦斧を肩に担ぐ。
「来いよ」
その合図に再び戦闘が始まった。
◇
楯無が最上階に辿り着いた時には、そこはもう既に血の海としか言いようがなかった。
「っ!」
楯無は苦虫を噛み潰し、まだ戦闘音が聞こえる方へと走る。
そして、そこではISを部分展開した三人の亡国機業とトンファーを持った大男と両手に黒いナイフの小柄の男が戦っていた。
「下がりなさい!」
亡国機業が楯無を目にし、叫び声と同時に物陰へと避難すると同時に楯無の《蒼流旋》にアクア・ナノマシンが集まる。
「《ミストルテインの槍》」
最上階に特大な爆発がハンターを襲う。それと同時に楯無は《ミストルテインの槍》の衝撃を受けた。
「くっ……どうよ……」
楯無は奴らには生半可な攻撃は通じないとはいえど、生身で《ミストルテインの槍》を使ってしまった。
「ごめんね……」
楯無は立つ程の力もなく、その場に座ってしまった。
「糞いてぇな……」
「…………」
ホテルの一室のドアが蹴り飛ばされ、中から出て来たのは、先程楯無が吹き飛ばしたと思われたハンターたちだった。
楯無の《ミストルテインの槍》が当たる寸前に奴らは近くの一室へと逃げ込み、その一撃を凌いだ。
「まだ、息があるか……」
楯無の途切れ途切れの呼吸。大男は楯無を生かしておくには不味いと思ったのか、持っていたトンファーを振り下ろす。
『……おい』
その一言は、その場にいた全員が動きを止める一言だった。
「……一夏……くん……?」
霞む楯無の目に写ったのは、《リンドヴルム》を纏った一夏がいたのだ。
楯無に向けられたトンファーは、一夏の《雷光穿槍》で受け止められている。
「この臭い……お前、黄昏種だな」
大男は一夏を見るが、一夏は全く気にしていなかった。
「っ!?」
大男は一夏の眼を見た瞬間、息を呑んだ。
そこにあったのは……恐怖だった。
「(なんだよ……あの眼)」
一夏は瀕死の楯無を抱え、《雷光穿槍》の矛先を向ける。
『《雷閃》』
問答無用で一夏は《雷閃》をぶっ放した。
◇
「おいおい……どうなってやがる」
楯無の《ミストルテインの槍》を回避してから、物影で見ていたオータム、スコール、Mは一夏の登場に驚いていた。
一夏はISを完全に展開し、最上階の壁をぶち壊して入って来たのだ。
「好機か?」
「いや、下手に入らない方がいいわ」
オータムの言葉にスコールは反対する。
「なんでだよ、スコール」
「あの子の眼……あれは異常よ」
スコールは一夏の眼を見て、異常までにも恐怖を感じ取ったのだ。
そしての直後に電撃が通り過ぎる。
「撤退か?」
「そうしたいところだけど、無理っぽいね。多分、逃がしてもらえない」
このホテルに残っているのはスコールたち以外にはいない。
ハンターからは逃れることは出来るだろうが、一夏から逃れるのは無理と判断したのだ。
「だけど、あの子もハンター二人相手はキツイようね」
「…………」
スコールの言葉にオータムは何も言わない。
そして、Mの方を見る。
「はぁ……M」
「なに?」
突然の呼びにMはオータムの方を向くと、一つのバックを渡された。
「合図したら、アイツの所に走れ」
そう言って、オータムとスコールは銃を構える。
そして、一夏とハンターが距離を取った瞬間、スコールとオータムは発砲した。
Mはその合図と共に一夏の方へと走る。
「ちっ!」
ハンターはMを見つけるが、後方からの援護でその場から動くことが出来ず、一夏の元へと辿りつく。
「小僧! そいつを連れて行けぇ!!」
オータムの叫び声に一夏は従い、Mを抱き込む。
「待って! まだぁ!!」
Mはオータムたちが考えていることを知ると、オータムちのいる方へと行こうとするが一夏がそうさせない。
「(少なくとも生きろよ……マドカ)」
一夏は楯無とMを抱き抱え、ホテルから脱出と同時に肩に連結された砲身をホテルに向ける。
『《星光爆破》』
黄色に明滅する光弾を放ち、爆裂した。
網膜を焼く光弾と、息もできないほどの爆風が起こり、Mはその光景を目にし。
「オータム、スコール……。なんで……なんでよ!!」
Mは《星光爆破》を放った一夏に怒りをぶつける。
しかし、一夏は何も言わない。
『撤収する……』
一夏はそう言って、ホテル跡を後にする。
この作戦で生き残ったのは楯無とM以外いなかった。